【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第八十六話~ここはどこ?~

 人間の世界に帰ってきた大成たちは、紆余曲折の後にとある砂浜にて今後のことを話していた。

 

「でも、調べるって言ってもどうやって~?」

「ふむ。とりあえず内側と外側両方から攻めるべきだな」

「内側と外側……内側はなんとなくわかるけど、外側?」

「心配しなくていい。大成。外側を調べるのは僕がやる。君たちには内側を調べて欲しい」

「……どうやって」

「そのげーむとやらをやるのだよ」

 

 やはりか、と。大成たちは予想通りの展開に頭が痛くなりそうだった。

 確かにやる気だけはある。だが、内側から調べると言っても、大成たちにはどうやればいいのかもわからない。そもそもの問題として、旅人はゲーム自体を持っていない。

 いろいろと問題点がありすぎだった。

 

「オレ、ゲーム持ってないんだけど。っていうか、やるところもないんだけど」

「適当に買って、宿でやればいいだろう。こちらの世界にも宿くらいあるだろう?」

「金がない」

「えっ!?旅人ってどうやって生活してたんだよ?」

「基本サバイバル」

「……今度、俺ん家に食べに来いよ。な?」

「……」

 

 別に旅人は正直に言っただけであるし、そもそも旅という生き方の上で望んでやっている生活だ。哀れみを受けるいわれはない。だが、そんな旅人自身の考えはどうあれ、やはり傍から見れば、旅人の生活は哀れみを誘う生活にしか見えない。

 だからこそ、大成は旅人を哀れみを含んだ目で見てしまったのである。

 そんな大成の視線がイラっときた旅人だった。

 

「ま、確かにゲームやるなら家に帰らないとできないよな」

「まぁ、そうね……そうね!」

「……嫌な予感」

 

 それまでの会話と大成の言葉に、優希はハッとして思い出し、そしてあることを思いついた。

 あのゲーム“デジタルモンスター”は、持ち運びができるような携帯型のゲームではない。家や宿のような長時間に渡ってくつろげる場所が必要である。

 だからこそ、大成は家に帰らねばならないと言ったのだ。そのような場所が家しか思いつかなかったが故に。そして、そんな大成の言葉を聞いたからこそ、優希はそのことを思いついたのである。

 まあ、そんな優希の様子を前にせずとも、旅人はその内容を聞く前から嫌な予感がしていたのだが――。

 

「ふふっ。旅人この期に戻ってきたら?」

「ほら、来たよ」

 

 旅人のその嫌な予感は当たった。

 そう。忘れているかもしれないが、旅人は優希と同じ孤児院の出身である。十数年前に孤児院を()()()抜け出してから、旅人は一度たりとして孤児院に帰ってない。というか、行方不明扱いどころか、死亡届が出されてしまっているほどである。

 まあ、優希の証言によって、旅人が生きていることを孤児院の者たちは知っているのだが――怒られるのを恐れて、旅人は一度たりとして孤児院に戻ってはいない。

 

「やっぱ、オレは適当なところで野宿してるわ」

「ダメ。帰るわよ」

「ですな。旅人殿……お嬢様の言うことを聞いてくだされ」

「嫌だー!今更すぎるし!」

 

 子供のように駄々をこねる旅人を、全員が呆れたような目で見ている。今の旅人はどこぞの家出少年みたいな感じだった。

 まあ、あながち間違いでもないが。

 この後も数十分もの間、粘りに粘る旅人。だが、繰り広げられた優希の粘り強い説得によって、折れることになった。

 

「何かあったらすぐカード使う!」

「……旅人」

「やれやれ。まあ、旅人の気持ちもわからなくはないがね」

「ウィザーモン?」

「故郷を離れた者が……故郷に戻るというのもいささか今更な話だろう?」

 

 そう言ったウィザーモンに優希は、驚いていたような顔をした。

 とはいえ、ウィザーモンも、旅人の気持ちもわかると言っただけで、旅人に助け舟を出したわけではないのだが。

 まあ、そこは故郷を離れることが一生の別離になることもありうる世界に生まれた者と、交通手段が発達したこの人間の世界に生まれた者との考え方の違いだろう。

 故郷に帰る理由もないが、故郷に帰らない理由もない。好きにすればいい。強制することではない、と。ウィザーモンはそう思っているのだ。

 

