【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第六十五話~それぞれが往くはそれぞれの道~

 あのヴァンデモン襲来の翌日。

 大成とスティングモンは、再びあの医療施設に来ていた。別にまた怪我をしたとか、そういう訳ではない。彼らは今、仕事としてここに来ているのだ。

 その仕事の内容は至って単純。大成たちが昨日の戦闘で壊した部屋の掃除である。

 

「しっかり片付けてくれ。便利屋さん?」

「……わかってるよ!」

 

 大成たちにそうして仕事の依頼をしたのはダルクモンだ。彼女こそが、この施設の主である。

 彼女が帰ってきたのは明朝で、すべてが終わった後。帰ってきて一番初めに見たものが、かなりの損害を受けている自分の職場だったという彼女。そんな彼女だったが、一刻も早い復興のためにも気持ちを切り替えて、ウィザーモン経由で大成たちに仕事を依頼したのである。

 大成たちとしても、ジッとしているよりは体を動かしたほうが気分転換になるために、こうしてこの掃除の依頼を受けたのだ。

 

「私は買出しに行ってくる。サボらないでくれよ?」

「はいはい……」

 

 そう言って街へと出て行くダルクモンを見送って、大成スティングモンの二人は片付けをしていく。彼らがするのは、主に瓦礫の撤去作業だ。

 だが、スティングモンはともかくとして、大成にはちとキツイ。だからこそ――エクスブイモンがいればもう少し楽だったのかな、と。思わずそう考えた大成は、見事に自分の地雷を踏んだ。

 

「はぁ。なんだかなぁ……」

 

 そう言って大成が見るのは、エクスブイモンの力がこもっているSDカードモドキ。彼が何を思って、これを自分に託したのか。なぜ、自分はこれを託されたのか。大成がいくら考えても、もはやそれは答えの出ない問いでしかなかった。

 これを使えば、スティングモンはディノビーモンに進化することができる。もしかしたら、その前に進化したパイルドラモンにも進化できるかもしれない。

 それでも、()()()()()よりも、エクスブイモン自身が生きていて欲しいと大成は思う。

 

「……どう思う?イモ」

「……何がですか?」

「いや、だから……なんでもない」

「……」

 

 親しい誰かが何かを託して死んでいく。それは、ゲームや物語ではよくあるシナリオではある。事実、大成もそういうストーリーのあるゲームを何回かもしたことがある。そういったゲームの中で主人公たちは、いずれにしても、その出来事を乗り越えることができていた。

 だが、いくらそれらのゲームのストーリーを思い浮かべて、その数々の主人公たちを思い浮かべても――大成は、昨日の出来事を彼らと同じように乗り越えられる気はしなかった。

 

「……やっぱり、さすがは主人公ってことかな」

「主人公……ですか」

「なんだよ?」

「いや……でも、そう簡単に乗り越えた気になられたら、エクスブイモンも怒ると思います……」

「……」

 

 スティングモンの言う通りだった。

 実際にゲームをしているプレイヤーたちは実感できないかもしれないが、ゲームの中の主人公たちは苦しみ、悩んだ末に出した答えで、こういった出来事を乗り越えているのだ。少なくとも、そういう設定なのだ。

 親しい者が死んだのだ。苦しいのはわかる。だが、大成のしていることは愚の愚だった。他人の答えを知った上で、その答えの上辺だけを掻っ攫おうとしているのだから。

 そんな他人から借りた答えで、自分を納得させるだけで解決できるほど、今の大成たちが直面しているものは軽くはない。

 

「……ま、そうだよな。でも……!」

「わかってますよ。苦しいですね……」

「……そうだな」

 

 初めての体験にどうすればいいのかもわからない。

 どうしようもなくて、大成たちは呟くのだった。

 

「ん?あれ、大成たち仕事中じゃなかったのか?」

「……勇?」

 

 だが、そんな時だ。勇がやって来たのは。

 仕事中であることを考えればあまりいいことではないが、この暗い雰囲気が常駐している今において、勇が来たのは、大成たちにとってもありがたいことだった。

 せっかく来てくれたのだから、と。大成たちは元からはかどっていたとは言えない瓦礫の撤去作業を休憩することにして、勇の下に向かっていく。

 

