【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第九十話~運営の人~

 オンラインゲームの運営の人。それはオンラインゲーム世界において、神に近い存在である。もちろん、彼らも人間。できることには限りがあるし、ミスを犯して問題に発展してしまうことも多々ある。が、それでも必要な存在であることに変わりなく、運営に睨まれてしまえば、一般プレイヤーはそのゲームで遊ぶことすらできなくなる。

 そして、今現在。大成たちは、不正行為の疑いで運営を名乗る女性に接触されていた。

 

「通報がありました。調べもついています。貴方たちが不正行為をしている人たちですね?」

「……」

「……」

 

 まあ、どのような理由であれ、このゲーム内の存在ではない本物のデジモンというズルを使っている以上、大成たちが不正行為を行っているということには変わりない。大成たちが言い逃れできるはずもなかった。

 

「……逃げるぞ!」

 

 次の瞬間、大成はスティングモンに声をかけ、優希とレオルモンの手を引いて走り出す。

 

「え?はっ!?大成さん!?」

「ちょ、大成!?」

「大成殿……!」

「なっ。待ちなさい……!」

 

 そんな大成の行動に、優希たちは驚くことしかできない。が、次の瞬間には大成の手を振り払って自分で走り始めた。怪しいゲームを調査する名目としてこのゲーム内にいて、そしてスティングモンたち本物のデジモンたちを連れている身として、ここで捕まる訳には行かないと考えたのである。

 まあ、大成たち全員が、この()()()運営を名乗る人物に捕まるのが得策とも思えなかったのだが。

 

「どう思う?」

「間違いなく怪しいだろ」

「待ちなさい!」

 

 ゲームの中という特性上、ここではどれだけ走っても疲れず、普通に話せる。だからこそ、インドア派であまり体力のない大成でも、普通に走りながら話し続けることができていた。

 まあ、優希たちやスティングモンならば、これくらい朝飯前なのだが。

 ともあれ、大成たちが後ろを振り向けば、未だ運営を名乗る人物は追いかけて来ている。その表情は、どこか鬼気迫るもので、大成たちは少し恐ろしかった。

 

「え?怪しい?……何でですか?」

「なぜそう言い切れるのですかな?」

 

 大成の確信を持って告げる、怪しいという言葉に、スティングモンとレオルモンの二人は首をかしげる。まあ、二人はオンラインゲームというものに造詣がないから、仕方がないかもしれない。

 優希の方も、オンラインゲームには造詣がないが――そこは直感であの女性が怪しいことになんとなく気づいていた。

 

「だって、本当に運営だったら接触してくるのはおかしいだろ。運営ってゲームを作った人たちとかだぜ。強制ログアウトとかアカウント永久停止とか、そんな一方的なこと朝飯前だっての」

 

 そう。真っ当なゲームの運営の人々ならば、こういった接触はして来ない。大成の言った通り、悪質なプレイヤーに対しては、一方的な制裁を行うのが当然だ。このような、しつこい追い回しをするのはおかしいのだ。

 そういった真っ当な対応をして来ないということは、大成たちを執拗に追い掛け回す理由があるのか、それとも別の理由があるのか。

 どのような理由で追いかけ回されているのかは、大成たちにはわからなかったが、追いかけてきている者の鬼気迫る表情と雰囲気から、このゲームの怪しさだけはますます感じ取っていた。

 

――ふむ。大丈夫かね?――

「え?ウィザーモン!?」

 

 そして、そんな時だった。どこからか、ウィザーモンの声が大成たちの耳に聞こえてきたのは。

 聞こえてきた声は、大成たちの状況を知っているようで、大成たちとしては早く助けてくれと言いたい気分だった。

 

――わかっている。早く助けてくれ、だろう?――

「なんでわかるんだ!」

――予想はつく。君たちの情報は保護した。この先に門を開く。そこを通ればそのゲームを出られる――

「なんでゲームの中に門を開けるんだ……?」

――正確には、門のように可視化させた魔術だがな。まあいい。早くしろ――

 