「で、イモや……リュウたちデジモン組はどうするんだ?出歩いたら、さっきみたいになるだろ」

「……とりあえずアナザーの中に入れるだろ。オレのところはドルとリュウ」

 

 比較的に身体の小さいレオルモンはともかくとして、それ以外のデジモン組はとにかく目立つ。見た目も、身体の大きさも。何も手がないのならば、それこそ大変な苦労をすることになっていただろう。

 だが、幸運なことにも、旅人たちにはデジモンを収納することのできるアナザーがある。

 

「私のところはセバスね」

「俺のところはイモ……と。ウィザーモンは?」

「僕は単独行動だ」

「……大丈夫か?」

 

 心配そうというか、不安そうにウィザーモンに声をかける旅人。いや、旅人だけではなく、この場の全員がウィザーモンを不安そうな目で見つめている。

 

「ふむ。信用がないな。連絡はアナザーを使えば取り合えるだろう?依頼の詳しい指示もこちらで行う」

「そういう問題じゃない!」

「事この場において信用できないんだよ!」

 

 旅人と大成の二人に詰め寄られても、ウィザーモンは揺るがない。というか、大成たちを追い払って、さっさと一人になりたい感じさえしている。

 ウィザーモンがそんな様子だからこそ、大成たちは信用できなかった。何と言うか、目を離した隙に何かをやらかしそうな気がしたのである。

 

「失礼な。この見知らぬ世界。僕だって慎重になるさ」

「目を輝かせて言われてもな」

 

 まるで少年のように目をキラキラさせて言うウィザーモンに、旅人が言う。だが、何を言われようとも、ウィザーモンは気にしないようだった。

 

「ふむ。そろそろ解散ということでいいかね?」

「いや、よくはないだろ」

「調査の詳細は追って連絡する。それまでは勝手なことをしないように。いいな?」

「いや、だからそれはこっちのセリフだから」

「それでは解散!」

 

 解散を告げたウィザーモンは、まるでスタートの合図があった陸上選手の如き勢いで去っていく。まず間違いなく、大成たちが今まで見たウィザーモンの動きの中で最速の動き。

 足早に去っていくそんなウィザーモンを前にして、大成たちは呆気にとられるしかなかった。

 

「……俺たちも行こうぜ。イモ、お前は中に入ってろ」

「わかりました」

「リュウとドルもな」

「え~。僕は外でいいよ」

「いや、今のお前は無理だから」

「う……教えてくれるって言ったのに。ウィザーモンの馬鹿~!」

「とにかく入れよ」

「セバスも」

「了解ですな」

 

 そうして、先ほどの案通り、大成たちは自分のアナザーにそれぞれのパートナーたちを収納。約一名ごねた者がいたが、無事に全員収納することができた。

 デジモンたちの姿が消えて、この砂浜に残ったのは三人。寂しくなったものである。人口密度的な意味で。

 ともあれ、いつまでもここにいるわけにはいかない。大成たちは家に帰るためにも歩き出して――だが、その直後、あることに気が付いた。

 

「……なあ、旅人」

「なんだ?」

「ここどこだ?」

「知らん」

 

 そう。家に帰るのはいい。だが、ここがどこであるか、大成たちには“誰も”わからなかったのだ。それは、ここへ来る理由となった旅人も同じである。

 

「何で知らないの!?」

「いや、だって……ランダムだから」

「えぇえええええ!?マジか!?」

「おう。まじだ」

 

 旅人の“転移”のカードは、一瞬で離れた場所まで移動することができるという便利なカードだ。だが、行き先を決めていない場合は、ランダムで見知らぬ場所へと飛ばされる。今回、あの場から逃げるために、旅人は後者の方を使ったのである。

