【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第八十四話~気がついたら、いつの間にか~

 旅人たちが学術院の街に戻ってきた次の日。旅人たちは、もはやお決まりとなったあの学術院の街の外の荒野にいた。

 ちなみに、彼らがここにいるのはウィザーモンに連れてこられたからで、昨日のドルグレモンのお願いを実験するためだった。

 

「では、はじめようか」

「おい、ウィザーモン。別に学術院の街でもよかったんじゃないのか?」

「ふむ。それでもよかったのだがな。まあ、僕にも都合というものがってね。こちらの方が都合がいいのだよ」

「……?」

「そんなことはいいから~はやくはやく~!」

 

 ウィザーモンの言った意味ありげな言葉に、首をかしげる旅人。反対に、ドルグレモンはそんなことはどうでもいいとばかりに、ウィザーモンを急かしていた。何と言うべきか、パーティーを待ちきれない子供のようである。

 ともあれ、ウィザーモンとしても、この後の予定と都合がある。世間話で時間を無為にするつもりは毛頭なかった。

 

「僕なりの考察だがね。まず、君が見た件のデジモンの現象は退化ではない。いや、“完全な”退化ではないと言うべきかな?」

「完全な退化?退化に完全も何もあるのか?」

「そもそも君たちは退化という現象をどう捉えている?」

「え?進化の逆でしょ~?」

 

 そう。ドルグレモンの言う通り、退化とは進化という単語の対義語であり、それはこの世界においても変わらない。デジモンにも、進化と退化がある。

 だが、進化ができるからと言って退化ができるとは限らないのが、この世界だった。時が不可逆であるのと同じように、一度進化したら、よほどの例外でなければ退化はしない。いや、できないと言った方が正しいか。

 進化も退化も、そう軽々しい現象ではないのだ。その例外も、旅人のカードや優希の強制進化などの、数少ない異常な力だけである。自然な現象としての退化は、進化という現象以上に目撃例が少なかった。

 

「そうだ。進化の逆。進化でさえ自由にできないというのに、それ以上の難度であろう退化が自由にできるものか。ましてや、件のデジモンは君の目の前で進化したり退化したり……自在に姿を変えたのだろう?」

「うん」

 

 デジモンの進化には、少なからず意志というものが関わる。だが、優希や旅人のような進化を補助する力があるのならばともかく、ただのデジモンが自分自身の意志で進化のタイミングを“完全に”コントロールするというのは、さすがにあり得ない。

 ドルグレモンからこの話を聞いた時、興味を惹かれたとはいえウィザーモンも混乱したし、あり得ないとも思った。が、考えていて、ふとウィザーモンは思ったのだ。

 

「だとしたら、やはり件のデジモンは究極体の方が本来の姿だろうな」

 

 逆ではないのか、と。

 ようするに、進化や退化を自在にコントロールしていたのではないという可能性を思いついたのだ。

 

「え?あれって究極体だったの!?」

「そういえば、言ってなかったか。ピエモンとは究極体デジモンの名だぞ」

「……ドル、お前究極体に一人で勝ったのか」

 

 だが、そんなウィザーモンの考察の説明も、いつの間にかドルグレモンと旅人によって脇道へと逸れていく。

 まあ、二人は考察など、どうでもいいのだ。聞くだけは聞くが、学のない二人では本当のところはわからない。せいぜい、ウィザーモンの凄さに感心して終わるくらいである。

 何とも説明し甲斐のない二人だが、ウィザーモンも彼らがそんな人物であることは知っている。知った上で、それでも説明しているのだ。

 

「……まあ、ともかくだ。進化先から魔術的な何かで退化先の姿となっていたのだろうな。だから、進化や退化したと言うよりは、見かけだけを変えていたという感じだろう」

「えっ……そうなの?」

「ああ。ピエモンは魔人型のデジモンだ。本職の僕らほど多彩にはできないだろうが、頑張ればそのくらいのことはできるだろう」

「でも、実際に強さも変わってたよ?」

「そこは何か理由があったのだろうな。僕は知らないが」

 

