【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第七十一話~知っていたようで、知らなかったこと~

 時は少し遡って、一方のデビモンと戦っていた大成たちは――。

 

「はっはっは!どうした!その程度か!」

 

 ちょっとばかり苦戦していた。

 スティングモンは持ち前の速さを使ってデビモンと戦っているが、デビモンもなかなかやる。スティングモンの速さを見切った上で、カウンター攻撃まで仕掛けられる余裕があるらしい。

 先ほどの小物臭が嘘のような戦いっぷり。まさに悪夢というか、信じたくないこと。

 大成はそんな事態を前にして、デビモンが強いと唸ればいいのか、スティングモンが弱いと嘆けばいいのか、わからなくなっていた。

 まあ、自尊心的には後者の方がありがたいのだが、後者であればそれはそれで情けない。複雑な心境だった。

 

「っく!強い!」

「けど、勝てないほどじゃない。イモ!無理に攻めるな!距離は離すなよ!」

「えっ!?わ、わかりました!」

 

 大成の指示には少しだけ疑問を覚えたものの、その指示に従って、スティングモンは得意のヒットアンドウェイ戦法をしながらも、安全を意識した消極的な戦い方に切り替える。もちろん、大成の指示通りに距離を離すことはしない。

 一見すると、距離を離さないことと消極的な攻めをすることは両立しないようにも見えるが、そうではない。

 特に、スティングモンが得意とするようなヒットアンドウェイ戦法ならなおのこと。ようするに、いつでも攻撃できるように心がけて、確実に攻撃が通ると思った時以外は攻撃しない、と。そういうことである。

 

「……ほう。我が凶爪を知っているらしな」

 

 一方で、デビモンは大成のその戦略に感嘆したような声を上げていた。大成の出した指示は、暗に一つの事実を示していたように思えるからだ。

 その事実とは、すなわち大成はデビモンの必殺技を知っているかもしれないということ。

 無論、実は臆病風に吹かれたが故の選択かもしれなかったのだが、デビモンはそんな楽観視はしない。大成が自分の必殺技を知っていて、さらに対策までも練っているということを前提に突き進む。

 とはいえ、まあ――。

 

「なら、受けてみるがいい!」

「っ!来るぞ!」

「りょ、了か……腕が伸びた!?」

 

 まあ、罠だろうが、対策だろうが、そのすべてを押し通す。そんなつもりで、結局デビモンは必殺技を振るうのだが。

 伸縮自在の両腕を伸ばし、相手の体を貫き通す技。それが、“デスクロウ”と呼ばれるデビモンの必殺技だった。

 敵を貫かんと高速で迫り来るその技は、間違いなく食らえばただでは済まない。だが、それは同時にスティングモンのチャンスでもあった。

 先ほど大成の指示を受けてから、ずっとスティングモンはいつでも攻撃できるようにして待っていたのだから。

 

「今です!」

「何っ!?」

 

 結局、デビモンの予想通りだった。大成は、デビモンと戦い始めてからずっとその時を待っていたのだ。

 デビモンの必殺技は、腕が伸びるという特性上、一度躱してしまえば、どうとでもなる。そのことを、大成はゲーム時代に知っていて、対策を練っていた。だからこそ、スティングモンにあのような指示を出したのである。

 そして、大成の狙い通りに“デスクロウ”を躱したスティングモンが、デビモンへと迫って――。

 

「なっ!」

「ぐ……!」

 

 だが、デビモンに迫ったスティングモンは、鞭のようにしなったその腕に吹き飛ばされた。

 もし、大成に誤算があったとしたら、その要因は一つだけ。それは、大成がゲーム時代に一度しかデビモンと戦っていないということだった。

 “デスクロウ”は確かに相手を貫く技だ。だが、当然だがそれだけにしか使えないというわけではない。別の使い方もある。そのことに、ゲーム時代の知識しかなかった大成は気付けなかった。