 いろいろと言いたいことはあったが、助けてくれるならば、それに越したことはない。

 走り続ける大成たちの目の前には、丸く開かれた空間の歪みがあった。おそらく、それがウィザーモンの言っていた門とやらなのだろう。時間にして、今のペースで走ってあと数秒といったところ。

 あと少し、と。それを感じた大成たちは、勢いのままに走って――。

 

「逃がさない!強制バトル承認して!」

――強制バトル承認。バトルフィールドヘト移動シマス――

 

 直後、大成たちの耳へと飛び込んできた機械的な音声。

 その音声が聞こえた瞬間、大成たちはマグマ燃えたぎる火山の火口の傍にいた。

 

「いきなり場所が変わった!?」

「っ!バトルフィールドだ!」

「これがバトルフィールドってやつですかな?ですが、バトルフィールドとは、こちらがバトルを受けなければ移動されないのでは?」

「さっきの音声からして、あの女性が何かしたんでしょ?ハッキングか、それともそういうシステムか……運営の人ってのもあながち嘘ってわけでもないかもね」

 

 バトルを承認した覚えはないのに、このバトル専用の場所へと移動させられたのだ。システムを超越した現象に、大成たちは驚くしかなかった。

 事態は悪い方向へと進んでいると言える。場所が移されてしまっただけあって、大成たちの目の前には、ウィザーモンの開いた門はない。ということは、この状況をどうにかしなければ、大成たちは逃げることも敵わない。

 知らず、緊張した面持ちで大成たちは先ほどの女性に向かい合っていた。

 

「もう逃がしませんよ。我々としても穏便に事を運びたかったのですが……我々のリーダーが貴女を捕えろと言うもので」

「……だってさ。優希。大人気だな」

「嬉しくないわね」

 

 女性は、優希だけを指名していて、一方の大成たちやレオルモンの方には興味もないようだった。

 まあ、このバトル専用の空間に閉じ込められ、優希たちにこれをどうにかする術はない以上、もう捕まったも同然の状況である。

 そのことに思い至って、優希は本当に嫌そうな顔をしていた。

 

「その他の面々は……始末しても構わないでしょう。特にデジモンは」

「あの人、デジモン嫌いか?零と同じ感じがするな」

「なんか、凄い目で見られているんですけど……大成さん!」

「はぁ。ってか、アンタ!ここはゲームの中だぜ?本当に捕まえたり、始末できるとでも?」

 

 そう。ここはゲームの中だ。

 最悪、大成たちがこのゲームを体感するために使っている端末を外からどうにかするだけで、大成たちはこのゲームから出ることができるだろう。

 だからこそ、大成はあの女性に向かってそう言ったのだが――そう言った大成自身、その方法でこの状況から逃れられるとは思っていなかった。なにせ、別世界に大勢の人を送り込む技術を持っている人たちである。ゲームの中にいる人々を永劫に捕まえたり、始末したりする技術くらい軽く持っているだろう。大成にも、そのくらいは予想がついていた。

 

「わかりきったことを聞きますね。我々にそれができないと思っているのならば、どうぞそう思っていなさい」

「わかりきったことだってさ」

「我々の為すことは変わりません。そこの“進化の巫女”以外の面々だけは始末します」

 

 進化の巫女。その単語の意味がわからず、大成は優希の方を見た。が、優希もその意味がわかっていないようである。同じように疑問を顔に出していた。

 

「どういう意味だ?」

 

 どういうことかと大成は女性に聞くが、女性は答えるつもりがないようだった。先ほどまではあれほど喋っていたというのに、いきなり沈黙している。

 まあ、進化の巫女とやらの意味がわかろうとわかるまいと大成たちのやることは変わらない。この場を逃げる。それだけだった。

 

