【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第九十一話~宝石鎧の昆虫戦士!~

 数ヶ月前。零が学術院の街を襲撃してきた時。

 あの時、自分たちを助けてくれたドルモンを助けようと、大成たちは作戦をいろいろと考えた。結局、あの時は奇跡のデジメンタルの誕生によって、それらの作戦はどれも実行されなかったのだが――ようやくと言うべきか。あの時の作戦が活きる時が来た。

 

「優希頼むぞ!」

「わかってる!」

 

 大成たちのしようとしていることは至極単純。スティングモンを、優希の強制進化の力で完全体に進化させる。

 この状況を“確実に”抜けるためには、完全体に進化することが不可欠。そして、現状ではスティングモンはジョグレス進化も自力での進化も不可能。

 スティングモンが完全体に進化するには、この状況では優希の力を借りる他ない。

 

「イモ!驚くなよ!」

「は?へ?どういうことですか!?」

 

 だからこそ、大成は優希にお願いし、優希もそれを承諾した。

 優希の力が彼女のパートナー以外にも作用することは、実証済み。緊張することもなく、優希は自らの力を使う。

 そして、そんな優希の一方で、大成と優希が何をしようとしているのかを理解できないスティングモンとしては、大成の声かけに疑問の声を上げるしかなかった。

 

「ぅえぇえええ?ス、スティングモン進化――!」

 

 何も伝えられていない、と。疑問によって混乱するスティングモンは、直後、自分の中に何かが流れ込んでくるかのような、そんな不可思議な感覚を味わった。

 そして、そんな感覚をスティングモンが味わうのと同時に、彼を進化の光が包む。一瞬後、光を割いて現れたのは、スティングモンと同じ人型の昆虫。見る角度によって色が変わる不思議な鎧を着た、槍を持つ昆虫兵。

 それが、ジュエルビーモンと呼ばれる完全体デジモンだった。

 

「こ、こういうのは先に断ってからやってください!」

 

 いきなりの強制進化に驚くジュエルビーモンは、今がどういう時かも忘れて叫びに叫ぶ。

 まあ、今がどういう時かを考えれば仕方のない部分もあるが、誰だって断りくらいはあって欲しいと思うものである。

 

「いや、驚くなよっていったじゃんか!」

「聞いてませんよー!」

 

 今の状況も忘れて叫ぶジュエルビーモンは、もはや周りのことを忘れていて。そんな彼は、その代償をすぐ支払うこととなった。

 

「いいから、後ろを見て!」

「後ろ?……うわっ!?」

 

 優希の声に従って、怪訝そうに振り返れば、そこには足を振り下ろしているヴォルクドラモンの姿があった。

 すぐさま回避行動をしたジュエルビーモンだったが、後一瞬でも行動が遅れていればどうなっていたことか。まず間違いなく、大ダメージは免れなかったであろう。

 振り返ったら、目の前にあったのは壁と見間違うばかりの足の裏。そんな、すごく心臓に悪い思いによって、ジュエルビーモンはなんとか今の状況を思い出すことができた。

 思い出すとともに、ジュエルビーモンはすぐさま手に持った槍を構えて、再度ヴォルクドラモンと戦い始める。

 

「ぼぉぉおおおお!」

「おりゃああああ!」

「すっげ。槍の使い方が様になってる……ように見える」

 

 完全体になったがゆえか、今のジュエルビーモンの総合的なスペックはヴォルクドラモンにも負けてはいない。巨体を活かした戦い方をするヴォルクドラモンに対して、ジュエルビーモンは槍を華麗に使った戦い方をしていた。

 ともすれば、その大きさの差もせいもあって、巨大怪獣に立ち向かう特撮戦士のような雰囲気さえ感じられる。

 しかも、槍を使ったことがないはずなのに、その槍の使い方も堂に入っていて――つくづく、デジモンの進化の凄さを感じさせられた大成だった。

 

「っく……戦いにくい……!」

 

