【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第六十七話~とある実験の裏にあった嘘~

 ウィッチモンの依頼を受けた日の次のこと。

 

「うがー……キツ……こういうのってセバスの専売特許だろぉー……」

「大丈夫ですか?」

「あんまり……」

 

 大成は現在、自分の部屋のベッドの上で情けなくも唸っていた。

 そんな大成のことをスティングモンは心配するように見ているが――実際は心配するまでもない。なぜなら、大成はただの筋肉痛であるだけなのだから。

 別にどうってことはない。一日二日すれば治るレベルだ。

 それでも大成がこうして唸ってしまうのは、筋肉痛という経験自体が少ないからだろう。

 

「まさか……こんな落とし穴が……!」

 

 大成がなぜ筋肉痛などになっているのか。それは言うまでもなく、昨日のウィッチモンの依頼が原因だ。

 まあ、原因とはいっても、慣れない体勢で重いものを持ち続けた結果、筋肉に変な負荷がかかって筋肉痛になったというだけのことなのだが。

 別に大成はマゾでもなんでもない。動くたびに痛みを覚えて喜ぶような特殊な人格はしていない。

 だからこそ、ベッドから起き上がろうとするたびに、動こうとするたびに、自分を襲ってくる鈍い痛みに大成は辟易としていた。

 

「セバスはいつもよく耐えられるよなぁ……」

「感心している場合じゃないですよ」

 

 ともあれ、大成はこんな調子で、今日はもう家から――というよりベッドから動く気はないようだ。

 これが何らかの重大な病気であったり、風邪であったりするのならばまだわかるのだが、大成のそれは軽度の筋肉痛。少し情けなさすぎる気がしないでもない。

 とはいえ、スティングモンはそんな、いつも通りともとれる大成の姿に少しだけ安心していたりもした。それだけ、ここ数日の大成の様子にスティングモンは違和感を覚えていたのだ。

 

――奴も必死なのだ。汝が必死であったように。それでも、変わらないものはあるだろう?心配しなくても、以前の奴と今の奴にそうたいした差はない――

 

 スティングモンの脳裏に、昨日のエンジェモンの言葉が思い起こされる。本当にエンジェモンの言う通りだった。

 確かに違和感はある。だが、根本まで変わったわけではない。

 そのことを知れて、スティングモンは安心した。まあ、代わりにその言葉の中にあった“必死”という部分について首を傾げることになっているのだが。

 

「あーあ……昼間から部屋でゴロゴロか……なんか思い出すな」

「何をですか?」

「ほら、あれ……この世界に来てからの数日間。あの時も一日ゴロゴロして過ごしてたじゃねぇか」

「そういえばそうでしたね」

 

 あの頃は本当に一日食っちゃ寝てを繰り返していただけだった。あの時はまだ、スティングモンはワームモンで、ついでに酷かった。いろいろと。

 思い返して、ずいぶんと昔のことのように思えるが、それでもまだ数か月と経っていない。人間の世界では、そろそろ半袖が当たり前になっている頃だろう。

 

「な、なんですか?ジッと見て……」

「いや、イモは変わったなって……いや、初めからか?」

「……?そりゃ、進化しましたからね」

「そういうことじゃなくてだな。あー……やっぱなんでもねぇ」

 

 言って、それでも具体的にどこがどうと言えなかった大成は、言葉を濁すことにした。

 まあ、出会った当初と今を比べれば一目瞭然の違いはいくらもあるのだが。

 

「腹減ってきたな。……そういや、優希は?」

「え?あ、いませんよ。セバスさんも」

「えー……飯どうすんの?」

 

 軽度の筋肉痛ごときで引きこもる馬鹿を甘やかすわけにもいかない。そう判断して、優希は()()()()()朝食やら昼食やらを作らずに出て行ったのである。

 そう。大成の分だけ作らずに出て行ったということは、スティングモンの分はあるということで。

 だが、そんなことを当の大成には知る由もない。そうして、大成だけは勝手に自分()()の分のご飯をないと思っているのだった。

 

