【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
そうして、戦闘の開始から数分が経過していたが、なかなかどうしてデビモンたちは強かった。それこそ、先ほどまでの小物臭が嘘であるかのように思えるほどに。
まあ、強いとは言っても、未だデビモンは戦ってはいないのだが。
だが、デビドラモンたちだけでも相当強いというこの事実は、大成たちにとって恐ろしいことだった。
「っち!うまくいかねぇな!イモ!」
「わかってますよ!」
現状、二匹のデビドラモンに対して、ほぼ一対一の構図が出来上がっていた。二対二ではなく、一対一。
スティングモンはともかくとして、レオルモンにこの状況は少しキツかった。一応、レオルモンとてデビドラモンと戦えてはいるが、所詮は成長期。成熟期相手にも勝ち目はあるとはいえ、やはり分が悪いことには変わりない。
大成たちとしては、二対二に持ち込んで、そのレオルモンの負担を少しでも減らしたかったのだが――敵もそんな大成たちの考えを見抜いたのだろう。だからこそ、デビドラモンたちは一対一になるように戦っているのだ。
「いい加減にしろっ!戦い方が汚ねぇだろ!」
「ふっふっふ……戦いに汚いも何もないだろう?阿呆め。これが頭の良い戦い方というものだ」
そんな、ともすれば卑怯ともとれる至極真っ当な戦法を前にして、大成は思わずといった体で呟いた。思わずなのは、大成もわかっているからだ。確かに卑怯な感じがする戦法だが、勝てる戦い方をするのは間違いではないということを。
そして、それがわかっているからこそ、大成は勝ち誇った顔でそう言ったデビモンにムカついた。
ともあれ、現状の打開策を見つけられないそんな大成ができることなど――。
「っぐ……小物臭するくせに……!」
「誰が小物だっ!」
そんな大成ができることなど、せいぜいが苦し紛れの捨て台詞を吐くことくらいだったが――そんな挑発にもならない捨て台詞でも、意外と効果はあったようである。
「くっくくく!そうか、そんなにこのデビモン様を怒らせたいか!」
「え?あ、いや……」
「ならばこのデビモン様直々に始末してやろう!」
どうやら、大成は地雷を踏んでしまったらしい。
何と言うか、あんな捨て台詞でやる気を出す辺り、デビモンの煽り耐性がなさすぎるというか、底が知れるというか、小物臭がさらに酷くなったというか。
そんな気がした大成だったが、口には出さなかった。このデビモンを前にして口を開くということは、地雷原を歩くことに等しいということを、大成は今更ながらに悟ったのだ。
「ぐぁーあぅ……」
「ぐあぁーう……」
「お前たちはあのチビをやれ!」
「誰がチビですかな!」
呆れたようなデビドラモンたちの視線と声がデビモンに向けられる中、大成もまた優希から同じような視線を貰っていた。
優希の言いたいことは一つ。自分で状況を悪くしてどうする、と。それだけだ。
とはいえ、優希の言いたいことは大成が自分自身に思っていることでもある。ゆえに、大成は笑うしかなかった。
だが――。
「ぐぁう!」
「があう!」
「っく!」
「セバスさんっ!」
「お前はこちらだ!」
だが、大成たちがそんなことをしている間にも、事態は進む。
二匹のデビドラモンたちがレオルモンへと迫り、そんなレオルモンを助けようとしたスティングモンをデビモンが引き離す。
そうして、気がつけば、スティングモンとレオルモンはお互いに偶然の合流ができないほどに引き離されていた。こうなってしまえば、どちらかが敵を片付けなければ合流することは不可能だ。
というか、スティングモンを真っ先に狙う辺り、デビモンは気づいているのだろう。スティングモンが、大成のパートナーであることを。デビモンはよほど大成に関わる者を狙いたいらしい。まあ、なぜ大成本人を狙わないのか疑問ではあるが。
「大成!」
「わかった!負けるなよ!」
「そっちもな!」
ともあれ、こうなってしまえばやることは一つしかない。大成と優希は互いに顔を見合わせて頷き合うとそれぞれのパートナーの下へと向かう。
スティングモンの下へと向かう大成を見送って、優希も二対一で追い詰められているレオルモンの下へと急いだのだった。
「ぐぁああう!」
「ぐぉおおう!」
「っぐ!ぐぅ……!」
いくらレオルモンとはいえ、一対一でギリギリ戦えていた相手が二人に増えれば、それはキツイという言葉では足りない。二匹のデビドラモンたちが不仲であったりするのならば、また別だったのだろうが――このデビドラモンたちは不仲とは程遠い仲であるらしい。
時には互いを利用するように攻撃し、時には互いを利用するように防御する。そんな息の合った連携攻撃でレオルモンを追い詰めていっている。
デビドラモンが一匹増えただけで、足し算どころか掛け算に突入しそうなほどの戦力アップだった。
まあ、戦力アップとは言っても、敵の、だが。
