【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第九話~着いたのは街。訪れたのは危機~

 大成たちがあの始まりの街から追い出されてから、もう数日が経っていた。その数日の間にも、何度も食料難という危機を幾度も迎えていた一行。その度に全員が一致団結のように見える行動で、乗り越えてきたのである。だが、そうした苦難の日々も、ようやく報われる時が来た。ついに、大成たちが目指していた山の麓に辿りついたのだ。

 ちなみに、現在一行は、その山の麓にある街へと来ていて、そのままここにしばらく滞在する予定である。ただ、街といっても規模は小さく、ほとんど集落としか呼べないようなものである。

 

「すっげ……」

「人間の世界じゃ見られない光景よね」

 

 この世界に一度来た優希やこの世界出身のデジモンたちはともかく、大成は始まりのあの街を除いて初めてこの世界の街と呼べる場所へと訪れたことになる。そんな大成が、初めて見るこの世界の街の光景に感嘆するのも無理もないことだろう。

 訪れた街の家は、すべて木で出来ているのだ。当然、木造の家という意味ではない。大人数人が手を繋いで、ようやく一周できようかというほどの太さの木が街のいたるところに有り、その木にドアが取り付けられている。つまり、木そのものが家なのである。

 そんな絵本の中にしか登場しないような家が立ち並ぶ光景に、大成だけでなく優希も感嘆していた。

 だが、そんな光景に感嘆していた大成たちは気づいていなかった。この集落にはデジモンのサイズで作られた家しかなく、大成たちが泊まることのできる家がない。ようするに、また野宿するしかないということに。

 

「さて、今日はまだ日が高いな……この街の中で各自自由にして良し。街の外には行くなよ?」

「リュウが引率の先生みたいに……」

「お嬢様。あながち間違っていないかと」

「俺はゲームしたいな」

「そんなものあるわけないでしょ」

 

 そんな優希や大成は好きにしていい。だが、問題はワームモンである。現状、少しでも鍛えたほうがいいのは、間違いなくワームモンだ。ゆえに、スレイヤードラモンは自身の行動にワームモンを共に連れて行こうと考えたのだ。

 ちなみに、そのことについて大成は即答でOKしていたりする。別行動することによる自身の危険の可能性を少しも考慮していない辺り、アホである。

 

「んじゃ、ワームモンは俺と……何してるんだ?」

「……」

 

 スレイヤードラモンが向いた先にいたのは、必死に近くの草に紛れてやり過ごそうとしているワームモンの姿だった。だが、ワームモンの体色と比べて草の色は濃い。はっきり言ってほとんど丸分かりだ。ゆえに、ワームモンが何をしたいのか、その場の全員が理解できていなかった。

 ちなみに、ワームモンとしては、修行から逃げるために真面目に隠れているつもりである。はっきり言って、サボリで保健室を使おうとする学生くらい呆れる行動であろう。

 

「……」

「草……そう、僕は草です……」

「そうか、草か。行くぞ、草」

 

 苦し紛れの言葉を吐いたワームモンをスレイヤードラモンは鷲掴みにして連れて行く。泣きながら連れて行かれるワームモンのその姿は、いっそのこと哀れさを感じさせるものだった。

 一方で、優希はレオルモンと行動を開始する。スレイヤードラモンから頼まれて、この街のリーダーの所に滞在する旨を伝えに行くのだ。

 このような行為は、いろいろな種族が集まるような大きな街や開け開かれた街では必要ないだろう。だが、このような身内しかいないような小さな集落だったり、逆に管理の徹底した街である場合は、こういった滞在証明のような行為が必要となる。

 これはほとんどマナーといった暗黙の了解の類なので別にしなくても良かったりするのだが、面倒事を避けるためには必要なことではある。

 

「さて、私たちはリュウから言われていたことをするけど……大成はどうする?」

「……ここら辺を彷徨ってるわ」

「気をつけてね。アンタ結構……いや、なんでもない」

 

