【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第七十七話~骨を隠すなら森の中~

 ドルモンの紆余曲折あった事件から、一週間後のこと。

 ドルモンたちが滞在している森と街から遠く離れたとある森の中。そこに勇たちはいた。

 

「グルルル……」

「おい!聞いてるのか?」

「グルルルル……!」

 

 勇とスカルグレイモンがここにいる理由は二つあって、一つは街がほど近いこと。もう一つは、ここの木々は背が高く、スカルグレイモンを隠すのにうってつけだからである。

 勇は忘れない。初めて街へとスカルグレイモンを連れて行った時、街全体がパニックになり、あわや討伐隊が組まれかけたことを。その時、スカルグレイモンも本気で暴れようとしたことを。

 結局、逃げるようにしてその場を去ったことによって難を逃れることができたが、勇は誓った。もう二度とスカルグレイモンを連れて街には入らないことを。

 

「オラの言葉はわかるんだろ?言葉は話せないのか?ほら、あ、い、う、え、お!言ってみ?」

「グルル……」

「いや、グルルじゃなくてだな」

 

 そうして、この森の中に隠れることにした勇は、スカルグレイモンと過ごす日々である。

 自分で決めたことではあるが、ちょっとだけ学術院の街の日々が懐かしく、今の状況が寂しく感じられてしまった勇だった。とはいえ、当の元凶たるスカルグレイモンは、そんな勇に何も感じることすらできていないのだが。

 ちなみに、現在の勇はスカルグレイモンに言葉を覚えさせようと頑張っている。まあ、二日目にして、挫折しかけているのだが。

 

「もう一度聞くぞ?オラの言葉はわかるだろ?」

「グルル……」

「頷いたんだよな?……わかりづらい!」

「グルルルル」

「わかった!わかったから唸るな!とりあえず、発音を変えるべきか?あ、い、う、え、お!って言ってみろって」

「グガ、グギ、ググ、グゲ、グゴ……グルル……」

「おっ!今のそれっぽかった!なんだよ!やっぱりやればできるんだ!」

 

 ともあれ、ある意味では楽しく過ごせているのかもしれない。

 まあ、それも、平時だけの話なのだが。そう。平時だけ。言い換えれば、何かがあると、勇はすごく苦労するのだ。

 例えば――。

 

「えっ!すすすすすすスカルルグレレレイモン!?」

「……ん?」

 

 例えば、勇以外の者が眼前に現れた時とか。

 近くの木々の葉を揺らして、現れたのはピンク色の鳥だ。勇も知っている、ピヨモンと呼ばれる成長期デジモンである。ピヨモンには、ここの木々の効果によって今までスカルグレイモンの姿が見えなかったのだろう。きっと、木を避けたら突然スカルグレイモンが目の前に現れたように見えたはずだ。

 目の前にある木を避けたら、そこにいたのは巨大な骨のバケモノ。それは怖かったことだろう。事実、ピヨモンの声は可哀想になるくらい震えている。

 勇は、この先の展開が目に浮かぶようで、片手で顔を覆って――次の瞬間。

 

「おい、スカ――」

「ググァアアアアアアアアアア!」

「ひぃっ!」

 

 勇の声すら遮って、スカルグレイモンが咆哮する。

 凄まじい衝撃波となって広がったその音は、周りの木々を押しのけて、小さなピヨモンを吹き飛ばした。そして、その時スカルグレイモンには先ほど勇と触れ合っていた頃の雰囲気はない。その時のスカルグレイモンにあったのは、ただ目の前の敵を打ち倒すという禍々しいまでの狂気だった。

 咆哮しながらも、気合を入れ直したスカルグレイモンは、木々を薙ぎ倒しながら、吹っ飛んでいったピヨモンを追う。

 

「……はぁ。またか。やってられねぇってさ」

 