「セバス!」
「お嬢様!?危ないですぞ!」
「わかってる!」
「まった……ぐ!」
「ぐぁあう!」
そうして、やって来た優希はレオルモンの戦う場所からほど近い場所に立っている。
距離にして数十メートルくらいは離れているだろうか。だが、その程度の距離など成熟期クラスのデジモンにとっては無いも同然の距離だ。
とはいえ、優希にとってはその距離はいつもの距離。だいたいこのくらいの距離のところで戦いを見守ることが多い。そんな、いつもの距離。だが、今日だけはそこにいないで欲しいとレオルモンは思っていた。
レオルモンはデビドラモンと戦いながらあることに気づいたのだ。デビドラモンたちは、自分を見ているようで、その実見ていないことに。レオルモンだけを見ていないと言ってもいいだろう。
そういうタイプは
ようするに、デビドラモンたちは、戦いに勝つためにはどんなことでもやるタイプである。レオルモンはそう感じたのだ。
そう感じたからこそ、レオルモンは優希にもっと離れていて欲しかったのだが――。
「があう!」
「っ!お嬢様!」
そんなレオルモンの感じた感覚は、正しかった。
レオルモンの隙をつき、デビドラモンが駆ける。他ならぬ、優希の下へと向かって。数秒も経たずに優希の下へとたどり着くだろう。当然、そうなってしまえば、戦う力などない優希に訪れる未来など決まったようなものだ。
「っく!邪魔だァ!」
「ぐあっ!?」
そんな未来など、レオルモンは断固として御免だった。すぐさま、そうならないために行動を開始する。
体を捻りながら自分を足止めするデビドラモンの目を爪でひっかいて、その直後、
火事場の馬鹿力と言うのか。先ほどまで追い詰められていた相手とは思えぬほどの上手い対応。とはいえ、優希の命がかかっている以上、どれほど上手い対応ができようと、レオルモンに余裕はなかった。
全速力で駆け抜け、優希を襲おうとしているデビドラモンの下にたどり着くと同時に――。
「優希に手を出すなぁ!」
「があぅ!?」
「セバス!」
レオルモンは、飛び上がって全力でその爪を振り抜く。狙うはもちろん、デビドラモンの目。生き物にとって最も弱い部分が露呈している場所。
振り抜かれたその爪は、優希を狙おうとしていたことで隙のできたデビドラモンの目を抉った。いきなり激痛と共に視界が著しく遮られる結果となったのだ。これには、さすがにデビドラモンも悲鳴を上げるしかない。
目をやられ、激痛にのたうちまわる二体のデビドラモンを放っておいて、レオルモンは優希を連れて走る。一旦離脱しようとしているのである。
だが――。
「お嬢様!大丈夫ですかな!?」
「だ、大丈夫。ありがとう」
「まったく無茶しすぎですぞ!」
「いや、でも……っ!?」
「……もう少し稼ぎたかったのですがな」
だが、そんな優希たちの前に、デビドラモンたちが立ち塞がる。目を傷つけられたせいだろう。二匹は、先ほどまでにはなかった怒りの雰囲気をまとっていた。
そんな二匹に前に立たれたのだ。しかも、先ほどは後ろにいたはずの二匹に。つまり、この数秒で回り込まれたということである。
この事実が示すのは、たった一つ。視界を潰されてもなお、デビドラモンたちには優希たちを追うことができるほどの機動力と追尾感覚があるということ。
そんなデビドラモンを前に、これ以上逃げることなど、不可能だ。レオルモンはそう悟った。
「っお嬢様……!」
「わかってる。でも、大丈夫でしょ?」
「何を……!」
大丈夫、と。何をもってそう言うのか。デビドラモンたちを警戒しながらも、驚きをもって優希を見たレオルモンだったが――そこにあったのは、ただまっすぐに自分を見つめてくる優希の顔だった。
それは、いつかの表情に似ていて。そこにあったのは、無類の信頼。
一瞬、レオルモンは状況も忘れて呆けてしまった。
「でしょ?」
「……はぁあああ」
次いで、レオルモンがしたのは、呆れを含んだ大きなため息だった。ドッと気が抜けたとでも言うのか。まあ、そんな優希の信頼と“成長”が嬉しくもあったのだが。
もちろん、優希としても、いい加減な気持ちでそう言った訳ではない。先の一件で、振り切れたというのか。いや、もしかしたら思い出したのかもしれない。自分のパートナーを信じることを。
勝手に一人だけ不安がって、自分のパートナーに不信を抱く。そんな、情けない自分とは優希自身も別れたかった。
だから――。
「行くわよ」
「了解ですな!進化――!」
だから、このパートナーと一緒に行くところまで行こうと。そう思って。
直後、優希から発せられた光がレオルモンを包み込む。それは、優希も見慣れた進化の光。そして、一瞬後にその光の中から現れたのも、優希の
そう。現れたのは――。
「行きますぞ!」
現れたのは、獣の王。ライアモンと呼ばれる成熟期デジモンだった。
