【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
大成たちが人間の世界へと帰ってきた次の日。大成たちは今――。
「すみません、遅れました」
「待ったか?」
「ええ。十五分くらいね」
「遅刻ですぞ!」
大成たちは、あのゲーム“デジタルモンスター”の中にログインしていた。
ちなみに、大成たちには何がどうなっているのかさっぱりなのだが、ウィザーモンの手段の魔術によって、レオルモンとスティングモンの二人もついて来ている。
ゲームシステムとかどうなっているんだという話なのだが――大成も優希も、どうせ聞いてもわからないだろうから、その部分については聞かなかった。
「しっかし、久しぶりだな!」
「ほんと……一度しか来てないけど、変わらないわね」
数ヶ月ぶりのこのゲームの中は、大成や優希が最後に訪れた時と全く変わっていなかった。それこそ、不自然なくらいに。
このゲームのランキング上位が、あの世界に連れ去られたことは、始まりの時の会話で明らか。
だが、現実世界では、大成たちの巻き込まれた集団失踪事件とこのゲームの関連性は、可能性としてさえ上がっていない。普通なら誰かしらが気づかなければおかしいのに。
しかも、このゲーム内では、ランキング上位陣が軒並み消えたというのに、平常に運営されている。誰もひとりとして、そのことに疑問を抱いていない。
不自然では言い足りない現象。やはり、このゲームには何かあるのだろう。
そのことに思い至って、大成と優希は自然と気合を入れ直していた。ともあれ、ここでグダグダしていても話は進まない。だからこそ、大成たちは行動を開始することにした。
「よし。んじゃ、目立つか!」
「遅刻してきておいて……まあいいわ。で、昨日電話した時も言ってたけど……本当にそれでいいの?」
「いいだろ?たぶんな」
なぜか異様にやる気の高い大成を横目に見ながら、優希は不安だった。
まあ、それもそうだろう。昨日の夜に優希は大成と今日のことについて連絡を取り合ったのだが、決まったことといえば、かなり行き当たりばったりな、賭けの部分が大きいことだけ。
優希たちの仕事は目立つこと。昨日のあれで本当に目立てるのか、優希は不安だったのだ。とはいえ、優希も代案を出せたわけではないので、昨日のそれを実行するしかないのだが。
「ぐちぐち言ったってしょうがないだろー?それじゃしばらくは別行動だな」
「……それもそうね。セバス行くわよ」
「はっ!」
「んじゃ、俺たちも、な。一時間後になー!」
今からする大成たちの行為は、別に一緒に行動していてもいいのだが、一緒に行動しなくてもいい。というか、一緒に行動しない方が効率がいいかもしれない。だからこそ、昨日の話し合いの末、別れることは決まっていた。
そして、歩いてどこかへと行く優希を見送って、大成たちも歩き出す。
「まずはどうする?」
「そうですね。目立つ必要がありますし……やっぱりしらみつぶしがいいと思いますよ?それこそ、盛大に派手になるくらいの」
「おっ……?自信満々だな!」
「えっ……そりゃ……」
話しながら歩く大成とスティングモンの二人。そんな二人は、とある場所を目指して歩いていた。
バトルコーナー。それが、大成たちの目指していた場所。育てたデジモンたちをバトルさせるそこで、片っ端から勝負を挑み、そのどれもに勝つ。それが、大成の考えた目立つ方法である。
傍から見れば、頭の悪い方法にも思えなくはないし、事実、この案を大成から聞いた時、優希はそう思っていた。だが、ここがゲームという出来ることの限られる場である以上、大成にはこれ以外のことは思いつかなかったし、それは優希たちも同じだった。
だからこそ、大成の案が採用されることになったのである。
ちなみに、今現在の優希たちが別行動しているのは、これだけでは目立ち足りなかった時のためだ。
「懐かしいなー!」
「大成さん、不謹慎じゃないですか?」
「そうかもしれないけどさ。でも、やっぱ懐かしいなー。向こうの世界のリアル感を体感した後だと、このゲームのゲーム感が懐かしく思えるんだよ」
「……そういうものですか?」
「そうそう」
今日の大成はテンションが高い。いや、浮かれているというのか。先ほど優希が感じていたように、スティングモンもまた同じものを今日の大成に感じていた。
まあ、やる気があることはいいことだし、問題がないといえばないのだが。
「そろそろつきますよ」
「おぉ。了解了解……」
ともあれ、ここはゲーム内。疲れるほど歩くような広大なマップが整備されている訳ではない。数分もしないうちに、大成たちはバトルコーナーへとたどり着いた。
タイミングがいいというのか、休日ゆえに人が多い。これなら、大成たちの目的が十分に果たせるだろう。
まあ、大成たちは今日が休日であることを知らなかったのだが。もし仮に今日が平日であったならば、このバトルコーナーにいる人の数は今の半分以下になってしまうだろう。それを考えると、今日が休日で良かったのだが――それを知らなかった辺り、本当に大成たちの行き当たりばったりだと言えた。
「さて……どいつにする?」
「大成さん、顔がすごいことになってますよ……」