 すべてはほんの一瞬のことで。勇が止める間もなく、スカルグレイモンは駆け出して行って。

 幸いにして、近くにいるらしい。スカルグレイモンの攻撃によって木々の薙ぎ倒される大きな音が聞こえてくる。

 まあ、ピヨモンには不運なことだったろうが――哀れな小鳥の命を救うため、そして自分のパートナーの暴走を止めるため、勇はため息を吐いてスカルグレイモンの後を急いで追う。

 そんなこんなで、木々をすり抜けるようにして全力疾走すること数分。勇はスカルグレイモンのいる下へとたどり着いた。

 

「グルルァアアアア!」

「ひぃいいい!誰か助けてぇー!」

 

 どうやら、ピヨモンはまだ無事らしい。が、スカルグレイモンが腕を振り上げているところを見ると、もう時間がないだろう。だからこそ、勇は声を張り上げて――。

 

「やめろ!スカルグレイモン!」

 

 スカルグレイモンを止める言葉を発する。

 勇の声が聞こえた瞬間に、スカルグレイモンはピタリと動きを止めた。その姿、その行動は、まるで忠犬のようだ。が、まあ、勇を放って暴走している時点でそう言えるかは微妙であるが。

 ともあれ、スカルグレイモンの暴走を止めた勇は、ピヨモンの下へと向かう。いろいろと謝らなければらなないだろう。特に、スカルグレイモンの辺りのことを。

 

「すまん。大丈夫か?」

「……は?……え?……えぇ!?」

 

 どうやら、まだピヨモンは助かったことを実感できていないらしい。現状を理解することもできず、目を白黒させて、呆然としている。

 まあ、突然の事態で死にかけて、これまた突然助かったのだ。混乱するのもわかるが――。

 

「おーい?大丈夫かー?」

「きゅう……」

「あ、気絶した」

 

 ピヨモンは精神的に耐えられなかったようである。ぱたり、と地面に倒れ込んで気絶したピヨモンは起きる気配がない。いや、それどころか、ブツブツと「骨が!骨が!」とうなされてうわごとを言ってさえいる。

 そんなピヨモンを前にして、勇は申し訳ない気持ちを抱いたのだった。

 

「仕方ないなー。スカルグレイモン!」

「グルル……」

「いや、グルルじゃなくて。襲われてもないのに襲うのはダメ!わかったな?」

「グルルルル」

 

 ちなみに、この勇たちの会話。これはスカルグレイモンは誰かを襲うたびに何度となく繰り返されていることである。それでも変わらないスカルグレイモンは、学習しないのか、できないのか。前者であってほしいような、後者であってほしいような。勇としても複雑な気分である。

 ともあれ、そうこうしているうちに、はや数分。ようやくピヨモンの目が覚めて――。

 

「ひぃっ!」

「グルルギャ――」

「やめろって言ってるだろ!」

「……グルル」

 

 無限ループになりそうな気配に、勇は先手を打った。その甲斐あってか、その最悪の事態は未然に防ぐことができたようである。

 目の前にいるスカルグレイモンを前にして、先ほどまでのことが夢ではないと悟ったのだろう。目を白黒させて怯えるピヨモンに、勇はなんとか話しかける。

 

「えっと……悪かったな。オラのパートナーが……」

「ひぃっ!ににに人間!?」

「あれー?」

 

 だが、勇の予想に反して、ピヨモンは勇に対しても怯え始めた。

 そのあまりの震え具合に、勇としてもショックを隠せない。確かに、スカルグレイモンは勇のパートナーだ。その関係で嫌われても仕方がないが、それでもやはり面と向かって震えられるのは堪えるのである。

 とはいえ、ピヨモンをこれ以上混乱させないように、怯えさせないように、勇は笑顔を意識してピヨモンに話しかけ続ける。

 

