【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第八十二話~懐かしの場所にて~

 大成たちがスレイヤードラモンに連れられて学術院の街を出て行った数日後のある日のこと。

 大成たちが留守にしている学術院の街では――。

 

「……」

「我が主が暇そうにしていらっしゃる!?っく。かくなる上は……!」

 

 学術院の街では、一人残った片成が拗ねていた。

 まあ、何故そうなっているのかは、誰にでも予想がつくことだろう。片成は一人だけ仲間外れにされたことを拗ねているのだ。

 しかも、食料や寝床など、いくらでも気にすることのある外とは違って、ここはそういったことがほとんど存在しない街の中。ついでに言えば、この世界は人間の世界のように平和と娯楽に溢れていることがイコールで結ばれているわけではなく。

 結論から言って、片成は余計に退屈だった。

 

「……」

「しかし……我が主を喜ばせるようなことは……っく!……おや、出るのですか?」

「……う、ん」

 

 ともあれ、暇であるからといって、一日中宿に篭もりっぱなしだというのもアレだ。健康に良くない。年頃の女の子としてそう思ったからこそ、片成は宿を出て、散歩へと繰り出した。

 

「……」

 

 まあ、散歩に出たからといって、早々面白いことがあるわけでもないのだが。せいぜい遠くから猿の気持ち悪い歌声が聞こえてくるくらいである。

 大成たちと違って、この街に知り合いといった知り合いがいない片成は、暇つぶしとして知り合いを訪ねるという選択肢すらない。

 結果として、十数分もの間歩き続けた片成だったが、これといった収穫はなかった。とはいえ、元々暇つぶしでの散歩だ。散歩に収穫を求める方が間違っているし、そのことを片成もわかっている。

 

「……疲れ、た」

「む!?ならば!私が宿まで連れて行きましょうぞ!」

「い……い、です。あそ……こで……」

 

 ただ呟いただけであったのに、その呟きが聞こえたエンジェモンは、片成のためを思って暴走する。

 まだ帰るつもりはなかった片成は、そんなエンジェモンの好意(暴走)を止めながら、前方に見える公園らしき広場へと向かって行く。今が散歩中ということもあって、片成はそこで休憩するつもりだった。

 そうして、公園へと入った片成。

 その公園は、遊具があるような所謂“遊べる公園”ではなかった。花や木々、ベンチに噴水といったものがある――言うなれば、雰囲気の良い公園だった。

 

「よい……しょ……」

「大丈夫ですか!?」

「大……丈夫……ちょっと……休憩す、るだけ……だから」

 

 適当なベンチに座った片成は、しばらくは公園の噴水や花を楽んでいた。

 なかなか飽きない、雰囲気の良い公園だ、と。初めて見つけた公園だったが、思いのほかいい場所だったことに、片成はご機嫌だった。

 こういった落ち着いた雰囲気の場所では静かにゆっくりしたくなる、と。そう思ったからこそ、片成はその鞄に詰め込んでいた本を取り出して、そのまま読み始めた。

 まあ、ゆっくりしたくなったと思っている割に――読んでいる本はいつものごとくアレなのだが。

 

「……」

「さすが我が主……!こんな時でも知識を深めていらっしゃるとは……!」

 

 邪魔すると悪いと思っているのか、片成に聞こえないほど小さな声で言うエンジェモン。

 本の題名が見えているはずなのに、そう言えるエンジェモンだ。きっと彼のその目には何か特殊なフィルターがかかっているのだろう。

 ともあれ、しばらくの間、二人の間には静かな時間が流れていっていた。

 

「きゃっきゃっ!こっちこっち!」

「わー!まーてー!」

「鬼さんこちら!手のなるほうへ!」

「待ってよ~旅人~!もうちょっとだけ~!」

 

 若干変なのも混じっていたが、遠くで聞こえる幼いデジモンたちの喧騒が、なおのこと耳に心地いい。片成たちはそう感じていた。人間でも、デジモンでも、子供たちの騒ぎ声というのは、煩わしくも感じることもあれば、微笑ましく感じることもあるものである。

 顔を上げて、そんな光景を見る片成。遠くには、追いかけっこをしている幼年期くらいのデジモンたちと――それに混じっている巨大な赤と白の獣竜。

 