「よ。昨日は大変だったな……」

「いや、勇も……」

 

 勇のパートナーが今どういう状況にあるのかを思い出した大成は、顔を暗くして答える。

 昨日あの後、勇の決死の行動によって、彼のパートナーであるスカルグレイモンの暴走が止まった。それは良かったのだが、結局元に戻ることはなかったのだ。

 それは、もしかしたら、あの天然ながらもどこか雰囲気の良いあの者にはもう二度と出会えないかもしれないということを示していて、エクスブイモンという仲間を失った大成たちと同じように、勇も同じくらい大切なモノを失ったかもしれないのだ。

 

「ああ、そのことだけどな……」

 

 そんな事実に暗くなる大成たち。あの者とはそんなに付き合いがあったわけではないが、それでも全く知らなかったわけでもない。

 相手として戦ったことも、一緒に戦ったこともあった。大成たちにとっても良い友人だった。目を閉じれば、あの戯けた者と過ごした短くも印象深い時間は、すぐにでも思い出せるほど。

 ともあれ、いろいろなことを思い出して暗くなった大成たちを前にして――。

 

「オラ、この街を出て行く!」

 

 大成たちを前にして、勇は明るく告げる。この街から出て行く、と。

 それは、大成たちにとって寝耳に水な話。大成たちは驚くことしかできなかった。

 

「な、なんでだ!?」

「いやー……ちょっと調べてみたんだけどさ。今のスカルグレイモンはオラの言うことしか聞かないみたいなんだ」

「それは……なんとなくわかってたけど……」

「しかも、オラ以外には問答無用で襲い掛かる。これでアイツを放っておいてオラだけ街暮らしはできない」

 

 そう。今のスカルグレイモンは、勇の言うことしか聞けなくなっている状態にある。

 勇がいなければまた昨日のように暴走してしまう可能性がある以上、勇と長い間離れているのも危険であるし、そもそもそんな状態では街には入らせることもできない。ふとした拍子にまた暴走を始めるのかも、わからないのだから。

 

「でも……!」

「ウィザーモンに話を聞いたけど、やっぱり無理らしいし……」

「ウィザーモンでも駄目だったのか!?」

「ああ。だから、旅しながらアイツをどうにかできる方法を探すことにする。どんなになっても、アイツはオラのパートナーだしな」

 

 勇にとって、グレイモンはかけがえのない存在だった。スカルグレイモンへと進化して、あんな状態になってしまったが、それは変わらないし、変わりようもない。

 だからこそ、勇は決心したのだ。快適な街暮らしを捨て、スカルグレイモンの傍にいることを。いつかまた、昨日までの日々に戻るためにも。その方法を探すことを。

 

「……そっか」

「さしあたっては、もう一回進化するのがいいらしい。究極体を目指してがんばるな」

「……ごめん、耳がおかしくなった。今なんて?」

「いやだから、ウィザーモンの話だと、記憶とかは引き継がれているはずだから、意思疎通のできるデジモンに進化したらいいかもしれないって……」

 

 簡単に言っているようであるが、勇自身もわかっている。究極体とは、そんな軽いものではないということを。

 だが、たとえその道が簡単なものではないとわかったいても、可能性が一パーセントでもあるのなら、やはり勇はそれを目指すだろう。

 それだけ、勇の決意は固く、決心は重いものなのだ。

 

「それじゃ、スカルグレイモンも待たせているし、優希たちにも挨拶したいし、そろそろ行くな」

「あ、ああ。もう行くのか?」

「もちろん!それじゃ、お互いにいろいろあるかもしれないけど、頑張ろうな!」

「ああ、それじゃまた!」

「また会いましょうね!」

 

 最後だけは元気に別れよう、と。

 そう思ったのだろう。大成たちは、明るく元気な声が自然に出せていた。そんな大成たちを前にして、勇は元気に笑って去っていく。

 また一人、見知った友人と別れたというのに、大成たちの心の中にあったのは、()()()()()()()()()()()

 一歩を踏み出す勇気と固い決意と絶えない行動力。そんな勇の姿に、大成たちは何かをもらった気がしたのだ。

 

