【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第九十二話~潜入!~

 時は少し遡って、大成たちがゲーム“デジタルモンスター”の調査を開始した頃まで遡る。

 その時、いわゆる外側から調べる組である旅人たちとウィザーモンがどこにいたかというと――とあるビルの前にいた。

 ちなみに、人々が存在そのものに驚きそうなデジモン勢だが、ドルグレモンやスレイヤードラモンは未だアナザーの中に入ったままであり、ウィザーモンは人形のフリをして旅人に抱かれていたりした。

 

「ここは?」

「ここがあのげーむとやらを作った会社があるビルだ」

 

 そう。このビルの中に入っている会社こそが、あのゲーム“デジタルモンスター”を作り、そして運営している会社である。

 あのゲームの中から調べる大成たちとは対照的に、あのゲームを運営している会社そのものに潜入し、調べる。それが、ウィザーモンの考えなのである。旅人たちはウィザーモンの護衛だ。

 

「本当にあってるのか?どうやって調べたんだよ。人間の世界に詳しくないだろ?」

「無論、情報提供者がいただけの話さ」

「情報提供者?信用できるんだかな……」

 

 ウィザーモンの情報の出処を疑ってかかる旅人。だが、一応言っておくと、その状況提供者とはそもそもこの件を依頼した人物である。

 

「で?」

「何が、で?なのだね?」

「いや、だからさ。どうやって入るんだ?さすがに堂々と部外者が入ることができないくらい、オレでもわかるぞ」

 

 そう。旅人の言う通りだ。

 会社とは、それが種類のものであれ、概ね自社の利益を求めた組織である。だからこそ、自社の不利益になるようなことはよほどの意味がなければしないし、許さない。

 部外者が入ることもそうだ。仕事場が荒らされる。会社の機密事項が見つかり、外部に漏らされる可能性が生まれる。部外者が会社の建物に入るということは、それだけの不利益を被るリスクがある。だからこそ、普通は部外者は立ち入り禁止となっている。

 普通の会社でさえそうなのだ。それが、怪しい会社では言うまでもないことになる。

 

「変装でもして潜り込むか、忍び込める道でも探すか。それとも、無難に入り込めるチャンスに便乗するか……どうする?」

 

 もちろん、何もかもダメでは怪しいと公言するようなもの。

 旅人がチャンスといったような、会社見学や雑誌のインタビューなど、ある程度は内部に入れる部外者用のプログラムもあるにはあるだろう。だが、そういったもので入り込める場所など、たかが知れている。

 ウィザーモンが、ひいては彼の依頼主が知りたいのは、かなり深い部分の情報だ。こういったたかが知れている場所で見つかるようなものではないだろう。

 それらはウィザーモンもわかっている。というか、わかっているからこそ、ウィザーモンは護衛に旅人を指名したのだ。

 

「ふむ。君の言っている方法でもいいのだがね。何のために君を僕の方に回したと思っている」

「何のため……?ああ。そういうことか。初めからオレを働かせる気満々だったんだな」

 

 ウィザーモンの言っていることの意味がわかり、少し責めるかのような目でウィザーモンを横目に見る旅人。もちろん、これが依頼という形の仕事である以上、そのような視線で見るのはお門違いだ。旅人もそれくらいは理解しているが、やはり感情は別だった。

 

「お前、潜入したら自分で歩けよ」

「僕としては抱えられているだけでいいのだから楽だったのだがね?」

「でも、人形が歩いてたら普通の道でも怪しまれるだろ。ただでさえ、通行人にジロジロと見られてるんだから」

 

 一応言っておくと、ウィザーモンの人形のフリは完璧である。その口元のマスクのこともあって、例え声を出したとしても、ウィザーモン自身が生きて、動いているようには見えない。

 そう。通行人に見られているのは、旅人の方だ。傍から見ていると、旅人は大人の男が不気味な人形を抱えて道に立ち続けながら、ボソボソと独り言を言っているように見えるのである。

 怪しいどころか、精神の異常を疑うレベルだ。旅人が気づいていなかったのは、幸だったのか、不幸だったのか。まあ、デジモン組は気づいていたのだが。

 

