【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
ネツとデスメラモンの前に立ち塞がった零。そんな彼は、ともすればピヨモンを庇ったようにも見える。いや、事実、零はピヨモンを庇うために立っていた。
「人の獲物横取りする気か?それとも正義の味方気取りか?お前も暇な奴だなー」
「……」
零がこの件に気付いたのは、先ほどだ。
街は火に包まれて、襲撃云々といったことがデジモンたちの間で叫ばれていた。最近は鳴りを潜めたとはいえ、デジモンを憎んでいて、デジモンを滅ぼそうとしたこともあった零だ。街が襲撃されようと興味はなく、面倒事に巻き込まれる前に、さっさと退散しようとすらしていた。
それが、どうしてこんなことになったのか。なぜ、こんな行動をしているのか。それは、零自身にもわからなかった。
「うるさい」
「はぁ?ガキのくせに年上に対する扱いがなってないな!敬語を使え、敬語を!」
ただ、倒れ伏し、ボロボロになったピヨモンが記憶にある誰かと重なった気がしただけ。それだけで、零の体は勝手に動き出していた。
そう。勝手に、だ。先ほども言ったが、今の零は自分で自分のことがわけわからなかった。だからこそ、わからないその何かに振り回されている感じがして、零は不機嫌になっている。
「おい!ネツぅ!こいつも焼いていいのか!?」
「待て待て。で、本当に何のつもりだ?場合によっちゃお兄さん、手加減しないよ?」
「玩具をもらって振り回しているだけの奴が偉そうに言う」
「はぁ!?ああ、そうか。お前、中二病って奴か!正義の味方ぶって、偉そうに説教したいんだよね。わかるわかる。そういう時期、お兄さんにもあったわー」
見た目が年下ということもあって、ネツは零のことを下に見ているのだろう。からかうような、見下したような、子供と話すような口調でネツは話している。
そんなネツの感じが、なおのこと零には気に障った。そもそも、その中二病とやらを零は知らない。名前からして病気の類なのだろうが、そんな病気に罹った覚えはない。ただ、からかいを含んでいる口調からして、侮蔑の呼称か何かであるということだけは零にも感じられて、余計に零の気に障る。
ついでに言えば、正義の味方ぶったつもりもなければ、説教するつもりも零にはない。
「でもさぁ。そういうのって、時と場を選ばないといけないよね?」
「……何が言いたい?」
「わからない?いくらゲームの中でもさ、そういうネットマナー的なのは守らないといけないって話だよ」
ネツの言っていることは、一貫性がない。その諭すような雰囲気から正論のようにも聞こえるし、実際に言葉だけ見ればそのほとんどが正論なのだが、この状況では的外れな言葉だ。
そんなことを言うネツを前にして、零はしっかりと気付いていた。目の前にいるネツは、ただ自分だけが楽しみたいがゆえに、“らしい”ことを言っているだけだということに。
「……ゲームの中?何を言っている?」
「あれ!?君、あの声の言っていたこと本気で信じてたの!?ああーだから、怒ってるのかな?それとも、やっぱりそう言う感じがいいのかな?」
「……」
「ま、いくらこれがルールなしの何でもアリなゲームでもさ。ムカつく行動をするなって話。だけど、そっちがその気なら、そういうのもいいよ」
はっきり言って、零にはネツがただの阿呆に見えていた。
しかも、ネツの言葉が、ネツの口調が、ネツという存在すべてが、零を余計に苛立たせる。零の中のストレスは、もはや限界まで溜まっていた。
まあ、だからというわけではないが――。
「そうか。そう言うのがいいのか」
「おっ!?やる気?まいったなー人間同士でやるのはなー気が進まないんだけどなー」
零が売られた喧嘩を買ってしまったのも、仕方ないことかもしれない。
零の殺る気を感じ取ったのだろう。ネツはその言葉とは裏腹に嬉しそうな顔で、デスメラモンを見る。デスメラモンも、そんなネツに感化されたのか、殺る気満々のようだった。
「さっ……早く君のパートナーを出しなよ。待っててあげるからさ。お兄さんも待っててあげるから」
「俺にパートナーデジモンなどいない」
「はぁ?嘘はいけないよ。そんな訳ないじゃん」
「……信じようと信じまいと勝手にしろ。だが、お前らは俺が殺す」
「へぇ?……デスメラモン!」
「おォ!惨たらしく焼け死ねェ!」
この世界にいる人間としては嘘としか思えない零のその言葉を前に、面白そうな顔をしたネツは、デスメラモンに合図を出す。
それと同時に、デスメラモンは青い火を噴いた。その青き火は、真っ直ぐに零へと向かって行って、そして零に寸分違わず着弾。その衝撃で、零の後ろにあった家も倒壊。零はその家の崩壊した瓦礫に見えなくなった。
