【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第六十八話~迷子で迷子な子供さん~

 そんなこんなで、大成の筋肉痛事件から一週間経ったある日のこと。

 この一週間、大成は街の依頼を受けたり、筋肉痛を治したり、筋肉痛になったり、筋肉痛を治したり、片成にストーキングされているような気がしたり、筋肉痛になったりといろいろと忙しい日々を送っていた。

 

「で?なんでこんなことになってんだ……」

「別にいいじゃねぇか。ウィザーモンに許可はとってきてやったぞ」

「そういうことじゃねぇよリュウ!」

 

 そして、今日。

 大成は優希たちやスティングモン、スレイヤードラモンと共に学術院の街を離れて、どこに向かうのかも知らされていないままに歩いていた。その背には大荷物が背負われており、明らかに日帰りであることは考慮されていない。

 これだけで、もはや嫌な予感がする。そんな現段階を前にして、なぜこうなった、とそう問いたい大成。

 だが、すべての元凶である者は――。

 

「あれ、大成に言ってなかったかしら?」

「確か言ってなかったような気がしますな」

 

 そんな大成に対しても、いけしゃあしゃあとしているのだが。

 そう。今回のこの謎の事態を計画したのは優希とレオルモンだ。スレイヤードラモンは、そんな優希たちに協力しているだけである。

 事の起こりは今朝。

 昨日には微妙に残っていた筋肉痛もすっかりと取れて、清々しい気分で朝を迎えた大成は、スティングモンにいきなり大荷物を背負わされて――で、混乱するままの大成を、スレイヤードラモンが連れ出した。

 言葉にすればこれだけで、結果、大成は朝からこんな場所を重い荷物を背負って歩くことになっているのである。

 

「言ってねぇよ!言われてねぇよ!」

「僕は言われてましたけど……」

「えっ!マジでか!?イモなんで言わなかった!」

「いや、てっきり言われているものとばかり」

 

 ここへ来てまさかの味方の裏切りだった。その裏切りを前にして、大成も驚きを隠せない。

 まあ、スティングモンには、裏切ったつもりもなかったのだろうが。ついでに言えば、優希たちが大成に今回のことについて言わなかったのは、騙そうとかそんな訳はなく、単に忘れていただけである。

 

「せっかく筋肉痛が治ったのに……!これ絶対明日筋肉痛だって……!」

「いや、大成、それはちょっと軟弱すぎるだろ」

「うるさいなーリュウ。俺だって二、三ヶ月前まではバリバリのインドア派だったんだよ!」

「いんどあ派?なんだそれ?優希わかるか?」

「ああ、普段家に篭ってばかりの人たちのことを言うんだと思ったけど……」

「それじゃ、ただのニートだろ!」

 

 とはいえ、優希の説明でもあながち間違っている訳ではない。というか、どちらかといえば大成のニートの使い方の方が間違っている。

 大成は、なんでこうなったのか聞きたいだけだというのに、そんなこんなでどんどん話がズレていく。そんな現状に、大成は早くも疲れ始めているのと共に、ブルーな気分になっていた。

 まあ、朝起きたらパートナー(スティングモン)の手によって荷造りが完了しており、問答無用で旅支度が整えられていた挙句、反論する暇もなくどこかへと連れて来られていれば、ブルーにもなるだろうが。

 

「この旅行は……修行というか、鍛錬というか、ね」

「そんな感じのだ。俺の知り合いのところに行く」

 

 優希の説明を引き継ぐようにして、スレイヤードラモンが語る。とは言っても、肝心な部分は未だぼやかされているのだが。

 先ほどの会話の中で大成がわかったことといえば、スレイヤードラモンの知り合いのところへと行くこと、そしてこれが修行や鍛錬を目的とした旅行というだけである。

 ちなみに。この修行旅行的なモノを計画したのは優希だが、その優希もどこへ行くか、何をするかなどの肝心な部分は知らなかったりする。

 今回のこれを計画した優希は、こういうことをしたいという旨を専属コーチ(スレイヤードラモン)に伝え、それに適った形でスレイヤードラモンが行き先やら何やらを決定したのである。