 ウィザーモンにそう言われて、ドルグレモンも思い出した。件の彼は、大人になるということを異様に拒んでいたことを。

 ともあれ、どこか釈然としない部分があるものの、ピエモンとピーターモンの秘密わかったことだ。だからこそ、ドルグレモンは自分もその技術を習得するために気合を入れなおして――。

 

「あれ?でも、それ僕にはできないよね?」

「そうだな」

 

 その直後、致命的な事実に気が付いた。

 そう。ピエモンのアレが魔術的な力に基づいたものならば、それがないドルグレモンにできるはずもないということで。

 ついでに言えば、ドルモンの姿に戻るというドルグレモンの考えは、かなり早くの段階から頓挫していたということだった。

 

「うわぁあああん!」

「いや、泣くなよ。ほら、キノコやるから」

「キノコいやぁあああ!」

 

 希望が潰えたことを感じたドルグレモンは、旅人がどこからか取り出してきたキノコを見たことを切欠に地面に倒れ込んだ。気絶したようにも見えるが、ぶつぶつと呪詛のような言葉を吐いている辺り、起きてはいるのだろう。

 まあ、気持ちはわからなくはない。それでも少し大袈裟なのではないか、と。そう思った旅人だった。

 

「それで?本当のところはどうなんだ?」

「やれやれ。先ほどの話を聞いていなかったのかね?無理なものは無理と……」

「お前さ、昨日のドルからこの話を聞いた段階からこのことに思い至ってたんだろ?」

「ふむ。確かに」

「なら、その後に興味深い出来事だの、実験したいだの、協力したいだの……そんなこと言うわけないだろ」

「やれやれ。そこに気づく……いや、どんなアホでも普通は気づくか」

「……お前オレのこと馬鹿にしてるだろ。あと、ドルが気付かないはお前のせいでショックを受けているからだ……たぶん」

 

 旅人にしては頭が切れている、と。皮肉が込められている感じの言い方だったが、ウィザーモンはそんな今日の旅人に素直に驚いて、また賞賛していた。

 まあ、旅人がこのことに気付けたのは偶然だったりするのだが。キノコでお茶を濁したが、ショックを受けている自分のパートナーのことを可哀想に思って、昨日のことを思い返していたからこそ気付けたのである。普段ならばきっと気付けなかった。

 先ほど、どんなアホでも気づくとウィザーモンは言ったが、アホでは偶にしか気づけないのだ。

 

「……で?そろそろドルの呪詛が怖くなってきたから、お前の考えていること知りたいんだけど?」

「ふむ。このまま行けば魔術を習得できるのではないかね?」

「いや、笑えないから。っていうか、その時の被害者第一号はお前だぞ」

「そうなったら面白い。ぜひ第一号は僕にしてほしいものだ」

「……ダメだコイツ」

 

 ともあれ、そんな風に冗談を交わしているのもそろそろ限界だった。そろそろドルグレモンが本気で怒り出しそうであるからだ。

 

「そうだな。そろそろ話すべきか」

「やっとか。渋りすぎだ」

「ふむ。ちょっとした冗談ではないか」

「いや、笑えないから。普通に死に繋がるから。ブラック通り越して血のレッドだから」

 

 今回のことは、ウィザーモンの研究の息抜きとしての冗談もとい、ちょっとしたイタズラだった。

 先ほど旅人がキノコを取り出していなければどうなっていたことか。きっとドルグレモンによって、物理的に潰されていただろう。

 まあ、ウィザーモンも、旅人がいるからそこまで大事にはならないだろうと確信して、割とブラックな冗談を仕掛けたのだが――その辺り、タチが悪いと言わざるを得ない。

 

「さて、冗談はこれくらいにして本題に行くとしよう」

「うわ、酷いな……」

「何。君たち人間のせいで僕もかなり苦労しているんだ。少しくらい羽目を外してもいいだろう?」

「それオレたち関係なくね!?」

 

 ともあれ、事の続きをするためにも、ウィザーモンはドルグレモンを叩き起すのだった。

 