「……」

 

 傍目には襲っているようにしか見えない。が、幼いデジモンたちの笑い声が聞こえてくるあたり、襲っているわけではないのだろう。

 幼い者たちに癒されたと思っていたら、いたのは大きな子供。いや、幼い者もいるにはいたが、片成が想像していた光景とはちょっと違った。

 引率の先生でも、子供たちに付き合うお兄さんでもない。大真面目に子供に混ざる大きな子供。実際の状況はわからないが、そんな光景を前にして、なぜかそう思ってしまった片成。

 

「……何なのですかな……?」

「……さぁ」

 

 真相はどうあれ、片成たちが微妙な気持ちになってしまったことだけは確かだった。

 そんないろいろな意味で幼いモノたちから目を外し、再び読書を始めようとする片成。だが、もう一度本を読むことは片成にはできなかった。

 片成は気づいたのだ。本へと目を移した自分の下に、誰かが近づいてくるのが。勘違いかもしれないが、真っ直ぐに自分の下へとやって来るその誰かの気配。そのことが気になって仕方なかった片成は内心で緊張していて、もはや本を読む余裕はなかった。

 できれば、自分の下を通り過ぎてください、と。本を読むフリをして、人見知りの者が考える典型的なことを祈りながら、片成はジッとその時を待つ。

 だが、まあ――。

 

「……」

「我が主に何か用か?」

「そう」

 

 だが、まあ、そんな片成の思いは届かなかったのだが。

 近づいてきたその誰かは、片成の前で立ち止まったのである。

 ジッと本を読むフリをしている片成には、自分の目の前に立つその誰かがどのような者なのかはわからない。だが、声の内容を聞けば、片成に用があると言っている。であれば、今のように無視し続ける訳にもいかなかった。

 だからこそ、片成は勇気を出して顔を上げ、自分の目の前にいる人物を見て――。

 

「……えっ……と?」

 

 一瞬、片成は言葉を失った。その人物に見惚れてしまったと言ってもいい。

 なにせ、そこにいたのは白く長い髪の美しい少女だったのだから。

 彼女は、どこか常人とは違うような雰囲気の少女だった。純白のドレスを身に纏っているその少女は、その仮面のような無表情やその身の美しさも相まって、どこか人形のようにも見える。

 そんな彼女のことを一言でいえば、現実離れしていると言えるだろう。

 

「私。ナム」

「ナム……さん……?私は……」

「知ってる。片成」

 

 感情を感じさせないほどの抑揚のないナムのその声。その無表情も合わさって、怖い。

 先ほど見惚れていた自分が嘘に思えてしまうほど、片成はナムのことが怖かったし、現状に対する混乱もひどかった。

 ナムの現実離れした美しさとか、怖さとか、自身のコミュニケーション能力の低さとか、そんなさまざまな理由で。

 

「あわ……えぇ!?……あぅ……」

「……不思議な者だな。それで、我が主に何の用だ。我が主に代わって尋ねるが?」

「一緒に歩く。少し」

 

 ナムの言葉には、有無を言わせない迫力があった。だからこそ、混乱の中にある片成も、あのエンジェモンでさえも、素直に従った。

 断れる可能性を微塵にも思っていないのだろう。ナムは、片成を置いてさっさと先に歩いていく。

 片成は公園のベンチを立って、急いで駆け出した。先に行ったナムに置いて行かれ、彼女を待たせないようにという配慮だ。

 とはいえ、結論から言えばその必要はなかった。ナムは少し歩いたところで立ち止まり、何かを見ていたから。

 

「……知り合いがいるのか?」

「いる」

「会っていかなくていいのか?」

「別にいい。その機会はまた来る」

 

 ナムが見ていたのは、先ほどの幼いデジモンたちと巨大な獣竜の戯れの光景。

 無表情でジッとその光景を見ていたから、何を考えているのかは片成にも、エンジェモンにもわからない。だが、見ていたからには何かあるのだろう、と。

 そう思って、エンジェモンが切り出したのだったが、まあ、その意味はあまりなかったようである。

 

