【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第八十五話~人間の世界~

 初夏の雰囲気を感じさせるそれなりの日差し。温まるアスファルト。道路を行く数々の自動車。何もかもが、デジモンの世界とは違う、人間の世界。

 

「帰って……来たのか……?」

「うそ……?」

 

 そう。大成たちは帰ってきてのだ。この人間の世界に。

 遠くを見れば、日本語で書かれた懐かしい店の看板が見え、近くを見れば携帯電話を片手に何事かと騒いでいる大勢の人間。

 大成たちは帰ってきたといううれしさと懐かしさで、どうかなりそうだった。

 

「ふむ。やはり帰郷に際してはそういった感情が湧き上がるものなのか?」

「オレに聞くなよ」

「ま、旅人にはわからない感覚だよね~」

 

 一方で、旅人たちは感極まっているらしい大成たちとはどこまでも対照的だった。

 まあ、旅人たちは、旅をして定住の地を持たなかったり、故郷というものがなくなっていたり、そもそもとしてそういったものに思い入れなどなかったりするタイプだ。

 反対に、大成たちはまだ子供であるし、やはり人間の世界が自分の居場所であるという考え方が強い。いくらデジモンの世界に慣れてきたとはいえ、十数年も生きてきた人間の世界への思い入れがなくなることは難しい。

 旅人たちとそんな大成たちの温度差がすごいのも、まあ、当然のことだった。

 

「さて……感極まっているのはいいさ。せっかく帰ってこれたんだしな。リュウ!」

「ああ。わかってる」

「旅人?リュウ?」

 

 挙動不審に彼方此方を見渡しているスレイヤードラモンと旅人に疑問を抱いた優希。

 なぜそんなにきょろきょろとしているのか、と。そう優希は思って――だが、だんだんと優希も現状を理解することになった。

 先ほど自分は何を見た、と。ゆっくりと優希は思い出していく。

 優希が先ほど見たもの。懐かしい日本語の看板と店。そして――。

 

「移動するぞ。いや、アナザーに入るか?」

「どっちにせよ、もう遅すぎるけどな」

 

 そして、()()()()()()()()()()()()集まってきて、何事かと騒いでいる人々の姿で――それは今も変わっていない。

 そう。ここは人間の世界であるのだ。この世界にデジモンなどいるはずもなく、その存在を知る人も、見たことがある人も少数だろう。一応、ゲームとしてのデジモンはあるが、それが実在するなどとは誰も思わない。つまりはそういうことである。

 この場に集まってきた人々にとって、ここにいるデジモンたちはどのように映っているのだろうか。

 

「おい、あれ本物か?」

「本物じゃね?着ぐるみみたいなのはともかくとしてさ、あっちのデカい竜はどうしようもないだろ」

「っていうか、さっき喋ってなかった?え?やだ宇宙人?」

「異世界からの侵略者かも!」 

「危険じゃないか……?」

「そうっすね先輩。こういう時って警察でいいんですかね?」

 

 耳を澄ませば聞こえてくる、多くの人々の不審の声。

 それを前にして、この場の全員が冷や汗をかいていた。もはや一刻の猶予もない。このままでは、下手をしなくても国家権力が出てくるまで時間はそうかからないだろう。

 このことに気付くのがもう少し早かったのならば、動物とか、着ぐるみとか、いろいろと誤魔化しようもあったが、ここまで時間が経ってしまえば、それも叶わない。

 まあ、この大型の野生動物を見る機会の少ない現代日本で、それらの言い訳がどれほど人々に信じられるかはさておいて。

 

「この音は……」

「パトカーの音ですな」

「ふむ。パトカー?」

「警備員の乗り物的なものだよ。行動が早いな。ったく……誰だよ、通報したの」

「いやいや、旅人~そんなこと言ってる場合じゃないよ~!」

 

 呑気そうに話しながらも、旅人はこの場から()()()()で脱するかを考えていた。

 一応、この状況を脱する鍵を握るのは旅人である。だからこそ、その他の面々は旅人の決定を待つつもりのようだった。

 まあ、とはいえ、この場の全員が旅人に急かすような視線を向けているのだが。

 

