【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第七十八話~噂の人間~

 事の始まりは、ピヨモンがこの森に隣接するようにある街に帰ってしばらくした時まで遡る。

 スカルグレイモンと出会った一時は命の終わりを覚悟したが、終わってみれば何のこともない。スカルグレイモンは恐ろしかったが、そのパートナーの勇は、ピヨモンにとっても好感が持てる相手だった。

 だからこそ、また行こうかなどと懲りずに考えてもいたし、この街にいる()()()()()()()に勇のことを伝えようともしていた。

 

「あっ噂をすれば……零!」

「……」

 

 そう。この街にいるもう一人の人間。それは、あの零だった。

 零がこの街に訪れたのは二週間ほど前のことだ。

 初めは人間ということで不審に思われていたが、今ではそれもない。どう思われようと唯我独尊を貫くような姿勢と連れているデジモンの成長段階の低さから、噂の人物とは無関係と判定されたのである。まあ、ひとまず不審に思われることはなくなっただけだが。そう、あくまで“ひとまず”である。

 

「相変わらず仏頂面ですね」

「何の用だ?」

 

 ちなみに、その四六時中ずっと仏頂面で感じが悪いため、この街に住むデジモンたちからの評判は良くない。話しかけるのは、それこそピヨモンのような害がなければ気にしないタイプくらいである。

 まあ、零のしてきたことを思えば、害がないとは一概に言い切れないのだが――目の前にいる零が噂の人物たちに匹敵するほどの罪人であることなど、ピヨモンには知る由もないか。

 

「あのね。もっとにこやかにしてないと損しますよ!」

「それは俺の勝手だろう。そんなこともわからないのか?」

「ぴよー!せっかく心配して言っているのに……!」

「心配してくれなどと頼んだ覚えはない」

 

 だが、律儀に話しかけてくるピヨモンのことを無視しない辺り、零にも何かしらの思いの変化があったようである。少なくとも大成たちの前に現れた頃と比べれば、何があったのかはわからないが、かなりの変化と言える。

 とはいえ、ピヨモンに話しかけられた時には、零はだいぶ嫌そうな顔というか、鬱陶しそうな顔をしたのだが。

 

「まったく!いいですか?直した方がいいピヨよ!」

「急に阿呆な語尾を付ける馬鹿に応対するつもりはない。今後一切な」

「せっかく恥ずかしさを我慢して馴染みやすいような可愛い話し方にしたのに……!」

「阿呆に磨きがかかっただけだろうな」

「ピヨー!」

 

 妙な語尾やら口調やらを変えることによって、ピヨモンは零とのコミュニケーションをよりよいものにしようとしたらしい。何と言うか、努力の方向性を間違えているとしか言いようがない。

 まあ、勇のような誰にでも馴染むタイプとは違って、零のようなタイプは関わらなければ一人になっていくタイプだと知っているがゆえに、ピヨモンは頑張ったのである。無駄だったが。

 今度、あのコミュニケーションが得意そうな勇に相談しよう、と。ピヨモンは零の前から逃げ出しながらそう考えて――その時、零に勇のことを言うのを忘れていたことに気づいたのだった。

 

「ピピピ……ドウカシタノデスカ?」

「別に。うるさい奴がいただけだ」

 

 一方で、何の用を果たすこともなく去っていったピヨモンの後ろ姿を見つめていた零は、物陰からやってきたハグルモンを見る。

 そう。このハグルモンは、あのムゲンドラモンの卵から孵ったデジモンで――零が現在進行形で扱いに困っているデジモンだった。

 卵から孵ったのはいい。だが、デジモンを憎んでいると豪語していた零にとって、デジモンを育てるというのは笑い話にしかならないこと。さらに、このハグルモンがムゲンドラモンの生まれ変わりだとは言っても、ムゲンドラモン自身ではない。

 ようするに、零にはこのハグルモンを連れている理由がないのだ。だからこそ、零はこのハグルモンをどこかに捨てようとしているのだが――。

 

「ふん……それより、この街はどうだ。ここなら住めるだろう」

「ピピ……ワタシハ、零ノ傍ガイイデス」

「機械里に行った時もそう言っていたな。余計なことを考えず、お前のいつく場所を決めろ。俺とお前はそれでサヨナラだ」

「ピピピ……何ト言ワレヨウト、着イテ行キマス。確カニ、ワタシハ先代デハアリマセンガ……」

「っち」

 

 何と言うか、このハグルモンはどこへ行こうと零に着いてくる。どれほど条件の良い場所を見つけても、結局最後は零を選ぶ。捨てようとしているのに、まるで離れない。

 とはいえ、無理矢理に捨てようと思えば捨てられるはずであるし、そもそも捨てなくても零なら始末することだってできる。

 ならば、なぜその選択をしないのか。それは、他ならぬ零自身が知りたいことであった。

 

「……ピピ?」

「くそ」

 

 そうして、思い通りにならない自分とそんなハグルモンに、今日も零は頭を悩ませて。

 