 その辺りはゲーム時代のデビモンをパートナーとしていた者の応用力が足りなかったということだろう。もしくは、大成がヘボですぐ負けてしまったか。

 

「はははは!惜しかったが……残念だったな」

「っぐ!」

「くぅ!」

 

 ともあれ、立てた作戦は破られてしまったことに変わりはない。二度目は通じないだろう。これで千載一遇のチャンスはなくなったということになる。

 自分の渾身の作戦があっさりと破られて、さらに自分の下手くそな作戦のせいで勝機を逃がしたのだ。大成は苦い顔をするのを抑えられなかった。

 

「うぅ……」

「フハハハハ!どうした?そんなものか!」

 

 まだ負けたわけではない、と。今、大成の目の前では、スティングモンが痛みを堪えて立ち上がろうとしている。

 そんなスティングモンを視界に収めていた大成は、自分の不甲斐なさを恥じて――その手は、知らずのうちにそのポケットの中の機械に触れていた。

 

「まだです!」

「ふっ!そうでなければ!」

 

 そうして、スティングモンはなんとか起き上がったが、決して少なくないダメージを受けてふらついている。それだけ、先ほどの攻撃が高威力だったのだろう。

 そんなスティングモンの姿を前にしては、大成の感じている自責の念もより一層なものとなってしまう。自分がもう少し考えて作戦を立てていれば、と。そう思うことを避けられない。

 だが、どれほど悔やんでも過ぎたことは変わりようがない。大成たちに今必要なのは、次の手だけだった。

 

「かかってこい!」

「……!馬鹿にしないでください!」

 

 デビモンの言葉に応えるかのように、スティングモンは攻撃を再開する。ダメージによってか、その攻撃は先ほどよりもずっと鈍い。だが、未だ戦えている辺り、受けたダメージは致命的なものではないようだ。

 一方で、そんなスティングモンを迎え撃つデビモンは、どこかイライラしているかのようだった。

 自分の有利に事が進んでいるはずなのに、イライラしている。そんなデビモンに、大成は疑問を抱いて――だが、その疑問について大成が考察するよりも早く、デビモンは告げる。決定的な一言を。

 

「そんなものではないだろう!我が主を殺した力は!お前たちの先は!」

「っ!」

「……!」

「見せてみろ!また同じことになりたくなければな!」

 

 自分たちの先。そして、我が主を殺した力。

 デビモンのその言葉を聞いた瞬間、その言葉によってもたらされた二つの情報が、大成たちの頭の中でまるでパズルのように組み合わさった。

 パズルのように組み合わさったという、物語でしか目にしたことがなかったような経験を体験しながら、大成たちはデビモンを睨み、そうして結論を手にする。

 つまり、目の前にいるデビモンはあのヴァンデモンの身内ということ。デビモンの言葉は、大成たちの触れてはならない部分に触れたも同様だった。

 知らず、大成とスティングモンの頭に血が昇っていく。出し惜しみなどしている場合ではない、と。ただ目の前にいる敵を倒せ、と。大成たちはそう思って――。

 

「行くぞ。イモ!」

「了解です!」

 

 そうして、大成は自分のポケットからソレを取り出す。

 エクスブイモンの力が篭ったソレを。ウィザーモンから貰ったアナザーを。次の瞬間に、その二つを組み合わせて――大成は告げる。その言葉を。

 

「セット『エクスブイモン・ジョグレス』!」

「ジョグレス進化ー!」

「ひぃっ!」

 

 その瞬間、スティングモンはエクスブイモンの力を受け取って、ディノビーモンへと進化する。

 その時、どこからか情けないような悲鳴が聞こえたような気もしたが、大成たちは気のせいだとして無視した。今はそんなことを気にしている時ではないから。

 

「行きます!」

 

 そうして、目の前にいる敵を倒すために、ディノビーモンは大地を踏み込んで――その瞬間、ディノビーモンの姿が消える。

 いや、正確に言えば、消えたように見えるほど高速で移動しただけなのだ。が、少なくとも大成とデビモンにはそういう風に見えていた。

 

