【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第七十二話~記憶の中の影~

 再び、時は少しだけ遡る。

 デビモンのマインドコントロールを受けてしまったディノビーモンは、不思議な感覚を体験していた。まるで眠る前のウトウトしている時のような感じに近いだろうか。とにかく、意識が曖昧な状態だったのだ。

 

「ふっふっふっ!どうっすかー?見つめた相手をマインドコントロールするこのオレの力!すごいっしょー!」

「なっ!マインド……洗脳!?」

 

 たとえ、誰かの話し声が聞こえていても、ディノビーモンにはどこか遠くのことのように聞こえていたし、そもそも誰が話しているのかも、デビモン以外の誰かは認識することさえできなかった。

 

「おい、イモ!大丈夫か!?返事しろ!」

「無駄っす!ほら、攻撃するっすよ!」

 

 そんな状態でいると、ディノビーモンは気付いた。自分が命令されていることに。しかも、命令してきているのは、敵でしかないデビモンで。

 通常時なら、敵でしかないデビモンの命令など、聞く耳も持たないのが正解だろうが――この時のディノビーモンは、なぜかその命令を聞かなければいけない気がしていた。

 だが、どうしても、体が動かない。いや、動けない。まるで、意思と身体が噛み合っていないかのように。

 

「あれ、おい、どうしたっすか!」

「動くっす!動けっす!ポンコツ!」

「ぬあぁああああ!なんでっすか!」

「動けっすぅうううう!」

 

 焦ったかのような、そんなデビモンの声が次々と聞こえてくる。だが、それでもなお、ディノビーモンは動けなかった。

 なぜ動かなければならないのかも、なぜ動けないのかも、そのいくつものなぜを考えることすらなく、ディノビーモンは体に命じ続ける。

 頼むから動いてくれ、と。ただ、動けと。それだけを願って、次の瞬間――ディノビーモンの目の前にいたのは、あの青い幻竜の幻影で。

 

「あっ!?」

 

 それと同時に、ディノビーモンはすべてを取り戻していた。まるで頭の中の霧が晴れたかのように、思考はクリアになっていて――なぜかはわからないが、ディノビーモンはデビモンを技を打ち破れていたのだ。

 見渡せば、先ほどの幻影はもうどこにも見えない。いったい何だったのか、とディノビーモンは一瞬だけ考えて、すぐさまそんな場合ではない、と思い直した。

 だからこそ、ディノビーモンは大成の下へ行く。大成を襲おうとしているデビモンを蹴散らしながら。

 

「イモ!」

「大成さん!あれ、なんか涙目じゃないですか?」

「誰がだ!ったくお前は……!大丈夫なら大丈夫って言えよ!」

「いや、それがいろいろありましてさっき復帰したんですよ」

 

 大成はそのいろいろを聞きたがっているようだ。だが、話は後でいくらでもできる、とそう思ってディノビーモンは大成を見ると、大成も同じ結論に達したようだった。

 

「行け!イモ!」

「了解です!」

 

 そうして、大成たちは目の前にあるものを先に片付けるべきだと思い、行動する。

 大成の言葉に従うように飛び出したディノビーモンは、先ほどのダメージが残っているのか、地面にうずくまって起き上がらないデビモンめがけて腕を振りかぶる。

 罠か、それとも何かあるのか。どちらにせよ、先ほどとは打って変わって、今度はこちらが押し通す番である。

 そう思って、ディノビーモンがその拳をデビモンに叩きつけようとしたその次の瞬間――。

 

「なっ!」

「えっ!?」

 

 その次の瞬間。まるで鞭のような桁外れに長い剣が、デビモンを庇うかのように、ディノビーモンの前を通り過ぎた。

 その光景を見た瞬間、大成たちは驚くしかなかった。

 もちろん、大成たちが驚いたのは、剣が通り過ぎたことにではない。

 そう。大成たちが驚いたのは、その剣に見覚えがあって、ひいてはその剣の持ち主を知っていたからだ。

 その光景が示していたことは、その剣の持ち主がデビモンを庇ったということだったから。だからこそ、大成たちは驚いたのである。

 

「ここまでだな」

「リュウ!?」

 

 そう。その剣の持ち主は――大成たちが探していたスレイヤードラモンその人だ。

 ここに来ての登場に、大成たちは混乱の最中にあった。

 スレイヤードラモンがなぜデビモンを庇ったのか。もしや、デビモンに操られているのか。そんな、不可解な疑問から、ありもしない答えが出てくるほどには、大成たちは混乱していた。

