【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第八十話~無謀な戦い~

 勇たちが街へと向かい始めたその頃。

 

「はぁっぁぁああ!」

「おらァっあァ!」

 

 零はキメラモンへと変化した状態で、デスメラモンと戦っていた。

 戦況的には、五分というところだろう。初めは人間がデジモンになるという特異な現象に驚いて、うまく戦えていなかったデスメラモンも、今やキメラモンと互角の戦いを繰り広げている。どうやら、すっかり元の調子を取り戻したようである。

 

「さっさとやっちまぇよ!ボス戦だぞ!」

「わかってるよ!こんな燃やし甲斐のある奴に負けてたまるか!」

「っち……!」

 

 デスメラモンは、戦闘が始まった頃は驚きによって本調子ではなかった。

 それの示すところはつまり、キメラモンは戦闘開始時は有利に事を運べていたということ。だが、裏を返せば、デスメラモンの調子が元に戻ってくるにつれ、相対的に互角にまで落ち込んでしまったということでもある。

 ある意味仕方ないことではある。だが、なまじ戦闘開始時が上手くいっていたせいで、キメラモンはそのことにストレスを抱いてしまっていた。

 

「はっ!いいねェ!てめェみたいな奴は初めてだ!」

「……少しはそのうるさい口を閉じろ!」

 

 貯まり始めたストレスのままに、キメラモンは自身の四つの拳をデスメラモンに叩きつける。一方で、デスメラモンは自分に迫り来る四つの拳をひらりと舞うように躱した。

 まるで遊ばれているようだ、とキメラモンは内心で思う。いや、事実として遊ばれていたのだろう。デスメラモンのニヤニヤとした気持ち悪い笑みを見れば、一目瞭然だ。だからこそ、キメラモンは余計にイライラして、ストレスが溜まっていく。

 

「無駄に頑丈!無意味に強い!……が、致命的に弱い!これ以上なく燃やし甲斐があるってもんだ!」

「……黙れ」

 

 まるで必死に戦うキメラモンを嘲笑うかのようにデスメラモンは言う。いや、嘲笑っているのだ。目の前で必死に戦っているキメラモンのことを。自分はキメラモンには負けないとわかったが故に。

 一方で、デスメラモンがそう悟ったことを見抜いたからこそ、キメラモンは先ほどにも増して余計にストレスが溜まっていく。もはや、キメラモンの理性は蒸発寸前。後一歩で“キレる”だろう。

 

「つくづく俺をイラつかせる」

「ハァ!?こっちはてめェをイラつかせてんだよ!」

「……」

 

 正直に言えば、先ほどデスメラモンの言ったことは当たっている。

 キメラモンは完全体の中でもそれなりに強い方だ。そのスペックだけ見れば。だが、そのキメラモンの中身は零であり、零は弱い。精神、技術、経験、その他諸々が。

 つまり、デスメラモンが指摘したのは、零はキメラモンの強さを活かせていないということであり、以前にもそこをつけ込まれることが多々あった。

 まあ、零自身は不機嫌さと溜まっているストレスのせいで、デスメラモンの言っているその事実を客観的に判断し、認識することができていないだろうが。

 

「どうしたァ?ビビったか?それとも後悔してるかァ?がはは!クソガキがァ!」

 

 とはいえ、いい加減にそろそろキメラモンも限界だった。

 理性が蒸発するほどに“キレた”行動をする訳ではない。だが、溜まったストレスを発散するように、不機嫌さを解消するかのように、キメラモンは感情のままに動くことに決めた。

 

「殺す……!“ヒートバイパー”!」

 

 直後、殺意を込めてキメラモンが四本の腕から放ったのは、死の熱線。キメラモンの必殺技だ。くらえばデスメラモンもただでは済まないだろう威力のもの。

 だが――。

 

「おっと。危ねェな」

 

 だが、デスメラモンは躱した。まるで、それを躱すことなど何でもないほどに簡単であるかのように。というか、事実簡単だった。頭に血が上ったキメラモンが感情のままに放った技の軌道を予測し避けることなど、デスメラモンには本当に何でもないほど簡単だったのだ。

