【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
勇と零が出会ったその頃、スカルグレイモンとデスメラモンは激戦を繰り広げていた。
「グギャアアアアアア!」
「おらァあ!燃えろォ!」
迫り来るスカルグレイモンの太い腕。
それを、デスメラモンは躱す。そして、躱した瞬間に、彼は自慢の炎でもってスカルグレイモンを焼こうとした。が、その炎は効果をなさなかった。
いや、正確に言えば効いてはいる。だが、その効果があまりにも小さなもので、効いていないのも同然だった。
そんな現状に、デスメラモンは内心でムカついていた。確かに、デスメラモンは何かを燃やしたい願望がある。それが燃やし甲斐のあるものならば尚更。だからこそ、強いデジモンを燃やしたいとは思っている。
「っく!てめェみたいな
だが、デスメラモンは燃やしたいだけなのだ。それだけを求めているのだ。だからこそ、自分の力では燃やすことができないような、強“すぎる”デジモンには興味がない。
そういう意味では、零ことキメラモンはデスメラモンにとって絶好の獲物だったと言えるだろう。完全体という強いデジモンでありながら、その割には弱いキメラモンは。
逆に強すぎて、かつ痛みを感じていないような感じさえあるスカルグレイモンは、デスメラモンにとってこれ以上ないくらいに戦う意味の感じられない相手だった。
「……中ボスと戦ってたらラスボスが乱入してきたって感じかよ!?いい加減にしろ!スカルグレイモンなんて、勇気の奴だけで十分だっての!」
「言ってる場合かァ!ネツゥ!何とかしやがれ!」
「わかってるよ!弱点はむき出しの胸部だ!だけど気をつけろ!」
「あいよォ!」
キメラモンの姿は見えないが、逃げたのではないのならこの場にまだいるはずである。そのことを考えれば、ネツでさえ撤退は厳しいと判断するしかない。
とあれば、ネツたちがこの場を切り抜けるためには、デスメラモンがスカルグレイモンを倒すというのがいい。のだが、
「……くそっ!わかりやすい経験値はやっぱり罠だったのか!?やっぱ地道にやってくのが正道とでも言うのかよ!」
理不尽な現状に愚痴りながら、ネツは必死に頭を動かす。
確かに、撤退も打倒も難しい。だが、ここで負けるということはすなわちゲームオーバーになるということ。そう思っているからこそ、ネツは頭を動かし続け、その戦闘を見続け、決定的な何かを探し続ける。
「こんな楽しいゲーム……ゲームオーバーになってたまるか!負けるなよ!デスメラモン!」
「誰が負けるかァ!」
「グギャァアアアアアアアア!」
咆哮する外見バケモノなスカルグレイモンに、不屈の心で立ち向かうネツとデスメラモンは、傍から見ていれば勇者のようにも見える。が、その背後にある事情を考えれば、はたしてネツたちが勇者と言われるに相応しいかどうかなど、わかりきったことでもあった。
「そうだ……溜め続けろ!」
「はっ……なるほどなァ!“ヘヴィーメタルゥ――」
名案を思い付いた。そんな明るい声色でもって告げられたネツの言葉に、ハッとなって何かに気づいたデスメラモンは、すぐさまそれを実行に移す。
ネツの言葉通りに、デスメラモンは自身の体内で溶かした重金属を速攻で吐き出さず、ひたすら体内に溜め続けたのだ。
「――ファイアー”!」
そうして、限界まで溶かした重金属を体内に溜め続けたデスメラモンは、頃合いを見て自身の必殺技を再度放つ。限界まで溜め続けただけあって、デスメラモンの口から吐き出された重金属の量は、先ほどキメラモンに吐き出した時の量の比ではないほどに多かった。
そんな大量の溶けた重金属がスカルグレイモンめがけて殺到して――。
「……!グギャァアアアアアア!」
スカルグレイモンも、その技には脅威を感じたのだろう。その太い腕で防御の姿勢をとる。
だが、はっきり言って
しかも、迫り来る重金属は溶けたもの。つまりは液体だ。防御に隙間があるのならば、そこからその奥へと侵入することだってある。
つまり。
「グガギャァアアアアア!」
つまり、高温かつ液体のそれは、スカルグレイモンの腕をすり抜けたのだ。すり抜けた重金属は、その勢いのままに、スカルグレイモンの胸部へと付着する。そう。むき出しの心臓部があるその胸部へと。
さすがのスカルグレイモンもこれは痛かったらしい。その咆哮は、いつもと同じながらも、どこか苦しみのようなものが混ざっていた。
「グガギャッギャァガアア!」
「はっ……ざまあみやがれェ!燃やし甲斐のない奴だと思ってたが……存外にいい声で叫ぶじゃねェか!」
「勝った……のか!?」
苦しみにのた打ち回るスカルグレイモンの姿を前に、肩で息をしながらニヤリと嗤うデスメラモン。トラウマを植え付けられたほどの相手に、勝つことができた喜びを隠せないネツ。