つい最近進化できるようになったローダーレオモンよりもずっと見慣れているはずであるのに。人間の世界では一年近く進化しなかったこともあったのに。
なのに、たった一ヶ月ちょっとその姿を見なかっただけで、優希にはずいぶんと懐かしく感じられていた。そして、そう感じていたのは優希だけではない。
ライアモンも同じだった。ライアモンも自身の身体に懐かしさを感じていて、身体の調子を確かめるように身体を軽く動かす。そして、デビドラモンたちを睨んだ。
「さて。なぜ今まで襲ってこなかったのかはわかりませぬが……」
「ぐぅるうう!」
「がぁるらあ!」
「先ほどのようにはいきませぬぞ!」
ライアモンとデビドラモンたちは再び激突する。
デビドラモンたちの連携攻撃を食らわぬように、ライアモンは絶えず動き回りながら、ただひたすらに考える。いくら進化したとは言え、まだ数で負けている。数の不利を覆さなければ、勝利は掴めない。
だからこそ、勝利を掴むために、ライアモンは思考を続けていた。
「ぐるあ!」
「がるう!」
だが、デビドラモンたちとて、敵に作戦を立てさせる時間をタダで与えるほど馬鹿ではない。敵を倒す時間が長引けば、それだけ相手に猶予を与えるということだ。だからこそ、デビドラモンたちはライアモンを追い詰めるべく、果敢に攻め続ける。
そんなデビドラモンたちの攻撃を前に、ライアモンは防戦一方になるしかなかったが――そんなライアモンは気づいていた。デビドラモンたちが、進化した自分の力を警戒していることを。警戒しているからこそ、自分を即座に倒そうとしていることを。
「セバス!危ない!」
「はっ……!」
優希の危険を知らせる声。その声が聞こえた瞬間に、ライアモンは体を捻る。その瞬間に、高速の何かがライアモンのタテガミをかするようにして通り過ぎていった。
「ぐるぁあ!」
「危ないですな……!」
次いで、悔しそうなデビドラモンの声がライアモンの耳に届く。
ハッとなったライアモンがデビドラモンの方を見ると、先ほどの何かの正体は一目瞭然だった。
先ほどのアレ。それは、尻尾だ。より正確に言うのならば、尻尾の先端部分が開いて鉤爪状の凶器となった尻尾。そんな凶器が、先ほどは高速でライアモンに放たれたのである。
デビドラモンの動きを見て危険を察知した優希の言葉がなければ、ライアモンでも危なかっただろう。まさに危機一髪の出来事だったのだ。
「がるう!」
「ぐるあ!」
いつの間にか、もう一匹のデビドラモンの尻尾の先端も鉤爪状に開いている。
どうやら、どちらのデビドラモンも本気らしい。先端が鉤爪状に開いた尻尾に、その異常に発達した手足とそこに付いている鋭い爪。デビドラモンの持つすべての鋭利な凶器が、ライアモンに向けられていた。
計八つの真紅の眼が、夜の闇の中で妖しく光る。
そんな恐ろしい光景を前にして、ライアモンはただ思う。そろそろ頃合だ、と。
「お嬢様!伏せてくださりませ!」
「っ!」
その声を聞いた優希が咄嗟に反応した瞬間、ライアモンは行動を開始する。
実のところ、進化した瞬間から、ライアモンはこの状況を打破する策を一つだけ思いついていた。今までその策を実行に移さなかったのは、単純に実行までに準備がいたことと、それ以外のすぐにでもできる策を考えていたからである。
だが、結局、それ以外の策を思いつくことはなく、初めに思いついた作戦の準備が整った。こうなれば、もはや時を待つ必要も、デビドラモンの攻撃に耐える必要もない。
だからこそ、ライアモンは行動を始めた。
「行きますぞ!すぅうう……ガァアアアアアアアアア!」
「ぐるあ!?」
「がるう!?」
その瞬間に、ライアモンは咆哮する。しかも、ただ咆哮しただけではない。
ライアモンが放った必殺技は、“サンダーオブキング”と呼ばれる、タテガミに貯めておいた電気を放出するもの。進化してからずっと貯め続けていた電気を、一度に放出したのである。
さすがに、格上相手に通じるほどの電気は貯まっていなかったが、同格の相手に通じないほど貯まっていないはずがない。放出された電気は、デビドラモンたちに躱すことさえ許さない。
「ぐるううううう!」
「がるあああああ!」
「今ですな!」
そうして、苦悶の声を上げるデビドラモンたちに、ライアモンはさらなる追い討ちをかける。
高速で地面を踏み込み、ライアモンは一足でデビドラモンたちの下へとたどり着く。その勢いを保持したままに、その手の振り上げたライアモンは、その爪をもってしてこの戦いに終止符を打つ気なのだ。
数瞬後、ライアモンのその爪が、デビドラモンに届く――。
「何ですと!?」
「えっ!?」
その直前。ライアモンの目の前に、どこからか鞭のように伸びてきた剣が突き刺さった。
というわけで、第七十話。
久しぶりにライアモンに進化する回でした。
ずいぶんと久しぶりな気がしますね。
さて、次回は大成たちとデビモンの戦いです。
それでは次回もよろしくお願いします。