【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

83 / 132
第七章~懐かしの場所にて~
第八十三話~無茶な頼みとその対価~


 いろいろとあったものの、片成と出会った旅人。

 旅人としては、聞きたいこともあって、少しくらい話がしたかった。が、当の片成は旅人との話もそこそこに、エンジェモンを連れてさっさとどこかへと行ってしまった。

 

「……なんかまずいことしたかな」

 

 まるで機嫌を損ねてしまったかのようにも感じるそんな片成の行動。何か失礼をしてしまったか、と。思わず旅人が疑問に思ってしまったのも仕方ないことだろう。

 まあ、今回の件については旅人はこれっぽっちも悪くない。

 片成は単に、初対面の旅人と話し続けるのがキツかったから、さっさと帰ったというだけの話である。

 

「なぁ、どう思う……?」

 

 とはいえ、そんなことを片成と初対面だった旅人が知るはずもない。

 だからこそ、疑問を覚えている旅人は、自分以外の者の意見を聞きたいということもあって、自身の内側にいる者に声をかけたのだが――。

 

「……なあ、聞いてるか?おーい?……ダメか」

 

 だが、その内側のナニカが答えることはなかった。

 実は、旅人の中にいる声だけのナニカは最近ずっとこうだった。少し前まではうるさいくらいに話しかけてきていたというのに、最近は何日かに一度二言三言話せばいい方。

 何が理由なのかはわからないが、五年ほど前から共にいることに慣れていた旅人としては、少し寂しかった。

 

「なんか、嫌な予感がするんだよなー」

 

 まあ、自身の気持ちはどうあれ、自分の中にいるナニカの特殊性を知っている旅人としては、同時に嫌な予感を抱いていたりもしたのだが――それは、ほんの余談である。

 ともあれ、結局は、自分の中にいる者の謎も、片成の行動の謎も、自分が今抱いている問題も、何もかもが解決していない旅人。そんな旅人は、溜息を吐いて歩き出した。

 歩き出して数分。

 

「旅人~!」

「ドル……」

 

 だんだんと近づいてくるかのように、背後から聞こえてくる自分を呼ぶ声。その声が誰のものかわかったからこそ、旅人は冷ややかな目で後ろを振り返った。

 旅人に背後から近づいてくる者。それは、旅人もよく知った、というか知りすぎている者だった。そう。旅人のパートナーであるドルグレモンだ。

 つい先日進化したドルグレモンは、その巨体のせいもあってか、少し窮屈そうながらも、街の中を結構な速度で走ってきている。

 そして、そんな自分のパートナーの姿を見て、旅人は不安だった。いつか、自分のパートナーは人身事故を起こすのではないか、と。実際、今のドルグレモンのサイズならば、小さなデジモンならば気づかないうちに轢いてしまうこともありうるだろう。

 

「うっ……何その目?」

「いや?別にー?」

 

 そんな不安を抱いていた旅人とは対照的に、呑気なドルグレモンは、旅人の下へとやって来て――そして、旅人の冷ややかな目に、呆れたかのような視線を返した。

 どうして自分がそんな目で見られるのか。その理由は、ドルグレモンもわかっている。だからこそ、旅人の冷ややかな視線に呆れたような視線を返したのだ。

 そう。ドルグレモンもわかっているのである。

 

「まだあのこと怒ってるの!?」

「だってさ、誘拐されたって聞いたから、心配して駆けつけたら……アレだぜ?」

 

 自分は悪くなかったことに。

 今の旅人がドルグレモンに冷たく当たっている原因は、先日のピエモンの一件に遡る。あの時、近くにいた旅人は、自分のパートナーが誘拐されたかもしれないということを聞いた。そうして、万が一を考えた旅人は、自分のパートナーを探し出したのだ。

 とはいえ、旅人がドルグレモンの下へと着いた時、すでに事は終わっていた。まあ、普通ならば、旅人の考えすぎだったということは残るものの、めでたしめでたしで終わっただろう。

 だが、問題はこの後にあったのだ。久しぶりに旅人に会えたドルグレモンは――。

 

「だからって、殴ることはないだろ!」

「悪かったって言ってるだろ~!」

「いや、本気で殴られたんだぞ!死ぬわ!」

「死ななかったじゃん!」

 