「しっかし……究極体かー」

「でも、勇さんたちなら案外簡単に進化できそうな気もしますね」

「できそう……っていうか、できるだろ。勇気さんだし」

 

 そんなこんなで。去っていった勇に思いを馳せた大成たちは、話しながらも振り返る。

 そこにあったのは、未だ片づけ切れていない瓦礫とゴミの山。望んでこの仕事を引き受けた大成たちだが、そんな光景を前にして、少々げんなりとしたのだった。

 ともあれ、仕事は仕事。そう、自分を納得させて、大成たちは片づけを開始する。先ほどまでとは違って、今の大成たちは、さっさとこの仕事を終わらせて帰りたかった。

 だが、世の中というものは、本当に人をイラつかせるようにできているもので。そういう時に限って――。

 

「ふむ。頑張っているようだな」

 

 邪魔してくる者がいるのだ。

 いや、別に邪魔しに来たわけではないのだろうが――それでも、仕事をさっさと終わらせる気になった大成たちにとっては、邪魔者と一緒だった。

 勇と入れ替わるようにやってきたのは、ウィザーモンだ。なぜかは知らないが、大成たちが昨日の最後に見たときよりもボロボロになっている。

 

「ああ、この怪我かね?なぜか知らないが、ウィッチモンにやられてね」

「……なんで?」

「さぁな。なぜか怒っていたな。怒らせるようなことをしたのか……ふむ。まぁ、いい」

「いいんですか?」

「ああ、君たちには昨日渡した機械の説明を。今朝は忙しくてできなかったからな」

 

 ウィザーモンは、世間話をしに来たわけではないらしい。まあ、わざわざ世間話のためだけに大成たちの下へと来るほど、彼も暇ではないか。

 ウィッチモンが彼をボコボコにしたという世間話も聞きたかった大成たちだが、ウィザーモンの話す内容も自分たちにとっては重要なことだ。どっちもどっちだったが、大成たちは結局説明のほうを聞くことにしたのだった。

 

「前に説明しただろう。僕が作った試作品のことを」

「……なんだっけ?」

「ほら、あれですよ。旅人さんのカードとやらの……」

「あぁ!あれか!」

「……」

 

 そう言われて、大成たちは思い出した。機械里へと行く前に、ウィザーモンがそれらしきことを言っていたことがあったことを。

 昨日、大成が渡されたのは、ウィザーモンがかつて作り、そして盗まれたその試作品の機能をアナザーに付けたもの。概要としては、SDカードモドキに込められた力を機械を通して扱うことができるというものである。

 

「……いくら僕でも、その反応は腹が立つのだがね?」

「いや、悪い悪い……」

「……はぁ。まぁ、いい。基本的な使い方は優希の持つものと同じだ」

「ってことは、イモをこんなかに入れたり、電話できたりするのか?」

「ああ、あとは……アー……いや、これはいいか。優希のモノとの違いは、試作品の機能が追加されているかどうか。それだけだ」

 

 大成が渡されたアナザーは、その試作品の機能以外は優希の持つソレと変わらない。

 とはいえ、大成たちにとって最も一番重要な部分は、その試作品の機能である。それがなければ、エクスブイモンの形見が扱えない。

 未だエクスブイモンの形見とも言えるソレの扱いを悩む大成たちであるが、エクスブイモン自身に“託す”と言われた以上、ただ持っているのも、大切に仕舞ったままにするのも、どちらも違うとは思っていた。

 

「ついでにこれも渡しておこう。僕の手持ちの……物体だ」

「物体って……SDカードモドキかよ」

「試作品だから名前を考えていなかったんだ。ふむ。せっかくだから君たちが考えてもいいな」

「……考えておく」

 

 ウィザーモンが大成たちに渡してきたのは、一枚のSDカードモドキ。

 だが、それを渡されたことよりも、大成にとってはその名前を制作者本人(ウィザーモン)が決めていないという事実の方が驚きだった。

 とはいえ、ウィザーモンにとっても、あくまで試作品段階のものであり、名前を決めるほどのものではないという思いがあるのだが。

 

