【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
「……襲撃だな。これで気づいてないと思ってるのか?まぁ、いいや。大成、優希を起こせ」
スレイヤードラモンのその言葉に、大成も慌てて優希を起こす。元々深く眠っていなかったのだろう。すぐさま飛び起きた優希が、何事かと大成たちを見ている。
ちなみに、ワームモンはまだ眠ったままだ。
だが、その直後。スレイヤードラモンが優希たちの前に手を出した。人間の視認できる速さを超えた速さで出された手に、驚く優希たち。だが、事態が飲み込めるに連れて、さらに驚愕することとなった。
「あぶねぇな……当たったらどうするんだ。俺はともかく、優希たちなら即死だぞ」
スレイヤードラモンの指に挟まれていたのは、銃弾だ。
狙撃。その言葉が優希たちの脳裏に浮かび上がる。狙撃されたということは、もはや安全な場所などほとんどないといっていい。どこから狙われているのか、優希と大成にはわからないのだから。
だが、それは優希たち二人の話である。次の瞬間に、スレイヤードラモンはその手に持った剣をひと薙する。すると、驚くべきことにスレイヤードラモンの剣が伸びたのだ。一直線に伸びた剣は遠くに突き刺さり、やがて一匹のデジモンを絡め取って縮みながら戻ってくる。
剣が連れてきたデジモンは、軍人のようなデジモンだった。しかも、優希たちも気を抜けば見失いそうなほど、周囲に溶け込むように体表が絶えず変化している。
「コマンドラモンか。一人だな。さて、なんで優希を狙った?」
「……」
「……黙りかよ」
それが、竜型サイボーグデジモンであるコマンドラモンだった。沈黙を貫いているコマンドラモンにスレイヤードラモンも溜め息を吐く。スレイヤードラモンとて弱いものイジメは好きではないのだ。
とりあえずどこかに吹っ飛ばそうか。そんなことを考えていたスレイヤードラモン。スレイヤードラモンにとってコマンドラモンの目的などどうでもいいのだ。強いて言うなら、コマンドラモンの背後が気になる程度である。
コマンドラモンは機械化旅団“D-ブリガード”の歩兵デジモンだ。中には傭兵のような雇われタイプもいるとはいえ、その性格はほぼ同じといっていい。つまり、コマンドラモンの背後には誰かしら、何かしらの存在があるということ。
「お前はD-ブリガードのコマンドラモンか?それとも別の?」
「……」
「あーもー」
秘密は漏らさないとばかりの沈黙。こうも頑なだとどうしようもない。このような相手にどう対応すればいいかなど、ここにいる面々にはわからないのだ。
こうしていても時間が無駄に経つだけだ。仕方なくスレイヤードラモンがコマンドラモンをどうにかしようとした瞬間に、ようやくコマンドラモンが動く。
一瞬でスレイヤードラモンの目の前に出された小型の
「お?」
「消えたっ!すげぇっ!本当に見えないんだな!」
すぐさまコマンドラモンは一瞬で周りの景色と同化した。コマンドラモンの体表は特殊で、あらゆる迷彩パターンを表示させることができるのだ。今が夜であるということも相まって、コマンドラモンを大成と優希が視認することは不可能だった。
ようするに、コマンドラモンの最後の悪あがきは、逃げの一手である。
「だから、それで気づかないと思っているんかね?」
とはいえ、スレイヤードラモンにとっては隠れていないも同じだ。剣を軽く持って、コマンドラモンを攻撃しようとしたスレイヤードラモン。だが、意外なことにそれを止めたのは優希だった。その手には、大成がいつか見たスマホのような機械を持っている。
そしてスレイヤードラモンはそれが何かを知っている。だからこそ、優希に後を任せて、見守ることにしたのだ。
スレイヤードラモンが手を出さないことに軽く感謝して、優希はその手の中の機会を構える。そして一言――。
「リロードっ!レオルモンッ!」
その言葉と共に現れたのは、幼き獅子の如き聖獣だった。幼さを残しながらも、未来への力強さを感じさせるそのデジモンは、レオルモン。聖獣型の成長期のデジモンだ。
一方で、一連の出来事を見ていた大成は、突然現れたレオルモンに驚いていた。その優希を守ろうとするかのような立ち居振る舞いから、レオルモンこそが優希のパートナーだとわかる。だが、なぜ優希のパートナーは突然現れたのか。そんな疑問が大成の頭の中に浮かび上がる。
未だ状況を測りかねているそんな大成を置いて、事態は進む。
「むぅう!トカゲめっ!お嬢様に手を出すとは何事だっ!」
「はぁ……だから出したくなかったのに」
「何をおっしゃいますっ!このセバス!お嬢様の為に――!」
