【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第七十六話~現実VS理想~

「な……間違っているだって?君、いや。お前に何がわかる!」

 

 進化したドルガモンに驚きながらも、ピーターモンはその直前に言われた言葉に憤慨していた。間違っていると、何をもってそう言うのか、と。

 

「……オレにしたことを思えば当然だろ!さっきも言ったけど君の理想はわからないでもない。でも、人の精神を操ってまでそれを成そうとするのは、間違い以外の何者でもない!」

「勝手なことを……!僕の理想をわかってもらいたかっただけだ!それに、そうやってこの場に連れてきているのはお前も含めて少数だけだ!」

「そういう問題じゃない!」

 

 そうドルガモンに言いかえしながら、ピーターモンはドルガモンへと目がけて突撃する。そんな風に怒っていながらも、ピーターモンのその剣にはある種の冷静さが宿っていて。

 怒りに呑まれてくれていればやりやすかった。ピーターモンの状況は、半ば予想通りだとはいえ、ドルガモンは内心で残念に思うことは避けられなかった。

 そうして、お互いに油断なく構えて二人は激突する

 先ほどまであったような成長段階の、スペック差の不利がなくなった以上、ピーターモンもドルガモンを軽視するような戦い方はしなかった。

 

「わかってもらいたかった?そんなのでわかってもらえるわけなんかないだろ!無理やりわからせて、それでわかってもらった気になるだけだ!」

「だからなんだ!それの何が悪い!」

「何もかもに決まってるだろ!」

 

 戦いながらも、ドルガモンとピーターモンは会話を続ける。剣と爪が、剣と尾が交わるたびに、ドルガモンとピーターモンの言葉も交わって行く。

 だが、そんな中でも、その戦闘を外から見ていたティンカーモンは気づいていた。この戦いはどちらが有利であるのかを。どちらが押されているのかを。

 そう。ピーターモンが苦悶の顔をしているのを。ティンカーモンは気づいていたのだ。

 

「っく!進化したてでここまでやるのか……!」

 

 ついに、ピーターモンの口から弱音のようなものが漏れ出した。いや。言った本人はそのことに気づいてもいないだろう。本当に、つい、口から出てしまったのだ。

 当たり前であるが、進化したばかりの個体は、基本的に平均的なその種族よりも弱い。その体に慣れていないからだ。進化したばかりの勢いはあるだろうが、経験というものが欠けているのである。

 だが、ピーターモンの前に立ち塞がったドルガモンは、強い。これで進化したてとは思えないほどに。まるで、その体でずっと戦ってきたかのように。

 

「僕だって本当は進化したくなかった!」

「何だって?」

 

 進化はしたくなかった。そのドルガモンの言葉にピーターモンは怪訝な顔をした。

 まあ、それもそうだろう。その言っていることが本当ならば、ドルガモンはピーターモンの理想に共感してもおかしくないから。

 だからこそ、ピーターモンは右手に持った剣を振り抜きながらも、疑問を顔に出して――。

 

「ああ、言っておくけど、オレは別に子供のままでいたかったわけじゃないよ。ただドルモンとしての僕の姿が気にっていたからって話!」

 

 直後、その剣を尾を使って弾きながら、ドルガモンはその疑問に返した。

 必ずしも大人になることと進化することは一致しないのだ、と。そう言って。だが、それだけで進化を拒んでいたドルガモンは、見方を変えればピーターモンと“同じ”だった。

 そうして、そんなドルガモンの返答に、ピーターモンは戦闘中にも関わらず一瞬だけ呆然として――ドルガモンはその隙を逃さなかった。

 

「今だっ!」

「しまった!」

 

 ドルガモンが突進しながら鉄球を放つ。“キャノンボール”と呼ばれるそれは、ドルモンだった頃に放ったものと同じような見た目ながら、それ以上に大きく、そして重かった。

 いろいろな衝撃を受けながらも、すぐさま立ち直ったピーターモンは、その鉄球の迎撃をする。

 

「ぐ、重……!」

 

 両手に剣を持ち、その鉄球を弾き上げるように受け流す。

 そうして、鉄球を明後日の方向へと飛ばしたピーターモンの腕は、鉄球の想像以上の重さによって痺れていた。思わず、その手から剣を落としてしまったくらいに。

 

「ピーターモンっ!」

「あ……!」

 

