【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第八十七話~帰宅~

 多大なる都市伝説の作成と引き換えに、無事に家へと帰ることができた大成たち。

 久しぶりの我が家に、今大成は――。

 

「やっほぉおおおお!人間の世界最高ォおおお!」

「た、大成さん……?」

 

 大成は叫んでいた。

 その顔とテンションがおかしいことになっているが、まあ、それも仕方ないことだろう。

 ここには、エアコンにフカフカのベッドに風呂、美味しい食べ物にテレビ、そしてなによりゲームがある。ここに、大成が欲して止まなかったものすべてがあるのだから。

 

「いや、だってさ!ゲームができる!ふかふかのベッドがある!働かなくても食べ物がある!全部向こうの世界にはないものだぜ!?」

「確かに……」

「ははは!久しぶりに何をやろうかな!やっぱ王道にRPGをやるか……それともアクションをするか……?」

「それが、大成さんの言っていたゲームとやらですか?」

「ああ!面白いんだ!」

 

 興奮冷めやまぬ様子で、大成はテレビにゲーム機を接続していた。帰っていの一番にやることがゲームとは、大成らしいというか何と言うか、だ。

 一方、大成にアナザーから出してもらったスティングモンは、人間に比べて微妙に大きな身体が災いして、小さな家の中では窮屈そうである。が、あまり気にしてはいないようだ。

 見知らぬ別世界。見慣れぬ家具家電。窓の外を見れば、これまた見知らぬ風景。物珍しさに、スティングモンはのテンションはかなり上がっていて、ようするに彼は窮屈さを感じることを忘れていたのである。

 

「へぇ……あっ人間が……!」

「そりゃ、そうだろ。人間の世界なんだから。おっ……ゲージ溜まった!」

「これは……?冷たっ……!」

「冷蔵庫。食べ物を冷やす機械だよ。……よっしゃ!行くぜ、超必殺技!」

「いろいろありますね」

「向こうに比べたらな。うし!勝った!やっぱ忘れてないもんだなー!」

 

 コントローラーを握りしめて夢中でゲームをする大成。だが、そんな大成でもスティングモンのことは忘れていないらしく、ゲームをしながらでも彼の疑問にいろいろと答えていた。

 

「しっかし、こうやったゲームは得意なのに……なんで“デジタルモンスター”はあんなに下手くそなんだ」

「デジタルモンスター……って例のゲームですね。そうなんですか?」

「ああ。向こうに連れてかれた人間はランキング千位以内の人々だけど、俺は千位行ってないからなぁー」

「あれ、では……なぜ向こうにいたんです?」

「優希に巻き込まれ……って、そういや、優希もランキング千位外だよな。なんでだ?」

「知りませんよ」

 

 改めて思い起こせば、さまざまな疑問が湧き上がる。

 今回の調査とやらで少しは何かわかるのだろうか、と。そんなことを考えながら、大成はゲームをし続ける。が、そんな疑問に気を取られていたからだろうか。テレビの画面には、ゲームオーバーの文字が映っていた。

 

「っち。もう一回だ!おらぁあああ!」

「そういえば……大成さん?」

 

 ともあれ、気を取り直してゲームを再開する大成。

 一方で、スティングモンは気になったことがあって、そんな大成に話しかけた。

 

「何だ?……うおっ!こなくそっ!そう来るか!超必をくらえっ!」

「あの、僕出ちゃってますけどいいんですか?」

「何が?」

「いや、だから……ご家族の方とかに説明と、か……」

「……」

 

 家族、と。

 その単語がスティングモンの口から出た瞬間、大成の動きが止まった。呼吸さえも止まってしまったかのように、大成から発せられる音のすべてがなくなったようにさえ感じられる。

 だからこそ、テレビから発せられる軽快なゲームの音が、やけに場違いに感じられて――スティングモンは、何かマズイことを聞いてしまったのだろうか、と内心気が気でなかった。

 

「大成さん?」

「……」

 