「……名前のせい?それもこれも名前のせいなの……?」
登場早々に過保護の具現のような性格を爆発させるレオルモンに優希は早くも疲れ果てていた。
ちなみにレオルモンだが、優希と出会った進化前の時にはこんな性格をしていなかった。それが、生活するうちに過保護気味になっていき、優希の生活する孤児院の子供によってセバスチャンから取った“セバス”という名前がつけられた時から、この性格が完成した。
“別に嫌ではないのだが、もう少し昔の性格に近いほうが好み”とは優希の談である。
ちなみにそれを言った時、レオルモンは一人、部屋の片隅で涙していたりする。
「これ、あの時のワニャモンから進化したのか?面白い感じになったな」
「おぉ!スレイヤードラモン殿!その節はお世話になりましたなっ!」
レオルモンの登場で辺りはアットホームな雰囲気に包まれる。だが、アットホームな雰囲気に誤魔化されてはいるが、今は戦闘中だ。そんな雰囲気など、隙の極みである。
この場の最大戦力であるスレイヤードラモンが、レオルモンに意識を取られていることを確認したコマンドラモンは、その隙に漬け込むように行動を起こすことにした。いくら迷彩によって姿を消せるといっても、スレイヤードラモンがいる限り、自分は逃げられないということを悟ったのだ。だから、決死の覚悟で、自分に課せられた任務だけはやり抜くことにしたのである。
構えたアサルトライフル。スレイヤードラモンに気づかれてもいいように、それを連続で撃ち、その直後に自身も爆弾を持って特攻する。何段にも構えた計画。だが、それでも成功率はゼロに近いだろう。文字通り、これはコマンドラモンの命を賭けた賭けなのだ。
そうして、放たれた弾丸。それは真っ直ぐに優希へと向かって――。
「ほわちゃっ!」
レオルモンの爪によって切り裂かれた。その事態に、思わずコマンドラモンは唖然とした。この場で危険なのは、スレイヤードラモンだけだと思っていたのだ。だが、それでも足を止めることはしない。小型爆弾をその手に持ったまま、特攻する。
迷彩と夜の相乗効果によってコマンドラモンの姿を捉えることは叶わない。だが、それでもソレを理解したレオルモンは、その刹那に最高速で走り出し、突進。コマンドラモンが優希の元へとたどり着く前に、その爪によってコマンドラモンを切り裂いた。
“レオクロー”。その前足の鋭い爪で敵を切り裂く、レオルモンの必殺技だ。コマンドラモンはその鋭爪によって、行動不能になる。もはや虫の息だ。だが、それでも尚、コマンドラモンは笑った。それは、自身に課せられた任務を達成できるという、安堵の笑みだった。
「ッ!しまっ――」
迷彩が解け、姿を確認できるようになったコマンドラモンを見て、ようやくレオルモンも己の失敗に気づいた。コマンドラモンのその手に持った小型爆弾に気づいたのだ。もはや、爆発間近。爆発は優希の所まで届くだろう。レオルモンに爆発寸前のこの爆弾を今すぐどうにかする力はない。
つまり、これで終わる――。
「ったく。甘いんだよっ!」
はずだった。その直後にレオルモンの後方から高速で過ぎ去った何かがコマンドラモンの腕を斬り飛ばし、その手の爆弾を遥か彼方へと吹き飛ばす。その直後、遥か彼方で爆弾は爆発した。
自身の最後の賭けに負けたことを悟ったコマンドラモン。彼はそのまま息をひきとる。だが、その時の顔は、何かから解放されたかのような、スッキリとした表情。
そんなコマンドラモンの顔に疑問を抱きながらも、とりあえず戦闘が終わったことをその場の全員が悟ったのだった。
「匂いでコマンドラモンの居場所と行動を察知して、カウンターを仕掛けたのはいいが……後半がグダったな」
「う、む……すみませぬ、スレイヤードラモン殿。貴殿がいてくれなかったら……」
「ふぅ……どうせ、優希に任せろって言ったのはお前なんだろ?だったら、最後まで責任をもて。慢心なんかしてんじゃねぇぞ」
「おっしゃる通りでございます……」
「まぁまぁ、リュウ……そこら辺で……」
「優希はコイツに甘すぎねぇか?」
「いえ、お嬢様!このセバスの欠点をご教授してくださっているのです!しっかりと学ばねばなりませぬっ!」
説教を始めたスレイヤードラモンを宥めようとする優希だが、そんな心ばかりの気遣いはほかならぬ説教を受けていたレオルモンによって拒否されてしまった。レオルモンとしては、スレイヤードラモンの言っていることはすべて正論なので、ここでしっかりと学んでおきたいのだ。