 

「はぁ。修行……鍛錬……ねぇ」

 

 ともあれ、ようやくこの状況についての説明を聞けた大成だったが、その口から出たのは大きなため息だった。優希が何を思って今回のこれを計画したのかは知らないが、修行や鍛錬などというしんどいものを自ら望んでやりたくはない、というのが大成の正直な心境だ。

 だが、大成がそんな面倒そうな顔をしているのに、スレイヤードラモンも気づいたのだろう。スレイヤードラモンは大成へと向かって話しかけた。

 

「おいおい、あんまり辛気臭い顔するなよ。エクスブイモンの奴に笑われるぞ」

「……そっか。聞いたのか」

「まぁな」

 

 スレイヤードラモンとて、エクスブイモンとは交流があった。たった数日だけだったが、エクスブイモンは彼の弟子のようなものだったのだ。大成たちほどではないだろうが、死んでしまったエクスブイモンを悼む気持ちはあるだろう。

 だが、スレイヤードラモンが今言いたいのは()()()()()()

 

「ま、どうなろうとどうしようとお前の勝手だけどな。……エクスブイモンは最後に言ってくれたんだろ?」

「……?」

「最期の言葉を聞けるって、結構ありがたいことだぜ?」

「リュウもなんかあった……いや、やっぱいい」

 

 昔を思い出しているかのようなスレイヤードラモンのそんな雰囲気を前に、大成もついその何かを聞こうとした――のだが、思い直して途中で聞くのを止めた。

 これ以上聞くと余計にしんみりとした空気になってしまいそうな気がしたのだ。

 

「まぁ、リュウの言いたいことはちゃんとわかってるよ。なっ!イモ?」

「……そうですね」

 

 そうやって、スティングモンと頷きあった大成のその顔には、過去を思いながらも、過去に囚われている様子はなくて。そんな大成を見てスレイヤードラモンは、自分が余計なお節介をしようとしていたことに気づいた。

 

「……ちょっとは良い面構えになったかもな」

「ちょっとだけかよ?」

「そりゃ、そう簡単には変わんねぇよ。でも、ちょっとは変わってる」

 

 そう言ったスレイヤードラモンは思い出していた。ほんの一、二ヶ月前のことを。大成たちと出会った、あの時のことを。

 訳のわからないことばかり言って、頼りなくて、心配と不安しかなかったような子供()()が、よくもまあ変わったものである。

 まだまだ子供であることを抜けきっていないとはいえ、今の大成たちなら、あの時と同じ状況でこの世界に放り出されても、スレイヤードラモンの助けを借りずともなんとか生きていくことくらいはできるだろう。

 

「っちぇー辛口だなー」

「まぁ、いいじゃないですか」

 

 スレイヤードラモンの辛口な評価にぶつくさと文句を言う大成は、スティングモンと仲良く話し始めた。思い返せば、初めて出会った頃の感じが嘘のような光景である。

 そんな大成たちを放っておいて、スレイヤードラモンは優希たちの方に目を向けた。

 

「優希やセバスも気をつけろよー?気を抜くと抜かれるぞ?」

 

 からかい半分、発破半分のその言葉。だが、そんなスレイヤードラモンの言葉を受けた当の優希たちは、まるで堪えていなかった。むしろ、事実を事実で認識しているような、そんな感じさえする。

 

「もう抜かれてるわよ。たぶんね」

「お?」

「でも、抜かれっぱなしってわけにもいかないでしょ?」

「そうですな!お嬢様!」

 

 優希もレオルモンも、もはや大成たちはこの世界に来た当初の大成たちではないとわかっている。そして、おそらく自分たちはいろいろな意味で大成たちに抜かされていることも。

