【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
そうして、結局スレイヤードラモンが来ることなく日が暮れて。
現在、大成たちは途方に暮れていた。
あのスレイヤードラモンが来ないのだ。彼に限って何かあったとは大成たちも思えない。となれば、残る可能性は一つだけだった。
そう。残る可能性は一つだけ。あのスレイヤードラモンが大成たちを見つけられないほど、大成たちは見当はずれな場所にいるだろうということだけ。
そうして、その結論が現実味を帯びてきたその瞬間に、迷子や遭難と言った単語が、大成たちの頭をよぎる。
「まさか迷子になるとは……!」
「いや、そんな可愛いものじゃないでしょ」
「遭難ですよ!遭難!」
「どうしようもないですな」
事態は最悪だった。
大成たちとて、手も足も出ない強い相手に出会ったり、今まで戦闘が終わったと思ったら乱入されたり、より強い相手に進化されたり――といった最悪な状況に出くわしたことは、それこそ嫌になるくらい何回もある。が、こういうパターンでの最悪な状況は初めてだった。
なんというか、大成たちは厄介ごとに好かれているのだろう。きっと。
「野宿……か」
「仕方ないわね」
そもそも、野宿など何日ぶりか。というか、何気に大成たちは誰の手助けもない野宿というものが初めてである。
今まで野宿する時は誰かしらがいた。もし何かまずい状況になっても、その誰かが助けてくれた。だが、今回は正真正銘自分たちだけの力で野宿をしなければならない。
まあ、旅支度は整えてきたから、いろいろな面でしばらくは平気であるというのは、まだ救いであるか。
「……とりあえず現状確認ね。各々の荷物の中身を改めて確認しましう」
辺りはすっかり夜になっている。
星や月の明かり綺麗に輝く中で、大成たちは火の点いた薪を囲いながら、現状確認のために持ち物を確認することにした。
ちなみに、現在囲んでいる薪は全員で拾ったもので、それに摩擦の力で火を点けたのはスティングモンである。
「さて……うわ、すっげぇ詰め込んであるな」
「なによ。アンタもっと荷物少なくできなかったの?」
「いや、俺に言うなよ。用意したのイモなんだから」
そうして、大成と優希は自分たちの背負っていた大きな鞄を開けるが、大成の方の鞄からは開けた瞬間に詰め込まれていた物が溢れ出てきたのだ。どれだけ詰め込んできたんだ、という話である。
ともあれ、そんな鞄に若干引きながらも、大成と優希はそれぞれの荷物を確認していく。
大成と片成とレオルモンの寝袋的なものはある。スティングモン用のものはない。まあ、スティングモンは寝袋など使わないだろうし、なくても平気だろう。一人だけ寂しそうにしているが。
テントはない。まあ、テントというものはあるだけで荷物になる。ないのも無理はない。というか、片付けと普段の荷物具合を考えれば、別になくても平気である。
食料は全員で三日分くらいはある。気合で節約すれば、ギリギリ四日は持つだろう。逆に言えば、四日しか持たないということだが。
その他、着替え等々があって――とりあえず、これだけあればひとまずはなんとかなるはずである。ひとまずは。
そうして、荷物を確認して、当面の見通しが立ったところで次にするべきなのは、明日以降の行動をどうするか。その指針だ。
「問題は四日以降だな。食料が手に入るかどうか……」
「明日来た道を引き返すのがいいんじゃないですか?」
「ですが、今の迷っている状態で、学術院の街までたどり着けるかどうか……」
そう。今日の日中に何時間も歩いたことで、この辺りにもう大成たちの知る光景は一欠片も見当たらない。しかも、初めのうちはスレイヤードラモン先導で歩いていたために、どの方向が学術院の街の方向なのか、大成たちにはわかっていなかった。
この状況で、勘とあやふやな記憶だけを頼りに進み、学術院の街にたどり着けるか。答えは否だ。いや、可能性的な面で見ればゼロではないだろうが、限りなくゼロに近い。
「でも、このままってわけにもいかんだろ。他のデジモンたちを探して、街の位置を聞くか?」
「そううまく見つかる?」
「動き回れば何とかなるんじゃないですか?」
「進化したセバスに乗っていくのが一番距離を稼げるとは思うけど……」
「まあ、またぶっ倒られても困るしな」
「申し訳ありませぬ」
「別にセバスのせいじゃないわ。……大成たちって完全体に進化できるようになったよね?デメリットもなしに」
「……ああ。そりゃぁ……まぁ」
話の流れが一つに決まりかけていたところで発せられた優希の言葉。
その言葉に対して、大成が言葉を濁した理由も、優希とレオルモンは何となく察することができた。優希たちは聞いたのだ。スティングモンが完全体に進化するためのその方法を。