目の前の光景に、二人はそれぞれの仕方で喜びを露わにして――。
「スカルグレイモン!今だ!」
その直後に二人の耳に届いた、聞き慣れているようで聞き慣れぬ声。その声にハッとなった時には、もう遅かった。
ネツとデスメラモンの二人が最後に見たのは、自分たちめがけて振るわれた巨大な拳。そして、怒りに染まったスカルグレイモンの瞳だった。
「がっ……ちきしょう……!やりやがったなァ!」
「くそ……ゲームオーバー……かよ……」
衝撃。そして、轟音。
訳も分からずにネツたち二人は吹き飛ばされて、気絶した。
スカルグレイモンの拳を直接喰らったデスメラモンは、死んではいないようだが重体。
一方のネツも、発生した余波で吹っ飛ばされた。しかも、受け身も取れずに地面にたたきつけられたのだ。肋骨が何本か折れているだろう。
それがこの戦いの結末だった。
「ふぅう。悪いな。無茶させちゃって」
「グルアアアアア」
そうして、ネツとデスメラモンの様子を確かめた勇は、スカルグレイモンの労をねぎらう。そんなスカルグレイモンの声は、進化してから最も厳しいもののように感じられて。
正に肉を切らせて骨を断つとしか言いようのない無茶苦茶な作戦を立てたことを責めているのかな、と。
そう思った勇は、スカルグレイモンに申し訳ない気持ちを抱きながらも、同時に久しぶりに感情の通ったコミュニケーションをとれた気がしていた。悪いとは思いつつも、少しだけ嬉しくなっていたのだ。
とはいえ、理性が失われているスカルグレイモンがそう思うことなどないということは、勇もわかってはいるのだが。
「ピヨー!?」
「どうかしたのか?」
だが、そんな時、背後でピヨモンの叫び声が聞こえて、勇は慌てて振り返った。
まさか、まだネツやデスメラモンが無事だったのか、と。そう僅かに緊張感を抱きながら。
そうして――。
「いない!」
「……はい?」
そうして、バッと勢いよく振り返った勇が見たものは、驚き悔しがるピヨモンの姿だった。
何かあったのだろうか、と。特に問題の見当たらないその光景に首を傾げながらも、一瞬の間を置いて勇は気づいた。そこにいたのは、ピヨモンだけだということに。
「零がいないのよ!」
「ああ……そういえば……!」
そう。零の姿がどこにもなかったのだ。
実は、零はスカルグレイモンがデスメラモンを倒したその瞬間に、もう用はないとばかりに彼はこの場を去っていっていたのである。
そのことに、ピヨモンは今更ながらに気づいたのだ。零と親交があったというだけあって、何の言葉もなく去られたのは予想通りでもあったのかもしれない。
だが、それでも、ピヨモンはずいぶんと悔しそうだった。
「まぁ、いつか会えるって」
「……絶対会えない……っていうか、向こうが会おうとしない気がする」
「あはは……」
零はわかりやすい性格をしているというのか。なかなかどうして、勇も零の気難しさについては先ほどの一瞬の会話で悟ったようである。ピヨモンの言葉には、勇も苦笑いを浮かべることしかできなかった。
ともあれ、一番の功労者を傷ついたままで放っておく訳にもいかない。勇はいざという時のために持っていた塗り薬用の薬草を取り出して、スカルグレイモンに塗りつける。さすがに手持ちの量は心もとないが、それでもないよりはマシだろう。
「スカルグレイモン!傷が深いだろ!薬草を塗らせてくれ!」
そう言って、動かないように命令しながら、勇はスカルグレイモンに薬草を塗りつけていく。
硬い骨が全身であるだけあって、身体の大半の傷は勇から見てもたいしたことはない。だが、一つだけ。その胸の心臓部分の傷だけは、ひときわ痛ましいものだった。
自分が零と話していたせいでこうなってしまったことに、勇はスカルグレイモンに対して申し訳ない気持ちを抱きながら、丁寧に、それでいてありったけの量の薬草を塗っていく。
だが――。
「グギャ……グギャァアアアアアアア!」
「うわっ……!ごめん!痛かったか!」
だが、傷が深かったからか、それとも弱点であるむき出しの心臓部だったからか、思った以上に薬草は染みたようである。
勇に動くなと言われていることすら忘れるほどだったのだろう。思わず痛みに身を捩り、苦しみの声を上げてしまったスカルグレイモンだった。
さて、そんなこんなで、数分後。いろいろとあったが、無事にスカルグレイモンも落ち着いて、この場であとに残ることはもうそんなに多くない。
「で、こいつらどうする?」
その一つが、このネツたちの今後である。
とはいえ、もう決まっているようなものだったが。
「そのうち私たちの街のデジモンたちが来るはずだから……その時に捕まえるわ」
「ふぅん?……まさかね」