 だが、だからといってそれだけで納得する気は優希たちにもない。もちろん、こういったものは競争や勝負という訳ではないし、大成たちに追い抜かれたからといって、彼らを妬むような気持ちは優希たちにはない。だが、今のまま、変わらずにこの情けない場所にいることは優希たちも嫌だった。

 前に進まなければならないだろう。大成たちのように。だからこそ、優希たちも自然と気合を入れ直したのだった。が、優希たちは少し大成たちを過大評価している。

 スレイヤードラモンから見て、大成たちと優希たちに然したる差はない。まあ、成長率という点では、優希たちは大成たちに負けていると言えるかもしれないが。

 

「なんだか、そろそろ俺もいらなくなりそうだな。寂しいような、嬉しいような……」

 

 ともあれ、そろそろ自分の役目も終わりそうなことを感じ始めたスレイヤードラモンは、複雑な気持ちを抱くのだった。成り行きでの師弟関係だったが、スレイヤードラモンもそれなりに楽しかったし、やりがいを感じていたのである。

 まあ、その割には修行内容が多少大雑把だったかもしれないが。

 スレイヤードラモンとしても、できればもう少し面倒を見ていたい気もするのだが――あまり過保護に面倒を見続けていても、成長しないだろう。というか、もうスレイヤードラモン自身の手を離れて勝手に成長している感じさえある。

 

「まぁ、でもしばらくはこのままか」

「何が?」

「いや、なんでもねぇよ。つーか、お前らさ、このペースでずっと歩いて行くつもりか?」

「……えっ?」

 

 呆れたようなスレイヤードラモンのその言葉に、その場の全員が一斉に疑問を顔に出す。だが、そんな風に顔に疑問を出しながらも、全員が薄々と感づいていた。

 スレイヤードラモンがそう言ったということは、つまり今から行く場所はそれなりか、かなり遠いところにあるということに。

 

「……はぁ。このペースで歩けば一ヶ月かそこらかかるぞ」

「……はぁっ!?おい、優希!?聞いてないぞ!」

「いや、私も聞いていなかったし……」

「聞けよ。そこは。ったく……お前らは!」

「え?リュウはどうする気だったんだ?」

「いつ聞かれるかずっと待ってた」

 

 スレイヤードラモンとて、いつか誰かが気づいて聞いてくるだろう、と思って言わなかったのだ。だが、いくら待っても聞いてくる気配がない。

 一番初めに大成は“なぜ”を聞いてきたが、“どこ”を聞いてきてはいなかった。

 やはりまだまだ子供か、と。スレイヤードラモンは大成たちの間抜けに嘆息する。とはいえ、()()()()()()もあることだ。大成たちの間抜けのせいで、いろいろと狂ったが、そろそろ行動に移さなければならない。

 

「はぁ。まぁいいや。ちょっと連れてくるから、お前らずっと北に行け。……北の方角はわかるよな?」

「いや……」

「地図も道具もなしにわかんねぇよ」

 

 何かを使わなければ方角もわからないと言う大成たちに呆れるスレイヤードラモンだったが、大成たちの方だってそんなサバイバル知識を要求されても困る。

 腕時計があれば方角を探れるとは大成も聞いたことはあったが、正確な方法を知らないし、そもそも腕時計がない。

 

「方角くらいわかるようになれよ」

「現代日本人に無茶言うなって」

「そういうリュウはどうやってやってるの?」

「風と雲と太陽の動き。あと勘と経験だな」

「……一つだけ納得いかねぇ」

「まぁいいか。いいか?北はあっちだぞ。あの山の方角な。まっすぐ進んでろよ?」

「え?あ、ちょ、待っ……!」

 

 すっかり油断した。大成たちが何かを言う前に、スレイヤードラモンは行ってしまった。

 確かに、スレイヤードラモンは行く前に方角を指示してくれたが、まっすぐ進めとはずいぶんと無茶を言ってくれるものだ。

 人間の世界のように舗装された道路のないここで、まっすぐ進むということは、その実、案外難しい。まっすぐ進んでいるつもりでも、遠くの風景や遠近感の狂いによってそのうちにだんだんとズレていくのだ。初めは小さなズレかもしれない。だが、そのズレは積もり積もって大きなものとなっていく。