それが誰の力で、誰のおかげであることか。それさえなかったらスティングモンは完全体には至れない。大成が言葉を濁した理由も、きっとその辺りにあるのだろう。
優希の言った“デメリットもない”という言葉は、自分の力と比較してのものだった。一回進化するだけで、対象デジモンにダメージを与えてしまう自分の力のことを思えば、優希が大成たちの進化方法をデメリットがないと言うのもわかるだろう。
無論、大成もそれはわかっている。だが、それでも、大切な者の命を引き替えに残されたのだ。言うなれば、命を失ったという事実そのものがデメリット。過去形ではあるが、大成としては“デメリットがない”など言って欲しくはなかった。
「……ごめんなさい」
優希に悪気はないのは大成もわかっている。事実、大成とスティングモンの微妙な雰囲気の変化を感じ取って、優希はすぐさま自分の失言に気づいて謝った。
とはいえ、そんな優希の言葉に、大成たちが複雑な気持ちを抱いてしまったのは仕方ないことだろう。
「……とにかく!明日から行動!いざはいざとなった時に考えればいいんだよ!」
「大成さん、滅茶苦茶言ってますよ」
「無知が露呈しましたな。しかし……そう。大成殿も受験生でしょうに。その様子ではマズイのでは?」
「……まぁ、しょうがないわ。自業自得よ」
「なんで俺こんなにボロクソ言われてんの!?」
勢いに任せた言葉をちょっと言ったくらいで、大成はその他の全員からボロクソ言われている。こうなるといっそ哀れにも見えるが――まあ、これはちょっと悪くなった空気を元に戻そうというこの場の全員のおちゃめな試みである。
まあ、一人だけ本気で叫びを上げたものがいるが。
ちなみに。大成は頭が悪いわけではないが、頭が良いという訳でもない。そこに普段の素行不良が加われば、受験という人生の中でも指折りに入る難所を乗り越えられるかどうか。怪しいだろう。
「大成もセバスに勉強を教えてもらえば?」
「……いや、なんかプライド的に嫌だ」
「どういう意味ですかな!?」
レオルモンが何かわめいているが、大成はそれを無視した。別にレオルモンのことを軽視するわけではないが、レオルモンに教わるのは見た目的な面で嫌だったのだ。
あと、レオルモンに教えを請えば、自分の勉強に対して持っているなけなしのプライドがボロボロになりそうな嫌な予感がした。だからこそ、大成は断ったのだが――後々、これが現実の事態になろうとはこの時の大成は予想もつかないことである。
「それでな……それで……な……はぁ。なぁ」
「何?」
「こういう時さ」
「うん」
「どういう反応すればいいと思う?」
「笑えばいいんじゃない?」
「あははは……はは……はぁ。笑えねぇよ」
そうして、この緊急時にも似合わずに談笑していた大成たちだったが、その会話は急に途切れることとなる。それどころか、何やら微妙に痛々しい空気が大成たちの間に漂い始めていた。
まあ、そんな大成たちの様子も当然なのだろう。
大成たちは、気づいたのだ。気づいてしまったのだ。この事態に。ある意味お約束とばかりのこの事態を前にして、大成たちのテンションは一気に急降下した。
「なんで、毎度こうなるんだ……」
「仕方ないでしょうな」
「ですね。今の僕たちは襲ってくれと言わんばかりの状況ですし」
「そうね。で、どうしましょうか?」
ともあれ、こういう事態になってしまったというのなら、仕方がない。未だ事態は展開を見せないようであるし、優希の提案でどうするかを大成たち各々は考える。
「そうだな。これが敵じゃないっていう可能性は……」
「無きにしも非ずって感じね」
「限りなく低いでしょうがな」
「警戒しておいて、襲ってきたら対応でいいんじゃないでしょうか?」
「少し楽観がすぎるかもしれないけど……そうね」
そう言ったスティングモンの提案に全員が賛成する。まあ、優希の言う通り、楽観がすぎるかもしれないが、下手に手を出して蛇が出てくるのは全員嫌だったのだ。
そうして、優希の提案で夜の見張りの順番を決める。いかに交代制とはいえ、夜通しの見張りなど大成たち全員初めてのことである。だが、やらなければならないだろう。寝首をかかれる可能性もあるのだから。
とはいえ、そんなこともあってか、見張りの順番はあっさりと決定する。具体的には、一番初めが優希で、二番目が大成。その後がスティングモンで、最後がレオルモンといった具合に。
「見張りかー……めんどくせー」
「仕方ないでしょ」
「いや、わかってるよ。わかってるけど……」
ボヤいてもどうにもならないことはわかってはいるが、ボヤきたくもなるだろう。それは、どうにもならないことを前にした人間の当然の心理だ。