 なぜ行き先を選択しなかった、と。旅人を責めるような目で見る大成たちは、そう思った。

 ちなみに、旅人がなぜランダムの方を選択したのかというと、それに深い意味はない。まあ、強いて言うのならば、旅人があのカードでわざわざ行き先を選択することは稀であり、その癖が出たと言うべきか。

 

「まぁまぁ。そんなに慌てなくてもいいだろ。多分ここ日本だし」

「範囲広っ!」

 

 楽観的に言う旅人。旅人はそれまでの経験や遠くに見える風景から、ここが日本のどこかであることを確信していたが、大成の言う通り範囲が広すぎる。

 一口に日本と言っても、沖縄から北海道までさまざまなのだ。大成たちは関東圏に住んでいるのだから、これで沖縄や北海道にいた場合は目も当てられない。

 

「俺、金持ってねぇんだけど……」

「オレだってないよ」

「……優希は?」

 

 最後の希望とばかりに、大成は優希の方を見る。が、優希は首を横に振った。それの示すところは、この場の誰も人間の世界のお金を持っていないということであり、場合によってはまた野宿などのサバイバルの可能性があるということである。

 人間の世界、それも現代日本に帰ってきてまで、サバイバルの可能性がある。そのことに思い至って、大成は膝から崩れ落ちた。

 

「大丈夫だって。人間の世界を旅することも悪くないから」

「いや、旅人と一緒にしないでよ。私たちは中学生なんだけど」

「でも、オレは小学生くらいからずっと旅してたぞ?」

「だから、旅人みたいな規格外と一緒にしちゃダメなんだってば」

「そういうもんかね?」

 

 ともあれ、ここがどこかを知らなければどうしようもない。それを知るためにも、何とか起き上った大成と共に、旅人たちは歩き出す。

 どこにでもあるような砂浜。海を眺めながらそんな砂浜を歩き続けて――数分後には、町が見えた。幸いなことに、町に近い位置に大成たちはいたようである。

 

「砂浜って嫌いなんだよな。……靴に砂がじゃりじゃりと……」

「え?この感覚面白くないか?山や森じゃ味わえないぞ。ああ、でも砂漠あたりなら似た感覚が……」

「砂漠に行く予定はねぇよ!」

 

 街が見えたことで多少精神が持ち直したのか。大成もくだらない雑談をする元気くらいは出たようである。

 ともあれ、なんやかんやで数分後。大成たちは、その町に入った。ずいぶんと久しぶりな気がするアスファルトで舗装された道路である。

 とりあえずの目的は、この町にいる人間に接触し、ここがどこかを聞くこと。大成たちは靴の中に溜まった砂を捨て、その目的のためにも再び歩き出した。

 

「しっかし、田舎だな」

「そういうこと言わないものよ」

「風情がないな。いいじゃないか。こういう独特の雰囲気」

「そりゃ、そうだけどさ」

 

 昔ながらとでもいうのか。大成たちがいる町は、時代に取り残された昭和の海沿いの町といった雰囲気を醸し出す町だった。

 確かに、旅人の言う通り風情はある。都会には見られないこの光景は珍しいし、雰囲気もいい。そこは大成も素直にそう思う。が、雰囲気よりも利便性を重要視してしまう大成だった。

 

「雰囲気がいいとか、そういうのは向こうの世界でお腹いっぱいだ。こっちに帰ってこられたんだから、やっぱ便利がいい」

「風情がないなぁ」

「うるせー!」

 

 呆れたように言ってくる旅人に言い返しながらも、大成自身も少しだけそう思ってしまった。それが何となく悔しい大成である。

 そうして、歩き続けること数分。大成たちが辿り着いたのは、この町の寂れた商店街だった。

 

「ここ商店街か。人いるよな?……よし、旅人と俺と優希。誰が行く?」

「……私が行くわ」

「え?いいのか」

「別に誰だっていいでしょうしね」

 

 寂れているとはいえ、やはり商店街。何人かは買い物していたし、買い物客を狙わなくても店だって開いている。最悪、その店の主人に聞けばいいだろう。

 まあ、さすがに何も買わずに聞くだけ聞くのは悪いと思ったのか、優希は何人かの買い物客に聞いていたのだが。

 

