【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
ドルモンが行方不明になった次の夕方のこと。
「くぅううう!まさか人間何かにしてやられるなんて!」
「すまんのー旅のお方」
「いや、良いものくれるって話だしなー」
とある人間の男が、インプモンをジジモンに引き渡していた。
そう。この男、昨日のうちにインプモンを捕まえたのである。この町の者が誰一人として成し遂げられなかったことを成し遂げたこの男に、ジジモンも内心では驚いていた。
一方で、男の方はその偉業をなんでもないような顔をして受け止めている。というか、この男がインプモンを捕まえることができたのは、本当に偶然なのだ。男にとっては、そこまで驚かれても困るといった感じなのである。
「この悪たれにはキツイ仕置をするでの」
「ひぃっ!」
「はは……まぁ、頑張ってくれとしか言えないな」
「ちょ、マジでふざけんな!てめぇのせいだろうが!」
「お前には言ってないぞ」
ともあれ、往生際悪く未だに騒ぎ続けるインプモンを放っておいて、ジジモンとその男は談笑する。インプモンにとっては、その時間が死刑執行までの残り時間に感じられて、なおのこと恐ろしかった。
「しかし、旅のお方がこやつを捕まえたとなると……やはりもう一人の奴は……」
「ん?もう一人?誰かオレの他にもインプモンを捕まえようとしていたのか?」
「うむ。昨日の昼前にこやつにイタズラされた者がの。はりきっておったのじゃが……」
「じゃが?」
「少し嫌な予感を覚えての。この町に戻ってきておらぬようじゃし……最近のここらでの行方不明事件に巻き込まれているやもしれん」
そう言ったジジモンの顔には、後悔の色があった。
おそらく、そのもう一人が行方不明事件に巻き込まれたかもしれないという可能性を思い、自責の念を覚えているのだろう。
「そういや、行方不明事件があるとか言ってたもんな」
「ああ。この町の滞在中にそやつを見かけることがあったら、教えてくれぬか?心配での」
「まぁ、それくらいならいいけど……オレ、そいつの見た目を知らないんだけど」
「頭に意思のある青紫色の毛の獣のような竜じゃ。よろしく頼む」
「……まさか」
そこまでを言ったジジモンは、「ではまたの」とその男に別れの言葉を告げてから、インプモンを連れていく。おそらくは、これからインプモンに灸を据えるのだろう。
そんなジジモンと、ドナドナのごとく引きづられていくインプモンの後ろ姿を見ながらも、その男は――旅人は、ありえなさそうで、だが決して否定できない奇妙な予感を抱いたのだった。
まあ、その予感が自分が全力で殴られる予感だとは、この時の旅人に想像できるはずもなかったのだが。
ともかく、旅人が自身の抱いた予感に微妙な気持ちになっていたその頃。
ジジモンの話に登場していた件の竜であるドルモンはと言うと――。
「あはははっ!逃っげろ~!」
「待てよー!今度こそ捕まえるぞー!」
町がある森の奥深くにて、昨夜のティンカーモンと少年デジモンの二人と一緒に楽しく遊んでいた。
いや、ドルモンを含めた三人だけではない。そこには、ドルモン以外にも幼年期や成長期のさまざまなデジモンたちがいる。とはいえ、成熟期以上はいないが。
現在ドルモンたちがしているのは、鬼ごっこ。鬼は少年デジモンと妖精デジモンの二人だ。
彼らのしている鬼ごっこは時間制で一時間逃げ切った者が勝ちで捕まった者は負けという、鬼の勝利を度外視したシンプルな鬼ごっこだった。
「にっげろー!」
「まってよー!」
「ずるいぞー!」
まだろくにこの世界を知らないだろう、たくさんの幼年期デジモンたちが楽しく遊んでいる。
ティンカーモンも少年デジモンも彼らを楽しませるのが上手だった。楽しませながら、二人も笑っていた。