 まあ、そんな大成たちの疑問は、デビモンのスレイヤードラモンに対する態度で氷解することとなったのだが。

 

「ひどいっすよぉースレイヤードラモンさんー」

「ああ?なんだよ」

「だって、こいつら滅茶苦茶つえぇじゃねぇっすか!聞いてないっすよ!」

「聞かなかっただけだろ」

 

 まるでどこぞのチンピラのようなデビモンの姿に、大成とディノビーモンは呆気にとられるしかない。デビモンの雰囲気が変わっていたことに、大成たちは今更ながらに気づいたのである。遅すぎだ。

 ポカン、と口を開けてアホヅラを晒す大成とディノビーモン。そんな二人の傍に、いつの間にか、疲れたような様子の優希とレオルモンがやって来ていた。

 

「お疲れ様……お互いにね」

「優希!……つーか、セバスは大丈夫なのか?」

「大丈夫ですぞ。進化はしましたが……何故か前よりも軽いですからな」

「それでも痛みはあるんだな」

「まぁ、仕方ありませぬな」

 

 優希たちの方の戦いの終わり方も、大成たちと似たようなものだった。数分前、大成たちと同じように、スレイヤードラモンの手によって強制的に終わらされたのだ。

 そうして、すべての事情を聞かされて、優希たちはこうして大成たちの下へとやって来たわけである。

 

「っていうか、これ、どういうことだ?」

「私たちは初めから試されていたの。ようするに、抜き打ちのテストね」

「はぁあああ……そういうことか!」

「どっと疲れが……」

 

 優希の例えは微妙なところではあったが、大成とディノビーモンはそれで全部を理解した。

 別れてからスレイヤードラモンがずっと合流してこなかった訳も、デビモンの行動も会話も、すべては大成たちを試すためのものだったのだろう。大成たちは、まんまとそれに嵌ったわけだ。

 まあ、マインドコントロールの部分だけはデビモンも本気だったりしたのだが、それはともかくとして。

 そして、いざとなったらスレイヤードラモンが止めに入る。そういう手筈だったのだ。

 

「お前、もっとうまく演技しろよ。途中からバレバレだったろうが」

「で、でも気づいてなかったっすよ?」

「ぐあう」

「があう」

「ちょ、そういうこと言うなっすー!」

 

 デビモンは、現在スレイヤードラモンとデビドラモン二匹にダメ出しされている。

 デビモンの今回の演技については、思い返せば言い訳不能で見れたものではなかったために、ダメ出しは良いのだが――どうせデビモンに今回のことを依頼したのは、スレイヤードラモンなのだろう。

 何と言うか、スレイヤードラモンの人選ミスである気がしてならない大成たちだった。

 

「で、リュウ。そいつらとはどういう関係?」

「ああ、こいつら?昔やんちゃしてたところをボコった関係」

「ひどっ!確かにその通りっすけど!でもでも、それからオレたちも更生したっすよ!」

「お前らのソレは更生って言うんじゃなくて、下っ端根性が染み付いたって言うんだよ」

 

 ちなみにだが、昔はデビモンもデビドラモンもこんな性格ではなかった。冷酷邪悪そのものといった性格だったのだ。それが、なぜこうなったのか。ここ最近のスレイヤードラモンが抱く一番の疑問だった。

 ともあれ、そんなデビモンたちにさっきまで真面目に相手していたと思うと、どっと疲れがたまる気がした大成たちである。

 

「……そういや、マインドコントロールから復帰した理由ってなんだったんだ?」

「え?ああ……僕も不思議なんですけどね。エクスブイモンが助けてくれたような気がして……」

「えっ……どういうことだよ!?」

 

 そうして、ディノビーモンはその時のことを語った。

 デビモンに操られていたあのふわふわとしていた時の感じ。理由はともかく、体を動かそうとしていたこと。そして――その後にあった幻影のこと。

 そのすべてを、ディノビーモンは余すことなく大成に伝えた。

 

「なんか、エクスブイモンの姿が目の前に見えた気がしたんです」

「それ……」

「その時、体が動くようになって……」

「エクスブイモンが助けてくれた、のか?生きているのか?これの中に?」

 