 地雷を踏んでしまったと仮定して、スティングモンは爆弾解体作業をするかのように、慎重に大成に話しかける。

 

「あの……」

「ぬぁああああっ!しまったぁあああ!」

「うぇっ!?」

 

 いきなりの再起動。いきなりの奇声。それは、あまりにも唐突でスティングモンは驚いた。

 やはり家族のことを忘れていたのか、と。そう思ったスティングモンだったが――だが、大成が見ていたのは、忘れていた誰かなどではなく、目の前にあるテレビだった。

 その画面には、ゲームオーバーの文字が映っていた。

 

「はぁ」

 

 なにはともあれ、スティングモンは大成の地雷を踏んだわけではないらしい。

 先ほどの異様な沈黙もあったせいで、ドッと気が抜けたスティングモンだった。

 

「くそぅ……!もう一回だ……!」

「大成さん?」

「んあ?ああ、家族だったっけ?両親がいるけど……帰ってくるのは数日に一回だし、時折何週間も帰ってこない時あるし……気にしなくてもいいだろ」

「……それは」

 

 片親だとか、全くいないという訳ではないが、なんともコメントしづらい家庭状況である。

 大成の両親は、仕事で家にいないことが多い。まあ、何の仕事をしているのかは大成も知らないのだが。何日も帰ってこないからこそ、あまり気にしないでいいと大成は言っているのである。

 

「でも、いいのですか?万が一帰って来たら、大成さんが帰って来ていることにも驚くんじゃないんですか?」

「あー……どうかなー……」

「……?」

 

 微妙な顔をして、何かを思い出しているような大成。

 あの二人ならば、行方不明になっていた自分のことなど心配もしていないのだろうな、と。妙に放任主義がすぎる両親のことを思い出しながら、大成はそんなことを思っていた。

 

「……ま、たぶん大丈夫だろ」

「そうですか?」

「ああ。……それより、お前もやらね?」

「えぇ……でも、大成さんが持ってるソレ、僕には少し小さすぎますよ……」

「大丈夫大丈夫。何とかなるから」

 

 気楽に言いながら、大成はゲームのコントローラーをスティングモンに渡す。それからしばらく、大成とスティングモンは夢中でゲームをしていたのだった。

 

 

 

 

 

 大成とスティングモンが楽しくゲームをしていたその頃。

 旅人と優希は、孤児院の前にいた。

 旅人の故郷にして、優希の家であるこの孤児院。ここに着いてから、はや一時間以上も経過している。が、せっかく着いたというのに、旅人たちは中に入らず、外でずっと留まっていた。

 

「……いい加減に入るべきじゃない?」

「旅人殿。潮時ですぞ」

「いやぁ……」

 

 理由は言わずもがな、旅人が渋っているからだ。というか、渋っているどころか、隙を見て逃げ出そうとすらしている。

 優希たちも、そんな旅人を放っておくことはできない。だから、こうなっているのだ。

 

――いい加減にしたら~?――

――覚悟を決めるべきだと思うぞ――

「うるさい!ドル!リュウ!」

 

 アナザーの中から聞こえてくるスレイヤードラモンやドルグレモンの声。この二人も、優希たちの味方のようで――旅人に味方はいなかった。

 

「……やっぱ、オレは適当な場所で寝るわ」

「今更!?ダメ。今日こそ帰ってくる!セバス!」

「了解ですな!」

「は、な、せー!」

 

 往生際の悪い旅人を前にして、我慢の限界が来たのだろう。優希は力尽くをレオルモンに命じた。

 孤児院の入口へと向けて、レオルモンに引っ張られる旅人。こんなことをされると、旅人にも意地が生まれる。意地でも入るものか、と。そう思って、旅人はその場で踏ん張った。

 

「ぬぎぎ……!」

「うそ……」

「力いっぱい引っ張っているというのに……!」

「この程度でオレを動かせると思うな!」

 