「そういえば、聞いてませんね」

 

 とはいえ。実はスティングモンも自分の分があるなんて知らなかったりするのだが。

 そう。優希は出かける前にスティングモンの分だけはあるという旨のことを伝え忘れたのである。そんな優希が自分のうっかりに気付くのは、帰ってきてからのことだった。

 ともあれ、そんなこんなで、時刻は昼を過ぎて。

 朝も食べていない大成としては、そろそろキツイ。育ち盛りの年頃の少年として、一日に二食も抜くというのは耐えられなかった。

 そうして、その十分後――。

 

「ぐぅ……!どうする……!」

「……大成さん?」

「腹減った!」

「いや、僕も同じですよ」

 

 深刻な悩みを抱えているかのように、この選択が生死を分かれ道となる時のように、大成は深刻な顔で悩んでいた。とはいえ、その表情は例によってアレなのだが。

 だが、まあ、動けばいいだけの話である。そうたいしたモノ(筋肉痛)でもないのだから。だというのに、悩みに悩む大成は馬鹿と言うべきか。いや、アホと言うべきなのかもしれないが。

 そうして、自分が痛みを無視して動けばいいことにも気づかずに、大成はどうやって昼食を調達するかで悩み続ける。

 そんな大成がスティングモンに昼食の調達を頼むのは、この一時間後の話で――やはり、アホと言うしかない。

 

 

 

 

 

 一方その頃。優希はレオルモンと共にウィザーモンの下へと向かっていた。

 実は、優希だけは昨日一度ウィザーモンの下へと赴いたのだが、その当のウィザーモンから忙しいから明日の昼頃にもう一度来てくれという旨ことを言われたのだ。

 ということで、今日はレオルモンもつれて、優希はウィザーモンの下へと向かっているのである。

 

「大成も筋肉痛くらいで情けないわね」

「確かに。少々情けないですな」

 

 そうやって大成のことを話す二人のその顔には、呆れがあった。

 そこには、大成を心配する様子は見受けられない。

 

「あの時はちょっと見てられなかったけどね……」

 

 そう話す優希たちが思い出すのは、一週間前のこと。

 エクスブイモンの死を聞いてショックを受けた優希たちでさえも心配するほど、その時の大成たちの様子は際どかった。

 だが、大成たちが一週間経って元通りとはいかなくとも最悪の状態でもないことを悟った優希たちは、それまで通りに大成たちに接することにしたのである。

 

「……でも、今日のはないわね」

「ですな」

 

 で、その結果が今日のアレ。

 実を言えば、筋肉痛で大騒ぎしていた大成を宥めたのも、大成の筋肉痛がそれほど酷いものではないと見抜いたのも、このレオルモンだったりする。

 まあ、別にレオルモンは医学的知識に長けているわけではない。もちろん、勉強自体はしているために、ずぶの素人よりはマシだろうが、それでも専門家と比べると見劣りするレベルの知識しか持たない。

 

「今朝の大成殿……あれだけ大騒ぎしていたのに、このセバスの言葉ですぐに大人しくなりましたな」

「そりゃあ……」

 

 今思い返して、レオルモンはそんな大成の物分かりの良さに首を捻るばかりなのだが――その理由を知っている身として、そしてその理由の原因たる身として、優希は何と言おうか迷っていた。

 あの時の大成は筋肉痛という滅多にない状態に陥ったために、ほんの少しだけパニックになっていたのだ。まあ、パニックになっていただけで、取り乱してはいなかったのだが――それはともかくとして。

 そんな状態だったのだというのに、大成はレオルモンに宥められただけで、すぐに納得し、大人しくなった。物分かりが良いを通り越して不気味である。

 とはいえ、それは大成がレオルモンの言葉に納得した理由を知らなかったらの話だが。

 

「お嬢様はその理由を知っているのですかな?」

「まあ、私が原因だしね。ごめん」

「……?……ああ!」

 