 だが、そんな風に傍から見ていて感心していた大成とは対照的に、当のジュエルビーモンは戦いづらさを感じて苦い顔をしていた。

 スティングモンだった先ほどまでとは違って、攻撃を通すことはできる。が、特殊な力も何もないジュエルビーモンの槍という武器は、ヴォルクドラモンの硬く熱い体に致命傷を負わせることができなかったのである。

 そう。いかに進化してスペックが上がろうと、ジュエルビーモンはヴォルクドラモンに対する決定打が持てないままだったのだ。

 まあ、それはヴォルクドラモンの方も同じなわけだが。こちらは、ジュエルビーモンの速さに対応できず、自身の攻撃を当てることができていない。

 

「っく……!」

「ぼー……!」

 

 結果、戦況は膠着状態になっていた。

 もちろん、戦い続けていれば、いずれ決着はつくだろう。数時間か、数日か。かなりの長時間に渡る戦いの末に。だが、それはジュエルビーモンや大成たちとしては、どうしても避けたかった。

 見渡せば、あの運営を名乗っていた女性はどこにもいない。どこかへと消えたあの女性が、また何かをしてこない保証はないのだ。

 

「ぼぉおおおおおお!」

 

 気合の乗った咆哮と共に、ヴォルクドラモンは口から煮えたぎったマグマを吐く。それは、“ヴォルカニックフォーン”と呼ばれるヴォルクドラモンの必殺技だ。

 ジュエルビーモンは、吐き出されたマグマが大成たちの下へと行かぬように気をつけながらそれを躱す。が、超高温のマグマは躱すだけでも、ジュエルビーモンの体力を僅かながらに削っていった。

 

「お返しです!」

 

 負けじと、ジュエルビーモンも槍を振るう。光速で振るわれた槍は衝撃波を生み出し、ヴォルクドラモンを攻撃した。それは、“スパイクバスター”と呼ばれるジュエルビーモンの必殺技。

 だが――。

 

「ぼぅううううううう!」

 

 だが、その衝撃波も、ヴォルクドラモンは耐えた。身体のあちこちに細かい傷はついているが、それだけ。勝負を決めるほどの傷は負っていなかった。

 とはいえ、これは予想通り。内心で舌打ちしたくなることには変わりなかったが、それでもジュエルビーモンは表情を変えなかった。

 総合的なスペックも同じで、戦況はほぼ膠着状態。だが、この早期決着が望まれる状況では、精神的に不利なのはジュエルビーモンの方と言える。つまり、ジュエルビーモンでは、ヴォルクドラモンとの均衡を崩せないどころか、崩される確率の方が高いのだ。

 だからこそ、この状況をどうにかするには、第三者の力が必要で。そう考えていた大成は、ジュエルビーモンの戦いを見ながらも、必死に打開の策を考えていた。

 

「どうすれば!どうすればいい?どう……すれ、ば?ん?」

 

 だが、そんな折。大成は、見つけた。この場でもう戦っているローダーレオモンの姿を。その姿を目撃した瞬間、大成はあることを思い出し、そしてハッとなって気づいたのだ。

 ローダーレオモンの方では、早くから完全体で戦っていたというだけあって、両者ともにダメージが溜まっていた。

 そして、そんな彼らの戦況を見たからこそ、大成はチャンスだと思ったのだ。

 

「そうか!よっし。優希!」

「何?何か作戦でも思いついたの?」

「ああ!二対二に戻すぞ!できるなら一対二だ」

「……!そういうことね。わかった!」

 

 大成が脳裏に思い描いたのは、ついこの間のこと。スカルバキモンに襲われた時のこと。

 二体のスカルバキモンに襲われたあの時、未だ完全体に進化する術を持たなかった大成たちはどうやってスカルバキモンを倒したか。そのことを。

 そして、あの時とは違って、ローダーレオモンと戦っているヴォルクドラモンは、かなりダメージを負っている。

 もし、このダメージを負ったヴォルクドラモンと戦うのが、同じくらいダメージを負っているローダーレオモンではなく、ほぼダメージを負っていないジュエルビーモンだったのならば。そこに、同士討ちという形となるようにもう一体のヴォルクドラモンを誘導したのならば。