「ちょ、パトカー見えた!旅人!」

「ちょっと待て。今考えて……」

「旅人!」

 

 焦ったような大成の声に、責めるかのようなドルグレモンの声。それを聞いて、仕方なく旅人も決定した。一番楽で、一番博打の方法を選ぶことを。

 そして、旅人がその手段を使おうとしたまさにその瞬間のことだった。野次馬たちを押しのけて、数人の警察官が現れたのは。

 だが、職業柄さまざまな事件を耳にする彼らも、物語の中にしかいないような見た目の生き物がた目の前にいることには驚いたらしい。動くこともできずに固まっている。

 

「来ちゃったな」

「来ちゃったな……じゃねぇだろ!旅人!」

「大成うるさいな」

「お、お前たちは一体何者だ!大人しくすればこちらも危害は加えない!」

「……だってさ。旅人」

「優希っていうか……お前らさ、オレに任せようとしてないか?」

「いいから答えなさい!」

 

 現れた国家権力は拳銃を構え、さらにメガホンを使っての説得攻勢。ニュースやドラマの中でしか見たことのないような状況だ。

 そんな状況に陥るとは、大成と優希は思ってもいなかったらしい。別世界に行くというトンデモ体験をした二人でも、さすがに国家権力直々のこの対応は、ちょっとだけ萎縮せざるを得なかった。

 とはいえ、この状況をどうにかする方に意識が回ったのか。メガホンで大声を発する警官に多少萎縮しながらも、二人は旅人に詰め寄る。どうするのか、と。

 一方で、そんな二人とは対照的に当の旅人は余裕そのものな感じだった。

 

「大丈夫大丈夫。こういうこと前にもあったから」

「……そういえば、旅人いつかニュースにも映ってたわね。逃亡中とか……そんな感じの」

「アンタ何やってるんだ!?」

「あっはっは……あの時は軍隊も出てきたから、本気で不味いことしたなと思ったな」

「本当に何やってるの!」

「いや、珍しいところだと思って入り込んだら、軍事基地だったみたいでなー!」

 

 思い出話に花を咲かせる旅人。全くもって余裕だった。

 ちなみに、デジモン組は、この面倒な状況を余計に面倒なことしないためにも黙っていたりする。

 ともあれ、余裕そのものといった旅人に釣られてか、大成たちも本来の気質を取り戻しつつあった。

 まあ、その代わりに警察官たちは、いくら叫んでも、拳銃を向けても反応を示さない旅人たちに、どう対応していいかわからずオロオロしているのだが。

 

「さて、いい加減にどうにかしないとマズイか。拳銃を構えられてるし」

「え……?うわ、本当だ!」

「そんなビビらなくても大丈夫だって大成。デジモンと比べりゃ、拳銃なんてほとんど意味ないようなものだし」

「……それもそうだな」

「納得するのもどうかと思うけどね」

 

 というか、ここまで来るといっそ警察官が哀れに思えてくる。

 スレイヤードラモンたちデジモン組は、先ほどからずっと無視されている警察官たちにそっと合唱しておいた――。

 

「っ!?あの竜動いたぞ!」

「っく!竜……竜?に告ぐ!不審な動きをするな!」

「なっ!なんで僕だけ!?」

「喋ったぞ!?」

 

 のだが、ドルグレモンの合唱だけに対しては、どうやら威嚇として取られてしまったようである。

 恐怖と驚きに染まった警察官たちのその顔。よりはっきりと狙って構えられたその手の拳銃。それを前にして、ドルグレモンは泣きそうだった。

 まあ、この面々の中で最も目を引くのは、身体の大きさからしてドルグレモンだ。警察官たちのこの対応も仕方ないと言える。

 

「まぁまぁ、ドル。向こうも仕事だからな」

「納得いかない~!」

「……待て待て、向かおうとするな。歯軋りするな。唸るな。怖いから!」

「そうねドル。落ち着いて!」

「う、うわぁ~ん!僕は結構ふわふわもふもふなのに~!スティングモンやリュウの方がずっと怖いのに~!」

「ぼ、僕たちは……怖いのです……か……」

「いや、そこは反論しろよ。スティングモンも。……ってか、ドルてめぇ!」

 