 ごめんと言った優希に、レオルモンは一瞬だけわけのわからない顔でキョトンとして、その一瞬後に優希の言いたいことに気付いた。

 そう。レオルモンは進化のたびに筋肉痛になり、そして筋肉痛で死にかけることもある。言うならばレオルモンは筋肉痛のスペシャリストである。

 そんなレオルモンの言葉だったからこそ、大成も素直に納得したのだ。まあ、納得しようと今はあの通りで、家に引きこもっているのだが。

 

「別にお嬢様のせいではごわいませぬ!不肖このセバス!未だ修行中の身ゆえに……!」

「気を遣わなくてもいいから。私もがんばらないとね」

 

 大成の話をしていたはずであるのに、いつの間にか自分たちの未熟さに話題がシフトしている。そんな話題で、明るい空気が保てるはずもない。結局、空気が無駄に暗くなっただけだった。

 そんな空気のままで、数分。

 優希たちの間に漂う空気がようやく回復の兆しを見せ始めたその頃に、二人は目的地であるウィザーモンの借家へとたどり着いた。

 そんな優希たちだったが、次に起こった出来事に少しだけ驚くことになる。

 

――ふむ。来たか。さっさと入りたまえ――

 

 聞こえたのは声。この家の家主たるウィザーモンの。だが、彼の姿はどこにも見えない。

 声だけが聞こえたということは、彼お得意の魔術なのだろうが――彼の家にたどり着いた瞬間に、その声がいきなり聞こえたのだ。優希たちとしては少しだけ心臓に悪いことこの上なかった。

 まあ、“少しだけ”というその言葉が示す通り、優希たちは今更この程度では驚かないのだが。

 それでも多少は驚いていしまうのは、やはり意識の外から来る出来事だからなのだろう。

 アレだ。出来の悪いお化け屋敷で、怖くもなんともないのに、いきなりお化けが壁を突き破って出てきたり、こんにゃくが顔に当たったりすると驚くとかいう、そういう類のものと同じなのだ。きっと。

 

「お邪魔します」

「失礼しますな!」

 

 ともあれ、昨日もそうだったのだが、ウィザーモンも忙しい身だ。待たせるのも悪いだろう。というわけで、優希たちはさっさと家の中に入った。

 相変わらずというか、家のそこら中に散乱した書類やら研究の品やらがある。

 というか、昨日来た時もこうだったのだが、優希たちにはどうも以前よりこの家の散らかし具合が増しているような気がしてならない。

 そうして、まるで未開にジャングルを開拓するかのように進む優希たちは、数分をかけてウィザーモンの下へとたどり着いたのだった。

 

「ふむ。少し時間がかかったな。何をしていたんだね」

「いや、結構速い方だと思いますぞ……」

「もう少しこの家何とかした方がいいわよ」

「無理だな」

 

 そうやって、レオルモンが疲れた表情をしてしまうくらいには、この家の散乱具合は酷かった。

 ちょっとした小言を言うくらいは許されるだろうくらいには。

 とはいえ、こればかりはいくら言っても直らないだろうことは、優希たちにも容易に想像がつくこと。優希たちの小言を真面目に受け止めた感じがしないウィザーモンを前に、二人は溜め息を吐いたのだった。

 

「そういえば聞いたぞ。完全体に進化できたそうだな」

「む。進化できたといえばできたのでしょうが……」

「あまり成功とは言いたくないわね」

「ふむ。やはり進化後のデメリットが大きいと見るべきかもしれないな」

 

 ウィザーモンは見るべきかもしれないな、などと言っているが、そんなことはない。

 治療行為を受けた状態で一週間も行動不能になったのだ。そこは、見るべきかも、ではなく、見るべきなのだ。

 

「しかし、前はすぐに戻ってしまったことを考えれば……機械里でのアレが効いたのですかな?」

「ああ、そうかもしれないわね。ウィザーモンにも礼を言っておかないと。ありがと」

 

 機械里でアンドロモンにしてもらったアレが効いたのではないか。そう言うレオルモンに、優希も同調する。思惑はどうあれ、あれを手回ししてくれたのはウィザーモンなのだ。

 あれのおかげで今回のことを乗り切れた可能性を思えば、礼を言って然るべきだろう。

 そう思って礼を言った優希たち。だが、そんな優希たちに対して――。

 