「こここ、殺さないでぇ……!だ、誰かぁ!助けてぇー!」

「いや、大丈夫だって。そんなことしないから」

「誰か!誰かぁー!」

「人の話聞いてる!?」

「ひぃ!聞きます!聞きますから!乱暴しないでください!」

「いや、しないから」

「グルルルル……」

「ひぃいいいい!」

「スカルグレイモンはちょっと黙ってようか!」

 

 怯えのあまりパニックになっているピヨモンは、勇の話を聞いてすらいない。

 そんなピヨモンを何とか落ち着けようとして、勇は奮闘する。が、勇が奮闘すればするほど、ピヨモンの混乱は酷くなって行って。勇は、そんなピヨモンの姿に少なくない違和感を抱く。

 ここまで怯えてパニックになるのは、はっきり言って異常だと勇には思えたのだ。だからこそ、勇はピヨモンがこうなる何かがあるような気がしたのだった。

 とはいえ、この数分後。ようやくピヨモンは立ち直ったようだ。

 

「うぅうう……す、すみません。早とちりしてしまったみたいで」

「いや、ようやく落ち着いたようでよかったよ」

「はっはい!だ、大丈夫です!」

 

 いろいろと謝りたかったし、話も聞きたかった勇だったが、当のピヨモンは未だ多少の混乱の中にあるようだった。まあ、初めの頃に比べればだいぶマシなのだろうが。

 

「えっと。オラは勇。こっちはパートナーのスカルグレイモン。よろしく!……で、まずはごめん。オラのパートナーが酷いことをしちゃって……」

「いえっ!大丈夫です!あっ、わ私はピヨモンと言います!」

 

 互いに自己紹介を交わし、勇の方は先ほどの件についての謝罪もする。

 直接話しているのは、当然ながら勇とピヨモンだ。だが、ピヨモンにはやはりスカルグレイモンのことが気になるようだった。先ほどからスカルグレイモンの方を怯えるようにして、チラチラと見ている。

 勇の方はピヨモンにチラチラではなく堂々と怯えられながら見られている分、スカルグレイモンに比べてマシと言えなくもない。

 まあ、その辺りのさじ加減は人によるだろうし、怯えられないのが一番いいのだろうが。

 

「えっと……あの……勇さんたちは……」

「ん?なんだ?」

「……違うんですよね?」

 

 やがて、おずおずといった風にピヨモンは勇に尋ねてきて。

 どこか希望を持ってそう聞いてきたピヨモンの言葉の意味は、勇にはわからなかった。だが、その自分たちが間違われたその何かが、ピヨモンの自分に対する反応の原因であるような気がして。

 だからこそ、勇はピヨモンに聞こうと思ったのだ。自分のことを、何と重ねて、何と間違ったのかを。

 

「よかったー。違うんですよね。そうですよね!……よかった」

「一体、オラたちを何と間違えたんだ?」

「最近、この辺りの街々で有名な噂があるんです」

「噂?」

「すっごい強いデジモンを連れた人間が、街を、街に住むデジモンたちを、笑いながら焼き滅ぼしていくって」

 

 その噂を勇は知らなかった。いや、知っているはずもなかったか。ここ最近、勇はスカルグレイモンのせいで街に立ち寄ることすらできなかったのだ。その噂を知るはずもない。

 だが、初めてスカルグレイモンを街に連れて行った時、あの街の者たちの過度な反応は、もしかしたらその噂が関係しているのかもしれない、と勇はそう思って。

 それにしても、街を、そこに生きるデジモンたちを、笑いながら殺すとは。誰だか知らないが、胸糞悪くなるようなことをしてくれるものである。

 

「オラたちはそんなことしないぞ」

「わかってますよ!でも……」

 

 そんな者たちと勘違いされては、さすがに堪ったものではない。勇はピヨモンに向かって抗議の視線と言葉を送る。

 勇からそんなものを送られたピヨモンも、内心ではとっくの昔にわかっている。勇たちは、その噂の人物ではないと。それでも、でも、と言葉を続けてしまったのはやはり――。

 