 そう。久しぶりに旅人に会えたドルグレモンは、自分を置いて行ったという憎しみを込めて、旅人を殴ったのだ。全力で。

 いきなり殴られるなど、旅人は考えていなかった。つまり、無防備だったのだ。無防備な体に、完全体の全力の殴打。正直言って、あの時の旅人は本気で死んだと思った。生きていることを実感して、自身の無事を心の底から喜んだほどだ。

 

「死ななかった?ふざけんな!こっちは肋骨が何本かヒビ入ったんだぞ!あの街の人たちのお礼の薬草がなけりゃどうなってたか!」

「あれ?……って!それだけで済む旅人はどうなってるの!」

「知るか!」

 

 あの時は、五年前に比べて増しているようにすら思える自身の頑丈さに、旅人も首を傾げた。が、あっても困るものじゃないと思い直したのだ。

 そうして、自身の無事に対する安堵、自身の頑丈さに対する疑問、それらをひとしきり感じた旅人が、最後に感じたこと。

 それが、逆恨みなドルグレモンに対する恨みであった。

 まあ、ドルグレモンのその感情は、一概に逆恨みとは言い切れないのであるが。

 ともあれ、そんな背景もあって、ドルグレモンも旅人も、お互いに自分の間違いも、正当性も全部わかっている。そう。わかっているのだ。

 わかった上で、二人はそれでも感じるどうしようもない怒りを、八つ当たり気味に自身のパートナーにぶつけているだけであるのだ。

 

「っていうか、それだけじゃないぞ!今だって、お前のためにわざわざウィザーモンを探してるのに、そのお前が何遊び腐ってんだ!」

「ひどっ!僕だって遊んでいるように見えても、ちゃんと情報収集してました~!」

「へぇ?そう言うなら、わかったんだろ?」

「……」

「お前、役立たず具合が増してるぞ……」

 

 そう。今の会話でわかったかもしれないが、二人が学術院の街へと戻ってきた理由は、ウィザーモンに会うためだったのだ。

 だが、少し前のハイブリッド体の一件で、旅人たちの知るウィザーモンの研究室は消滅している。だからこそ、旅人たちはウィザーモンを、ひいては彼の研究室を探して、この街の中を右往左往していた。

 

「さっきの子に聞ければよかったのにな……」

「さっきの子?」

「ああ、なんかオドオドしている、エンジェモンをパートナーにしていた子だったな」

「へぇ~そんな子いたんだ~」

「まあな。っていうか、ドル。役立たずの汚名を挽回するくらい、ちゃんと働けよ」

「だから!僕は役立たずじゃない!っていうか、旅人の方こそ、無知じゃん!」

「どういう意味だ!」

 

 旅人は先ほどの自分の言葉の中にあった致命的な言葉の間違いに気づいてなかった。

 指摘されて、自身の言動を思い返してもわからない辺り、ドルグレモンの旅人に対する評価もあながち間違ってはいないと言えるだろう。

 自分の言葉を何回も思い返して、唸る旅人。そうして唸っているうちに、旅人はドルグレモンに対する怒りを半分近く忘れていた。

 

「……何がおかしかったんだ?」

「もういいから。ウィザーモンを探しに行こ~」

「……うーむ」

 

 いろいろと横道に逸れてしまったが、なんとかウィザーモン探しを再開した旅人たち。

 そんな旅人たちは、主に聞き込みをしてウィザーモンを探していたのだが、その成果は芳しくなかった。ウィザーモンの今の住所を知っているデジモンたちがいなかったのだ。

 

「前にこの街で大成たちがウィザーモンに仕事を紹介されながら便利屋をやってるって聞いたけど……ウィザーモン本人の居場所もわからずにみんなどうやって依頼してるんだろな」

「さぁ……知ってる人に言伝を頼むんじゃない~?それか、目安箱的なのがあるとか~」

「目安箱?」

「一応言っておくけど、人間の世界の物だからね」

「なっ……なんだよその目は!」

 

 ドルグレモンの方が人間世界の知識があると知って、たじろぐ旅人。今の旅人は、人間であるというプライドがボロボロに打ち砕かれていた。

 

「どうせオレは……」

「はぁ……始まった」

「……小学生中退だよ……くそっ……学校行っときゃよかった」

「思ってもいないことを言うのはやめたまえ。君がおとなしく席に座っている光景が思い浮かばないぞ」

「そうだよ~……あれ?」

「……本当にオレは……」

 