 何かを言いかけて去っていった優希たちを見送った大成は、特に宛もなく歩き始めた。辺にいるデジモンは成長期のデジモンなのだろう。それほど強そうなデジモンはいない。背丈も大成の腰ほどのデジモンばかりだ。

 しかも、この集落の特色なのか、この場にいるデジモンのほとんどがてんとう虫のようなデジモンの“テントモン”である。

 

「ぐへへへ……」

「くわっ!?」

 

 そんなテントモンだが、ゲームではメジャーな進化先の一つとしてカブテリモンというカブトムシのようなデジモンがある。思わず、カブテリモンを従える自分という妄想をする大成。だが、そんな時の大成の顔は大抵アレな感じになっている。

 そんなアレな顔の大成を見たテントモンたちが、大成から距離をとったのも仕方ないことだろう。

 

「……そういや、ワームモンも進化するんだよな」

 

 テントモンの進化先を考えたことで、ワームモンにも進化先があるという当然のことを大成は思い出す。だが、それでも大成は、ワームモンの進化先の見た目に希望を持てなかった。

 デジモンという種は、進化することで姿を変える。そして進化先は決まっていない。育て方や状況によって、さまざまな種へと変化するのだ。だが、それでも恐竜型のデジモンが昆虫型に進化するというような極端な変化をすることは希である。

 そしてワームモンは芋虫のようなデジモンなのだ。だからこそ、ワームモンの最終進化体はきっと蝶々のようなデジモンなのだろうと大成は勝手に予想している。

 

「あーぁ……マジでリセットボタンが欲しい……もしくは過去に戻りたい」

 

 ようやく普段通りの顔に戻った大成である。今までずっとアレな顔をしていたのだ。テントモンたちとしては、それは怖かったことだろう。

 そんなテントモンたちだが、大成を見て珍しいものを見たような雰囲気を見せることがある。やはり、この世界において人間は珍しい存在なのだ。

 だが、そんな大成もこの集落に似合わない珍しいものを目にした。人間だ。大成と優希以外の人間が、この集落を歩いていたのである。その人間は、癖毛の強い白髪が特徴の男だ。身長は平均成人男性よりも高いだろう。というか、百八十五センチは軽く超えている。

 

「お前は……」

「人のことを尋ねる時は、まず自分からって習わなかったのか?」

「……大成。布津大成」

 

 物珍しさについ漏らしてしまった呟きに対して、いきなり馬鹿にしたような声色で返答するその男に、大成は早くもイラッと来た。スカした雰囲気というべきか、大成のことを下に見るような雰囲気をその男は纏っているのだ。大成でなくとも、初対面でそんな雰囲気で対応されればイラつくことだろう。

 一方で、大成の醸し出す、“私、明らかに気分を害しました”という雰囲気をその男の方は気にも留めていないようだった。空気が読めないのか、それとも読む気がないのか。大成を見下しているような感じからして、後者の可能性が高い。

 

「ふん……奴らが連れてきた連中か。ご苦労なことだな。利用されているとも知らずに」

「どう言う意味だよ?」

「少し考えればわかることだろ。自分で考えろ。馬鹿が」

「……」

 

 確かに大成は馬鹿であるし、大成自身もそのことを一応は認識している。だが、初対面で馬鹿呼ばわりされると、例えそうだとわかってはいても腹立つ大成だった。

 というか、初対面でズバズバと言いたい放題のこの男は失礼すぎである。この男と会話し始めてから、大成にしては珍しく、その表情に引き攣った笑みが浮かんだまま剥がれていない。

 

「あ、アンタの名前は?」

「……名前か。そんなもの……いや、そうだな……」

 

 この世界で初めて出会った人間だ。個人的に苦手な部類で、あまり話したくない人種ではあるが、なんとかコミュニケーションを取ろうと大成は必死になる。

 だが、人間関係の基礎であろう名乗りで黙り込み、考え出す時点でこの男は偽名を使う気満々ことが軽く予測つく。そうして、数秒の時間をおいて男は明らかに偽名であろうその名を名乗るのだった。

 