「ちょっ!デスメラモン!?オレはそこまでやれと言ってないぜ!?」
「あァ?別にいだろうが。どうせ最後はこうなるんだからなァ」
瓦礫の中に見えなくなった零を前にして、ネツは慌てたようにデスメラモンに詰め寄った。ネツとしては、見え透いた嘘を付く零を少し脅そうと思っただけだったのだ。
だというのに、デスメラモンは零に直接攻撃をして、瓦礫に埋めにしてしまった。金属をも溶解させる火に焼かれ、瓦礫に埋もれ。これでは、どんな人間でも生きてはいないだろう。
「これっ……死んでっ……!」
「おいおい……今までだってもっと惨たらしい殺し方したじゃねェか。あァ。もっと酷い殺し方がお望みだったってか?」
だからこそ、ネツは焦っているのだ。ネツは、デジモンたちならともかく、
とはいえ、結果的に言えば、ネツの焦りは必要なかった。なぜなら、零はまだ死んでなかったのだから。
「これで終わりか……?」
「は……?なんでお前生きて……!?」
瓦礫を押しのけて、さらに火に焼かれたままで、健在の様子を見せつける零を前に、ネツは驚きを隠せない。もはや口調を取り繕うこともできず、ネツは零をバケモノを見るような目で見ていた。
とはいえ、まあ、目の前でそんな光景を見れば、ネツのそんな反応も仕方のないことだろうが。
「……失せろ」
「は?」
「邪魔だから、さっさと失せろと言っている」
これから本格的に戦う。そのことを意識した零は、自然とそんなことを呟いていた。もちろん、ネツやデスメラモンに言った訳じゃない。零がこの言葉を言ったのは、先ほどからボーっと零のことを見ているピヨモンに対して、だ。
先ほどから零のことをハラハラと心配しながら見ていたピヨモンは、その言葉を聞いても不安しか抱けなかった。だが、零の常識外の防御力を見て、自分がいる方が足でまといになると悟ったのだろう。ピヨモンは、駆け出して逃げていった。
とはいえ、そんなピヨモンのことなどキレイさっぱり忘れていたネツとデスメラモンにとっては、勇の言っていることは、意味不明。自分に向けられたものだと勘違いするのも無理はないだろう。
「ハァ?今更そんなこと言っちゃうわけ?」
「お前に言ってるんじゃない。そんなこともわからないのか?」
「……っ!?言ってくれんじゃん……クソガキ」
零の馬鹿にしたような言葉を前にして、ネツは怒りに震える。
一方の零は、再度自分のしでかした無意識の行動に対して、疑問を抱いていた。なぜあんなことを呟いたのか、と。別に零はピヨモンがどうなろうと知ったことではなかったはずであるのに。
「もうどうなっても知らねぇぞ!デスメラモン!コイツを死なない程度に痛めつけてやれ!」
「はっ!焼き殺してやればいいだよ!」
とはいえ、零がそんな疑問に囚われていようといまいと、ネツたち二人が待ってくれるはずもない。特に、ネツは零が散々煽ったせいで、激怒している。誰にでもそれがわかるくらい、今のネツは人を殺しそうな目をしていた。
そうして、ネツのオーダーを受けたデスメラモンが、再度青い火を噴く。それは、先ほどと変わらぬ光景。その火が零を包む光景も変わらなくて――。
「は?」
「何だァ?」
だが、その青い火を吹き飛ばして、零がキメラモンの姿になったというそれだけが、先ほどと変わったことだった。
目の前にいた人間が、いきなりいろいろなデジモンをごっちゃまぜにしたようなデジモンに変わったことに、ネツもデスメラモンも驚きを隠せない。驚きのあまり、口を開けたままで呆然としてしまった二人だが――。
「ああ!どうりでウザイと思った!そうか!ボーナスステージってやつか!」
「ハッ!いいぜェ!殺り甲斐がありそうじゃねぇか!」
どうやら、驚きもほどほどに、ネツたち二人は自分の中で勝手な理由付を済ましてしまったようである。
愉悦を持ってデジモンたちを殺し回っていたネツとデスメラモン。復讐心を持ってデジモンたちを殺していた零ことキメラモン。
かくして、見かけの部分では似ていて、されど心の部分では全く違う者たちの戦いが始まった。
そんな零の一方で、ピヨモンはひたすらに走っていた。
その際、ピヨモンは生きているデジモンを一人も見かけなかった。とはいえ、この街に住む全員がデスメラモンにやられたとは考えにくい。
おそらく、生き残っていたデジモンたちは緊急避難場所に逃げたか、それか自力でこの街から出て行ったかのどちらかだろう。
そう信じて、自分も逃げるために足を動かしていたピヨモンは――。
「……ぅ……」
胸に鈍い痛みを感じて、足を止めた。