 毎回のごとく落ち込み始めた旅人に、鬱陶しさを感じていたドルグレモンはそんな彼のことを適当にあしらっていた。が、その瞬間に自分たち以外の声が混じっていたことに気づく。

 いつの間にか自分たちに混じっていた声。ハッとして気づいたドルグレモンは、その声のした方向に顔を向けた。

 そこにいたのは――。

 

「ウィザーモン!?」

「なんだね?全く。君たちは相変わらずらしいな」

「なんで!?」

「なんでも何もないだろう。君たちが僕を探していると街の者たちから聞いてな。こちらから出向いただけの話だ」

 

 そこにいたのは、旅人たちが探していたウィザーモンその人だった。

 ちなみに、ウィザーモンはかなり早くから、旅人たちが自分のことを探しているということを把握していた。というのも、街の住人から旅人たちが自分のことを探し回っているということを聞いたのである。

 そのことを聞いたウィザーモンは、私用を片付けながらしばらく待っていた。が、いつまで経っても旅人たちはやって来なかった。だからこそ、仕方なくウィザーモンから出向いたというわけである。

 

「というわけだ。わかったか?」

「わかった……けど……」

「けど、なんだね?」

 

 一方で、探し人が見つかったというのに、ドルグレモンは複雑な気持ちだった。

 いや、用があって探していたのだから、見つかったことは素直に喜ばしいことである。だが、今まで一生懸命に探していたというのに、こうもあっさりやって来られては、ドルグレモンの立つ瀬がなかった。

 

「というか、旅人はアナザーを持っているのだから、それで僕に連絡を取れば良かっただろうに」

「……そっか。アナザーってそういう機能もあったんだったね」

「忘れていたのかね。やれやれ……大成たちは使いこなしているのだがな」

「しょうがないかな。でも、このことは旅人に言わないでね」

「ふむ?なぜだ?」

「またややこしくなられても困るから」

「ああ」

 

 ドルグレモンの言葉に納得したウィザーモンは、未だ落ち込み続けている旅人の方を見た。

 旅人が落ち込むかどうかの境界は、ウィザーモンにもドルグレモンにも掴めないほど、微妙だ。もしかしたら、本人も冗談で、かつ本気でいるのかもしれない。

 冗談だからこそ、こうも簡単に落ち込む。だが、いちいちその冗談が本気だからこそ、本人にとっても、周りにとっても面倒な状態となる。ドルグレモンは、訳がわからなくなりながらもそう思った。

 まあ、旅人のこの面倒な状態のことなど、ドルグレモンにとっても、ウィザーモンにとっても、どうでもいいことである。だからこそ、二人は旅人を放っておいて、話を進めていく。

 

「それで、結局、僕に何の用なのだ?」

「そう!それ!手伝って欲しいんだ!」

「……何をだね?」

退()()()()()()!」

「は……?」

 

 予想を斜めに超えたドルグレモンのそのお願い。それを前にして、それを聞いた時のウィザーモンは珍しくも呆然とした表情をしていた。

 

「だから!退化するのを手伝って欲しいんだってば!」

「なぜそう言う結論に至ったのか知りたいが……まぁ、いい。立ち話も難だからな。僕の家に招待しよう」

「頼むよ!ほら、旅人行くよ!」

 

 詳しい話を聞くために、呆然としながらもウィザーモンはドルグレモンたちを自身の家へと連れて行く。

 ちなみに、未だ落ち込んでいた旅人は、ドルグレモンが首根っこを咥えて連れて行って――そして、この数分後。正気に戻った旅人共々、面々はウィザーモンの家へとたどり着いていた。

 

「うわ……掃除しろよ」

「ふむ。意味のないことだ。しなくても不便はない」

「いや、不便すぎるだろ。足の踏み場もないぞ」

 

 研究資料などで足の踏み場のない家の中を、旅人はウィザーモンの案内されながら歩く。

 そうして、旅人が通されたのは、家の片隅にあるそれなりに片付いていると言えなくもない部屋だった。

 

「……ここなら大丈夫だろう」

「ここは?」

「物置だな」

「物置かよっ!っていうか、物置よりもそれ以外の部屋や廊下の方が汚いってどういうことなんだ。物置の定義を見直せよ」

「物置とは、物を置くための部屋だな」

「そういうことを言ってるんじゃ……」

 