「……ん?……アイツは」

「ピピ。ドウカシマシタカ?」

 

 そんなある意味で平和な悩みに頭を悩ませていた零は、その時見た光景が気になった。

 この街は、人間というだけでデジモンたちからの風当たりが強い。一度受け入れられればその限りではないが、受け入れられていない人間にはとことん厳しい風が吹き付ける。

 何でこんなことを改めて説明したのかと言うと――零が見たのは、人間だったのだ。

 年の頃は高校生くらいだろう。大人ではないはずだ。明らかに染めたような緑色の髪の毛に、指輪やネックレスなどチャラチャラとした装飾品で着飾っていて、見る限りにアレだった。

 

「ダサいな」

 

 外見だけ取り繕っているだけの、個人的にダサい格好であると零は思う。だが、まあ、服装や外見などよっぽどの場でなければ個人の自由であるし、そこは別にいい。零とて他人のそんなところに気を使うほど暇人ではない。

 ただ、零がその人間を気になったのは、その人間の表情と行動だ。

 いろいろと過酷な状況に置かれたこともある零は、観察眼というか、そういった人を見る目がそれなりにある。だからこそ気づけたのだが、その人物の表情は零をして感じるところのあるものだった。

 さらに、そんな人間が隠れるようにこそこそと行動していれば、否応でも気になるというものだろう。

 

「アノ人間ガ……ナニカ?」

「……いや、なんでもない」

 

 だが、すぐに零は思い直した。自分には関係ないことだ、と。そう思ったからこそ、零は自分の泊まっている宿へと向かって――その道中も、零は自分が見かけた人間のことが頭から離れなかった。

 そして、悶々と悩む零が宿に戻ったのと同時刻。この時に、事件は起こった。

 

「ピヨ……ポヨ?なんか違う……ピチュ?チュチュ?」

 

 この時、数分前に零の前から逃げ出したピヨモンは、親しみの湧くような語尾の開拓という無駄な努力をしていた最中だった。

 だが、そんな時、ピヨモンは見つけたのだ。自分に背を向けて歩いている、人間を。

 その人間は、先ほど零が発見した人間だ。そして、零が感じたのと同じように、その人間に対して不審を抱いたピヨモンは、その人間の後をバレないようにつけて行く。

 

「人間……怪しい!」

 

 いくらピヨモンが零や勇と仲良くできているからと言って、無条件で人間という種を信頼していたわけではない。零はここに来てからの日々で、勇はスカルグレイモンの暴走を止めたことで、二人は自分に害を与えるような人間ではないとわかっていたから、ピヨモンは仲良くしていたのだ。

 だが、目の前にいる人間はどういった人間なのか、ピヨモンにはわからない。もしかしたら、勇たちのようなタイプなのかもしれないが、もしかしたら、噂になっている人間なのかもしれない。

 前者であるならばともかく、後者ならばこの街全体の問題となる。だからこそ、確かめなければならない、とピヨモンは使命感に駆られていた。

 

「見るからに怪しい動き……!」

 

 追いながら、ピヨモンは人間を観察する。時折独り言を呟くこともあるが、もちろん相手に聞こえるほどの声量ではない。いかにピヨモンといえども、そんな初歩中の初歩のミスは侵さない。

 建物の影や木の後ろなど、隠れるようにして移動していく人間は、どうやらこの街の出入口の一つに向かっているようだった。

 

「出てくの……?」

 

 何もなく出て行くのならば、それに越したことはない。

 街の出入口へと向かっていく人間の姿を視界に収め、ピヨモンは内心で安堵の気持ちが湧き上がる。が、それは、ピヨモンの儚い期待でしかなかった。

 そう。この直後に事件は起こったのだ。

 

「……へぁっ!?」

 

 突然辺りを吹き飛ばす熱風。

 かなりの衝撃を持つその熱風を前にして、ピヨモンは奇妙な叫び声を上げながら吹き飛ばされてしまった。

 

「ネツぅううううう!今度はここを焼くのかぁ!」

「……あ、あれは……まさか!?」

 

 次いで、辺りに響き渡ったのは、野太い叫び声。

 地面に叩き付けられ、急激に上がった気温に焼かれながらも、ピヨモンは何とか起き上がった。そして、何があったのかを確認するためにも、その声の主を見て、ピヨモンは自分の中に湧き上がる戦慄を隠せなかった。

 そう。そこにいたのは――。

 

「あァ。ここにはつぇぇ奴はいねぇみたいだからな!やりたい放題だぜ?」

「よっしゃぁああああ!焼くぞぉおおおお!」

 

 そこにいたのは、先ほどの人間と、そしてもう一体。体中に鎖を巻き、青き炎に身を包んだデジモンがいた。

 ピヨモンはそのデジモンのことを知っている。見たこともある。だからこそ、戦慄していた。そのデジモンがデスメラモンと呼ばれる完全体デジモンであることを、知っていたからこそ。