「まったく……運悪いよな」

「仕方ありませんよ。大成さん。僕らには運がないんですよ」

「いつか良いことあるといいですな」

「ひどくねっ!?」

 

 ともあれ、相手は人間。向こうの世界の究極体だのなんだのに比べれば、たいしたことはない。

 そう思ったからこそ、大成たちはかなり楽観的に構えていた、のだが――。

 

「行きなさい!バケモノども!」

 

 楽観的に構えていた大成たちの前で、異変は起きた。

 揺れる大地。それは、地震という現象。それと同時に、グラグラと煮えたぎるマグマは、これがゲームの中の作り物だと分かっていても、大成たちに恐怖を感じさせる。

 そして、大地を揺らし、煮えたぎるマグマの中からゆっくりと現れたのは、二体の火山のような竜のデジモンで。それは、ヴォルクドラモンという完全体デジモンだった。

 

「なんかせっかく人間の世界に戻ってきたのに、ゲームの中だってのに、やることは向こうの世界と変わってない気がするな」

「大成さん、気楽に構えてる場合じゃありません。あれ、本物です。しかも、ヴォルクドラモンと言えば、有名な完全体デジモンですよ」

「……マジで?」

「はい」

 

 このゲームの中のデジモンは、本物ではない。それがわかっていたからこそ、大成は気楽に構えていたのだが、スティングモン曰くヴォルクドラモンは本物のデジモンらしい。

 そのことには、レオルモンも優希も気づいてはいなかった。このことがわかったのは、スティングモンが先ほどまでに、この世界の偽物のデジモンに多く触れ続けたからこそだった。

 安全圏内から、まさかの完全体が二体。その事実に、大成と優希は驚くしかなかった。

 

「……どうするべ?」

「どうしようもないでしょ。ウィザーモンが助けに来るか、自力で乗り越えるか……とりあえず、自力で行くしかないわね。セバス!」

「了解ですな!レオルモン!進化――!」

 

 自力で二体のヴォルクドラモンをどうにかしなくてはならない。そのことがわかり、出し惜しみなどしている状況ではないとわかったからこそ、優希は力を使う。

 直後、レオルモンを光が包み、出し惜しみ無しの優希の力を受けてレオルモンはローダーレオモンへと進化する。

 後の筋肉痛など考えない、出し惜しみなしの全力だった。

 

「とりあえず、一体は私たちが相手するから、もう一体は……」

 

 大成たちは、優希たち以上に完全体へのハードルが低い。だからこそ、優希は心配することなく片方のヴォルクドラモンを押し付けたのだが――。

 

「優希、優希。あのさ……」

「何!?」

「俺たち、完全体になれないんだけど」

「は……?」

 

 だからこそ、完全体に進化できないというその大成の言葉には、優希も凍りつくしかなかった。

 

「なんで!?」

「なんでも何も……このゲームの中にアナザーとデジメモリを持ち込めるわけないだろ?」

「……そういえばそうね」

 

 そう。優希は忘れていたが、スティングモンが完全体に進化する方法は、デジメモリを使ったジョグレス進化だ。それには、デジメモリとアナザーの二つが必要となる。

 そして、ここはゲームの中。アナザーとデジメモリが持ち込めるはずなどなく、つまり、スティングモンは完全体に進化することはできないということだ。

 

「ぐぅおおおおお!」

「がぅううううう!」

「向こうはやる気みたいだな。イモ!」

「はい!」

「頑張れ!」

「はっ、い!?」

 

 敵は待ってくれない。やる気満々で咆哮する二体のヴォルクドラモンを前にして、とりあえず激励だけは飛ばしておく大成だった。まあ、人任せのような激励を飛ばしておきながらも、大成には戦いをスティングモン任せにするつもりは微塵もないが。 

 

「セバス!」

「はっ。了解ですな!」

 