「顔?んーどんな感じ?」
「悪そうな、見ていて吐きそうな顔です」
これだけの人数がいれば、それこそ選り取りみどりである。
初めは誰に勝負を挑むべきか。それを考えかけて、すぐさま思い直して大成は首を振った。どうせ、手当たり次第に戦うのだ。であれば、誰と戦っても同じである。
そう思った大成は、身近な場所にいた赤い恐竜を連れた青年に話しかけて――。
「バトルお願いします!俺のパートナーはスティングモンです」
「おっいいよ!君、珍しいデジモンを連れてるね!僕のパートナーはティラノモンさ!」
ティラノモンという成熟期デジモンを連れている青年が大成からのバトル申請を受理した瞬間、大成たちは別の場所に移動させられた。
草木が一本も生えてすらいない荒野。それが、ランダムで決まった今回の戦いの場だった。
そして、次の瞬間。大成たちの目の前に表示された数字が、カウントダウンを始める。
「イモ。思いっきりいけよ?」
「わかってます!」
一つ一つ小さくなっていく数字。テンカウントの後、数字がゼロを示し――その瞬間に、戦いが始まった。
「はぁっ!」
「グギャアアアア!」
同時に駆け出したスティングモンとティラノモンは、一瞬後、拳を交えた。ぶつかり合う拳と拳。その果てに打ち勝ったのは、スティングモンの方だった。
打ち負けてしまい、スティングモンの拳を受けてしまったティラノモンは、大きなダメージを受けた。ゲームゆえに可視化されている残り体力が、すでに半分を切っていて。
「……は?」
「え?」
その結果には、大成もスティングモンも、唖然とするしかなかった。
いや、大成たちもこうなることはウィザーモンから
いきなりの大ダメージに驚き、相手の青年は挽回のための指示を飛ばしている。が、それに意味はない。あるはずもない。
なぜなら、指示を聞いたティラノモンが行動を開始するよりもずっと早く、スティングモンが拳を振り上げていたのだから。
「……えい」
「グギャァッ」
情けない声を上げて、体力の数値がゼロになっていくティラノモン。そして、大成たちの目の前に現れる勝利の文字。
それらを見て、大成もスティングモンも、何とも言えない気分になったのだった。
「はは……君たち強いな」
「いや、うん。何かごめん」
「僕たちが弱かったってだけの話さ。その感じからすると、君はひょっとして……ランキング上位かい?」
「いや、まぁ、ちが……」
「今度はもっと強くなって挑戦させてもらうよ!」
「うん。また……」
微妙な気分は治っていないが、勝負の礼と最後の別れはマナーだ。元のバトルコーナーへと一瞬で移動させられながらも、大成はそれだけはしっかりとした。
その青年は、勝ったはずなのにどこか気落ちした様子の大成の姿に疑問を抱いていたようだ。だが、自分が考えられることではないと思ったのか、やがて去っていく。
大成は、そんな青年の姿を見送ったのだった。
「次、いきます?」
「そこのベンチでちょっと休憩させてくれ」
「大成さん?大丈夫ですか?」
先ほどまでのテンションが嘘であるかのように下がってしまった大成。
そんな大成を前に、さすがにスティングモンも不安になっていく。が、大成がどうしてこうなっているのかがわからないスティングモンには、ベンチに座る大成を見ていることしかできなかった。
ともあれ、ベンチに座ること約三分。その後に、大成は復帰した。
「よし」
「大成さん?もう大丈夫ですか?」
「んあ?ああ。大丈夫大丈夫」
どこか吹っ切れたかのようにスティングモンに笑いながら、大成は次の相手を探しに歩き出す。
が、いきなり吹っ切れたそんな大成に、スティングモンはついていけずに首をかしげることしかできない。
まあ、スティングモンがついていけないのも無理はないかもしれない。スティングモンは、
そう。先ほどの一戦まで、大成はゲームをしていたのだ。
大成はこのゲームが好きだった。しかし、その反面、大成はこのゲームが下手くそだった。ゲーム時代の勝率など見れたものではないほどに。
だが、今は違う。昨日、大成はウィザーモンから聞いたのだ。このゲーム内のデジモンは、あくまでデジモンの再現データであるから、スティングモンたち本物の敵ではないことに。
つまり、大成のパートナーであるこのスティングモンは、この世界において特別ということである。
特別なパートナーで、ゲームの世界で、無双ができる。この大好きながら、上手にはなれなかったこの世界で、無双ができる。
まるでRPGの主人公になったかのような、そんな優越感。それを感じていたからこそ、先ほどまでの大成のテンションは高かったのだ。
「仕事だし、やらないとな」
「……無理しないでくださいね?」
「いや、無理でも何でもないし。こんなの」
それでも、先ほどの一戦で、そんな大成の優越感は吹き飛んだ。
無双の楽しさ、特別な優越感を知ることができると思った先ほどの一戦は、しかし、大成に不正行為を働いているかのような虚しさしか与えなかったのだ。
大成は、このゲームが本当に好きだった。だからこそ、本物のデジモンという反則によってもたらされた勝利が嬉しくなかったのである。
「やっぱり、チートじゃゲームは楽しくないよな」
「……?」