 

「イモ!」

「セバス!」

 

 それは相手の連携を考慮に入れていない、賭けの部分が大きい作戦だ。だが、大成たちには、現状でこれ以外の策を思い浮かべることはできなかった。賭けをする以外に、この状況を脱することを想像できなかった。

 そして、それがジュエルビーモンたちもわかったからこそ、彼らは自分たちのパートナーの立てた作戦を信じ、その賭けに乗ることにした。

 

「セバスさん!」

「了解ですな!」

 

 次の瞬間、ジュエルビーモンとローダーレオモンの二人は、視線のみで自分がどう動くかをお互いがお互いに伝える。もちろん、相手の視線の意味をすべて余すところなく受け取れたとは思えない。が、それでも受け取れたことを信じて、二人は動く。

 自分たちが相手をしていたヴォルクドラモンの攻撃を躱し、彼らはヴォルクドラモンに背を向けて駆け出した。

 敵に背を向けるというのは、あまりにも大きい愚。もし戦っているのが自分一人であったのならば、この行動は致命的なものとなるだろう。

 だが、今戦っているのは一人だけではない。目の前には、自分と同じように敵に背を向け、自分の下へと向かってくる者がいる。 

 

「ほわちゃっ!」

「はぁっ!」

 

 そして、ジュエルビーモンとローダーレオモンの二人は、互いに背後からの攻撃を見ることなく一瞬で躱す。それは、互いが互いの隙を補ったからこそできたことだった。

 お互いがお互いの敵に背を向けながらも、お互いがお互いの敵の攻撃を見て、そして、視線だけでそれを伝える。練習したわけではないが、運良く上手くいったようで何よりである。

 

「行きますよ!」

「任せましたぞ!」

 

 ともあれ、一歩間違えれば悲惨なことになる可能性はあったはいえ、成功すればこっちのもの。ヴォルクドラモンたちの動きは鈍重。ゆえに、彼らが二撃目を繰り出すよりも前に、ジュエルビーモンたちは合流することができる。

 ジュエルビーモンは移動時の勢いを保持したまま、ローダーレオモンは来るべき時のために力を貯めて――。

 

「はぁあああ!ふっ!」

 

 次の瞬間、ジュエルビーモンは必殺技を放つ。放たれた“スパイクバスター”で彼が狙うは、ローダーレオモンが付けた傷跡。

 

「がぁあああああ!」

 

 外皮にはかすり傷程度しか効かない必殺技でも、さすがに、身体の傷跡から内部への直接攻撃は効いたらしい。

 ヴォルクドラモンは苦悶の声を上げて苦み――その直後、ローダーレオモンが駆ける。勢いをつけて尾の鉄球を振り回し、必殺技を放つ。“ローダーモーニングスター”。山を砕かんばかりの凄まじい威力が、ジュエルビーモンによって広がったヴォルクドラモンの傷跡を捉える。

 

「がぁっがぁああああ!」

「ナイスタイミングですな!ジュエルビーモン殿!」

「了解です!セバスさん!」

 

 元々弱っていたところに、ジュエルビーモンたち二人の完全体の必殺技の一撃は堪えたのだろう。苦悶の声をあげたまま、ヴォルクドラモンは倒れて――その顔は、どこか安心したかのような苦笑いの顔だった。

 無事に一体目のヴォルクドラモンは倒すことはできた。

 合流の際、ヴォルクドラモンたちの合流からの乱戦も覚悟したジュエルビーモンだったが、どうやらヴォルクドラモンの鈍重さに救われたようである。ヴォルクドラモンたちが合流するよりも早く、片方を片付けることができたのだ。

 

「こうなればこっちもののです!」

「ですな!負けませぬぞ!」

 

 一対二となったこの状況。

 こうなれば油断さえしなければ、ジュエルビーモンたちの勝ちは決まったようなものだった。未だ早期決着を望み、焦る気持ちはある。だが、ここからがある意味本番だ、と。そう思った彼らは、気を引き締めた。