 とはいえ、頭に血が上ったキメラモンは、そんなデスメラモンのしたことに気づけない。キメラモンには、デスメラモンが自分の必殺技を軽々と躱したようにしか見えなかったのだ。そして、だからこそ、キメラモンは余計に腹が立つ。

 

「……!避けるなっ!“ヒートバイパー”!」

「よっと。無茶言うなよォ」

 

 頭に血が上ったまま、必殺技を乱発するキメラモン。

 そんなキメラモンとは対照的に、デスメラモンやその戦いを観戦するネツは冷静だった。戦いが始まる前にはいろいろとあったネツでさえ、戦いが始まった後は冷静に戦況を見守っていた。

 どうやら、この二人は物事の捉え方や切り替えが上手いようである。それこそ、この街のデジモンたちにしていた“虐殺”という名の“お遊び”とキメラモンとの“戦い”という名の“お遊び”を冷静に違うものとして分けられるくらいには。

 

「威力高そうだからな!もっと気合を入れて避けろよー!そんなんじゃ当たるぞー!あ、腕なー!」

「はっ!うるせェ!」

 

 そうして、戦況を客観的に見続けたネツは、軽い口調でデスメラモンにヤジを飛ばす。

 そんなネツの言葉を聞いて、デスメラモンも嬉しそうに返していた。

 二人は、この戦いという名の遊びを楽しんでいる。これが戦いであることを理解しながらも、命懸けではないと判断している。だからこそキメラモン“で”遊ぶ余裕がある。

 そんなこの二人の場違いな雰囲気が、なおのことキメラモンは気に障って――だからこそ、キメラモンは気づけなかった。先ほどのネツの言葉の中にあった、重要な一言に。

 

「“ヒートバイパー”!」

「はっ。なるほどな!」

 

 何度目になるかもわからないキメラモンの熱線を躱したデスメラモンは、何かに納得したかのように呟いた。ニヤニヤと気持ち悪い笑みも同時に浮かべている。

 そんなデスメラモンが何を考えているのか、不機嫌になっていて冷静さを失っているデスメラモンは気づけなかった。だからこそ、不用意にそれをしてしまった。

 

「いい加減に死ね!“ヒート――!」

 

 そして、再びキメラモンが熱線を放とうとしたその瞬間に、デスメラモンは動く。

 

「もう喰らうかよォ!“へヴィーメタルファイアー”!」

「――バ……なっ!?」

 

 デスメラモンが放ったのは、自身の必殺技。体内で溶かした重金属を敵に吐きかける技だ。

 絶妙なタイミングで放たれたデスメラモンの攻撃。攻撃を放とうとしていた瞬間の僅かな隙を突かれたキメラモンに、それを躱すことはできなかった。

 高温の液体となった金属が、キメラモンに降りかかる。

 デスメラモンのその技の威力は、キメラモンのそれのように高威力だったわけではない。キメラモンを一撃で倒すことができるほどのものではなかった。

 

「っく……!」

 

 だが、その体に降りかかった溶けた重金属によって、キメラモンの体は焼け爛れてしまっている。さらにキメラモンを襲う、全身を削られるかのような鈍い痛み。

 さすがは完全体の必殺技と言うべきか。痛みを無視すれば、戦闘も可能だろう。だが、キメラモンにそこまでのことはできなかった。これでは平時と同じような戦い方は不可能であるし、先ほどまでのような必殺技乱発のような戦い方も不可能だ。

 

「あはは!本当に間抜けだ!ほんっと弱いな!本当に良い経験値だ!」

「……お前!」

「しっかし、ネツはよくわかったなァ!」

「そりゃ、お前が脳筋だからだ!中ボスは倒しやすいようになっているのが当然だからな!どこかに倒しやすい弱点があるもんさ!」

「へェ……わっかんねェな」

 