 そして、彼らの会話、行動、狂気にも似た卑賤な笑顔。それらを見て、彼らこそが噂の人間であるとピヨモンは確信した。

 

「伝えなきゃ……!」

 

 だからこそ、ピヨモンは街のピンチを伝えようとゆっくりと歩きだして、だが、そんなピヨモンのことをこの人間とデスメラモンが見逃すはずもなかった。

 ピヨモンの存在に気付くや否や、デスメラモンはニヤリと嗤う。その表情は、まるで子供が新しい玩具をもらった時のようにも見えるが、もちろん彼らの思考はそんなこととは程遠い。

 

「……ネツぅ……こいつ、焼いていいか?いいよな?いいんだよな!」

「ったく。少しは考えろよ」

 

 まるで窘めるような、ネツと呼ばれた人間の言葉。

 その言葉に、ピヨモンは一筋の希望を抱いて――。

 

「いいに決まってるだろ」

 

 そして、その希望は即座に打ち砕かれた。

 絶望の表情を浮かべるピヨモンの様子がおかしくてたまらないとばかりに、デスメラモンは嗤う。嗤い続ける。彼が嗤うのをやめたのは、ハッとして何かを思いついたような顔をした時だった。

 まるで良いことを思いついたとばかりに嗤うそのデスメラモンだが、ピヨモンからすれば恐ろしいことこの上なかった。

 

「ネツぅ!いいこと思いついたぜ。どうせ雑魚しかいねェんだ。ちょっとくらい遊んだって……いいよなァ?」

「……おっ!いいな!最近は普通に焼くのも()()()()()しな!()()()()()にしたって、楽しくいかねぇとな!」

「だろォ?鬼ごっこなんかどうだ?」

「いいねぇ!」

 

 ピヨモンは、彼らが何を言っているのかわからなかった。いや、わかりたくなかったと言うべきか。

 ともあれ、逃げるのなら今のうちだ、とそう思ったピヨモンは怪我などお構いなしに走り出した。

 そんなピヨモンの後姿を、デスメラモンやネツは嗤いながら見つめて――。

 

「ほらほらァ!頑張って逃げろよ?鬼ごっこなんだからよォ!」

 

 そして、必死に走るピヨモンに当たらないように、デスメラモンはその口から火を噴いた。

 

「っ!あつっ……!」

「がはは!どうしたァ?それでしめェか?つまんねェぞ!」

 

 その後も、デスメラモンはまるで愉快そうに嗤いながら、火を噴く。だが、それのどれもがピヨモンに掠ることこそあれど、直接当たることはなかった。

 そう。ここまで来ればピヨモンにも彼らの考えが、わかりたくはないがわかってきていた。

 彼らは、ピヨモンを使って遊んでいるのだ。いや、ピヨモンだけではないか。

 

「ほらほら、雑魚ども逃げ惑えよォ!」

「きゃー!」

「火事だぁああ!」

「いや、襲撃だって……熱いっ!?誰か!助けて!」

 

 街は、いつの間にか阿鼻叫喚の事態となっていた。この街にいるデジモンは、もはや全員がデスメラモンの掌の上だった。今や、この街は彼らの遊び場となっていたのだ。

 デスメラモンの吹いた火が、街を焼き、そこに住むデジモンたちを害する。

 誰もが逃げ惑い、デスメラモンの凶火に焼かれ、倒壊した建物や倒れた木に潰れ、時には逃げることに疲れ、死に絶えていく。

 そんな中で、一生懸命に頑張っていたピヨモンにも、ついに限界が訪れていた。

 

「……誰か」

 

 ピヨモンはそう呟き、誰かの助けを求めたが、助けてくれるわけがない。この場の誰もが、他人のことを気にすることができないほどに、混乱しているのだから。

 

「おい、デスメラモン!あいつ、死にそうだぞ」

「ん?おォ!本当じゃねェか!んじゃ、最後は焼いてしめェにすっか!悲鳴もいいけどなァ……たまには一瞬で焼くのも悪かねェ!」

 

 倒れたピヨモンを見たデスメラモンが、大きく息を吸い込む。気合を入れているのだろう。より高温の火力で、ピヨモンを一気に焼くつもりなのだ。

 そして、そんな光景をネツは楽しそうに眺めている。彼らの脳裏には、次の瞬間の光景がありありと思い浮かんでいるのだろう。次の瞬間に、ピヨモンが青い炎に焼かれる光景が。

 だが、そんな彼らの予想に反するかのように――。

 

「……」

「んあ?誰だオメェ?」

「へぇ……?」

 

 そんなネツとデスメラモンの前に、どこか不機嫌そうな零が立ち塞がった。

 




というわけで、第七十八話。
この数話は勇の話と思わせて、実は零の話でもあったことが発覚しました。
ついでに、今回登場の噂の人物。
実は第四章くらいから噂になっていた人物ですね。ようやくの登場です。

さて、次回は続き。零が現れた理由。そして、前話の最後に繋がります。

それでは次回もよろしくお願いします。
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