 だが、その瞬間にピーターモンの耳に届いたのは、ティンカーモンの鬼気迫る声。その声のままに顔を上げたピーターモンは、すぐさま自分の失態に気づいた。

 ピーターモンとて見ていたはずなのだ。あまりの衝撃に忘れてしまっていたが、ドルガモンは鉄球を()()()()()()放ったことに。

 つまり、鉄球をどうにかしても、ドルガモン本体はどうにかなっていないということで。

 

「がぁっ!」

 

 直後、固いものにぶつかったような衝撃と痛みを受け、ピーターモンは空を舞った。

 見れば、ドルガモンが頭突きの体勢で止まっていて――それを確認した直後、ピーターモンは地面に叩きつけられた。

 

「オレの勝ちだ!」

 

 そうして、そんなピーターモンを見ながらも、ドルガモンはそう言い切った。

 とはいえ、言い切っておきながら難だが、ドルガモンは内心では動揺していた。一応、倒したのはいい。が、その後どうするべきか、ドルガモンは悩んでいたのだ。

 殺すほどの殺意があったわけではない。今回のことは、言葉を変えれば、ただの子供の我儘のような感情のぶつけ合いでしかない。だからこそ、ドルガモンは悩んでいて――。

 

「あぁぁあああああ!クソガキガァああああ!」

「はっ!?」

 

 その直後、背後から現れた道化師のようなデジモンに襲われた。

 すんでのところで気づき、躱すことができたからよかったものの、あのままではドルガモンは無残なことになっていただろう。

 その道化師のデジモンが見せつけるように持つ両手に持っている細身の剣が、ドルガモンに冷や汗をもたらしていた。

 

「君は一体……?さっきまでここにはいなかったはずだ!」

「お前にはわからないだろうよ!どれだけ綺麗事を言っても、どうしようもない現実はあるんだ!」

 

 いきなりの出現に戸惑うドルガモンの言葉には答えず、その道化師デジモンは感情のままに表情を歪め、一人呟き続ける。ともすれば、その白と黒の化粧顔も相まって、かなり怖い。

 

「ひぃっ!う、うわぁあああん!」

「怖いよぉおお!」

「助けてぇえええ!」

 

 そのあまりの迫力に、幼いデジモンたちの何人かは泣き出してしまった。

 一応、泣いていないデジモンは泣いているデジモンを庇うようにしているが、その体は震えている。やはり怖いのだろう。

 一方で、疑問に答えてもらえなかったドルガモンは、戸惑うしかない。正確なことはわからないが、目の前にいる道化師デジモンは明らかに成熟期以下ではない。その身に纏った雰囲気が証明している。

 ここは大人のいない、子供だけの場所のはず。ピーターモンやティンカーモンが嘘を言ったとは思えない。が、明らかに目の前にいる道化師デジモンはここに相応しくないはずなのだ。

 

「この姿を見られたからには……死んでもらう!」

「……まさか?」

 

 そうして、道化師デジモンはドルガモンに向かって苛烈に攻撃を繰り出してくる。

 桁外れの速度と力。それを前にして、ドルガモンはなすすべはなかった。一応、致命に繋がりかねない攻撃は今のところ受けていないが、時間の問題だろう。それほどの強さを道化師デジモンは持っていた。

 

「っく!強いっ……けど……?」

「死ねぇ!」

 

 だが、そうやって戦いながらも、ドルガモンは違和感を覚えていた。

 そう。戦えているのだ。相応の傷を負ってしまったものの、明らかにスペックに差があるというのに、それでもドルガモンは戦えている。普通ならば、もう片が付いてもおかしくはないのに。

 だからこそ、ドルガモンは違和感を抱いて――その直後、その理由にたどり着いた。

 その理由は概ね二つ。

 一つ目は、ドルガモンは道化師デジモンの戦い方になぜか覚えがあるということ。

 二つ目は、道化師デジモンは自分の体の使い方が下手くそだということだった。

 もちろん、これらはドルガモンの直感でしかないために、本当のところはわからない。が、ドルガモンはこれが正しいような気がしていた。

 

「……お前、一体?」

「子供のままではダメか!大人にならなくてはいけないか!」

 

 そうやって、まるで自分自身に言い聞かせ続けるているように話すその道化師デジモンの姿は、先ほどまでこの場にいたピーターモンのようで。

 そんな様子に、ドルガモンは目の前の道化師デジモンがピーターモンの進化したデジモンであると当たりをつける。が、それでも腑に落ちなかった。

 この道化師デジモンは明らかに究極体クラスの力を持っている。だが、ピーターモンは成熟期。完全体をすっ飛ばして進化したことになる。力が強いだけの完全体という可能性もあるし、別に絶対ないとは言わないが――やはり、どこか違和感が残る。