勝手に反省会を始めたスレイヤードラモンとレオルモン。置いてきぼりな優希たちだが、一方の大成は戦闘が始まってから殊更置いてきぼりだった。せめて戦闘中に何があったかくらいは把握しておきたいのだろう。大成は状況がわかっていそうな優希に話しかけたのだった。
「なぁ、暗くてほどんど何があったか見えなかったんだけど、何がどうなったんだ?」
「私もリュウの言葉から知ったくらいだから、確かなことは言えないけど……」
「なんだ。役たたずだな」
「教えないわよ?」
「ごめんなさい」
その時の優希の顔は暗がりでもわかるほど怖かったという。結局、謝ってようやく大成は今回の戦闘についての情報を得ることができたのだった。
匂いを嗅いで、迷彩で姿を隠したコマンドラモンの動きをかなりの精度で把握したレオルモン。
剣を使って正確に攻撃し、爆発寸前の爆弾を吹き飛ばすという妙技をその刹那の一瞬で思いつき、実行したスレイヤードラモン。
優希からそのことを聞いて、そんな人間では絶対不可能としか考えられないことを平然と実行した二人に、大成は驚くのだった。
「っていうか、レオルモン……セバスだっけ?優希のパートナーなんだよな?え?前にこの世界に来たってことは……」
「……そうね。現実世界から一緒にいたわね」
それが、元の世界でデジモンに詳しかった理由だろう。先ほどの大成はそれどころではなかったので流したが、優希は既にデジモンと出会い、共にあったからこそ、デジモンというものをよく知っていたのだ。
レオルモンという成長期の、大成から見てもそれなりに格好良いデジモン。だが、優希はそんなレオルモンが恥ずかしそうである。だからだろう。大成はある提案をするのだった。
「なんか恥ずかしそうだな。あ!俺のイモと交換してくれ!いいだろ?嫌そうなんだし」
「それは嫌」
即答だった。それまでの恥ずかしそうな顔からして一転、真面目な顔での即答。それが、優希のレオルモンに対する思いを如実に表していた。優希のレオルモンに対しての心境。それはアレだろう。授業参観で張り切る親に恥ずかしい思いをする子供の心境に近いようなものだろう。いくら人前で何とでも言っても、本心まで嫌っている訳ではないということだ。
奇声を上げて残念がる大成を尻目に、優希も溜め息を吐く。どうして自分の周りにはアレな性格が多いのかと。
ちなみに、肝心の大成のパートナーであるワームモンだが、戦闘が始まった段階で怖くて震え出して、バレないように隅の方で縮こまっていたりする。
「ん?そういえば、セバスって突然現れたよな?なんでだ?」
「あー……それはこのアナザーね」
「あぁ、そのスマホ……え?それってスマホじゃないのか?」
「うん。これは――」
優希の持つアナザーと言われる機械。それは、優希が以前この世界に来た時に手に入れたものである。アナザーにはさまざまな機能があり、その全容は優希ですら把握していないほど。その中で優希が把握している機能は二つだけだ。
一つ目はデジモンをその中に収納する能力。デジモンを擬似データ化して保存し、外に出すときは再び擬似データを基として再構成する云々と細かい原理は優希も特にわかってはいない。
二つ目は通信機能。メールや電話という本家スマホにも存在する機能。電波の届かないところで使えたりや電話会社から請求が来なかったりと、いろいろなことがどうなっているのか不明。つまり、一応普通の携帯電話として使えるということだ。
ちなみに、犯罪の臭いがするので、優希は二つ目を滅多に使わない。ようするに、一つ目の機能こそ、現実世界では目立つデジモンという存在を隠蔽するのに役立つ機能で、優希が最もよく使う機能なのである。
「いいなぁ……くれっ!」
「ダメ」
「ケチ」
「むしろなんでもらえると思うのよ」
頭が痛くなる優希だった。
この会話の数分後、スレイヤードラモンとレオルモンの反省会が終わったようだった。二人が優希の元へと戻ってくる。そうして二人が戻って来て始めて戦闘の終わりを知ったワームモンも、隅で縮こまるのをやめて大成たちの元へとやってくるのだった。
「……うぅ……終わった?」
「お前……ずっとそうしていたのか!本当に役立たずな……少しは戦えよ!」
「ぅう……でも……」
「でも、けど、禁止だ。いいな!?」
「僕には無理だよぉ」
ワームモンは泣き言ばかりである。“せめてこの性格さえ、どうになれば……”と何度目かもわからない思いで、大成はため息を吐く。こうして大成のこの世界初めての夜は過ぎていくのだった。
はい、というわけで優希のパートナーデジモンはレオルモンでした。
そして空気な主人公主従。この主人公たちの活躍はもう少し先ですね。
それでは、また次回もよろしくお願いします。