そうして、少し早い気もするが、大成たちは眠りにつくことにする。優希に見張りを任せて、大成たちはそれぞれの寝袋に入った。
一応、事態が事態であるために、大成たちは眠ろうとしながらも警戒はしている――が、そんな状態で眠れるわけがないだろう。
結論から言えば、事態が動くその時まで、大成たちは眠れなかった。
まあ、安眠できるような精神状況であっても、眠れなかったかもしれないが――そう。大成たちが驚くほど早く、事態は動いたのだ。
「大成!セバス!スティングモン!」
「起きてるよ!」
「わかってますな!」
「はい!」
事態が動いたのは、大成たちが眠ろうとし始めてから五分も経ってない頃のことだった。
事態に合わせて発せられた、優希の焦ったような声。だが、未だ眠っていなかった大成たちも、事態が動いたことは察知していた。その場の全員はすぐさま起き上がって、警戒をする。
その全員の視線の先にあるのは、星の明るい夜空を汚すようにいる三つの黒。そう。何の訳があるのか、先ほどから大成たちを監視していた者たちの姿だった。
「ふっ……気づかれたか。なかなかにやるではないか」
「いやいや、誰だって気づくだろ。来るなら寝静まってから来いよ」
現れたのは、三つの黒いデジモン。内二匹は同じデジモンで、手の長いドラゴンのようなデジモンだ。そして、残った一人がリーダーなのだろう。偉そうにしているそのデジモンは、物語の悪魔のような堕天使のような姿をしている。
が、まあ、そのリーダー格のデジモンの言っていることは、見かけに反して、ツッコミどころ満載だったのだが。
「ぐぁう……」
「ぐぁあ……」
さらに、大成が思わずといった感じで呟いた言葉に同調するように、リーダー格のデジモンに呆れたような声と目を二匹のデジモンは向けていた。
「ぐっ……!ふ、ふん!己の不運を呪うがいい。貴様らはこのデビモン様とその下僕デビドラモンによって倒されるのだからな!」
そう。そのデジモンたちこそがデビモンとデビドラモンという成熟期デジモンだった。
リーダー格のデジモンの方がデビモンで、それに付き従っている二匹のデジモンたちの方がデビドラモンである。
まあ、はっきり言って、デビモンにはリーダーの貫録がまるでないのだが。
「なんか、すっげぇ小物じゃね?」
「そういうことは言わないの」
「ですが、実力はありそうですぞ?」
「みたいですね」
ともあれ、そんな小物のような言動をしているデビモンだが、レオルモンの言うことによれば実力だけはあるらしい。
後から思い返せば、あの忌まわしいヴァンデモンの行動にも小物らしさがあった。だが、それでもその実力と貫禄は本物だった。少なくとも、大成たちにはそう見えた。
だが、このデビモンは何と言うか――そう。実力はあるのだろうが、行動が小物だったヴァンデモンとは違って、存在の根本から小物のような。そんな気が大成たちはしていたのだ。そして、だからこそ、そんなデビモンを呆れたような目で見てしまっている。
「ぐあうぐあう」
「があーがー」
「うるさい!お前たち」
何と言うか、ドンマイ、とでも言いたそうな目でデビモンに向かって鳴くデビドラモンの様子が、やけに手馴れた感を見せる。どうにも緊張感がないというか、なんというか。
デビモンとデビドラモンがそんな間抜けな感じだったからこそ、大成たちはどう動くか動きあぐねていた。
いまいち緊張感のない今の事態に、どう動けばいいかわからなかったのである――。
「ぐぁあああー!」
「がぁああー!」
が、次の瞬間に、デビドラモンたちが間抜けな声を上げながら、大成たちめがけて飛んできた。
結局、どれほど襲撃者が阿呆に見えても、行き着くところは
「っち!いまいちしまらないけど……!イモ!」
「セバスも!」
「了解ですな!」
「わかりました!」
そうして、向かってきたデビドラモン二匹をスティングモンとレオルモンは迎え撃つ。デビモンは高みの見物を決め込む気らしく、手を出してくる気配がない。
数の有利を活かそうともしないデビモンに、正直言って大成たち全員は内心で呆れていた。
まあ、この状況は、それほど余裕のない大成たちにとってもありがいこと状況だ。
いくらデビモンがかわいそうになるくらいアホだったとしても、敵は敵。大成たちとて、わざわざ自分たちの不利になるようなことを言うことはしない。
だが、それでも。ふんぞり返って偉そうにしている
なんというか、今までで一番緊張感のない戦闘であると言えるだろう。
というわけで、第六十九話。
今回の敵はデビモンとデビドラモンタッグ。この面々は前作でも登場したタッグですね。当然のことながら、別個体ですが。
さて、次回は戦闘その1です。
それでは次回もよろしくお願いします。