ここは、そんな笑顔が溢れる場所で。この場所こそが、少年デジモンの言う子供だけの国“ネバーエヴァーランド”が作られる
「お腹すいたー!」
「そうそう!お腹すいたよー!」
そうして、楽しい遊びの時間が過ぎ行くそんな中で、誰か一人が言った。お腹すいた、と。そんな誰かに続くように、次々に連鎖するように周りの子供たちも同調し、声を上げる。
そんな子供たちを見て、少年デジモンは仕方がないとばかりに、近くの木々から食料を持ってきた。そうして、食料が運ばれてきたのと同時に、鬼ごっこなどはもはや終わったとばかりに子供たちが少年デジモンの下に集まってくる。
遊びの時間は一旦終了で、次からはご飯の時間ということだった。
「いっただきまーす!」
みんなが口々にそう言って、少年デジモンの持ってきた食料を美味しそうに口に入れていく。
食べ方も自由で、食べるものも自由。それぞれが好きなものを好きなように、好きな食べ方で食べている。時には、自分の食べたいものを他の子供から奪ってまで食べる者もいて。
この光景は、まさに自由を象徴しているようで――無法を象徴しているようだった。
「はふはふ……!」
「どうだい?この場所は!」
「ピーターモン!うん、楽しい場所だね!」
そんな中で、ドルモンも適当に目の前にあった食べ物を食べている。つい最近食べたのが、極辛肉と苦い薬草であったために、どんな食べ物でも美味しく感じられるドルモンだ。
そして、そんなドルモンに、少年デジモンが話しかけてくる。ドルモンにピーターモンと呼ばれた彼は、この中唯一の成熟期のデジモンだった。
そんなピーターモンの横には、ティンカーモンも付き添っている。ドルモンの見る限り、二人はいつも一緒にいるらしかった。
「でしょ?私たちはここに子供が子供のままでいられる子供だけの国“ネバーエヴァーランド”を造ろうとしているの!」
「ティンカーモンの言うとおりさ!だから、僕らは子供たちを集めているんだ!」
「あなたも一緒に頑張りましょう!」
ティンカーモンはドルモンの前に降り立つとその小さな手を差し出した。
そんなティンカーモンの行動の意味するところは、ドルモンもわかっている。先ほどの言葉がなくとも、誰だってわかるだろう。
だからこそ、ドルモンはその手を――。
「ごめん。僕には無理だよ」
「え……!?」
ドルモンはその手を掴まなかった。
申し訳なさそうに、だがまっすぐピーターモンたちを見つめながら返答したドルモン。そんなドルモンを前にして、ピーターモンたちは驚いていた。
「なんで!?だって、私の“フェアリーパウダー”は効いてたのに……!」
「ああ、あれ。うん。効いてたよ。さっきまで」
「どうやって正気に戻ったっていうのよ!」
自分の自慢の技が破られていたという事実に、半ばヒステリック気味にティンカーモンは声を出す。
まあ、ティンカーモンがそうなるのも頷けるだろう。ティンカーモンはずっと幼いデジモンたちばかりを相手にしてきた。それは言い換えれば、格下の相手ばかりを相手にしていたということで。ティンカーモンには、自分の技が破られるということが想像つかなかったのだ。
「そりゃ、ここは楽しいよ。でも、でもね」
「だったらなんで!正気に戻るような要素はなかったはずよ!」
ティンカーモンの“フェアリーパウダー”は、羽から舞い落ちる粉によって相手の能力を弱体化させ、さらには精神をも幼児化させる技。だが、精神に働きかけるという性質上、一定以上の心の強さを持つ者には通用しない技でもある。
それに気づけなかったのは、格下ばかり相手にしてきたティンカーモンの落ち度だった。
「でも、ここに旅人はいないんだ」
そう。それが決定的だった。
例え、精神が幼くなっても、記憶までなくなる訳ではない。ドルモンには、今までの記憶がちゃんと残っている。ふと我に返って、その記憶を、積み上げてきたものを思い出せば――自然と自分を取り戻せる。