「……俺は零……そう、零だ」

「れい?と、とりあえずよろしくな」

「よろしくするつもりはない」

 

 相変わらずコミュ障のような会話内容である。

 だが、大成もここで会話を終えるつもりはない。ゲームはなく、優希たちもいないこの状況に、大成も暇していたのだ。聞きたいこともいろいろとある。だからこそ、会話を続けるのだ。

 

「零のパートナーデジモンってなんなんだ?俺はさ、参ったぜ。ワームモンっていう芋虫みたいなカッコ悪いやつでさ。ワームモン自体は珍しいけど……俺の趣味じゃないっていうか――ッ!」

 

 気になったことを聞こうと、零にマシンガントークの如き言葉を投げかける大成。だが、そんな大成の言葉も途中で途切れることとなった。

 貫かれたのだ。別に物理的に鋭いもので貫かれたとか、そういう訳ではない。大成を貫いたのは、視線。それも、話していた言葉を中断してしまうくらい、息を呑まされる鋭い視線。そんな、人を殺せそうなほど鋭い零の視線に、貫かれたのだ。

 

「……俺にパートナーデジモンなどいない」

「え?」

「ふん、それにデジモンなんてものと遊んで楽しいか?」

「なんてものってなんだよ!いいじゃん!格好良いだろ?デジモンって!」

「お前は……そんな見た目の幻想に縋り付く馬鹿か。デジモンごときの本質は、生きている価値すらないゴミだというのに」

「ゴミってなんだよ!デジモンは、そりゃ変わってるけど……それでも生き物だぞ!?」

「忠告しといてやる。デジモンに関わると、いつか破滅するぞ」

 

 大成の言うことも無視して、言いたい放題言った零はそのまま街の外の方へと歩いて行った。

 一方で大成も、血の上った頭のままで、零を追いかけて街の外への方へと向かって行く。好きなものを馬鹿にされたのだ。零のデジモンに対する価値観を訂正させたいのである。だが、まだ別れて数十秒くらいしか経っていないというのに、零の姿が見つからない。

 数分間、街の境界線辺りで零を探した大成。だが、零は街の外へと出て行ったのだろう。結局、大成は零を見つけることはできなかった。

 

「なんだよ、アイツ……感じ悪いなぁ……」

 

 ほぼ最悪に近い印象を抱いた零を、大成は妄想の中でフルボッコにする。むしゃくしゃした思いを、そうすることで発散しているのだ。

 ちなみに、そんな大成の妄想の中の零は、“ウヒャヒャヒャ”と本人とは似ても似つかぬような醜悪な嗤いをしていたりする。本人が見たら、無表情でブチギレるような妄想である。

 そして、そんな大成を影から覗く複数の影の存在が――。

 

「リーダー、生贄ってのはアレですかい?なんか、聞いていた話よりゴツイ気がするですよ?」

「確かに聞いていた話だと……黒髪ではなく、茶髪だったような……それに、首の下にもっと柔らかそうな肉があったような……」

「うるさいうるさい!間違いないっ!足が二つ!手も二つ!間違いなく人間だっ!人間なんてものが早々いてたまるかっ!」

 

 大成を影から覗いているのは、緑色の体に赤いモヒカンが特徴のデジモンのゴブリモンだ。その全員が木の陰から、ジッと大成を見つめていた。

 だが、異様なのはその中の一体だろう。通常のゴブリモンよりも濃い緑の体色に、緑色のモヒカン。そんな特徴のゴブリモンは、ほかの通常ゴブリモンたちからリーダーと呼ばれていた。そのゴブリモンこそ、“シャーマモン”というゴブリモンの亜種デジモンである。神のお告げを聞く役割を持つというこの特殊なゴブリモンは、この集団内のリーダーの役割も持っているらしかった。

 

「やれっ!」

「おぉう!」

「は?え?何っ!?」

 

 シャーマモンの号令と共に、すべてのゴブリモンが木陰から躍り出て、大成を取り囲む。突然の事態に大成は困惑するしかない。大成とて、ゴブリモンは知っている。ゲーム内ではある程度メジャーなデジモンだったからだ。だが、この状況で、どうして自分の目の前に出てきたのが理解できなかった。