 別に幽霊とか、そういったことは大成も信じていない。この世界はともかくとして、人間の世界は科学万歳世界なのだ。幽霊とか、非科学的すぎる。

 そんな世界で育ったからこそ、大成はそのことが信じられないのだが――だが、そうであって欲しい、と。信じられなくても、信じたい、と。そんな気分になる大成だった。

 ともあれ。大成がそんな気分になっている横では、スレイヤードラモンやデビモンたちを含めて反省会が行われていた。

 ちなみに、ディノビーモンはスティングモンに戻っている。

 

「ま、大成たちも優希たちも及第点だろ。特にこの世界に来たばっかりの時と比べるとな」

「そりゃ、成長期だけしか選択肢がなかった時と比べるとね。大成たちは成長しているでしょ」

「何言ってんだ。お前もだろ。優希」

「え?」

 

 スレイヤードラモンの言葉に、優希は何を言われているのかわからない、というような声を上げる。いや、優希からすれば、本当に何を言われているのかわからなかった。

 大成たちが成長しているのは、優希たちにもわかる。というか、わからなければおかしい。

 一方で、優希たちは自分たちが成長しているかと問われると、首を傾げることしかできなかった。確かに、完全体に進化できるようには一応なった。先ほどの戦いでは、完全体に進化させないように成熟期に進化させることもできた。

 これが成長かと言われると優希たちは答えに窮する。一応、成長ではあるかもしれないが、優希たち自身が思っているような成長ではないからだ。

 

「……?お嬢様、思い当たることありますかな?」

「いや、全然」

「ま、自分じゃわからねぇか」

 

 呆れたように呟かれたスレイヤードラモンの声が、優希たちはどこか印象に残ったのだった。

 

「しっかし、あんたたちスゲェっすね。こいつらも褒めてましたよー?」

「ぐる!」

「がる!」

「いや、何を言っているのかわからないし」

 

 そんな時、首をかしげる優希たちに話しかけてきたのは、デビモンたちである。

 さっきまで真面目に戦っていた者たちだ。そんな相手がいきなりフレンドリーに接してきたのだから、優希たちはどう接すればいいのかわからなくなっていた。

 まあ、スレイヤードラモンの様子からして、彼らは根っからの悪人というわけでもないのだろう、と。そう思って、多少は引いたものの、優希たちは普通に接する努力をすることにした。

 

「いやぁ、もう少しで奥の手も使うところだったって言ってるすよ」

「奥の手?」

「っす。こいつらの奥の手。麻痺というか、何と言うか……」

「それ使われてたら危なかったわね」

「ですな……」

 

 悪魔のような怖い顔をしているくせに、その口調はどこぞのチンピラ。

 そんなデビモンに、未だ慣れない優希たちだった。何と言うか、初めて出会った時との差というか、顔と雰囲気の差が激しく感じられる。

 

「ぐるるあ!」

「がるるう!」

「ああ、こいつらも怖いのは見た目だけっすから。引かなくても大丈夫っすよ」

「いや、優希が引いてるのは、どっちかって言うとお前の顔だからな?」

「えぇえ!?そうなんすか?」

「えっと……まあね」

「ぬがぁあああ!みんな酷いっす!」

 

 スレイヤードラモンやデビドラモンのあんまりな物言い、そしてそれに対する優希の肯定の言葉に、デビモンは絶叫する。その姿は、馬鹿らしいというか、馬鹿そのものだった。

 とはいえ、デビモンは確かに馬鹿だが、人をイラつかせる馬鹿ではない。人を楽しませる馬鹿、どちらかといえば道化師のようなタイプの馬鹿だ。

 そのことを知ってか知らずか。そんなデビモンを前に優希たちは自然と笑っていた。

 

「酷いっすよー!」

 

 そうして、デビモンの絶叫が辺りに響き渡る中で。大成とスティングモンは、アナザーをの画面を弄っていた。

 大成たちがアナザーを弄っているその理由はただ一つ。アナザーの機能の一つである通信をするためである。通信相手は、もちろんウィザーモンだ。

 大成たちは、今日の出来事について、ウィザーモンに聞きたかったのである。

 この数分後に――。

 

――やれやれ。なんだね?藪から棒に――

「ウィザーモンか?ちょっといいか?」

――非常識だと思わないのか?今何時だと思っているんだね?――

 

 大成の持つアナザーは、ウィザーモンと通信していた。アナザーから、ウィザーモンの声が聞こえてきている。

 大成はアナザーを耳にあて、スティングモンはそんな大成に顔を近づけて、ウィザーモンの声を聞く。はっきり言って、両者ともに相手のせいで聞きづらかったが、二人とも文句は言えなかった。