「ゲームはゲーム。仕事は仕事って話だよ。このゲームへのリベンジは自分でやるさ」
いつか、スティングモンという反則を使わなくても、このゲーム内で勝てるように。いつか、このゲームを上手になれるように。
そう思って、大成は次の対戦相手を探して歩いて――そんな大成は、気づかなかった。
自分の後ろで、大成がこのゲームをプレイすることは、ある意味で自分以外のパートナーを作ることに等しいことに気づいたスティングモンが、ショックを受けたように震えていたことに。
「お。ちょいバトルお願いできませんかね?」
「んあ?うん、いいよー」
「俺のパートナーはスティングモンです!」
「オラのパートナーはグレイモンだぞー!」
適当に目の前に歩いていた少年を見つけて、大成はバトルを申し込む。
グレイモンというデジモンを連れていて、さらにオラという一人称。その二つを前にして、一瞬だけ大成は勇のことを思い出した。が、勇は未だ向こうの世界にいるはずであり、ここにいるはずはない。
そんな、ちょっとだけ心臓に悪い思いをした大成。だが、次の瞬間にはもう場所は移動していて、大成がドキドキとする前で、バトルは始まる。
まあ、結果は語るまでもないことだった。
その少年とのバトルを数秒で終えた大成たちは、その後も次々と勝負を挑み、それらすべてをものの数秒で終わらせていく。もはや、戦いではない。戦いとは言えない。一方的なものだった。
「作業感がすげぇ……」
「ま、まぁ、仕事ですから……」
大成もスティングモンも、これはキツかった。二人は別に戦闘狂の気がある訳ではないし、命懸けの戦いなどまっぴらゴメンである。が、ここまで一方的なものとなると、それはそれでつまらなく思える。
スティングモンも、大成も、向こうのデジモンの世界では、必死に戦ってきた。二人にとっての戦いは、そういうものだった。だからこそ、今まで戦ってきた相手が同格か格上ばかりだったからこそ、二人ともがこの弱いものイジメのような、流れ作業のような行いにいい気はしていなかった。
「そういや、飽きのせいで忘れてたけどさ。俺たち目立っているか?」
「目立ってると……思いますよ?一応。ほら、あそこの人たちなんて、こそこそと話してますし……」
「ってか、心なしか人が離れていってるような……?」
「そりゃ、僕たちに近づけば、勝負を挑まれて速攻で倒されるからでは?誰だって負ける戦いを挑みたくはないですよ」
「……ああ、なるほど。目立ってるな」
「ですよ」
「ほんと目立ってるよ。……悪い意味でな」
自分たちの方をチラリと見ながら、陰でコソコソと話す周りの人々に、大成たちは辟易していた。というか、こうなることは事前に予測することもできた。これは大成の作戦ミスである。
浮かれていたのは認めるけど、もっと考えればよかった、と。そんなことを考えながら、大成は自分の作戦ミスを痛烈に感じていた。
「なんか嫌な予感がするんだけど」
「大成さん……?」
今、大成の頭の中では、頭を割らんばかりの警鐘がなっていた。具体的には、今すぐこのゲームをログアウトした方がいいのではないか、という。
「ずいぶんと目立ってるわね。大成」
「お嬢様。悪い意味での目立ちですぞ」
そして、そんな大成たちの下へと先ほど別れた優希がやって来る。彼女たちは、別の場所で耳に入った大成たちの噂を聞いて、大成たちの下へとやって来たのである。
「ま、いいんじゃないの?目立つことが第一条件だしね」
「優希たちか。え?そんなに?」
「ええ。もうこのゲーム中の噂になってるわよ。今はバトルコーナーへ行かない方がいいって。スティングモンを連れた奴にボコボコにされるからって」
「うげ……どうりで人が少なくなってきたはずだよ」
優希の言うことには、大成たちのことはもはやゲーム中の噂になっているらしい。
そのことを聞いて、大成は自分の感じている嫌な予感がどんどん大きなものへと変化していることを実感していた。
「……大成さん?」
「いや、たぶん面倒なことになると思って」
「……?」
これは、いろいろなゲームに触れた大成だからこそ気づけたものだろう。ゲーム経験が少ない優希たちやスティングモンは気づけるはずもなかったこと。
大成たちは、このゲームをプレイしている。ゲームというのは、特にオンラインゲームの場合、ルールとシステムの上で平等に運営される。そうしなければ、ゲームというものが成り立たない。システムやルールに干渉した不正行為をするということは、ゲームバランスを崩す、極めて悪質な行為となる。
そして、スティングモンたち本物のデジモンは元々のこのゲーム内のデータではない。
何が言いたいのかというと――。
「そこの人たち。すみません、ちょっといいですか?」
「……はい」
何が言いたいのかというと、スティングモンたちをこのゲーム内で使うということは、それらシステムやルールを超越した不正行為に等しいということである。
「通報がありました。調べもついています。貴方たちが不正行為をしている人たちですね?」
そう。現れたのは、ゲームをする上での
というわけで、第八十九話。
目立とうとする大成たちの話でした。
おや、誰かが来たような最後ですが、当然の如く次回に続きます。
それでは次回もよろしくお願いします。