 

「無情な現実に擦り減らされるくらいなら!生暖かい理想の中で眠ってはダメなのか!」

「っく!」

 

 とはいえ、そろそろドルガモンもこの道化師デジモンの相手をするのがキツくなってきた。

 いくら戦えているとはいっても、勝率は限りなく低い状態であることに変わりはないのだ。さらに、負った傷も初めに比べて馬鹿にできないくらいに増えている。このままでは押し切られるだろう。

 そして、そんなドルガモンの限界がわかったがゆえに、道化師デジモンも勝負を決めようとする。

 その時。一瞬、ドルガモンは道化師デジモンのその手に持った剣が消えたように見えて――気が付けば、ドルガモンは無数の剣によって包囲されていた。

 

「……なっ!?いつの間に!?」

「お前のような“強い”やつの言葉なんて、こっちは聞き飽きているんだ!」

 

 道化師デジモンがそう言った瞬間に、ドルガモンめがけて剣が殺到する。

 ドルガモンもその爪や足、尾を使って迎撃するが、そのたびに剣はどこかへと消えて行く。そう。消えていくのだ。消えた剣は、また新たな場所に出現し、ドルガモンを狙い始める。

 これが、この“トランプ・ソード”と呼ばれるテレポートと剣を組み合わせた脱出不可能な剣の檻こそが、この道化師デジモンの必殺技である。

 

「だから、僕が現実を変える!夢の中で生きられるようにする!」

「っく!」

 

 そうして一瞬後。ドルガモンにそのすべての剣が突き刺さ――。

 

「仕方ない。進化ぁああああ!」

「……は?」

 

 る直前で。そのすべての剣は、光と爆風と共に明後日の方向へと吹き飛んで行った。

 そんな光景に、その道化師デジモンは呆然とするしかなかった。なぜなら、その光は進化の光だったから。目の前にいたのは、ドルガモンではなく、赤と白の体毛に四枚の翼を持った獣竜だったから。

 成熟期に進化したてで、完全体に進化するなど、ありえないし、絶対にあってはならない。だというのに、そんなありえない事象が目の前で起こった。だからこそ、道化師デジモンは呆然としてしまったのである。

 

「ドルグレモン!」

 

 その獣竜デジモンこそ、完全体デジモンのドルグレモンだった。

 そう。実を言うと、ドルグレモンは五年前の段階で単独で完全体まで進化できるようになっていたのである。だが、ドルモンとしての姿が気に入っていたために、進化しなかったのだ。

 だからこそ、望みさえすれば、いつでも進化できる状況だったのである。

 まあ、傍から見ていれば短時間で完全体まで進化したように見えて、理不尽極まりないだろうが。

 

「何なんだ……何なんだ!一体!」

「うぉおおおおお!」

 

 今、目の前にある常識外の現象に道化師デジモンは錯乱していた。

 現実を変えると言っていたくせに、常識に囚われているそんな道化師デジモンは、正しく道化のよう。

 

「ぐあっ!」

 

 今ここを逃せばチャンスはない、と。ドルグレモンはそう思った。すぐさま、道化師デジモンをその尾を使って空へと吹き飛ばす。そして、自身もその後を追うように空へと舞い上がって――。

 

「うわぁ!」

「すごーい……!」

 

 そんなドルグレモンの姿に、いや、ドルグレモン()()の姿に何を見たのか。幼いデジモンたちは目をキラキラさせて、彼らを見ていて。

 そんな幼い者たちの姿を視界に収めた瞬間。道化師デジモンは、抵抗を止めた。

 そうして、一瞬の後。道化師デジモンは、遥か上空から地面に叩きつけられたのだった。

 

「ピエモン!大丈夫!?」

 

 ティンカーモンの悲鳴のような声が上がる。

 まあ、ティンカーモンが心配するのもわかるだろう。彼女にピエモンと呼ばれた彼は、地面に叩きつけられた後からずっと動かなかった。空を見上げたまま、どこか遠くを見ていたのだ。

 そんなピエモンの姿を、ドルグレモンは勝者として静かに見つめていた。

 それが自分とその者の違いを見せ付けられるようで、ピエモンにはなおの事辛かった。

 だからだろうか。ピエモンが自分のことを“自分に”語りたくなったのは。

 