「そろそろ行くか。ウィザーモンを人形と誤魔化すことにも無理が出てきたしな」

「ふむ。では、頼むぞ」

「はいはい。set『不可視』!」

 

 ともあれ、いつまでも立ち続けているわけには行かないことに思い至って、旅人たちはいよいよこの建物に潜入し始める。

 先ほど、ウィザーモンが言外に込めた意思通り、旅人はカードを使う。使ったのは、“不可視”のカード。それは、旅人と彼の周囲少しを傍目には見えなくするカードである。まさにこういう時のためのカード。一応弱点もあるのだが――それはともかくとして。

 傍目には見えなくなった旅人とウィザーモンは、ビルの中から出てくる人物が自動ドアを開いたタイミングで、中に侵入する。

 

「よし。無事に潜入できた……けど。ここからどうする?どこに何があるか知ってるか?」

「僕がそこまで知るわけないだろう。それを調べにここに来たのだぞ。ふむ。だが、まあ……僕たちが探しているようなものはこんなところにはないだろうよ」

 

 ウィザーモンたちが知りたいのは、外部に漏らされていない事情だ。そのような情報はたいてい機密事項である。機密という外部に漏らさないという性質上、旅人たちがいるような入り口近くに置かれているわけもない。

 ウィザーモンの言葉は、自身も学術院という街の重鎮として、そういった常識を知っているがゆえのものだった。

 

「それもそうか。さて、エレベーターを使うか階段を使うか……」

――しらみつぶしに行くのも効率が悪いしね~――

 

 突如として聞こえた声。言うまでもなく、それはアナザーの中から聞こえてきたドルグレモンの声である。

 ある意味最も聞き慣れた声であるのに、それが自分の中から聞こえてきた声だと一瞬だけ思ってしまった旅人は、だいぶあの自分の中にいた何かに毒されていたのだろう。

 ともあれ、アナザーの中にいるドルグレモンたちも現状は把握している。だから、こうやって中から声をかけてくるのは、別にいいのだが――。

 

「ドル!もっと声を抑えろ!」

「旅人。それは君にも言えるのだがね」

 

 問題は、ドルグレモンの声量にあった。

 ドルグレモンの声量は別に叫んだと言えるほど大きくはなかったのだが、隠密行動中の旅人たちが危うくなるくらいの大きさはあったようで。

 

「おい、今の声は誰だ?」

「さぁ。誰か隠れているのか?」

「ちょっと見てくるわ。しばらく頼むぞ」

 

 旅人たちの周りにいた警備員たちが動き出した。

 彼らには旅人たちの姿は見えていないのだが、それでも通常の状態から警戒状態に移りかけていることには変わりない。

 つまり、旅人たちは今まで以上に慎重に進まなければならない可能性が出てきたということである。

 

「……どうするよ」

「どうしようもないだろう。とりあえず、先に進むぞ」

 

 聞き取りにくいこと仕方なかったが、仕方なくヒソヒソと話しながら、旅人たちはその場から移動する。原因となったドルモンはアナザーの中でスレイヤードラモンに怒られたらしく、しばらく声すら聞こえてこなかった。

 

「ふむ。建物の中に入るのは初めてだが、基本的な作りは機械里のものと変わりないようだな。世界の違いがあっても、こういった建物が同じなのはなぜだ?」

「お前、何しに来てるんだよ。目的が変わってるだろ。オレたちは調査をしに来たんだろ」

「何。別に依頼としての調査と僕の知的好奇心を満たすことは相反しない。ならば、調査しながら知的好奇心を満たすために動いても構わないだろう?」

「そりゃ、そうかもしれないけどさ。自分のことに精一杯で、肝心の調査の方を見落とすなよ。オレにはよくわからないんだから」

「ふむ。君が役に立つとは思っていないが、少しくらいは努力してはどうかね?」

「今すぐカードの効力を解いてやろうか」

 

 ヒソヒソと話しながら、ビルの中を歩く旅人とウィザーモンの二人。

 彼らは今、最上階を目指して、階段を使ってビルを上っていた。階段を使っているのは、エレベーターやらエスカレーターやらは階段に比べて人が密集しやすく、バレる可能性が高いと踏んだからである。