 ネツとデスメラモンは勝ちを確信しているのだろう。気楽に会話している。

 実は、先ほどのデスメラモンの攻撃は、ネツのアドバイスに従って放たれたものであった。

 ネツは、キメラモンが必殺技を放つ時、微妙に腕の動きが変わる予備動作のような癖があることに気づいていたのだ。だからこそ、そこを突けとアドバイスした。

 予備動作があるのならば、それに対応することなどデスメラモンには簡単なこと。キメラモンはそのアドバイスに従って、攻撃。

 その結果として、ネツの予想した通りに、キメラモンはデスメラモンの攻撃を喰らう結果となった。

 

「殺す!」

「はっ……ゆっくりと燃やしてやるよォ!」

 

 ネツの語った言葉の中にあったアドバイスに気づけず、高威力というだけの癖付きのわかりやすい攻撃を連発していたキメラモンだ。中ボスだの、倒しやすいだの、ネツたちに散々言われても仕方がない。

 だが、それで納得できるかというと別問題である。キメラモンには、我慢の限界が来ていたのだ。だからこそ、先ほどよりも殺気立ってネツたちを睨むが、その身に負ったダメージのせいでうまく動くことができていない。

 

「おらァ!」

「ぐぅ!」

 

 そんなキメラモンの顎に、デスメラモンの炎を纏った拳が突き刺さる。

 キメラモンの頭はその特徴上、その体の中で最も硬い部位の一つであるが、そんな硬さをもってしてもそれなりのダメージがあったほどの殴打。一瞬、キメラモンには星が見えた。文字だけ見れば、よく漫画であるようなコミカルな感じなのだが、実際はそんな感じではない。殴打された瞬間に、真っ白になった視界。キメラモンには、正しく星が目の前に現れたように見えていた。

 とはいえ、だからといってキメラモンも黙って殴られたままで済ますつもりはない。体中から感じるジクジクとした痛みに顔を顰めながらも、キメラモンも四つの拳を突き出した。が、痛みのせいか、やはり動きが鈍い。

 

「そんなヘナチョコパンチを喰らうかよォ!さっさと燃やされろォ!」

「ぐぅううう……舐めるなァっ!」

「はっ!いいねェ!抵抗されると余計燃やし甲斐を感じるぜェ!」

「おーい、さっさと燃やしちまえよー!」

 

 後ろから飛んでくるネツの呑気な声。そんな声を出している辺り、やはり勝ちを確信しているとしか思えない。が、まあ、それも仕方ないことだろう。

 キメラモンには大ダメージを負っていて、さらに動きが鈍い。一方で、デスメラモンはまだ一撃もまともに受けておらず、健在状態。

 どちらが有利か不利かなど一目瞭然。とはいえ、窮鼠猫を噛むという言葉もあるように、勝ちを確信するには早すぎるが。

 

「……それじゃァ!これでしめェだ。いい声でわめいてくれよォ!」

「おぉおお!行けいけ行けェ!」

「……っく!」

 

 トドメとばかりに、全身の炎を激しく燃焼させるデスメラモン。

 そんなデスメラモンに対して、負けてたまるかという反抗の意思を見せているのだろう。キメラモンは、鈍い動きながらも動き、そしてデスメラモンのことを睨んでいた。

 そんな両者とは対照的に、いよいよこの戦いの最後を感じ取って、ネツはテンションを上げていく。凄い浮かれようである。きっと、今のネツの心境は、強敵を打ち破り、新たなステージへと向かうことを期待してゲームをプレイする少年のような心境だろう。

 だが、そんなネツは――いや、この場の誰もが、目の前にあることに精一杯になっていたが故に、気づけなかった。地鳴りと共にこの場に近づいてくる足音に。

 

「やれ――っ!?」

「グギャァアアアアアアアア!」

 

 乱入してきたのは、その腕に勇とピヨモンを乗せたスカルグレイモンだ。

 いきなりの乱入に驚く面々を無視して、スカルグレイモンはデスメラモンを力一杯に殴り飛ばす。

 その瞬間に、戦いの邪魔になってはいけないと思って、勇とピヨモンはスカルグレイモンの腕から地面に飛び降りた。

 