 レオルモンの全力をもってしても、旅人を動かせない。その事実に、レオルモンはちょっとだけプライドを傷つけられて――。

 

「なるほど。このセバス。挑戦させていただく……!」

 

 レオルモンも意地になった。

 というか、ここまで来るとレオルモンと旅人の意地の張り合いだった。旅人を動かすべく、力いっぱい引っ張るレオルモン。動いてたまるか、と力の限りその場で踏ん張る旅人。

 硬直状態。どちらかといえば旅人が優勢だろうか。レオルモンは必死な顔だったが、旅人の顔には、まだ余裕がある。

 

「……はぁ。いい加減にして!」

 

 見てられないとばかりに。この状況をどうにかすべく、優希も参戦する。旅人の腰に手を回し、レオルモンと息を合わせて、力の限り引っ張って――それでも、旅人は動かなかった。

 

「ふぅううううう!」

「ぬぅううううう!」

「ちょ、お前らいい加減にしろ……!」

「いい加減に……するのは……!」

「旅人殿の……方ですぞ……!」

 

 そうして、旅人を動かすべく奮闘して、はや数分。そろそろ優希とレオルモンにも疲れが溜まってきていた。まあ、全力で力を入れ続けていれば当然だろう。どちらかといえば、二人がかりに怯まず、疲れも見せない旅人が異常だと言える。

 ちなみに、現在の優希たちの姿は、傍から見れば、少女と子獅子が大人の腰にくっついているような、じゃれあっているような光景として見えていて。

 旅人自身も、若干、このじゃれあいを楽しんでいる節があった。が、旅人は孤児院に入りたくないというのならば、その場で留まるのではなくて優希たちを引きずってでも後退するべきだった。

 なぜなら――。

 

「あの、貴方たち何やって……優希?」

「っ!?杏さん?」

 

 なぜなら、入り口付近で挙動不審なことをしていれば、さすがに孤児院の人たちも気づくのだから。

 突如として聞こえた不審の声は、女性のものだった。自分の名を呼ぶその声に聞き覚えのあった優希が、ハッとして振り返って――そこにいたのは、優希にとって家族のような存在の女性で、この孤児院のお母さん的役割を果たしている人。

 その女性こそ、小村杏という女性だった。

 

「……えっと……あの……」

「セバスに優希……言いたいことも聞きたいこともあるけど……とりあえず。おかえりなさい」

「っ!ただいま……」

「ただいま帰りましたぞ!」

 

 ずいぶんと長い間行方不明となっていたのだ。聞きたいことはいろいろとあっただろう。言いたいこともいろいろとあっただろう。それでも、それらすべてを後回しにしてでも、杏は優しく優希たちを迎え入れた。ただ、おかえり、と。

 自分の帰るべき場所に帰ってこられた。そのことを改めて感じられた優希の声は、震えていて――この場の誰もがそれに気づいていたが、空気を読んで触れなかった。

 

「さて。そこにいる阿呆にも言いたいことはあるけど……」

「げっ……逃げよ……」

「とにかく中に入って?」

「う、うん」

 

 会うのは十数年ぶりだというのに、杏は旅人のことをバッチリ覚えていたらしい。どこかイライラが込められて告げられたその言葉に、説教確定コースという単語が脳裏に浮かんだ旅人。

 そんな旅人は、優希やレオルモンが孤児院の中に入っていくタイミングを見計らって、この場から逃走しようとしたのだが――。

 

「逃がさないわよ?ねぇ?家出少年くん?」

 

 そんな旅人の行動を読んでいたのだろう。残念ながら、逃がさないとばかりに杏に回り込まれてしまった。

 

「あはは……オレはもう少年って歳じゃないんだけどなー……」

「怒られるのが怖いから、家出したまま帰って来れない阿呆なんて、ガキで十分と思わない?」

「……優希ぃ!言ったのお前だな!」

「え?え?なんのこと!?」

 

