【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
大成たちがデビモンたちの襲撃を受けた日。
大成たちのいる場所から遠く離れた場所に、ドルモンはいた。
「うぐ……寂しい……」
このドルモン、自分のパートナーである旅人に置いて行かれた恨みを晴らすべく、修行を兼ねて一人旅をしていた。
とはいえ、ここ最近は一人旅というものに寂しさを感じていて、若干後悔していたりもするのだが――まあ、そんな寂しさは自分のパートナーと友人を一発殴るという目的を思い出すことによって、強引に忘れることにしているドルモンである。
「やっぱり一人旅は慣れないな~……はぁ」
とある理由で五年間この世界で一人旅していた者とは思えないセリフだ。が、ドルモンからすれば、それはそれ、これはこれ、ということなのだろう。たぶん。
「でもなぁ~どうしようかな~」
さて、話を戻せば、現状では目的に対する活路が見いだせていないというのがドルモンの実情であった。
旅人の方はともかくとして、友人の方は究極体である。しかも、それなりに強い。ドルモンもそれなりに強い方だが、その身はあくまで成長期。逆立ちしても殴るどころか殴られるだけだ。
そんな究極体の友人を一発殴るための秘策。それをドルモンは探しているのである。
もはや、いろいろと間違っている気がしてならなかったが、ドルモンは何が間違っているのか気づけなかった。
「……うぅ」
そうして、一人寂しく草原を歩くドルモン。
そんな彼の行く手の先には、森が広がっていた。ドルモンは、その森の中にそれなりの大きさの町があることを知っていて、そこに情報を求めていくつもりなのである。
こうして森が見えるここまで来れば、その町まであと少し。もう二時間もかからずに街に入ることができるだろう。ひとまずの目的地というゴールが見えたことによって、知らずドルモンの足は速くなっていた。
「よっし。まずは……」
歩きながら、町に入ってからのことを考えるドルモン。今の彼の頭の中には、宿探し、食事、情報集めの三つがあった。
とりわけて、今のドルモンが望むのは――。
「おなか減った」
今のドルモンが望むのは、食事である。
そう。先ほどからドルモンの腹の虫はぐぅぐぅと鳴いていて、それに比例するかのようにドルモンはお腹を減らしていたのだ。今のドルモンは、町に着いたら一目散に食料を得るために動く心づもりだった。
早く町へ。そしてごはん、と。そんなことを考えながら前進を続けるドルモンだったが、その時だ。
「はっ!?この匂いは……!」
どこからか、えも言われぬ良い匂いが漂ってきたのは。
嗅いだだけで食欲をそそるような、そんなおいしそうな匂い。そんな匂いを嗅いでしまったからこそ、ドルモンは自分の空腹を余計に実感してしまう。
ぐぅぐぅ、と。先ほどよりもずっと大きな腹の音が、ドルモンの耳に聞こえる。それと同時に、ドルモンの耳には自分の腹の音以外の声が届いていた。
「おやおやーお兄ちゃんお腹すいているのー?」
「えっ……君は?」
無害さを感じさせる人懐っこい声。そんな声でドルモンに話しかけてきたのは、首に赤いスカーフを巻いた、悪魔の子供のような姿をしたデジモンだった。
だが、ドルモンはそのデジモンのことよりも先に――そのデジモンの持っているおいしそうな肉に目を奪われていた。先ほどからずっと辺りに漂っているこのおいしそうな匂いは、その肉から漂ってきていることにドルモンは気づいたのである。
そんなおいしそうなものを目の前にして、ドルモンの口の中は知らず唾がたまっていた。
「ぼく?ぼくはインプモンさ!この近くに住んでるんだ」
「そ、そうなんだ~あ、僕はドルモン~」
そう。その子供悪魔のようなデジモンは、インプモンと呼ばれる成長期デジモンである。五年間この世界を旅していたドルモンでも、初めて出会ったデジモンだった。
「で、ドルモンお兄ちゃんはお腹すいているの?さっきからぼくのお肉をずっと見ているけど……」
「う、ごめん」
「ふーん……あっ!そうしたら、このお肉はドルモンお兄ちゃんに上げるよ!」
「えっ……でも……えっいいのっ!?」
「うん、いいよ!だってドルモンお兄ちゃんかわいそうだもん!」
「やったぁ!」
何と言うか、アレである。
自分のことをお兄ちゃんと呼んでいることからして、インプモンはおそらくドルモンより年下か、もしくはそれに準ずるような存在だろう。そんな者から食べ物を恵んでもらっているのだ。傍から見ていればとても情けないのだが――ドルモンのとって、そんなことはどうでもよかった。プライドで腹は膨れないのだ。
そんな、お兄ちゃんと呼ばれる者にあるまじき行動をしているドルモンは、うきうきとインプモンから肉を受け取った。