自分が幼い頃から一緒にいた旅人がいないというのは、ドルモンにとっては有り得ない。精神が幼児化していたからこそ、旅人を探し、ドルモンは自然と自分に目を向けたのだ。そして、その結果、早くの段階から幼児化を解けていた。
「っく!そんな……!」
「君たちの言っていることはわかるよ。でも、子供だけの国で、子供のままでいようなんて……無理に決ま――」
「ふざけるなっ!」
「っ!」
勢いそのままに、ピーターモンたちの理想を否定するようなことをドルモンは言おうとして、その瞬間に――その言葉はピーターモンに遮られた。
見れば、ピーターモンの表情は憤怒で染まっている。それほどまでに自分たちの理想を否定されたのが、堪えたのだろう。
「言っていることがわかる?君に何がわかる!君のような子供ながらにして大人の心を持つ君に!」
「僕は言うほど大人じゃ……」
「黙れっ!何もわかってない!大人になるのが怖い子供は大勢いるんだ!自分で明日の生活を保たなければならない苦痛!一寸先の未来がわからない不安!迫ってくる終わり!まだまだいくらでもある!」
そのピーターモンの叫びは、ドルモンにはわかるようでわからなかった。
ところどころ共感が持てるような部分もある。が、自分の境遇に重ね合わせると、全く同じものだと言えない気もする。だからこそ、ドルモンは簡単にわかるなどとは言えなかった。
「守られるのが当たり前だったのに!それでも、否応なしに守る側にならなくちゃいけなくて!日々の生活に流される中で、持っていたはずの何かさえ忘れてしまって!」
「……」
「やがて忘れたことさえ忘れてしまう!そんな哀しい
そう言ながら、ピーターモンは涙を流していた。
今の言葉はドルモンにではなく、自分に向けられて話されたものだったのだろう。自分の境遇を思ったが故の言葉。ドルモンにはそう感じられた。
まるで、ピーターモンは大人になって失った何かを求めているようで。そんなピーターモンを癒すかのように、ティンカーモンが彼の周りを飛んでいた。
「ここにいる者たちだって、それを望んでいる!進化せず、子供のままでいることを!」
「そうだそうだー!」
「たのしくいきたいー!」
「進化なんてしたくなーい!」
いつの間にかこちらを見ていた幼いデジモンたちが、ピーターモンに同調するように、次々と声を上げる。そんなデジモンたちを前にして、ドルモンは自分が間違っている気にもなった。
そもそも、ドルモンの境遇はいろいろと特殊だ。卵から孵って初めて見たのは、自分のパートナー。それからは自分のパートナーに守られるというよりも、自分のパートナーと共にあるように生きて、果ては世界を救う旅をしたりもした。
おおよその人生の中で、ドルモンは子供のするような生活をしていなかった。
だからこそ、ドルモンは彼らの気持ちがわからない。彼らのことは間違っていると思いながらも、彼らを説得する言葉が思い浮かばなかった。
「わかったよ。君は僕たちを裏切るんだね」
「いや、初めから……」
「なら!みんな!次の遊びは成敗ゴッコだ!」
「おー!」
「なぁっ!?」
ピーターモンが叫ぶ。成敗ゴッコをする、と。
それに同調するように、ここにいるドルモン以外の全員が、賛同の声を上げる。そうして、そんな新しい“遊び”の始まりに、自然とこの場の全員のテンションは上がっていく。
だが、反対に半ば強引な感じで“敵”という役割をすることになってしまったドルモンとしては、その異様なまでに熱せられた雰囲気にたじろぐことしかできなかった。
「行けぇ!悪者を退治するんだ!」
「おー!」
「かくごしろー!」
「ちょ、みんな、待っ……!」
「みんなー!聞く耳を持っちゃいけないわよー!」
ティンカーモンとピーターモンに煽られた幼きデジモンたちが、ドルモンの下に殺到する。