 階段を使うことを決定した際、それらに乗ってみたかったウィザーモンが若干不服そうにしたのは、ほんの余談である。

 さらに言えば、そういったものを見つけるたびにウィザーモンは近づいていき、その度に旅人が苦労したのだが、それもほんの余談だ。

 

「最上階ね。十階だったっけ?そこからしらみつぶしに探していくか?」

「誰がそのような面倒なことをするか。ある程度の目星を決めて、そこを探していく方が効率がいい。しらみつぶしは最後の手段だ」

「目星、あるのか?」

「昨日のうちに調べた。ああ、無論外から魔術を使ってだがね。それとさっき得られた情報を元に、目星は付けられた」

「さっき?どこにそんな情報があったんだ……」

 

 愕然と呟く旅人。

 まあ、旅人がわからなかったのも仕方のないことだろう。その情報は、事前に調べていたウィザーモンだからこそ、わかったことでもあったからだ。

 昨日ウィザーモンが調べたところでは、このビルには地下階がある。だが、先ほどウィザーモンが見たエレベーターには、地下へと行く機能がなかった。それは、階段にもエスカレーターにも同じことが言えた。

 まず間違いなく、通常の方法では地下へと行くことができない。ならば、特殊な方法でしか行くことのできない地下には、それ相応のものがあると考えられる。

 

「……あの行動にはそう言った意味があったのかよ。で。最上階にその目星が?」

「最上階の一室から、地下まで続く縦穴があることは昨日の段階で確認済みだ。それがただの穴なのか、それともエレベーターなのか。まあ、構造的に見て後者だと思うがね。地下に行くにはそれしかない」

「なるほどな」

 

 それしか行く方法がないとは、ずいぶんと厳重である。そこにはよほど重要なことがあるのだろう。

 ともあれ、問題は地下へと行く方法が一つしかないという部分だ。つまり、このビルの中の人々、それも重要な役割にいる人々との鉢合わせの可能性が高まるということ。

 それは、最上階についてからが本番だということを示していた。

 

「っていうか、今思ったけどさ。わざわざ昼間に侵入することなかったんじゃないか?」

「ふむ。それは確かにそうだが……夜だからいいというものではない。こちらがやりやすいように、向こうにも同じことが言えるのだからな」

「というと?」

「はぁ。つまり、だ。夜は人が少ないから僕たちとしても忍び込みやすい。が、人が少ないからこそ、向こうも派手ができるというわけだ」

「……そんなもんか?」

 

 旅人には、ウィザーモンの言い分は素直に納得できるものではなかった、が。それでも、ウィザーモンの言葉にはどこか確信を持っていた節もあって、旅人は無理矢理に納得したのだった。

 まあ、すでにこうして潜入してしまっている以上、今更旅人が何を言っても変わらないのだが。

 ともあれ、そんなこんなで話している間には、旅人たちは最上階への階段の最後の一段を上り終えていた。

 

「で、どっちに行けばいい……?」

「こっちだな。僕たちから見て一番奥の部屋だ」

「一番奥、ね。いかにもって感じだな……おい」

「なんだね?」

 

 時折すれ違う人にバレないように、慎重を期して歩く旅人は、事前に建物の構造を調べてあったウィザーモンの先導で、とある一室のドアの前へとたどり着いた。

 このビルの特徴というべきか、このビルの中の部屋の見た目は画一的な作りのものが多かった。少なくとも、廊下などからの外装はそうだった。

 そして、旅人たちの目の前にある部屋も、その例に漏れず、外から見れば他の部屋と同じようなドアと壁が広がっている。が、外側からの見た目が他の部屋と同じようでありながら、そこはひと目でわかるほどの特別感がにじみ出ていた。

 たった一つの看板がドアの横に掲げられていたことによって。それだけで、旅人はこの部屋に他の部屋とは違う特別感を抱いてしまっていた。

 

「社長室って書いてあるんだけど?」

「社長……ああ、会社の長という意味か。なるほど。ふむ。まあ、偉い人が直々に関与していた可能性が大きいことは予想がついたことだろう。であれば、これは必然とも考えられるが?」