 勝って兜の緒を締めよ。そういうことである。

 

「行きます!初めは僕がセバスさんのサポートをします!」

「活路が見えたら、このセバスがジュエルビーモン殿のサポートに変わりますぞ!」

 

 戦い方は先ほどと同じ。ローダーレオモンがヴォルクドラモンに傷を付け、ジュエルビーモンがその傷を狙う。それだけのこと。その戦い方をするために、彼らはお互いがお互いを補助するかのように動く。

 ジュエルビーモンがスピードでヴォルクドラモンを撹乱する。その隙に、ローダーレオモンは地面を駆け、たどり着くや否や、攻撃する。

 戦い方が上手くハマったと言うべきか。先ほど以上に、戦況はジュエルビーモンたちの思う通りに運んでいて。

 

「……?どこか……?」

「おかしいですな」

「セバスさんもそう思いますか?」

「うむ。先ほどまでとは違う……?」

 

 疑問に思ったジュエルビーモンたちが思わず話す余裕が生まれるほど、不可解に戦況は一方的なものへと変化していた。

 違和感。ただ、それだけがあった。それだけしかなかった。

 遠く戦いを見ている大成たちにはそれが理解できなかったが、直に戦っているジュエルビーモンたちはそれに気づいていた。

 

「こやつ……本当に戦う気があるのですかな?」

「どうだろう。むしろ……」

 

 その先は誰も言わなかった。

 ジュエルビーモンたちが感じた違和感。それは、先ほどまでとは違って、ヴォルクドラモンが攻撃行為をあまりしなくなったところにあった。

 まるで今すぐ戦闘を、いや、命そのものを終わらせたがっているかのようなそんな気さえ、ジュエルビーモンたちに感じさせる。

 

「終わらせよう」

「ですな」

 

 同じデジモンとしてその目に感じるところがあったのだろうか。

 ジュエルビーモンたちはお互いに頷きあって、最後の一撃の準備をする。やがて彼らは必殺技を放つ。

 最後、ヴォルクドラモンはまるで苦行から解放されたかのような、そんな笑顔でもって消えていったのだった。

 

「これは……何と言うべきでしょうか……」

「後味悪いと言うべきですな!このセバス!なぜか、無性に腹が立っておりますぞ!」

 

 敵だったというのに。ヴォルクドラモンはあんな顔で消えていったからこそ、ローダーレオモンたちは感情を震わせていた。彼らは、何かとんでもないことの一端を垣間見たような気がしたのだ。

 そして、そんな彼らの下に大成と優希は駆け寄ってきて、労いの言葉をかける。が、そうしながらも、彼らを急かした。いろいろと考えるところ、思うところがあっても、急ぎ逃げなければならないのだ。そんな今、後でできることは後でするべきなのである。

 

「あの女はまだ帰ってきてないわね」

「急ぐぞ。面倒なことにならないうちに、さっさと帰るべきだろ」

「でも、いつまで経ってもこの場から元の場所に戻れませんよ?」

 

 そう。ジュエルビーモンの言った通り、バトルは終わったというのに、このバトル専用の空間から大成たちは元の空間へと戻ることができていなかった。

 これは、通常ならばありえないことだが、おそらくはあの運営を名乗る女性が何かしたのだろう。大成たちは、このゲーム内での怪しいことはすべてあの女性のせいであることを確信していた。

 

「大丈夫だろ。こっちには……」

――やれやれ。こういうのを出待ちというのだったか?――

「頼りになるウィザーモン先生がいるんだからな」

 

 まるで待っていたかのように、タイミングよく聞こえてくるウィザーモンの声。その直後に、大成たちの目の前に空間の歪みという門が開いて――大成たちは、ウィザーモンのセリフに苦笑しながら、その門へと飛び込んだのだった。

 




というわけで、第九十一話。

今回の話限定のジュエルビーモンでした。
たぶん、以降に出番はありません。

さて、ともあれ。大成たちサイドの話はこれにて終了。
次回からはウィザーモンたちサイドの話が展開されます。

それでは次回もよろしくお願いします。
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