「はぁっ!」

「ちょ、ひっ!」

 

 もはや、戦況は逆転していた。

 ディノビーモンのスペックに、デビモンは対応できていない。時折、“デスクロウ”などの技を放っているが、そのすべてにディノビーモンは対応し、デビモンを追い詰めていっていた。

 そんな圧倒的な強さを見せるディノビーモンを相手に、一体どういうことなのか、デビモンは先ほどとは違ってまるで情けない声を上げ、様子を見せている。

 まあ、当のディノビーモンは必死なのか、そんなデビモンの変化にも気づかずに攻め続けているのだが。

 

「これで終わりだ!」

「ぐぅうう!舐めるなっす!はぁあああ!」

 

 真っ直ぐにこちらへと向かってくるディノビーモンを前に、このままでは押し切られることをデビモンは悟った。だからこそ、デビモンは切り札を使うことを決意したのだ。

 窮地ならがらも、デビモンのそれは今の状況ならちょうど発動の条件が整っている。ディノビーモンが自分を睨みつけていて、()()()()()()()()()()。発動は可能。その事実にデビモンは内心でホッとして、その切り札を使う。

 そして、デビモンがディノビーモンの目を見つめた直後にして、ディノビーモンが見つめてくるデビモンの目を見た直後。それは起きた。

 

「は?え……イモ!?」

「はっ……はっ……これ、うまくできないし、疲れるんっすけどねー!」

 

 突如として、ディノビーモンの動きが止まった。

 そんな突然の事態に、大成は驚くしかない。今までデビモンを圧倒していたディノビーモンが、いきなり動きを止めたのだ。それも、あとちょっとで倒せるというところで。

 まず間違いなくデビモンが何かをしたのだろう。大成はゲーム時代にデビモンと戦ったことがある。だが、その時はこんなことはなかった。というか、噂でもネット上でも、デビモンがこんなことをできるなどという話を、大成は聞いたことがない。

 相手を知っていたというのに、その実、知らなかった相手の力。再度のそれを目の当たりにして、驚かない方が無理だろう。

 

「ふっふっふっ!どうっすかー?見つめた相手をマインドコントロールするこのオレの力!すごいっしょー!」

「なっ!マインド……洗脳!?」

 

 マインドコントロール。つまりは洗脳。文字通りに取るなら、その力を使ったデビモンにはどんな強さを持っていても、それこそ究極体でも勝てないということだ。強すぎるなどというレベルではない。反則だ。

 無論、デビモンのソレはそこまで万能の能力ではないのだが――そんなこと、大成にわかるはずもない。

 そんな強すぎる能力を前に、大成は驚愕に震えるしかなく、デビモンの口調が変わっていることにも気づかないほどに、大成は動揺していた。

 まあ、大成が動揺するのも当然だろう。デビモンのそれが発動したということは、ディノビーモンはデビモンに操られているということで、それはつまり、自分のパートナーが敵に回るということなのだから。

 

「おい、イモ!大丈夫か!?返事しろ!」

「無駄っす!ほら、攻撃するっすよ!」

 

 さまざまな思いが混じり合って、焦りに焦る大成。だが、そんな大成を馬鹿にするかのように、デビモンはディノビーモンに命令を下す。

 その瞬間、大成の脳裏をよぎったのは、ディノビーモンがデビモンの命令を聞いて、自分を襲ってくるという最悪の信じがたい未来。そんな未来が現実となることは、大成も信じたくはなかった。

 だが――。

 

「……」

「あれ、おい、どうしたっすか!」

 

 だが、そんな予想に反して、大成はいつまで経っても襲われなかった。それどころか、デビモンの焦ったかのような疑問の声すら、大成の耳に聞こえて。

 何か妙なことが起こったのではないのか、と。そんな疑問を感じた大成は恐る恐るディノビーモンを見て――そこには、石のように固まって動かないディノビーモンの姿があった。

 