「子供たちの笑顔を見たかったんだ……それが、僕の夢だった」

「……?」

「夢を叶えようと泥まみれに必死になって……でも叶わなかった。子供の頃に描いた理想は現実に敗れて」

「……ピエモン」

「だからこそ、子供の純粋に理想を抱いたままの頃を残そうとした。ま、また現実に負けたけどね。究極体にまでたどり着いておいて、このザマさ。初めから僕には無理だったんだ」

 

 遠くを見つめているピエモンは、いつかのことを思い出しているのだろう。

 五年前のあの頃。ピエモンはただ子供たちに笑顔を与えるために頑張っていて、初めはよかった。自分も子供たちも笑っていたから。だけど、すべてはどこかで狂い、やって来た現実に打ちのめされて。

 結局、ピエモンは負けたのだ。現実に。だからこそ、夢の国を作ろうとしたのだ。

 

「ピエモン。もういいわ。十分よ……だから、行こう?また初めからやり直しましょう?」

「ああ、そうだね……でも、ちょっと疲れちゃったから……」

「うん。しっかり休んで。……また私を笑顔にして」

 

 そんな時、ピエモンはティンカーモンと出会って意気投合した。

 ピエモンは、自分と同じような思いを抱くティンカーモンの存在に救われた気がしたのだ。そうして、二人で理想を実現するために、ここまでやって来た。だが、結局は、また自分たちの前に立ちはだかった現実(ドルグレモン)に負けてしまった。

 それでも、と。ピエモンとティンカーモンは立ち上がった。やはり、諦められることではなかったから。

 

「どこへ行くんだ?」

「さぁね。ここではないどこか。僕らの理想が現実となる場所」

「……さよなら」

 

 そうして、立ち上がったピエモンはティンカーモンと共に歩き出す。

 ここではないどこかを目指して、ドルグレモンたちに、現実を選んだ者たちに、背を向けて歩き出す。「幼き者たちのことを最後までよろしく」とドルグレモンに伝えてから。

 現実に敗れた情けない顔など見せたくないのか、ピエモンもティンカーモンも、振り返ることなく歩いて行った――。

 

「遊んでくれてありがとー!」

「楽しかったー!」

「また遊ぼうねー!」

 

 その直後、聞こえた幼き者たちの声。

 きっと、ここにいる幼い者たちは何もわかっていないのだろう。現実も、ピエモンの理想も、そのすべてを。どのような形にせよ、それがわかるのはきっとこの先、大人になった時で。

 容易に想像がつくそのことに、複雑な思いを抱きながらも、幼い者たちの言葉は、確かにピエモンに届いた。

 

「ピエモン……?」

「ごめん。ティンカーモン。最後にひとつだけ……」

「ふふっ。いいわ。とびっきりの、見せてあげて。あの子供モドキにも見せつけるようにね!」

「っああ!」

 

 涙声で肩を震わせていても、それでも確かにはっきりとティンカーモンに告げて、そうして振り返ったピエモンは笑顔だった。

 そして、次の瞬間――。

 

「それじゃっ!みんな!またいつか!」

「……えっ!?」

 

 ティンカーモンと共に空へと飛び上がったのは、ピエモンではなくてピーターモンで。

 その突然の事態に歓声を上げる幼い者たちと、呆然とアホヅラを晒したドルグレモンの姿に胸がすく思いを抱いて、ティンカーモンとピーターモンの二人は笑いながら去ったのだった。

 ちなみに、このドルグレモンが再起動するのは、ジジモンに頼まれた旅人がここにいる者たちを迎えに来た時だったりするのだが、それはほんの余談だ。

 ついでに、このピエモンとピーターモンの不思議な現象を元に、ドルグレモンは常識に喧嘩を売るようなびっくり技術を生み出すことになるのだが、それはもっと余談である。

 




というわけで、第七十六話。
ちょっと無理がある気もしますが、この話は割と初期からあった話でした。
ちなみに、ピエモンがピーターモンに化けていただけです。ピエモンも、ドルモンと同じで、ピーターモンの姿に愛着があったというわけですね。

さて、進化してしまったドルグレモンは、ドルモンに戻ることができるのか。それはまた今度ですね。
次回からは大成たち不在シリーズ第二弾。
今度は学術院の街を出て行った彼らが登場します。

それでは次回もよろしくお願いします。
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