「うぅ……ウィザーモンめぇ……」

「ふむ。これはまずいか?」

「いや、オレに聞かれても知らんし。っていうか、お前のせいだろ」

「ドルグレモン。君の方法はちゃんと考えてある。……できるかどうかは別としてな」

「本当!?」

「ああ、任せておけ」

 

 ウィザーモンの希望をもたらす言葉に、ドルグレモンは何とか正気を取り戻した。

 傍から見ていた旅人は、自分の相棒はいいように扱われているようにも見えたのだが――まあ、その辺りはことを面倒にしたくないがために黙っておくことにする。

 

「現状では、進化という現象に多く触れた君だからこそ可能とも言えるものだ」

「僕だから……?」

「まあ、進化の回数で言えばドルは多いからな」

「研究を進めれば普遍的なものとすることができるかもしれないがな。フフフ……僕としたことが、進化を研究しておきながら、退化という逆からのアプローチを考慮しなかったとは……!」

「……何かすっごい不安なんだけど」

「何言ってるんだ旅人~!ここまでくればやるしかないよ!」

「……いや、お前が言うな」

 

 何と言うか、旅人は自分の相棒の現金さに溜息を吐きたい気分だった。先ほど旅人の言った“すっごい不安なんだけど”という言葉は、ウィザーモンだけに向けたものではないのだ。

 だが、そんな旅人を放っておいて、ウィザーモンの説明は進んでいく。先ほどのよくわからない考察とは違って、実際の方法であるからか、今度はドルグレモンも真面目に聞こうと努力していた。

 

「デジモンには存在の容量というものがある。これは究極体になるほど多く、幼年期になるほど少ない。この存在の容量というものは……当然人間にもある」

「ふむふむ」

「最近気がついたのだがね。世界の違いか……人間と比べてデジモンの容量は自由が効くということだ」

「へぇ……自由?」

「ああ。もちろん、人間にも人間の特色はあるが……こちらは今はいいか」

 

 容量の自由が効く。それはつまり、存在を圧縮したり、その逆で圧縮したものを元に戻したり、外観をある程度変えたりすることができるということだ。これを突き詰めるとこの世界の魔術というモノになる。

 この容量というものは、ウィザーモンのように魔術を扱う者にとっては当たり前のことで、さすがに人間とデジモンとで性質が違うとはウィザーモンも思わなかったのだが――それはほんの余談である。

 ともかく、ウィザーモンはドルグレモンの願いを聞いて、ある仮説を思いついたのだ。

 

「魔術というほど大層なものではない。だが、これくらいならば練習すればできるようになるだろう」

「……つまり?」

「究極体デジモンが存在感を持っているのは、その容量が大きいからだ。だから、その容量を圧縮することで小さくし、その外観をその容量に合わせれば……」

「退化できる!?」

「まあ、そう簡単なことではないがな。先ほども言ったが、現状では何十回と進化退化を繰り返した君だからこそ、可能性が高いことだ」

 

 まあ、ウィザーモンが言うほど簡単なことではない。

 理論上は可能であるとはウィザーモンも考えているが、存在という容量の圧縮に失敗した場合どうなるかもわからないし、そもそもその逆ができるかもわからない。

 運良く一度退化の現象を見れても、進化の方も上手くいくとは限らないのである。

 

「でも、今までにそういうことする奴いなかったのか?」

「旅人、君は進化して強くなった者が好き好んで弱くなろうと思うのか?」

「ああ……思わないな」

「そういうことだ」

 

 そう。そもそも退化など、よほど偏屈な者でなければそれに意味など見い出せないのだ。だからこそ、前例がない。ドルグレモンが今まさに挑戦しようとしていることはそういうことで、一朝一夕にできることではなかった。

 あまりに不確定で不明瞭なリスク。それでも、ドルグレモンは挑戦しようと思っていた。それだけ、ドルグレモンはドルモンという姿に愛着を持っていたのだ。

 命懸けになるかもしれない。それを思って、ドルグレモンは再度気合を入れて――。

 