「早く行く」

「……えっ……と……どこ……へ?」

「来ればわかる」

「あぅ……」

 

 片成の言葉にも答えず、我の道を行くナム。それに加えて、無表情かつ短い言葉で会話を片付けるその癖。それらのせいで、片成はナムのことが早くも苦手となっていた。

 まあ、苦手とは言っても、片成は内心でそんなナムに軽い尊敬を覚えていたりもしたのだが。

 そう。無表情で、かつ、会話に難があるというのに、我を貫ける。表面的に見れば、自分と似たような人物でありながら、それでもどこか清々しさを感じさせるナム。そんなナムの性格を、片成は羨ましく思い、尊敬したのである。

 

「……エンジェ、モン……?」

 

 そういえば、ナムの態度は見方を変えれば、片成のことを邪険に扱っているとも取れるというのに、皮肉系過保護のエンジェモンが何も反応していない。珍しいこともあるものだ。

 片成も、いつもと違うそんなエンジェモンに違和感を抱いていた。

 

「むっ!そのような顔をなさらずとも私めは大丈夫ですぞ!」

 

 とはいえ、片成に対してはいつも通りのようだ。では、片成に対してというより、ナムに対してエンジェモンは感じるところがあるのだろう。そのことに、うっすらと片成は気づいていた。

 まあ、エンジェモン自身、自分自身の違和感には気づいていても、ナムにこそ原因であると思い当たっていても、どうして自分がこうなっているのかはわかってはいないようだが。

 

「あの……そろ、そろ……どこに……」

「まだ」

「え……えぇ!?」

 

 そんなこんなで、歩くこと数十分。

 会話がないという気まずい空気のせいで精神的な疲労を抱いていた片成は、結構な速さで歩くナムにひたすらついて来ていたために、そろそろ徐々に溜まっていた肉体的な疲労の方もキツくなってきていた。

 一方で、ナムは疲れた様子をこれっぽっちも見せていない。片成とは対照的である。

 そうして、そこからさらに数分後。

 

「ここでいい」

「……え……あの……」

 

 ようやくこの謎の時間にも終わりが訪れることになった。

 もうここまででいい、と。そう言ったナムは、今にもどこかへと行こうしていた。

 用があると言うくらいだから、てっきり片成はどこかへと連れて行かれたり、何かを話してきたりすると思っていたのに。何と言うか、拍子抜けだった。

 

「貴女はなぜ我が主を連れ回したのだ?」

「……。別に。興味があった。少しだけ。招かれざる人間“たち”に」

「……?招か、れ……ざる?」

「知らなくていい。いつか知る」

 

 変わらずの無表情で、淡々と告げるナム。先ほどまでとは何一つ変わってはいない。

 だが、片成には、どこかナムが真面目な雰囲気でいるように思えていた。だからこそ、片成にはナムが今言っていることが重要な何かだと思えたのである。

 ナムの言っていることは、核心部分が隠されていて、酷くわかりづらい。それでも、わからないなりにナムの言っていることを覚えておこう、と。そんなことを思った片成は、ナムに別れを告げようと口を開いて――。

 

「えっ……?」

「む……?」

 

 その直後には、ナムの姿はどこにもなかった。

 現れたのも突然だったが、いなくなるのも突然だった。ナムという少女は、正に神出鬼没と言える少女だったのである。

 そして、そんな不思議な出会いと不思議な別れを経験した片成は、しばらくその場でナムという不思議な少女の面影を追う。

 片成たちが再起動したのはこの数分後のことだった。

 

「……戻……ろ、う?」

「ですな」

 

 ナムとの別れた後、片成はエンジェモンと元来た道を戻り始める。

 思いがけない出会いを経験した片成だったが、元々の目的は暇つぶしで散歩である。散歩にしては随分と疲れてしまったが、不思議と悪い気がしていない片成。彼女は、少し機嫌良くなりながら歩く。そこには、先ほどまでのように、肉体的、精神的共に疲れていたという感じは見受けられない。

 そうして、歩き続ける片成だったが――。

 

「あれは人間?」

「……ぅ……だれ……?」

 