 そうして、聞こえてきたウィザーモンのその声はどこか不機嫌そうなのだが、アナザーの通信は音声通信だ。ウィザーモンの顔を見ることができない。

 大成たちとて不機嫌な相手と顔をつき合わせて会話するのは、少し気まずい。

 声だけで本当に良かった。そう思って、ホッとしながら、大成たちは用件である今日のことを話すのだった。

 

――……ふむ。なるほど。それで僕に連絡してきたのか。それなら、まあいいか――

「……?」

――何。これで適当な用件で連絡してきたのなら、どうしてやろうかと思っただけさ――

 

 少しだけトーンの低くなったウィザーモンの声を聞いた大成とスティングモンは、本気で自分たちのタイミングの悪さを呪っていた。

 とはいえ、今日の現象についてなら、ウィザーモンも納得してくれるらしい。戦いが終わったばかりだというのに、地味に命の危機が訪れていた大成たちだった。

 

「何かわかるか?」

――そりゃ、わかるさ。……しかし、ふむ。そうか。そうなったか――

「……?どういうことだ?」

――ふむ。結論から言えば、その中にエクスブイモンの人格データが入っているわけではない――

「っ!そ、うか……」

 

 それはある意味で当然のこと。

 大成たちもその可能性が大きいとは思っていた。だが、そうではない僅かな可能性を願っていなかったわけでもない。結局、大成たちは少ない可能性に希望を抱いていたのだ。

 まあ、その希望は現実のものとはならなかったのだが。

 

――僕の研究結果ではそこまでのことはできないからな――

 

 ちなみに、力と共に人格データも残す。その研究はウィザーモンも一応してはいる。

 現在は、エクスブイモンの件からもわかるように、力だけは残せる状態だ。

 とはいえ、人格の方を残す研究は進んでいないのが現状だった。まあ、研究が進まないのも仕方ないだろう。ウィザーモンは人並みの倫理観を持っている。対象の命と引き換えに物体を作成するという一番の問題点が解消されない以上、研究が行き詰まっているのだ。

 

――君たちが見たのは、エクスブイモンの残留思念のようなものだろう――

「残留……?」

――もはや個人の人格としては意味をなさないほどの、小さな欠片だな――

「でも、そんなもので――」

 

 デビモンのあの技を打ち破れることになるのか、と。

 口には出さなかったが、大成のその疑問はウィザーモンに伝わっていた。そうして、そんな大成の疑問に答えるように、ウィザーモンは言う。

 

――そんなものでも十分だったのだろうよ。君たちの記憶は、確かに彼のことを覚えているのだからな。だろう?――

「……!」

――エクスブイモンが君たちに託したソレは力の結晶で、同時にエクスブイモンのすべてだ。エクスブイモンというデジモンの、な――

 

 そこのところを忘れるなよ、と。そう言って、ウィザーモンは通信を切った。まだ聞きたいというか、質問したいことはあったのだが――そのことを、大成たちは自分たちの胸に仕舞い込む。

 

「記憶、か。あいつとの」

「だったら、やっぱりエクスブイモンが助けてくれたんですね」

「……だな」

 

 エクスブイモンとの記憶が、エクスブイモンという存在が、自分たちを助けてくれている。大成たちは、そのことを認識して。

 エクスブイモンの死を吹っ切れたわけではないが、死んでもなお自分たちを助けてくれるエクスブイモンの存在に、大成たちは胸の内に熱いものが込み上げていた。

 

「記憶……な。そういや、ウィザーモンのやつ、これの名前を俺たちが決めていいって言ってたよな?」

「言ってましたね」

「デジメモリなんかどうだ?デジモンのメモリー(記憶)でデジメモリ」

「安直ですけど……いいですね。帰ったらウィザーモンに言ってみましょう」

「だな」

 

 スティングモンの同意も得られたことに気を良くしながら、大成はその手の中のデジメモリを見る。

 それを見るだけで、エクスブイモンとの思い出が蘇ってくるような、エクスブイモンがまだ隣にいるような、そんな気さえしてくる大成だった。

 




というわけで、テスト期間にも関わらずストックを使って更新した第七十二話。
今回の事件の種明かし回でした。
ついでに、SDカードモドキの名前がようやく決定。まあ、原作通りデジメモリですが。

さて、次回からは学術院の街を去った面々のいろいろの話ですね。
まあ、そのせいで、しばらく大成たちの影が薄くなりますが。

それでは次回もよろしくお願いします。
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