だが、いくら数がいようと、戦闘経験のない幼年期デジモンなど、ドルモンの敵ではない。とはいえ、だからこそ、ドルモンは困っていた。無力だからこそ、対応に困るのだ。
無力に迫り来る者たちを前にして、ドルモンは必死になって逃げ回ることしかできなかった。
「にげるなー!ひきょうものー!」
「好きで逃げてるわけじゃないよ~!」
打開策も見つけることができず、追いかけ回されるドルモン。だが、そんなドルモンは次の瞬間に見た。踊るようにして目の前に来た、腰から引き抜いた剣をその手に持ったピーターモンの姿を。
「はぁっ!」
「ちょ、まずっ!」
その瞬間、ドルモンは口から鉄球を吐き出す。
ドルモンは、“ダッシュメタル”と呼ばれるその技の鉄球を、ピーターモンの剣に当てたのだ。鉄球を剣に当てることによって、剣の動きを止めようとしたのである。とはいえ、効果があったのは僅か一瞬。だが、ドルモンにはその時間で十分だった。
その瞬間に、ドルモンは最小限の動きで、ピーターモンを躱すことができたのだから。
「ぬぎゅっ!」
「へぇ。今の当てるつもりだったんだけどな」
「僕を舐める――」
ピーターモンのわずかながらに驚きが含まれた言葉を前に、ドルモンは半ば挑発するように返答する。が、そのドルモンの声は途中で途切れることとなった。
「まてー!」
「――ちょ、待って!今会話中だよ~!」
すぐ後ろから、絶えず幼いデジモンたちが迫って来ていたから。
今のドルモンには、立ち止まって話す余裕などないのである。すぐさままた追い立てられて、ドルモンは駆け出すことになってしまった。
そうして、そんなドルモンの姿を、ピーターモンは能面のような表情で睨んでいて。ティンカーモンは、そんなピーターモンの周りを心配そうに飛んでいたのだった。
「ピーターモン?」
「なんでもないさ。ティンカーモン。大丈夫。もう終わらせるから……さぁさぁ!みんな!手こずっているようだね!この悪者は僕が退治してあげるよ!今日の成敗ゴッコはヒーローショーさ!」
「わー!ピーターモンだぁ!」
「誰が悪者~!?」
そう納得できないとばかりの声色で言いながらも、ドルモンは同時にピーターモンの悪党という言い分に納得してもいた。確かに、夢を壊そうとする今のドルモンは、ピーターモンたちにとって悪者に見えるかもしれない。いや、悪者にしか見えないだろう。
でも、と。そう思いながらも、ドルモンは自分を睨んでくるピーターモンをまっすぐに睨み返した。
「なんだいその目は!僕は僕らの理想を否定する子供を認めない!」
「確かに、僕……オレは君たちにとって悪者なのかもしれない。わかってもないくせに、君たちの夢を否定した」
「っ!ああ、だから僕は君を許さない!僕らの夢を壊そうとする君を!僕らの夢を拒む君を」
「……正直言って、君の言葉に全く共感できなかったわけでもないよ」
「今更なんだ!?命乞いか!?」
「オレでさえそうだったんだ。君の理想が間違っているとは思わない。けど、お前の行動は間違っている」
別に単純な正義心で動くわけではない。
ただ、ドルモンはピーターモンたちに納得できなかったのだ。だからこそ、ドルモンはピーターモンに挑む。自分の我を通し、相手の身勝手な夢を叩き潰し、自分の身勝手な在り方を示すために。
見せつけるように、いや、見せつけるために、ドルモンはその扉を開く。自分がとある理由からしたくはなかったソレを、進化の扉を、開く。
「ドルモン!進化――!」
「なっ!?」
「ドルガモン!」
次の瞬間、そこに立っていたのはドルガモンと呼ばれる成熟期の獣竜だった。
というわけで、第七十五話。
ドルモン回はまだまだ続きます。具体的には次回まで。
さて、次回はピーターモン(仮)との戦闘です。
それでは次回もよろしくお願いします。