 首根っこを掴まれて、引きずられていく旅人。

 旅人の杏に対する苦手意識がそうさせるのか、それとも杏が馬鹿力なのか。旅人はその場で踏ん張るも、先ほどまでとは違って、抵抗すらできなかった。

 そんな旅人ができたのは、せいぜい自分の不条理を嘆くことくらいである。

 

「優希お姉ちゃんおかえりー!」

「ゆきねぇとセバスだ!二人が帰ってきた!」

「優希姉さん、この人誰?」

 

 孤児院の中で、優希は多くの子供たちに迎えられた。皆、この孤児院に預けられた子供たちで、優希とは兄弟姉妹同然の仲である。

 子供たちの誰もに喜びが溢れている。ここの子供たちにとって、優希との再会は正しく家族との再会だったのだ。

 

「はいはい。ちょっと私はこの人と優希と話があるからね。聞き耳立てちゃいけませんよ?」

 

 優希と旅人を奥の部屋へと案内しながら告げた杏のその言葉に、子供たちは「はーい!」と元気な声で返事をして、解散していく。

 一方で、旅人は杏の様子に首を傾げていた。旅人がこの孤児院にいた時代にも、杏はこの孤児院にいた。思い出補正があることは旅人も重々承知しているが、このような優しげな性格の杏が記憶になかったのである。

 

「……?」

「どうしたの?」

「いや、杏ってさ。あんな性格だったか?もっと厳しくなかったか?」

「そう?杏さんはずっとあんな感じよ?」

 

 「お茶を入れてくる」とそう言って、旅人の見張りをレオルモンに頼んで席を外した杏。

 そんな杏の様子に、やはり旅人は違和感が拭えない。逃げ出すことも忘れて、旅人は必死に記憶を掘り起こしていた。

 

「旅人殿がここにいたのは、十数年も前のこと。少しくらい変わるのでは?」

「そうかなー」

「そりゃ、あの頃は手のつけられない子がいたから……ね?」

 

 お茶を持って戻ってきた杏は、記憶の発掘作業を続けていた旅人に話しかける。が、何と言うか、ずいぶんな言いようである。

 

「う……杏さん。もう戻ってきたのか?」

「昔みたいに目を離した隙にどっか行かれちゃ溜まったものじゃないもの。それに、子供の躾には今もうるさいわよ?」

「旅人って結構やんちゃだったの?」

「うーん?どちらかといえば、隠れヤンチャタイプね」

「隠れ……ですかな?」

「ええ。表面上はいい子なんだけど、見えないところで宿題をサボったり、お釣りをちょろまかしたり、ね」

「へぇ。旅人にもそんな時期が……って、今とあんまり変わってない気もするね」

「子供がそのまま大人になったのではないですかな?」

「ふーん?優希ちゃんたちから見ても、今の旅人はそうなんだ?」

「……嫌がらせか!」

 

 何が面白いのか。旅人の子供時代について盛り上がりを見せる杏たち。すっかり忘れていた子供時代の記憶を強制的に掘り起こされて、旅人は耳を塞ぎたくなっていた。

 ちなみに、この旅人の子供時代についての話は、この後数十分に渡って続くことになる。この話が終わった時、旅人は若干憔悴していたのだった。

 

「……で、冗談はこれくらいにして」

「今までの全部冗談かよ……!」

「心配したのよ。私も、みんなも。何があったの?」

 

 旅人弄りの話が一区切り着いたところで、杏は優希に向かい合った。その顔は真面目そのものといった様子で、一切の嘘を許さないという様子だった。

 だからだろう。優希も、一切の嘘偽りなく、すべてを話した。向こうのデジモンの世界に行ったことを。デジモンの世界であったことを。

 




というわけで、第八十七話。
前後編の前編。
帰宅して楽しいことになっている大成たちと帰宅して辛いことになっている旅人のお話でした。

さて、次回の後編を挟んで、次々回からいよいよ調査が始まります。

それでは次回もよろしくお願いします。
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