「おい!デスメラモンが敵なんだよな!?アイツは……?零って奴は……!?」

「きききキメラモン!?」

 

 飛び降りた勇は、すぐさま助けようとしていた零のことを探したが、いるのはキメラモンだけ。ピヨモンにどうなっているのかと聞いても、当のピヨモンはキメラモンに対する恐怖があるのか、震えていて話にならない。

 勇たちはこの場に乱入した側であるが、この事態の把握ができず、混乱していた。

 一方で、スカルグレイモンの乱入によって多少冷静になったキメラモンは、自分の獲物を取られたことにイラつきながらも、デスメラモンを圧倒するその姿を見て零の姿へと戻った。自分の存在など必要ないとわかったが故に。

 

「キメラ……って零?え?零!?」

「他の誰に見える?」

「えぇ!?零がキメラモンで、キメラモンが零で……え?ぇええええ!?」

「っち。うるさいな」

「コイツが零なのか?」

「なななんで勇は驚いてないの!?」

「いや、ただの人間なのにデジモンと素で戦える人を知ってるからな。今更デジモンが人間になったくらいで驚かないよ」

 

 デジモンが人間になる。そんなトンデモ現象を前にして、ピヨモンは大混乱している。一方で、勇はどこか遠い目をしてその現実を受け入れていたりもするのだが。

 そんな二人を見て、鬱陶しい奴らだ、と零は余計にイラついていたりもした。

 

「っち。まぁいい。なんで戻ってきやがった……?」

「だって、零が危ないから……!」

「くそっ。余計な世話を……!」

「なによ!やられそうになってたくせに!」

 

 確かに、デスメラモンに零はやられそうになっていた。客観的に見れば、零は助けられたことになるだろう。それでも、零は助けられたことを認めたくはなかったし、礼を言うつもりもなかった。それは、零のプライドが許さなかった。

 一方で、そんな素直ではない零に対して、ピヨモンは若干の怒りを抱いていた。

 まあ、確かに、零は助けてなど言ってはいないし、全部ピヨモンの勝手にしたことではあるが――曲がりなりにも危険な場に助けに来た身として、そんな言い方をされてしまえば腹が立つのも仕方のないことだろう。

 

「そういうのを好意の押し付けとか、偽善とか言うんだよ」

「むきー!そんなんだから友達少ないのよ!」

「別に友達を必要とした覚えはない」

「……まぁまぁ。落ち着いて」

 

 傍から見ていて険悪な、それでいてどこか慣れた風にも見えるやり取り。

 この二人の仲が良いのか悪いのかは、付き合いの浅い勇にはわからないことだったが、とりあえず勇は二人を落ち着けることにした。

 

「……お前は」

「オラは日向勇!こんな時で難だけど、よろしくな!」

「零だ。よろしくするつもりはない」

「あはは……」

「……おい、勇。あれはお前のパートナーか?」

「ああ。今ちょっと大変なことになっちまってるけど、オラの大切なパートナーだ」

「そうか」

 

 スカルグレイモンを見つめる勇のその目にも、勇の語るその言葉にも、そのすべてに惜しみない全幅の信頼が込められていた。

 それがわかったからこそ、零はデスメラモンと戦うスカルグレイモンの姿を複雑な表情で見つめていて。

 

「……そうか」

「……」

 

 そうして、複雑な表情でそう呟く零の後ろ姿を、ピヨモンも同じように複雑な表情で見つめていたのだった。

 




夏休みを最大限に利用してストックを貯め続け、そろそろクライマックスが視野に入ってきたこの頃。
プロットは決まってるはずなのに、そこまでの道が見えずに悩んでいます。
どうしても……なんか足りない気がするんですよね。

とまあ、そんな自分の愚痴はともかくとして……そういうわけで、第八十話。
相変わらず弱い零くんの戦闘シーン回でした。そろそろキメラモンが可哀想になってきましたね。
彼がはっちゃける日はいつか来るのでしょうか……?

さて、次回はスカルグレイモンの戦闘シーン回ですね。
そろそろこの章の終わりも見えてきました。

それでは次回もよろしくお願いします。
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