 そうした結果、人は遭難したりするのだ。

 

「あっ!太陽を見ればいいんじゃねぇか!?」

「いや、今が何時かもわからないし、そもそもここは日本じゃないのよ?」

「っぐ!じゃ、じゃあイモたちは……!」

「う……すみません。あっ。そういえば、セバスさんは……?」

「このセバスも一緒でございまする。……すみませぬが」

「くそぅ!リュウ、戻ってきてくれ!」

 

 一応、レオルモンも道具を使わない方角の調べ方を知っているといえば知っているのだが――そのどれもが、人間の世界用である。理屈としては同じだろうが、大前提となる世界の条件が同じとは限らない以上、安易に使うわけにもいかないだろう。

 途方にくれる大成たちだったが、ここで留まっているのも面倒だった。ゆえに、いざとなればスレイヤードラモンが見つけてくれることを祈って、大成たちは歩き始める。スレイヤードラモンが指し示してくれた先にある山を目指して。

 そんなわかりやすい目印があったのは、不幸中の幸いだったと言える。

 まあ、それでも遭難や方向を間違える可能性がないわけではないのだが。

 

「俺たちってもしかして、方向音痴なのかねぇ……あんなの漫画やゲームの中のこととばっかり」

「まあ、日本は交通網がしっかりしていますからな。よほどの場所や者でなければ大丈夫でしょうな」

「へぇー……日本ってすごいところなんですね」

「そっか。スティングモンは行ったことがないのね」

 

 そうして、まっすぐ進めていると自分に言い聞かせて歩く大成たちの話題は、いつの間にか人間の世界についてのことに移っていた。レオルモンが言った言葉に、スティングモンが興味を示したのである。

 まあ、優希の言う通り、このメンバーの中ではスティングモンだけが人間の世界を知らないのだ。未知の世界であり、大成たちの生まれ故郷でもある人間の世界のことは、スティングモンにとっても気になることだったのだろう。

 

「いつか行ってみたいですね。あ、でも、デジモンはいないんですよね?」

「そうね。こっちの世界に人間がいないようにね」

「今はいるけどな」

「人の揚げ足をとるものではありませんぞ!」

「へぇー……」

 

 そうやって話を聞いて、スティングモンも人間の世界に思いを馳せる。今、スティングモンの脳内では機械里のような人間の世界が思い描かれていた。

 まあ、あながち間違ってもいないが、間違ってもいる。この世界と同じで、人間の世界も場所によってさまざまであるのだから。

 ともあれ。そんな感じで、何度かの休憩を挟み、話しながら北に進むこと数時間。そろそろ日が傾き始める時間である。

 

「リュウのやつ遅くね?」

「迷っているんですかね」

「……()()()()?」

「……」

 

 スティングモンのその言葉は、"スレイヤードラモンが迷っている”というつもりで口に出されたものだった。だが、その後の大成の言った言葉に、その場の全員が黙り込むこととなる。

 スレイヤードラモンは速い。そして、強い。彼に何かあったとは考え難く、それでいてとんでもなく速い彼が自分たちを見つけられないとなると、大成たちに思い当たることは一つしかなかった。

 

「マジでか……」

 

 呆然と呟く大成。今まで可能性でしかなかった出来事(迷子)が現実として立ちはだかってきた感じだった。

 そして――。

 

「……ふっ」

 

 そして、そんな大成たちを見つめる黒いデジモンがいて。

 大成たちはそのことに気づかなかった。

 




というわけで、第六十八話。
大成たちが迷子になる話でした。

さて、次回はこれの続き。
最後に登場した奴らが出てくるかも……?っていう回です。

それでは次回もよろしくお願いします。
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