「いろいろな物を解析する魔術を込めてある。しっかりと使って、使い心地を報告してくれ」

「えぇ……貰えるのはありがたいけど……報告なんかすんの?」

「大成さん、タダで貰っているのですから……」

「前にも言っただろう。君たちは覚えていないかもしれないが、その力を込めた物体は作るのに苦労するんだ。裏技もなくもないが……倫理的な面を鑑みればやるべきではない」

 

 ウィザーモンのその言葉で、その裏技がどのようなものか、大成たちにも検討がついた。おそらく、対象の命を引き換えにするようなことだ。

 その事実を知ることは、会話で忘れていたことを思い出すようで、大成たちにとって傷をえぐられるようなことだ。

 思わず、といった体で大成たちはエクスブイモンの最後を思い出して暗くなってしまった。

 

「……ふむ?……やれやれ……ソレをどうするかは君たちの勝手だ」

「いや、わかって……」

「だが、エクスブイモンは自分のために君たちにそれを残した。その意味を忘れるな」

「……?」

 

 結局、いつものように肝心な部分はぼかして。最後は言いたいことだけを言って。そうして、ウィザーモンは去っていく。

 そんなウィザーモンの後ろ姿を、大成たちは疑問顔で見つめていたのだった。

 

 

 

 

 

 一方その頃。昨日、大成たちが激闘を繰り広げた荒野にて。

 

「忌々しい……!」

 

 ボコり、と。地面を押しのけて現れたのは、驚くべきことに、昨日ディノビーモンに倒されたはずの――ヴァンデモンだった。

 だが、彼のその体は見るからにボロボロであり、その顔は恥辱と憎しみに染まっている。

 

「っぐぅ……!」

 

 なぜヴァンデモンが生き残っているのか。その秘密は、昨日の彼の行動にあった。

 昨日。彼はコウモリを使って自分の一部を勇の中に植え付けたのだ。そして、内側から勇の感情をコントロールし、元々進化のための下地が整っていたグレイモンを強引に進化させた。

 つまり、勇が起きなかったのは、中にヴァンデモンがいたからというわけだ。

 そして、その後、勇に植えつけられた彼の一部――分身とも言える者は、勇の中という安全圏にて本体との合流を待ったのである。

 だが、本体はディノビーモンにやられてしまった。

 

「……あの天使デジモンめ……あの雑魚どもめ……!」

 

 本体がやられてしまったのだ。

 ゆえに、仕方なくヴァンデモンは勇の中に潜み、安全圏にいながら失われた自分の力を蓄え、来るべき復活を待つことを選択したのだ――が、そんなヴァンデモンの企みも、エンジェモンによって打ち砕かれてしまった。

 そう。勇を起こすために、エンジェモンが勇を殴ったあの時である。

 本来のヴァンデモンならいざ知らず、所詮本体の一部分だけに過ぎない分身など、エンジェモンの前には無力でしかない。結局、ヴァンデモンは勇の中から追い出されてしまったのだ。

 

「ぐぅううう……はぁっ……はぁっ……」

 

 何とかして完全消滅は免れたものの、もはやヴァンデモンの力も命も風前の灯だった。

 今がこれほどでは、完全回復にどれほどの時間がかかるか、わかったものではない。しかも、その力の回復を、この状態で待たなければならないのだ。この弱った状態で。生きるのにも苦労する状態で。

 今のヴァンデモンでは、成長期デジモンと戦うことすら危ういだろう。それほどヴァンデモンは弱っているのだ。

 だが――。

 

「おのれ……覚えていろ……!」

 

 だが、それでも。ヴァンデモンはどれほどの時間がかかろうとも、生き抜いて、力を取り戻そうとしていた。

 すべては、自分を惨めにさせたあの者たちに復讐するために。

 そうして、生き残った吸血鬼は、荒野を行くのだった――。

 




というわけで、第六十五話。
第五章のエピローグ回でした。一旦、勇が行方不明になります。

さて、次回からは第六章。
内容的には、前半は大成たちサイドの話が展開されて、後半からは打って変わって勇や久々に登場するあの人たちの話となります。

あ、あと評価や感想は常時お待ちしておりますので、またよろしくお願いします。

それでは第六章もよろしくお願いします!
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