「動くっす!動けっす!ポンコツ!」

「……」

「ぬあぁああああ!なんでっすか!」

 

 デビモンが一生懸命に命令をしているが、ディノビーモンは動かない。いや、正確には動こうとしているが、動けないと言うべきか。デビモンが命令を下すたびに、体が微妙に震えているのが見て取れる。

 その様子からも、デビモンのマインドコントロールという能力はブラフではないのだろう。だというのに、ディノビーモンには中途半端にしか効いていない。だからこそ、デビモンは焦っているのだ。

 とはいえ、大成にとって、この事態は幸運だった。すぐさまアナザーを取り出して、ウィザーモンから貰った“もう一つ”のSDカードモドキをセットする。

 

「セット『解析』!」

 

 そして、大成がその言葉を呟いた瞬間に、ディノビーモンのさまざまなデータが画面に表示された。その詳しい内容に、思わず「こうなるのか……」と呟く大成。

 だが、その表示された内容は、はっきり言ってあんまり意味がなかった。というのも、大成には表示された内容の数値がほとんど理解できなかったのだ。まさに、宝の持ち腐れ状態である。

 とはいえ、画面の端の方で光る、警告色を撒き散らすマークが現状を示していることだけは、大成にもわかったのだが。

 

「動けっすぅうううう!」

「……」

「はぁっはぁっ!……まぁいいっす。どうせオレ、これ苦手っすからね!」

 

 まるで負け惜しみのようなことを呟いて、デビモンは大成の方を向いた。

 ドキリ、と。その瞬間から、大成は自分の心臓の鼓動が跳ね上がって、より大きな音として聞こえ始めていた。大成にはわかったのだ。デビモンは、動かないディノビーモンを放っておいて、大成を狙うことにしたのだ、と。

 無力な大成など、デビモンにならばひと捻りで殺されてしまうだろう。それこそ、マインドコントロールの力など使う必要もあるまい。

 自分のパートナーは動けず、自分に戦う力はない。今、大成の下には地味にピンチが訪れていた。

 

「っ!イモ!」

「ふっふっふ!無駄っすよー」

「っく!」

「さぁ!観念するっす!」

 

 焦ったかのような、助けを請うかのような、そんな声で大成はディノビーモンを呼ぶ。だが、そんな大成を嘲笑うかのように、デビモンは大成の下へとやってくる。

 逃げるのは無理だろう。戦うことも。そんな不可能だらけの状況の中で、大成は素人丸出しの構えを取りながら、デビモンを睨みつけていた。別に戦えると自惚れたわけではない。だが、抗わずにやられる気もない、と。そういうことなのだろう。

 

「……いい覚悟っす。なら、お望み通りにしてやるっす!」

 

 そうして、デビモンの腕が伸びる。“デスクロウ”だ。成熟期デジモンの必殺技を前にして、人間の体など紙も同然。そうして、大成の胸にデビモンの凶爪が突き刺さ――。

 

「ぐはぁっ!」

「え?」

 

 突き刺さるその瞬間。大成の目の前でデビモンが消えた。その突然の事態に呆然としてしまった大成だったが、一瞬遅れて気づいた。デビモンは消えたのではなく、()()()()()()()ことに。

 この場にデビモンを殴り飛ばせるような者など、一人しかいない。その事実に思い至って、大成は希望を持って辺りを見渡し――。

 

「イモ!」

「大成さん!あれ、なんか涙目じゃないですか?」

「誰がだ!ったくお前は……!大丈夫なら大丈夫って言えよ!」

「いや、それがいろいろありましてさっき復帰したんですよ」

 

 そうして、その姿を大成は見つける。デビモンのマインドコントロールを打ち破った、自分のパートナーのその姿を。




というわけで、第七十一話。
デビモンがいろいろな意味ですごいことになった話でした。

さて、次回はほんの少しだけ時が遡って、ディノビーモンの言ったいろいろが明かされます。

それでは次回もよろしくお願いします。

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