「グルルル……」

 

 やはり、勇の後ろで唸っているスカルグレイモンのせいだろう。

 最終的に止めてはくれたし、無事だったものの、いきなり襲いかかられたのだ。スカルグレイモンのその外見の恐ろしさも相まって、どうしても悪い方に考えてしまうピヨモンを強く責めることは、勇にはできなかった。

 

「やっぱ、早く進化させないとな……」

「……?」

「あっ!そうだ。迷惑かけちゃった上で悪いんだけど……」

 

 ともあれ、ピヨモンも一応の納得をしてくれたようであるし、謝罪も受け取ってもらえたようだ。だからこそ、この話はここで打ち切るとばかりに、勇は話題を変えた。

 勇は、会話できる者と会うのは久しぶりなのだ。スカルグレイモンは意思疎通ができるほど確固たる自我を持っていないし、ここしばらくは街に入ることもできなかった。

 だからこそ、勇にとってピヨモンは久しぶりに会話が通じる相手で――ようするに、勇は会話ができる相手が欲しかったのである。少しだけ寂しかったとも言う。

 今の状況は、勇自身が望んだことではあるが、やはり感情と理屈は別なのだ。

 そうして、その後数十分もの間、会話が通じる者との久しぶりの会話を楽しんだ勇は、ピヨモンと別れる。何も言わずに、自分に付き合ってくれたピヨモンの性格がありがたかった勇だった。

 

「いやぁー。この森で採れる食べられる植物とかいろいろ聞けたし……これでしばらくはばっちりだな!」

「グルルル……」

「あれ、そういやスカルグレイモンは進化してから一度も何か食ってないよな……食えるんだろ?」

「グル?」

「ま、この辺りに近づかないように街のデジモンたちに言っておいてくれるってピヨモンも言ってたし……今日は良いこと尽くめだな!」

 

 笑いながら、勇は先ほどピヨモンが採って来てくれた食べられる木の実を頬張る。

 人間の世界の食事を知る勇にとっては、実に味気ないもの。だが、それでもお腹一杯食べられる幸せを、勇はこの世界に来てから知っている。だからこそ、勇は他人が嫉妬するくらいおいしそうに食べていた。

 そして、だからこそ、そんな勇には食べることに意味を見出さないスカルグレイモンの姿が、どこか寂しそうに見えて。

 

「ほらっ!うまいぞ!」

「……」

 

 勇は試しに一つの木の実をあげてみるが、スカルグレイモンはそれを食べることはなかった。

 

「それにしても、どうやったら究極体に進化できるんだろうな」

「グルルル……」

「やっぱり強い奴と戦うとか?でも、この世界完全体の個体数も少なめって聞いたけどな……まぁ、究極体よりは多いだろうけど」

 

 究極体への到達など、よほど特殊な事情や出来事、力がない限り、それこそ奇跡に近い。

 勇はそれを実感していた。ゲームみたいに経験値を積んで強くなればいいのかもしれないが、スカルグレイモンの相手になるような者たちはなかなかいないし、そもそもそれだけではダメだと勇は個人的に思っていた。

 ゲーム時代に完全体に進化できた者が自分を含めて少数だったように。究極体に進化するには何かがいるのだと――と、そこまで考えて、勇は思考を止めた。

 今、何か頭に引っかかることがあったのだ。だからこそ、勇は先ほど考えていたことを辿る。自分が何に引っかかりを覚えたのかを探るために。

 そうして、深く思考の海を潜っていく勇だったが、その考えは中断することになる。

 なぜなら――。

 

「たっ助けてください!」

 

 見るからにボロボロのピヨモンが、この場に飛び込んできたから。

 そんなことをしている場合ではなくなってしまったのだ。

 




というわけで、第七十七話。
今回から勇たちサイドの話です。

さて、次回は時間が少し遡り、ピヨモンに何があったかが語られます。

それでは次回もよろしくお願いします。
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