「わかったわよ。すごく不審な顔されたけどね」

「ああ、されてたな。で?どうだった?」

「結論から言うと、ここは富山県の海沿いの町ね」

「……遠いな」

「遠いわね」

「富山かー……そういや来たことなかったな。海沿いは太平洋側ばっかりだったしな。これを機に日本海側を旅するのもいいかもな!」

 

 約一名ほど関係のないことを考えているが、その他の二名は理解した現状に泣きたかった。

 現在いるのが富山県。大成や優希の家があるのは、関東圏。離れすぎている。徒歩で気軽に行ける距離ではない。

 

『とやまってそんなに遠いんですか?』

「イモ。いいか?俺の家と富山は歩いて行ける距離じゃないんだよ!」

『そ、そんなにですか!?』

「いや、行けるから。歩いて行けるから」

「旅人と一緒にするな!」

 

 人間の世界のことを何も知らないからこその、スティングモンのその言葉。

 そんな自分のアナザーから聞こえてきた声やどこかズレている旅人の言葉を前に、大成は半ばツッコミを入れる。

 ともあれ、これでサバイバル説が濃厚になってきたわけだ。

 

「……どうにかならない?」

「何でオレに聞くんだよ。まあ、どうにかする手段がないこともない」

「本当か!?なら、それで!」

「いや、まだ何も言ってないんだけど」

 

 旅人の言う手段。それはもう一度“転移”のカードを使うことであったり、自身のパートナーであるスレイヤードラモンやドルグレモンに乗っていくということである。

 これならば、徒歩よりもずっと早く大成たちの家にまでたどり着くことができるだろう。

 

「なるほど!確かに、前にリュウのマントにくるまれて飛んでもらったことあったしな!」

「リュウ、お前そんなことしたのか?」

『……ノーコメントだ』

「まぁ、いいや。でも、これ人に見られる可能性が高いんだよなぁ」

「リュウなら人目につかないほど早く飛べるんじゃないのか?」

「あのな。リュウの本気の速度だと、オレたち吹っ飛ばされるぞ」

 

 旅人はそう言うが、吹っ飛ばされるという生易しいものではない。空気の壁にぶつかって、体が空中分解する。悲しいかな、人間という弱い生き物である大成たちに、これに耐える術などない。

 だからこそ、スレイヤードラモンには速度を落としてもらわねば、大成たちが困るのである。

 

「それに、あんまり上空を飛ぶのもな。寒いし」

「……そういう問題?空気とか気圧とか……いろいろとあるでしょ?」

「きあつ?まあ、カードのあるオレはともかく、大成たちが苦労するぞ」

「苦労なんてものじゃないけどね」

 

 そうして、その後も話し合うが、出た案はどれもどこかしらに欠点のあるものばかり。これだという案が出ない。妥協案はいくつか出ているが、どれも中途半端というか、妥協しすぎなレベルで、採用したくないものだった。

 とはいえ――。

 

「そういや、依頼の調査するためにはそのゲームがいるから……すぐに帰らないといけないんだよな」

「……」

 

 とはいえ、時間が無駄に過ぎていることは確か。

 そして、そんな中での大成のこの一言がキッカケだった。

 結局、大成たちの選んだ選択は、妥協案。人に見られるということを承知の上で、大成たちはドルグレモンとスレイヤードラモンに乗って飛び立つ。

 そして、この日。日本のいくつかの地域で見られた謎の生物たちの動画が、オカルトファンや生物学者をさまざまな意味で興奮させ、さまざまな議論を呼び起こすこととなるのだが――これはまた別の話である。

 




前にある方から紹介された小説を読みに行きたいのに、なんやかんや忙しくて読みに行けない中で投稿した第八十六話。
帰り道その2の話でした。なかなか話が進みませんね。
すみません、もう少しだけ進みません。

次回は帰宅その1。大成たちが家に帰れます。
ついに大成が……ついでに旅人も……という話ですね。

それでは次回もよろしくお願いします。
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