 ちなみに、ドルグレモンはここにはいない。さすがに巨体のドルグレモンは、ウィザーモン用のこの家の中に入ることはできなかったのだ。

 よって、ドルグレモンだけは外に待機し、顔だけを窓から突っ込んで話に参加することになっている。

 

「ドルグレモン!この窓から首を入れたまえ」

「うう……狭い……」

「文句を言うな」

 

 そうして、窓を外したウィザーモンは、外で待機していたドルグレモンに声をかける。

 事前の打ち合わせ通り、ドルグレモンは窓から首を突っ込んだのだが――ドルグレモンの頭が入っただけで、窓枠に罅が入りかけている。何と言うか、ギリギリだった。窓も、ドルグレモンも。

 

「それで?君が進化を好まないことは知っているが……退化したいとはだからかね?では、なぜその姿になったのだね?」

「いや、これはやむ得なくて……」

 

 ウィザーモンの質問に答えるように、ドルグレモンは自分が経験したことを話した。ピーターモンたちの企みは置いておいて、ピエモンと戦ったことを重点的に。

 ドルグレモンが気になっているのは、ピエモンがピーターモンの姿をしていたことである。あれは退化だったのか、それとも別の現象だったのかはわからない。だが、あれさえできるようになれば、ドルグレモンも進化のことで悩むことはもうなくなるも同然なのだ。

 だからこそ、ドルグレモンは自分もあの現象を習得したいと考え、ウィザーモンの下へとやって来たのである。

 

「ふむ。進化したものが退化する……魔術的な要素か……それとも別のものなのか……なかなかに興味深いな」

「僕にもできる~?」

「だが、進化していたのは……究極体という数少ない存在だからか?いや、それならばスレイヤードラモンにもできるはず……うぅむ……?」

「お~い……?ダメだ。聞いてないな~!」

「しばらく待ってろよ、ドル」

「でも~!この体勢キツい……!首が痛くて……!」

「おい、あんまり動くなよ。何かミシミシ言ってるぞ」

 

 思考の海に潜ったウィザーモン。

 彼がこうなってしまったら、なかなか戻らないことは旅人たちも知っている。だからこそ、旅人たちは気楽に待つことにして――その間、ずっとドルグレモンは首の痛みに耐えていた。

 

「ふむ。本当ならば興味深い出来事だ。ぜひ実験したい。喜んで協力させてもらおう」

「ほ、んと……!?」

「ああ、本当だ……なぜそんなに辛そうなのだね?」

「そりゃ、首が痛いからだろ。変な体勢で固まってるからな。首だけじゃなくて、体のどこかも痛くなるかもな」

「そ、ん……なの……嫌だ~!」

 

 無理な体勢をしていることによって響く、鈍い痛み。

 その痛みを首や身体のあちこちに感じながらも、ドルグレモンはウィザーモンの協力を得られたことを素直に喜んだ。

 

「だが、代わりと言っては難だが、僕の依頼も受けて欲しいのだが……いいかね?」

「……ま、ドルのこともやってくれるわけだしな。わかったよ」

「……」

 

 手伝う代わりに条件がある。そうウィザーモンは言った。

 まあ、今回のことは旅人には直接関係のないことだとはいえ、自身の相棒の無茶ぶりに付き合ってもらうわけである。

 自分たちの立場が、そんなお願いしている立場だからこそ、よほど無茶なことでなければ、旅人はその依頼とやらを受けるつもりでいた。

 それは、ドルグレモンも同じだ。まあ、今は魂が口から抜け出しかけていて、答えられなかったが。

 

「そうか。それは助かる」

「で、そっちの依頼とやらは?」

「詳しいことはまた今度言うが……何。一緒に人間の世界にちょっと行って欲しいだけだよ」

「……は?」

 

 ウィザーモンのその依頼は、破壊力があった。

 それを聞いた旅人が、思わずアホ面を晒してしまうくらいに。

 




というわけで、今回からの第七章にして、第八十三話。
はい、今回の話でわかったとは思いますが、今章は人間世界編です。
旅人と大成たち、ついでにウィザーモンがある理由で人間の世界に行きます。

次回は、ついに人間の世界への一歩を……という話です。

それでは次回もよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。