 だが、当然だが、大成が状況を理解ことなく、事態は進む。

 大成の目の前にいるゴブリモンは囮だ。大成が前にいるゴブリモンに気を取られている間に、後ろのゴブリモンがその手に持った棍棒で大成を殴る。かなりの勢いで頭を殴られて、それでも意識を保ってられるほど大成は人間離れしていない。

 

「馬鹿っ!生きて連れて行かなければ意味がないんだぞ!」

「すみませんっ!リーダーっ!」

「っち!生きている間に連れて行けっ!」

「はいっ!」

 

 頭から血を流し、地面に倒れ込む大成。そんな大成をゴブリモンたちは急いで何処かへと連れて行く。

 事の一部始終を木の上からジッと見ていた零は、溜め息を吐いて街から去るのだった。

 

 

 

 

 

 ゴブリモンたちは大成を自分たちの隠れ家へと連れ帰ってきていた。

 ゴブリモンたちのこの隠れ家は、この山の斜面に細かく掘られた洞穴である。所々には、侵入者を拒むような罠が張り巡らされており、人間や成長期程度のデジモンでは、この隠れ家を攻略するのは不可能であろう。

 そんな隠れ家の奥深くに、気絶したままで大成はいた。周りには一体のシャーマモンと三十人近くのゴブリモンがいる。おそらく、この集団全員がこの場にいるのだろう。

 

「神様っ!お告げの通り、言われていた人間を連れて参りました」

「……はぁ」

 

 この集団を代表してのことだろう。シャーマモンが声を上げる。だが、シャーマモンが話しかけた相手は、ゴブリモンではない。黒いフードを被って顔を隠し、さらには体全体を黒い布で覆い隠している何者かだ。そんなこの場にそぐわない何者かをシャーマモンは神様と呼んでいる。

 一方で、その何者かは溜め息を吐いていた。

 確かに、連れて来いとは言った。だが、連れて来たのが無関係の人間だとは。一体何を聞いていたのか。そんなことを思いながら、ゴブリモンたちのアホさ加減に呆れていたのだ。

 

「お前たちは一体何を聞いていたのだ。優希という名の、茶髪の女だと言っただろう」

「女?女って何ですか?言われた通り人間を連れて来たのですが……」

「そこからか……」

 

 これは、明らかにこの者の人選ミスだった。

 この者は、上からの命令(・・)で優希と接触しなければならなかったのだ。だが、普通に接触するという命令ではない。そこでこの者はこのゴブリモンたちを使うことにしたのである。

 シャーマモンはゴブリモン集団の中で神のお告げを聞き、ソレを一族に届けるという役割を持つ。その者は、神のお告げを聞く儀式の最中にシャーマモンに接触。自身がゴブリモンたちの神であると偽り、信じさせたのである。

 ちなみに、シャーマモンの儀式は、不思議なダンスを踊り続け、テンションが最高点に達すると、神の御告げが聞けるというどこぞの密教と似たようなものである。

 

「……す、すみません」

「……」

 

 体良く使える駒を手に入れることができたその者だったが、やはり楽をしようとしたのがいけなかったのだろう。無駄なところで頭痛に悩まされる羽目となっている。

 だが、過ぎたことを言っても仕方ない。その者は、この状況からどうすればいいかをしばらく考えて、やがて考えが纏まったのだろう。次の作戦をゴブリモンたちに言う。

 

「そいつを餌にして、対象をおびき寄せろ。おびき寄せた後、そいつは好きにして構わん」

「はっ!お前ら行くぞっ!」

「おぉ!」

 

 返事だけは勢いのあるゴブリモンたちだった。 

 




第九話。第一章も佳境に入ってまいりました。
前作と違ってすごい盛り上がりが遅い気がする……いや、前作の第一章はアレ過ぎるんですけどね。

さて、それではまた次回も。よろしくお願いします。
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