「よし。それじゃ、どうすればいいの~?」

「ふむ。まぁ、今日のところはここで終わりだな。続きはまた今度だ」

 

 既視感のような錯覚を抱きながら、ドルグレモンは出鼻を挫かれることになった。他ならぬ、ウィザーモンに止められて。

 さぁやるぞと張り切った瞬間に、これ。思わず恨めしそうな視線をウィザーモンに向けたドルグレモンだった。

 まあ、ドルグレモンの気持ちもわからなくはない。が、ウィザーモンの事情も考慮すれば、これは仕方ないことでもあったのだ。ようするに、時間切れである。

 

「時間切れ!?」

「ああ。見ろ」

「……?あれは……」

 

 自分に突っかかってくるドルグレモンをあしらいながら、ウィザーモンは一つの方向を指差す。

 そんなウィザーモンに釣られて、旅人とドルグレモンの二人は彼の指の先を見てみて――その指の先にいたのは複数の人影。

 

「あれは……大成たちか?」

 

 そう。その人影こそ、大成たちだった。

 その背の大荷物からして、どこかからの帰り道のようだ。

 

「旅人にドル?お前らもウィザーモンに呼ばれたのか?」

「いや、オレたちは違うけど……その言い方だと、リュウたちは呼ばれたのか?」

「ああ。こっちは大成たちのトレーニングだったって言うのにな」

 

 そう言ったスレイヤードラモンが見れば、大成たちは荒い息を隠そうともせずに座り込んでいる。

 大成たちがしたトレーニングとやらがどれほどのものだったのかは旅人には理解できるはずもなかったが、この様子だと相当のものだったのだろう。

 まあ、そんな大成たちは放っておいて、せっかくの再会だ。旅人とスレイヤードラモンは仲良く話をしていて――それが、ドルグレモンには面白くなかった。

 

「リュウ!おりゃぁあああああ!」

「ぐはっ!なんでいきなり殴ってくるんだよ!」

「旅人が僕を置いてったから~!前々から決めてたんだ!」

「俺関係ねぇじゃねぇか!」

 

 殴ってひとまずの溜飲を下げたドルグレモンに、殴られて納得のいかないスレイヤードラモン。わぁわぁと二人が騒ぐ横で、ウィザーモンは何かの準備をしていた。

 

「ぜぇぜぇ……はー……それで、ウィザーモン。何の用なんだよ」

 

 そして、そんなウィザーモンを怪訝に思って、何とか息を整えた大成が質問する。

 しばらくは大成の質問にも答えず、その何かの準備をしていたウィザーモンだったが、やがてその準備も終わったようで、大成に向かい合って話し始めた。

 

「ふむ。ここにいる面々には、僕と一緒に人間の世界に行って欲しくてね」

「……はぁ!?」

「どういうこと!?」

 

 あらかじめ聞いていた旅人はともかく、大成と優希にとっては寝耳に水な話である。そもそも、人間の世界に行くということは、大成たちにとっては帰ることができるということと同義。

 帰る手段を初めから持っていたのか。持っていたのならば、なぜ黙っていたのか。それとも誰かから手に入れたのか。

 さまざまな疑問が大成たちの中に浮かび上がって――。

 

「質問は結構だが……着いたぞ」

「えっ!?」

 

 次の瞬間、大成たちは公園にいた。

 遠くには見慣れた建物や見慣れた文字で書かれた看板が乱立していて、近くには見慣れた姿の大勢の人間がいて。

 呆気ないほど突然に、そして思いがけないほど唐突に、大成たちは帰ってきたのだった。

 




夏休みにストックを全力で貯め続けた反動か、スランプに陥っています……いっそサイスルの方でも書こうかな。
ともあれ、第八十四話。

前半のグダグダ無駄話と最後の帰郷。ついに大成たちは人間世界へと帰ってきました。

さて、次回からは人間世界でのゴタゴタが始まります。
また何話か後では、あのゲームも再登場する予定です。

それでは次回もよろしくお願いします。
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