 怪人みたいな見た目のスティングモンやスレイヤードラモンよりも見た目で警戒に値する者と見られたことが、よほどドルグレモンはショックであったらしい。

 ふわふわもふもふという部分が適切な表現かは別として、ドルグレモンの言うことも一理あると言える。特に、スティングモンの方は昆虫人間だ。人によっては嫌悪感を抱くこともあるだろう。

 まあ、だからどうした、という話なのだが。

 

「何か……警察官たちがオロオロしだしたな」 

「泣かせたからじゃない?」

「だな。おまわりさんも大変だなー」

 

 泣くドルグレモンに、憤るスレイヤードラモン。落ち込むスティングモンに、呆れるレオルモンと我関せずを貫くウィザーモン。呑気に喋る旅人たち人間組に、オロオロとする警察官たち。そして、ドルグレモンを泣かせた警察官たちにブーイングする野次馬たち。

 何と言うか、状況は混沌としていた。

 

「可哀想になってきたな……警察官が」

「そうね。可哀想ね。警察官が」

「そうだな……旅人。そろそろどこか行った方がよくね?」

 

 この混沌とした状況を前にして、いい加減に何処かへと移るべきだという至極真っ当な意見を大成は言う。

 正直、旅人もそう思っていた。

 警察官たちも暇ではないし、他の仕事もある。何より、このいたたまれない雰囲気の中でずっといさせるのは可哀想である。そう思ったからこそ、そろそろ旅人はこの場を離れた方が良いと思ったのだ。

 ちなみに、当然のことながら旅人には、警察官たちに捕まってあげるという選択肢はない。

 

「だな。おい、ちょっとこっち来い」

「っ!?おい、動くなと――」

「それじゃ……何と言うか、悪かったな。set『転移』!」

 

 一応、警察官たちに一言謝って、それから旅人はカードの力を使う。

 旅人が使ったのは、“転移”のカード。簡単に言えば、指定した場所か、もしくはランダムで何処かへと一瞬で移動することができるカードである。

 そうして、一瞬後。大成たちは、どこかの砂浜にいた。初夏であるからか、それとも泳げるような海水浴場でないからか、人はいない。

 まあ、人がいないのは幸いだっただろう。人に見つかっていれば、また旅人たちは逃げなくてはならないことになっていただろうから。

 

「やれやれ、だな」

「っていうか、ウィザーモン!なんであんな街中に出るようになってたんだよ!」

「僕に言うな。この人間の世界に来る仕掛けはある人にもらったものだ。というか、僕は人間の世界について何も知らないのだぞ。どこにどう出ればいいのかなど知るものか」

「……それもそうか」

 

 安全な場所に出るやいなや詰め寄ってきた大成をやり込めたウィザーモンは、ウズウズといったような、何かを我慢している様子で辺りを見回し始めている。

 そんなウィザーモンの様子を前に、その場の全員が呆れたような顔を向けていた。ウィザーモンが何にウズウズしているのか。彼らには、考えるまでもなくわかったのだ。

 

「ウィザーモン……」

「なんだね?君たちにとっては故郷でも僕にとっては異世界だぞ!フハハ!テンションが上がるな!」

「……まぁ、いいけどさ。で、オレたちはなんで連れてこられたんだよ?」

「ふむ!?空が汚いな……これは世界の違いか?それとも何らかの原因が……」

「聞けよ!」

「む?なんだね大成。僕は旅人の話を聞いているほど、暇ではないのだが?」

「ウィザーモン?」

「……やれやれ。わかった。だから、そんな怖い声を出すな」

 

 地獄の底から響くかのような、ドスの効いたスレイヤードラモンの声。そんな声を出したスレイヤードラモンは、冷えた目でウィザーモンを見ていた。

 いや、スレイヤードラモンだけではないか。旅人たち全員が、ウィザーモンをそんな目で見ていたのだ。これには、さすがにウィザーモンも分が悪いと感じたのか。

 しぶしぶといった様子で、ウィザーモンは話し始めた。

 

「ここへ君たちを連れてきたのはある人から依頼があったからだ。……依頼主は言えないがね」

「何かその依頼主の予想ついたぞ。あれだろ。無表情の……」

 