 そんな片成は、目の前を歩く見知らぬ人間を発見した。

 この世界では、人間という生き物は珍しいはずであるのに。

 とはいえ、まあ、最近は人間という生き物もそれなりにいるし、何よりここはいろいろなものが揃う大きな街の一つだ。何もない場所よりはずっと会う確率は高いだろう。

 だからこそ、見知らぬ人間を見かけても問題はないのだが――。

 

「我が主。どうしますか?」

「……ぅ……ちょっと……遠、周り……する」

 

 片成にとっては、エンジェモンがいるとはいえ、見知らぬ人間と会うというのはハードルが高い。

 片成は、その人間に気づかれないうちに隠れるか、別の道へと迂回するかをして、その人間と鉢合わせしないようにするつもりだ。

 セコイと言うか、情けないと言うか、何と言うかだが、本人はいたって真面目である。エンジェモンも、片成の為を思って、全面協力するつもりだった。

 まあ、本当に片成の為を思うなら、少しは甘やかさないことも重要であるはずなのだが。

 

「では、我が主!こちらへ……!」

「う、ん……」

「私めが奴の気を引いておりますので!」

「ありが、とう」

「……!勿体無いお言葉!」

 

 そうして、片成の言葉に勇気づけられたエンジェモンは、決死の作戦もかくやという顔で、その人間の下へと歩いて行く。片成も祈るような心持ちでエンジェモンを見送った。

 繰り返すが、客観的に見ればアホとしか言いようがないことだろうと、本人たちはいたって大真面目である。それ故に、始末が悪いとも言えるかもしれない。

 ともあれ、片成が動き出したのを感じて、それからエンジェモンはその人間へと話しかけ――。

 

「なぁ、ちょっといいか?」

「っ!?なぜ……!?」

 

 自分が話しかける直前で、エンジェモンは逆に話しかけられた。その人間に。これには、エンジェモンも少し驚いてしまった。

 まあ、一方で、その人間からすれば何を言っているんだという話だったのだが。

 

「いや、さっきからお前らの会話丸聞こえだったし……何か悪いな」

 

 そう。エンジェモンと片成の会話は、この人間には筒抜けだったのである。だからこそ、この人間からすれば、エンジェモンの反応など今更だったのだ。

 

「なっ!?盗み聞き!?これだから下賎な身分の者は……!」

「すごい言われようだな……!」

 

 正直に言ったはずなのに、この言われようである。確かに、この人間のしたことは盗み聞きと言えるかもしれないが、あくまで故意にしたわけではない。だというのに、エンジェモンの言い分は、いくらなんでもあんまりである。

 普通の者ならば、この瞬間に、そんなエンジェモンのことなど冷たい目で見るようになるだろう。前々からそうだが、エンジェモンは敵を作るかのような発言ばかりを繰り返す癖がある。ありすぎる。

 だからだろう。

 

「……あの!」

「ん?」

「我が主……!?なぜ……!?」

 

 見かねた片成が、自分の中にある恐怖を押さえつけてまで飛び出してきたのは。

 エンジェモンはそんな片成の行動に驚いているようだった。それほどまでに、これは今までの片成にはない行動だった。

 まあ、片成も成長しているというべきなのかもしれない。

 というか、片成が飛び出してきたのは、エンジェモンの見当違いな行動に、心配し不安になったからで――とどのつまり、全部エンジェモンのせいである。

 

「汝!我が主に手を出すな!」

「いや、出さないし」

 

 エンジェモンが暴走しやすいタチなのはよくわかったその人間は、とりあえず自己紹介をすることにした。何をするにせよ、すべてはそれからだと思ったのだ。

 

「オレは旅人。よろしくな……えっと……」

「片……成……です」

「我が主!そのような下賎な者に御名を教えなくても!」

「……」

 

 わめくエンジェモンを前にして、その人間――旅人は、苦笑していた。

 いろいろあったが、今日は片成とって出会いの多い日だったと言えるだろう。旅人とエンジェモンの様子を見ながら、片成はほとほと今日という日の不思議さを感じていたのだった。

 




というわけで、第八十二話。

いろいろと振り回されている片成の話でした。
少し中途ですが、これにて第六章は終了となります。

次回からは第七章、今回の続きから始まりますね。

それでは第七章もよろしくお願いします。
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