「ふむ?……なるほど。ふむふむ」

「って、なによ。意味ありげに笑って」

「いや別に」

 

 ウィザーモンは意味ありげに笑うだけだった。

 まあ、それもそうだろう。優希たちは知らないことであるが、実を言うと機械里でしたアレに意味は全く無かったりするのだ。

 あれはウィザーモンの研究の一環だった。暗示や思い込みがどこまでデジモンや人間に効果を与えるかという。機械里でレオルモンの体内に入った薬品は体に無害な栄養剤みたいなもので、進化云々のことは全部嘘である。

 だから、今回の一件が機械里でのアレのおかげであるわけがないのだ。

 

「ふむ……なかなか良い結果を残してくれたかな。ああ、これは仮説だがな」

 

 もし、機械里での一件の効果があったというのならば、それはその一件で優希たちに変化が起こったということだ。それも、肉体的な変化ではない。精神的な変化が。

 無論、機械里での一件に効果がなく、機械里から帰還した後に何らかの変化があったという可能性もある。

 その辺りは、また調査をしていかなければならないだろうが――。

 

「君の力は精神的な何かに依存している可能性もあるな。ふむ。なかなかに面白い結果だ」

 

 だが、機械里からの帰還とレオルモンの完全体への進化がそう間が空いていないその事実は、ウィザーモンにある一つの仮説を導かせる結果となった。

 暗示や思い込み、覚悟や決意。そう言った強い精神の働きに優希の力は発動するのではないか、と。そうウィザーモンは思ったのだ。

 そして、優希たちのことに合わせて、勇たちに起こったことも考えれば、今までは仮説の中の仮説の域を出なかった考えが現実味を帯びてくる。

 

「つまりだ。君の力は進化に必要な肉体的な限界や経験を超える力なのではないか、という話だ。そこで、肉体的な要素に変わるのが――」

「精神的なモノってこと?そんなあやふやな……」

「フフフ……まだ仮説の域を出ないがね。だが、あながち的外れでもないと思っている。少なくとも、君たちのような、人間とデジモンの関わり合いにおいてはね」

 

 ともあれ、ウィザーモンはこの考えを今すぐにもっと深めたかった。

 全く良いタイミングで面白い結果が来てくれるものだ、と。そう思うくらい、今のウィザーモンはこの考えに夢中になり始めていた。

 

「ああ、無論、君たちの場合は()()()()()()()()()、肉体的な面を鍛える必要もあるだろう」

「むぅ……なるほど、ですな」

「だが、先を目指すのなら、能力自体の制御を目指すのなら、精神的な鍛錬もしておいて損はないだろうな」

「……!そっか……!」

 

 そのウィザーモンの言葉は、能力制御が行き詰まっていた優希にとって希望になり得るものだった。

 ここから先ずっと、進化しては一週間も行動不能になるわけにも行かない。常々自分たちの頭を悩ませていた課題に対する解決策が見えたのだ。優希やレオルモンの顔が明るくなるのも無理はないだろう。

 

「でも、精神的な鍛錬とは……どうやればいいのですかな?」

「そこは僕に聞くな。門外漢だ。君たちには専属コーチ(スレイヤードラモン)がいるだろう」

「そっか。そうね」

「早速後で頼みに行きましょうぞ!」

「ふむ。進展したら是非聞かせてくれたまえ。君たちの存在は僕の研究意欲をいちいち刺激するからな」

「ありがとう!ウィザーモン」

「ありがとうございますな!」

 

 そうして、ウィザーモンに礼を言った優希たちは、スレイヤードラモンを探して街へと出て行ったのだった。

 




というわけで、第六十七話。
実はあの実験は……!?という話でした。
ウィザーモンは暗示や思い込みの力の実験をしたかったわけですね。

さて、次回は久しぶりにスレイヤードラモンが登場します。

それでは次回もよろしくお願いします。
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