 依頼主は内緒だとウィザーモンは言ったものの、旅人には誰からの依頼かすぐにわかった。というか、人間の世界とデジモンの世界を自由に繋ぐことのできる者など、それこそ限られる。旅人の知る限り、そんな者は多くはない。

 特に、勝手に人様を巻き込んで何かをさせるタイプの者など、旅人には一人しか思い浮かばなかった。

 

「旅人は知ってんのか?」

「この中では……大成とスティングモンだけ知らない奴だな。優希とレオルモンは……会ったことがあるはずだ」

「……ああ」

「なるほど……」

 

 旅人が気づいたことによって、その者のことを知らない大成とスティングモンの二人以外の全員が、依頼主のことに気づいたようである。

 唯一、その者のことを知らない大成とスティングモンは、首を捻っている。

 

「なぁ、優希。そいつってどんなやつなんだ?」

「えっと……無表情?」

「……はぁ?」

 

 そして、気になったからこそ、大成はその者のことを優希に聞いたのだが――残念ながら、優希はその者のことを詳しく知っているわけではなかった。五年前にほんの少しだけ会ったことがある程度だ。

 記憶を掘り起こして、思い浮かんだその者の特徴。それを優希は大成に伝えたのだが、仕方ないと言うべきか、大成には伝わらなかったようである。

 

「で、何の依頼なんだ?まさかまた無茶させられるんじゃないだろうな?」

「無茶?」

「七大魔王とか異世界巡りとか……七大魔王とか……!」

「……ああ」

「あれはキツかったな」

「キツかったね~」

 

 依頼主に思いを馳せる大成や優希たちの一方で、旅人たちはその依頼自体に嫌な予感を抱いていた。五年前の苦労と衝撃の記憶が、彼らにそう思わせていたのだ。

 

「大丈夫だ。今回はそのようなことは……ない。はずだ」

「どういうことだ!?」

「僕たちが依頼されたのは調査だよ」

「調査?」

「げーむとやらのな」

「ゲーム?それって……」

 

 依頼されたのはゲームの調査。そんなウィザーモンの言葉に、この場の面々の中で大成と優希の二人が反応した。

 考えるまでもなく、二人にはわかったのだ。依頼主が調べろといったゲームが、何のゲームなのか。他ならぬ、事態の渦中にいたからこそ。

 

「“デジタルモンスター”のことか?」

「旅人知ってるの~?」

「そりゃ、ここ数年はこの世界を旅してたからな。初めて見た時はデジモンが登場していて驚いた」

「そうね。私も驚いたわ」

「そっか。俺はあの世界に行ってデジモンが現実にいることに驚いたけど……旅人や優希にとっては現実がゲームになってたわけだしな」

 

 あの始まりの時を思い出して、大成はしみじみと言う。

 ゲームの中のものが現実だった。現実だったものがゲームとなった。この二つを比べた時、どちらがより衝撃的かと問われれば、誰もが前者だと答えるだろう。

 だが、旅人も、優希も、デジモンという存在は人間世界に認知されないものだと思っていた。だからこそ、あのゲームの存在を知った時はたいそう驚きだったのだ。

 

「……でも、確かに怪しいよな。俺たちはゲームをやっていて向こうに連れてかれたわけだし……イモもその何者かにもらったわけだし」

「確かに……今までは考えませんでしたけど、疑問ですね」

 

 あの始まりの時から、時折湧き上がるいくつもの疑問。

 大成も、優希も、スティングモンも、レオルモンも、それらを何回も考えた。だが、答えは一度として出たことはない。

 今回の依頼は、それら疑問に届くかもしれない依頼だ。

 なるほど確かに調査は必要だ、と。帰って来られた喜びはそのままに、大成たちは今回の依頼についてのやる気が出たのだった。

 




インターンシップという、夏一番のイベントが終わってホッとしています。作者です。
ともあれ、というわけで、第八十五話。

人間の世界にたどり着いた大成たちの騒動の話で、題して帰り道その1の話でした。
次回は帰り道その2。思った以上に長引いたので分割した話ですね。

それでは次回もよろしくお願いします。
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