そして、食欲と勢いのままにそのおいしそうな肉にかぶりついて――。
「いや~おいし……おい……?……うがぁああああああ!」
直後、ドルモンの口内を襲ったのは、激痛。
まるで舌を七輪で焼いたかのような、痛み。まるで口内に焼石を放り込まれたかのような、痛み。そんな拷問に等しい激痛を前して、ドルモンは正気ではいられない。肉を落とし、痛みと苦しみのままにのた打ち回る。
のた打ち回っているドルモンはそのことに気づけなかったが、ドルモンの口内を襲ったその激痛の正体は、痛烈な辛みだった。いや、辛みが正確には痛覚であることを考えれば、もはや痛みとしか言えないか。
そんな痛みを前にして、ドルモンは湖一つ飲み干す勢いで水を飲みたくなったところだろう。だが、ここは森。周りを見ても木があるだけで、そんなものはない。拷問である。
「あふっ……いはっ……ふはぁああああん!」
「あはっはひっはははっ!本当に食いやがった!ははは!」
今のドルモンは全身の毛を逆立てて、人間であったら確実に脱水症状になるであろう量の汗と涙を流していた。それほどまでに、痛いのだ。口の中が。もはや辛いという次元さえ超えているほどに。
そして、そんなドルモンを前にして、事の元凶は笑っていた。笑い転げていた。地面にバンバンと手を叩き、ずいぶんと楽しそうに笑っている。
「はぁっひっぃ!息がははっできなははっ!」
というか、一周回って窒息死しそうなほどだ。
ここまでくれば誰でも予想できるだろう。先ほどまでのインプモンはすべて演技で、これはインプモンが仕掛けたイタズラなのである。
それもこれも、インプモンがイタズラ好きであるからなのだが、どこぞの機械の里にいるイタズラ王を目指すデジモンと気が合いそうな性格だ。
まあ、そのイタズラに引っかかったドルモンとしてはたまったものではない。現在進行形で拷問の如き苦痛を味わっているのだ。心臓の弱い者ならショック死してしまいそうなほどの痛みを。
「ううげぇええええ!うわぁあああん!」
「ぶはっ!や、やめろよははは!これ以上笑わせるのははは!」
数分後。
この場にあったのは、二つの死体モドキ。言うまでもなく激痛のあまり死にかけているドルモンと、笑いすぎて窒息死しかけたインプモンである。
何と言うか、ドルモンには災難なことだったが、傍から見ていれば間抜けな光景ではあった。
「ひぃっひぃっはぁーはぁ……ふぅ。よっしゃ、笑わせてもらったぜ!あんがとな!」
「うぇ……」
そうして、未だ立ち直れないドルモンが立ち直る前に、インプモンはこの場を離れることを選ぶ。イタズラをし、その相手のリアクションを見て、そして捕まらないうちに逃げる。その一連すべてがイタズラなのだ。捕まってしまえば、すべてが無に帰してしまう。
インプモンは、そんな無駄なイタズラ観とプライドを持っている。だからこそ、ドルモンを放っておいて逃げ出して――。
「うぐぐ……うぐ……?」
涙で視界がぼやける中で、ドルモンが見たのは、最後にもう一度自分の姿を見て大笑いしてから、どこかへと逃げていくインプモンの姿だった。
そして、その数十分後に――。
「ひははひいひいふふ……」
ドルモンは何とか立ち直った。
まあ、立ち直ったとは言っても、その口の中には未だヒリヒリとした痛みが残っていて、うまく言葉を発することもままならない状態であったのだが。
これが人間だったのならば、確実に唇が漫画のように腫れていたことだろう。
そうして、ドルモンはそんな痛みを耐えながら、元の目的通りに町を目指すことにしたのだった。
「はっへほー!ひんふほん!」
そう。すべては、水を得るために。口の中の痛みを癒すために。そして、あのイタズラ悪魔に復讐するために。
何と言うか、目的が変わっている気がしないでもないが――それはともかくとして、一時間後。ドルモンはようやくその町に着いた。
森の中にあるだけあって、木で組まれた家が立ち並ぶその町は、決して大きいとは言えない。だが、森の中にログハウスがいくつかあるというその町の姿は、森と町との統一感を生み出していて、独特の風情があった。
「はひとはひはら、ほろほんはんはほうは」
そうして、そんな町を歩きながら、ドルモンは自分のパートナーの姿を思い浮かべる。旅をするのが生きがいとも言えるような旅人ならば、きっとこの町の様子と風情に大喜びすることだろう、と。
そんなことを思い浮かべて、ドルモンが微笑んだ瞬間――その口内に走った痛みが、彼を現実へと引き戻した。
そう。今は旅人のことなど、ドルモンにとってはどうでもいいはずなのだ。
そうして、決意を新たにしたドルモンは町を歩いて――。
「んえっ!?だ、大丈夫~!?」
「はんはひ……はんは、はい?」
ドルモンは、ようやくこの町に住むデジモンを発見した。