「なんでだよ」

「だいたい、一平社員が世界を股にかけるようなことを、上層部にバレずにできる可能性が大きいと思うかね?」

「ああ……そりゃ、まぁ」

 

 旅人は人間だが、小学生中退という学歴のこともあって、人間社会の細かなことまで詳しいというわけではない。つまり、旅人の中では、社長とはイコールで偉い人というわけである。

 もちろん、実際はそんな簡単なものではないし、もっと細かいのだが、あながち間違っているというわけでもない。が、一応の大人として旅人のその理解は少し情けない。

 なんとなくそんな旅人のことを察したからこそ、アナザーの中ではドルグレモンたちが呆れていた。

 

「……ふむ。どうやら中に人はいないようだ」

「なんでわか……ああ。魔術か」

「そういうことだ。入るぞ」

 

 ガチャり、と。社長室のドアは自動ドアではなかった。だからこそ、ウィザーモンはゆっくりとドアノブを回して、少しだけドアを開いた。そして、体を捩って、そのドアの隙間から慎重に部屋の中へと入っていく。

 今の旅人とウィザーモンは傍目には見えない。そして、勝手にドアが開くのは怪しいとしか言えない。これは、ドアをおおっぴらに開くことによって通りかかる人に不信感を抱かせる可能性を極力抑えるための策だった。

 ウィザーモンに続いて、旅人も部屋の中へと入っていく。

 

「これが社長室か……初めて入ったな」

 

 社長室と呼ばれるその部屋の中は、ずいぶんと綺麗に整っていた。高級感を漂わせる来客用ソファーと机。壁際に設置された棚の数々。そして、最も奥にある机。

 世間一般の社長室というものを知らない旅人には、この社長室が世間一般から外れているのかどうかはわからない。だが、見渡して不審なものはどこにもなかった。

 これでどこにウィザーモンの言う縦穴があるというのだろうか、と。旅人は疑問に思えて仕方がない。

 それでも――。

 

「これだな」

「は?」

 

 見つけられる人には見つけられるようであった。

 ウィザーモンが見つけたのは、数ある棚の一つ。部屋の内装に合わせられたその棚は、どちらかといえばクローゼットに近く、引き戸式。そして、不思議と中身が入っていなかった。

 確かに怪しいが、そもそも穴ではない。その棚には床板がちゃんとある。だからこそ、旅人は疑問に首を傾げていた。

 だが、そんな旅人の反応にも予想はしていたようで、ウィザーモンは焦る様子もなかった。

 

「これのどこが穴?エレベーターにも見えないし」

「ふむ。右端をよく見てみろ」

「……これはボタンか?お前、よく見つけられたな」

 

 ウィザーモンが示したのは、巧妙にカモフラージュされたボタンだった。壁に張り付くようにされていて、色も棚全体のものと同じ。おそらく、知らなければ旅人のように気づけないだろう。

 それほどそのボタンは巧妙に隠されていた。

 

「……ふむ。旅人。中に入ってみろ」

「えぇ……こうか?って狭っ!ウィザーモン入ってくるな!」

 

 そして、ウィザーモンは旅人をその棚の中へと押し込んで、自身も棚の中へと入り込む。が、旅人が苦言を漏らしたように、棚は広くない。旅人一人だったならば広さ的にもギリギリいけるが、そこにウィザーモンも入るとなれば、さすがにキツかった。

 

「仕方ないだろう。単独行動が危険な以上、一緒に行くしかないのだからな」

「って、確かめずに行くのか!?」

「さて。鬼が出るか蛇が出るか。旅人。カードの準備を忘れるなよ」

「こんな狭い状況で出せるわけないだろうが!」

「では、行くぞ」

 

 ポチッと。ウィザーモンはボタンを押す。

 その直後、エレベーターにしては異様に大きな揺れと共に、旅人たちは自分たちのいる空間が降下している感覚を味わったのだった。

 




というわけで、第九十二話。

旅人たちサイドの話で、前編です。
次回は後編。あの男と旅人たちが出会います。

それでは次回もよろしくお願いします。
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