「どうかしたの?あ、ひょっとして知り合いだった……?」
そうして、気を失ったネツの顔を見て、何かを思い出しているかのような表情をした勇。
そんな勇を前にして不安になったピヨモンは、声をかける。悪人だとは言っても、さすがに助けを乞うた者の知り合いを捕まえるのは後味が悪いと思ったのだ。
とはいえ、まあ、真実がどうであっても、後味が悪くとも、結局はどうにもできないのだが。
「……いや、知り合いじゃない、はず」
「自信なさげね?」
「うーん……いや、デスメラモンをパートナーにしている奴に心当たりはあるんだけどなぁ……」
「じゃ、やっぱり知り合い?」
「アイツはこんな非道な奴じゃない、と思う。……リアルで会ってないからわからんけど」
「りある?」
勇の言う心当たりとは、ゲーム時代の勇の知り合いのことである。ランキング第五位のプレイヤーで、自分のパートナーを完全体に進化させた数少ないプレイヤーのうちの一人。そのプレイヤー名をネツネツ。勇とも何回も戦った仲である。
とはいえ、ゲームの中でしか会ったことがなかったとはいえ、ネツネツがこんな非道なことをする人間だとは勇も思わなかった。自信はないが。
「思えば……そんな兆候があった気も……」
やっぱり、自信はない。この気絶しているネツとネツネツが同一人物であるかは。
とはいえ、例えこの気絶しているネツがネツネツと同一人物であったとしても、許されざることをした人間を庇う気は勇にもない。
だからこそ、勇も気絶したネツとデスメラモンを見捨てる。そこには、同じ人間だからとか、そんな同種族間の同情などこれっぽっちもなかった。
ちなみに、そんな勇を前にして、ピヨモンも若干の複雑な気持ちを抱いていたりする。
「ま、あとは任せるよ。オラたちは森に戻る」
「えぇっ!?なんで!?」
ずいっと。その嘴が当たるくらいの距離まで顔を近づけてくるピヨモン。そこには、今日出会った時にはあった遠慮というモノがなくなっていた。まあ、それはいつの間にか敬語やさん付けがなくなっている時点で今更なのだが。
そんなピヨモンを前にして、地味に恐怖を煽る眼前に広がる嘴を躱しながら、勇も苦笑する。勇とて、できれば最後まで見届けたい。だが、ちゃんと行かなければならない理由があるのだ。
「あー……やっぱ、オラがここにいるわけにはいかないからな」
「えっ!?そんなことないわ!だって、勇たちはヒーロー……“たち”?」
「そ」
自分たちの恩人を何の礼もせず見送るのは恩知らずのすることだ。
だからこそ、ピヨモンは勇を引き止めようとしていた。だが、そうして勇を引き止めようとあれこれと言って、そこでようやくピヨモンも気づいた。自分で言った言葉の中に、その答えがあったことに。
そうして、すべてを悟ったピヨモンは、勇を見る。勇は苦笑しながらも、ピヨモンの後ろを見ていた。
「……」
「……」
「グルア?」
そう。ピヨモンの後ろにいるスカルグレイモンのことを。
勇の命令があって、今は動きを止めている。だが、一度に大勢のデジモンたちが周りに現れれば、さすがに勇が止める前に暴走し始めるだろう。
さすがに、それは勇も嫌だ。だからこそ、早くここを離れなければならない。騒ぎの収束を知ったデジモンたちが集まってきて、スカルグレイモンが誰かを傷つける前に。
「……わかった。でも!」
「でも……?」
「まだ森に入るんでしょ!?」
「しばらくはね」
「じゃ、そのうちにお礼をしに行くから!それまでどっか行かないでよ!」
もう二回もスカルグレイモンに襲われているというのに、それでもなおピヨモンは勇たちに会いに来るつもりらしい。
そんなピヨモンに呆れながらも、理由や経緯はどうあれ、スカルグレイモンとも交流を持ってくれる者がいることに、勇は内心で嬉しく思っていた。
「そりゃ、会いに来てくれるのは嬉しいけど、無理はするなよ?オラたちは別に礼が欲しくて助けたわけじゃないし……」
「いいから!」
「……わかったよ。それじゃ、またな」
「グギャァアアアアアアアアア!」
そうして、スカルグレイモンに連れられて、勇は森へと戻っていく。そんな勇の後ろ姿をピヨモンは見送ったのだった。
ちなみに――。
「ピピ。ヨロシイノデスカ?」
「ふん……」
ハグルモンと零の二人は、そんなピヨモンと勇たちの別れを陰ながらに見届けて、それからこの街を去っていったのだが、それはほんの余談である。
というわけで、第八十一話。
この前来た久しぶりの感想でテンションが上がってお送りしました!
……いや、話自体はずいぶんと前からのストックで更新したんですけどね。
ともあれ、これにて勇と零編は終わり。
次回、あの少女の一話が入って、この第六章は終わりとなります。
長かったですね。
それでは次回もよろしくお願いします!