小さな妖精のような可愛らしいデジモンで、成長期のティンカーモンと呼ばれるデジモンだ。インプモンと同じで、ドルモンが出会ったことのない珍しいデジモンだった。
そんなティンカーモンはあわあわと焦ったようにドルモンの周りを飛び回っている。と、いうか。
「大変大変たいへ~ん!あのいたずら悪魔がまた出たわ~!」
「なんだって!?」
「そいつァ大変だァ!」
「急いで捕まえなきゃ!」
というか、ティンカーモンはドルモンのその姿を見ただけですべてを察したらしい。
そんなティンカーモンが彼女なりの大声を上げると、同時にこの町の住人たちがわらわらとドルモンの下へと集まってき始めた。そして、ドルモンの姿を見た町の住民たちは、そのまま何を思い出したのか震え出す者もいれば、なにやら闘志を燃やしているような者もいて。
ここまでくれば、ドルモンも薄々感づき始めたのだが――どうやら、あのインプモンとこの町の住人たちは、ただならぬ関係であるようだった。
「ほいふうほほ?」
「あっごめんなさい。あなたもあのいたずら悪魔にやられたんでしょ?」
「はふん、ほう」
“いたずら悪魔”という単語だけでは、そのいたずら悪魔というのがドルモンにいたずらしたインプモンのことかどうかはわからないはず。だが、ドルモンは直感していた。そのいたずら悪魔と呼ばれる者こそ、自分を苦しめたインプモンである、と。
そうして、自分が何をされたのかを思い出したドルモンは、復讐のやる気をメラメラと燃やす。
ちなみに、そんなドルモンにティンカーモンは引き気味であった。
「そ、そう。あ、ちょっと待ってて。……はい、これ」
「はひ?」
「食べられる薬草。これを食べれば、口の中も楽になるよ」
いつまでも会話をするのもままならないのは、可哀想だと思ったのだろう。ティンカーモンはどこからか持ってきた薬草をドルモンに手渡した。
そんなティンカーモンの好意を、ドルモンも疑うことなくありがたく受け取る。この状態から解放されるのならば、なんでもいいと思ったからなのだが――そんな成長しないドルモンは、この後泣きっ面に蜂状態になる。
彼女から貰った薬草を、大喜びで口に含むドルモン。だが、その瞬間に――。
「あっ、それ苦いから直接は――」
「ぬがぁああああわあああぁあああん!」
「――ごめんなさーい!」
ドルモンを襲ったのは、強烈な苦さだった。
先ほどの辛みのような裂かれるような激痛ではない。まるで鈍く響いてくるかのような苦みが、ドルモンを襲ってきたのだ。
そうして、そんなドルモンを見て、ティンカーモンは目を伏せる。この薬草を渡しておいて難だが、この薬草は専用の食べ方があるのだ。というか、そのままだと苦くて食べられたものではない。
すべてはドルモンの早とちりの結果なのだが――何と言うか、今日のドルモンは可哀想な目に遭ってばかりいる。今日はドルモンの厄日だった。
「なななな、何するの~!」
「ごめんなさいごめんなさい!それ、本当はすり潰してから水と一緒に口に含むの!」
「な、なら先に……あれ、普通に喋れてるっ!?」
ともあれ、その苦痛の甲斐あってか、ドルモンは普通に話せるまでには回復した。
まあ、その代わり今も口の中には、鈍い痛みが響いているのだが、先ほどまでの突き刺すような激痛を思えば、これくらいはドルモンも耐えられた。
「うぐぐ……納得は、いかないけど……ありがとう」
「へっ?怒ってないの?」
「いいよ。助けてくれたのは事実だしね」
「うぅっ……私のドジを見逃してくれるなんて……!良い人!」
「そ、そんな褒められても……」
こんなたいしたことないことで尊敬の眼差しを送ってくるティンカーモンを前にして、ドルモンは困惑を隠せない。いや、恥ずかしそうにしている辺り、どちらかといえば照れているのか。
そうして、そんな時だった。まるでおじいさんのようなデジモンがドルモンに話しかけてきたのは。
「ほっほっほ。お主、そろそろいいかの?」
「えっと……?」
「ああ、儂はジジモン。お主、あの悪たれ小僧にやられたんじゃろ?話を聞かせてもらえんかな?」
「えっあっ!うん!」
ドルモンに話しかけてきたのは、ジジモンと呼ばれるおじいさんのようなデジモン。その弱々しい形からは想像もつかないが、この世界に数体しかいない究極体の一人だ。
それが、このジジモンというデジモンで。思いがけない相手の登場に、ドルモンと話していた“ティンカーモンは”少し出鼻を挫かれたような雰囲気となるのだった。
というわけで、第七十三話。
題して、最近のあの人はシリーズの開始の話でした。
第一弾はドルモンですね。2、3話はドルモン主人公の話が続きます。
さて、次回は……哀れにもドルモンが事件に巻き込まれます。
それでは次回もよろしくお願いします。