 優希の声に合わせて、ローダーレオモンが駆ける。この戦いで大成たち側の主軸となるのは、間違いなく彼だった。一対一ではスティングモンが辛い。だからこそ、彼は二体のヴォルクドラモンを翻弄するように動き、二対二の状況を作り上げる。

 幸いにして、ヴォルクドラモンの動きはどこか鈍い。それこそ、スティングモンでも攻撃を躱すことができるくらいには。これならば、スピードを主とするスティングモンなら、それなりに戦うことはできるだろう。

 

「ぼぉおおおおお!」

「うっ熱っ!?」

「すごい熱気……!」

「これ、俺たちの方が大丈夫か!?」

 

 だが、世の中うまくバランスが取れているもので。

 ヴォルクドラモンは、動きが鈍い代わりに火力があった。すべてを溶かすマグマの如き熱があり、火山の如き硬く重量のある巨体がある。それらが合わさって、とんでもないパワーを誇っていた。それこそ、一歩間違えれば遠くで戦いを見守る大成たちが危険になってしまうくらいに。

 先ほども言ったが、ヴォルクドラモンたちの動きは鈍重だ。

 その動きの鈍重さゆえに、スティングモンは攻撃を躱すことができる。だが、一歩間違ってしまえば。一歩間違って、その高熱を纏った一撃をくらってしまえば、一撃でアウトととなってしまう。

 それだけのパワーを、ヴォルクドラモンは持っていた。

 

「イモ!とりあえず無理はするな!避けることだけを考えろ!」

「はい!ぬわっ、熱い……!」

 

 「相性が悪いか?」と。そう呟いた大成。

 スティングモンは人型であるからわかりにくいが、昆虫型のデジモンだ。そして、昆虫は火に弱い。古今東西のゲーム知識から、大成はスティングモンとヴォルクドラモンの相性の悪さを見抜いていた。

 まあ、ヴォルクドラモンほどの熱量と重量があるならば、相性云々がなくても、十分危険なのだが。

 

「優希、セバスの方はどうなってる?」

「セバスは大丈夫。だけど、まだ時間がかかるかも……」

「こっちはたぶん無理だな。躱すので精一杯で攻撃ができ……ってか、アイツ攻撃届くのか?」

 

 優希の言葉に、大成は舌打ちしたくなる。

 そう。いつの間にか、戦況が二対二から一対一へと変化していたのだ。これでは、ローダーレオモンの助太刀はローダーレオモンの方の戦いが終わるまで望めない。

 では、スティングモンが自力でなんとかできるかというと、それも厳しい。スティングモンではヴォルクドラモンに勝つ確率が低い。無論、ゼロではないだろうが、部が悪すぎる。安全牌を踏むならば、やはりローダーレオモンに助太刀してもらった方がずっといい。

 しかも、ヴォルクドラモンは火山のような竜というだけあって、常時身体が燃えている。頑丈で燃える身体。スティングモンのような接近タイプは、攻撃するだけでダメージを受けてしまうだろう。スティングモンが格下ということも鑑みれば、攻撃即自滅ということもありえてしまう。

 

「くそっ……どうする……!?」

 

 躱し続けるスティングモンの戦いを見つめ、打開策に悩む大成。このままでは時間が無為に過ぎていくだけである。

 焦りのままに、大成は自分の持ち札を確認し、周りの状況を確認し、そして最後にローダーレオモンを見て――。

 

「……そうか!」

 

 大成は、天啓を受けたかのように閃いた。

 そう。大成は、いつかの作戦を思い出したのだ。いつか、行おうとして、そして別の作戦に取って代わられたその作戦を。

 これしかない。そう思って、大成はその作戦を優希に話す。

 いつかの作戦が、今、時を経て実行されようとしていた。

 




というわけで、第九十話。
バトル開始回ですね。
ディノビーモンに進化できないスティングモン。彼らがどうやってこの場を乗り越えるかは、また次回で。

それでは次回もよろしくお願いします。
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