鈍い痛みを感じてはいたが、この痛みは自分の怪我の痛みでないことをピヨモンはわかっていた。そう。ピヨモンは、先ほど自分が見捨ててしまった零のことを思い出して、罪悪感に苛まれているのだ。
もちろん、零の事情を考えれば、ピヨモンの零を置いて逃げたという選択は悪いどころか、良い選択でしかない。
だが、零がキメラモンになれることを知らないピヨモンにとっては、あの時に逃げてしまったことは、零を見捨てたことになってしまっている。だからこそ、ピヨモンは罪悪感に苛まれているのだ。
「誰か……!」
つい先ほどに言った言葉を、もう一度ピヨモンは繰り返す。
自分では、あのデスメラモンに勝てない。そんな自分があそこに戻るのは、単なる自殺願望でしかない。だが、このまま逃げ出して零を本当に見捨てるような真似もしたくない。
そんな、さまざまな思いが胸に去来する中で――。
「……っ!そうだ!勇さんなら……!」
ピヨモンは思い出した。今日出会ったばかりの、人間の少年のことを。
スカルグレイモンという不確定要素はあるが、勇ならきっと助けてくれる。そう思って、ピヨモンは森へと向けて再び足を動かし始めた。
その目には先ほどまでにはない希望で満ち溢れている。その希望を信じるあまり、今のピヨモンは怪我の痛みも気になっていなかった。
「勇さん……!」
生い茂る木々を抜けて、ひたすらに走り続けるピヨモン。
とはいえ、ピヨモンは勇の居場所を大まかにしか知らない。先ほどと同じ場所にいるとは限らないからだ。もしいなかった場合、ピヨモンは、走り回って探すしかない。
だからこそ、先ほどと同じ場所にいることを願って足を動かすピヨモンは、そしてたどり着く。
「……!いた!」
木々を抜けた先に見えたのは、白い巨大な骨の一部。間違いない。勇と共にいたスカルグレイモンの体だ。
そして、無事に見つけられたことに対する安堵の気持ちを抱きながら、ピヨモンはそこへと駆け込んで――。
「たっ助けてください!」
「グァアアアアアアア!」
「ちょ、スカルグレイモン止めろ!」
ピヨモンは、再びスカルグレイモンに襲われた。
まあ、勇以外のすべてが倒すべき敵であるスカルグレイモンにとっては、突然目の前にちょうどいい相手が出てきたのだ。条件反射で襲いかかってしまったのも仕方ないこと。
そうして、突如として暴れだしたスカルグレイモンを、勇が何とかして止めることができたのは、この数分後の話で。
「はぁっはぁっ……あの……はぁっ……助け……はぁっ……て……」
「いや、だから助けたぞ?」
その間、ピヨモンは再び死にかける羽目になっていたのだった。
何と言うか、スカルグレイモンの時といい、デスメラモンの時といい、スカルグレイモンの時といい、今日のピヨモンの運は最底辺を行っているとしか言えない。
ともあれ、何とかして助かったピヨモンは、必死に零のことやデスメラモンたちのことを伝え、助けを乞おうとする。が、息絶え絶えな今のピヨモンは、話せるようになるくらい落ち着くまで、さらに数分を要した。
「はぁっ……はぁっ……ふー……って!違う!」
「いや、だから何がだ?」
「違うんです!街がっ襲われてっ!噂の人間が襲ってきて!零が逃がしてくれて!ああ、もう助けてよ!」
未だ混乱している。そう言うしかなかった。今のピヨモンは敬語もろくに話せていない。
話せるくらいまで落ち着いたらしいピヨモンだが、あくまで話せるようになっただけで、精神的には未だ混乱しているらしいかった。数度に渡って死にそうになった経験は、さすがに数分では消し去ることができないようである。
とはいえ、混乱していて、支離滅裂な言葉でも、勇はおおよそのことを把握できたようだ。その顔には事の重大さがわかったがゆえの緊張があった。
「街が……!みんな避難しているのか!?」
「う、ん!たぶん!零が……だけが!」
「それなら……わかった!スカルグレイモン!」
「グアァアアアアアアア!」
避難があらかた済んでいるというのならば、懸念することは“あまり”ない。だからこそ、勇はピヨモンを背負って、スカルグレイモンに声をかけた。
勇の声に従って、スカルグレイモンが咆哮する。勇の命令だからか、それとも暴れられることがわかったのか、スカルグレイモンのその咆哮はいつになく気合が入っているように感じられる咆哮だった。
「頼むぞ……!」
「グァアアアアアアア!」
「おっお願い!」
そうして、勇とピヨモンをその手に乗せたスカルグレイモンは、森の木々を薙ぎ倒しながら、文字通り一直線に街を目指すのだった。
というわけで、第七十九話。
今回の話で前々話の最後に繋がりました。
さて、次回は零の戦闘ですね。
果たして勇は間に合うのか!?
それでは次回もよろしくお願いします。