【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第九十三話~モドキとオリジナルの出会い~

「ああー狭かった……!ってか、何をボソボソとやってたんだ?」

「む?何。優希たちの方で動きがあったのでな。助けただけだ」

「ふぅん?ま、いいか」

 

 あの棚式エレベーターに乗ってから五分後。

 無事に罠に嵌ることなく、旅人たちは地下の空間へといた。

 

「ふむ。ここから先は何があるかはわからん。戦う準備と逃げる準備を忘れず、気を抜くな」

「わかってるよ」

 

 旅人とウィザーモンの目の前に広がるこの地下の空間。そこは、遠くに巨大な扉が見える以外、一本道で隠れる場所も何もない。

 地下ゆえの閉塞感と機械的なまでの天井の明かりが、その一本道を満たしていた。

 

「ふむ。この厳重さ……雰囲気……まるで秘密の研究所だな」

「そうか?だったら、ここは本当にただのゲーム会社ってわけじゃなさそうだな。ゲーム調査で来たのに、とんでもないもの見つける気がするぞ」

「ふむ。ま、ただの会社ではあの者が調査を依頼してこぬだろうよ」

「……それもそうか」

 

 地下に来た段階で、今回の潜入での一番の立役者たる“不可視”のカードの効果は切れてしまった。しかも、旅人のカードは同一カードの再使用までに時間がかかる。

 つまり、今の旅人たちは普通に他者から見える状態にあるのだ。だからこそ、旅人たちは今まで以上に慎重に歩く。

 

「っていうか、ウィザーモンは不可視のカードのような魔術を使えないのか?」

「風の魔術に似たようなものはあるし、使えるが……専攻の体系ではないために、効率が悪い。一応、発動スピードは速いから、使う時はいざという時だな」

「でも、監視カメラとか考えたら、今のうちに使っておいた方が良くないか?カメラに映って気づかれたら、今までの頑張りが無意味になるぞ」

「む。かんしかめらとは何だね?」

 

 知らないのか、と。そう思って、一瞬だけ旅人は呆れたが、すぐに思い直した。考えてみれば当たり前である。デジモンの世界は人間の世界とは違う。機械里のように発達している街もあるが、たいていの街は人間の世界ほど発達していない。

 もちろん、それが悪いという訳ではない。

 人間の世界のように、社会が発達する必要がなかった。人間よりも遥かに強いデジモンという種は、社会を発達させる必要がなかった。だからこそ、デジモンの世界では発達した社会がなくても過ごしていける。それが、そんな自然と共存するようなそんなところこそが、あの世界の良いところだろう。

 まあ、人間という種よりも種として優れているからこそ、社会としての面でデジモンは人間に劣ってしまっているのだが。

 だから、ウィザーモンが監視カメラのことについて意識が回らなかったのも仕方のないことかもしれない。

 

「監視カメラってのは、アレだ。カメラってわかる……わからないか。なんて言えばいいんだろうな……ところどころに設置された……うーん……映ったものを他の場所に送って……ようは監視のためのものだよ」

「ふむ。なるほど。監視のかめらか。かめらとやらが何かわからないが……遠視や過去視の魔術のようなものか?そういったものは普通にあるのかね?」

「らしいぞ。こういった場所だけじゃなくて、街中にも普通にな」

「それは何とも……管理面では便利だろうが、住みづらいことだな。まぁ、いい。この状況ではまずいな」

 

 監視カメラのようなシステムがデジモンの世界で普及されているのは、それこそ機械里くらいだろう。

 監視カメラについて意識が行かなかったからこそ、ウィザーモンは少し焦った。

 ウィザーモン自身もそういった魔術を使うことはできる。だが、それはウィザーモンほどの魔術の腕があるからこそであって、まさか常識となるほどにそういったシステムが普及しているとは思わなかったのである。

 

「今からでも遅くはないか。姿を隠すぞ」

「了解」

 

 監視カメラの存在を予想できなかった自分の落ち度を感じながらも、ウィザーモンは即座に行動を起こす。得意分野ではないが、そうも言ってられない。彼は、自分たちの姿を隠すべく、魔術を使おうとした。が、少しだけ遅かった。

 ウィザーモンが魔術を使うよりも早く、旅人の言葉が現実のものとなってしまったのだ。

 

「ふむ。遅かったようだな」

「侵入者……それもデジモンとアンノウンか。どうやってここを嗅ぎ取ってきた?」

 

 現れたのは、スーツ姿の一人の男。僅かにイラついたような視線で旅人たちを睨むその男は、以前に優希を襲った人物。貴英その人だった。

 だが、旅人たちにとっては、貴英は名前も素性知もれない相手だ。

 

「お前は……?」

「言うと思うか?私はお前たちの目的が何であろうと、お前たちを始末するだけだ」

「うわー……向こうは激しくやる気だぞ。どうする?」

 

 ここで撤退するか、と。旅人はウィザーモンに問う。

 貴英は以前優希たちと戦った人物であるが、そんなことは旅人たちには知る由もない。さらに、旅人には貴英の戦力も見当がつかない。だからこその撤退の提案。

 それは、撤退時期を見誤って、下手に怪我をするわけにはいかないからこその提案だった。

 だが。

 

「逃がすと思うのか?」

「何。せっかくここまで来たのだ。しかも、二度目はない。ここで引かずともいいだろう。逃げる準備だけはしておけばいいだけの話だ」

 

 だが、貴英は旅人たちを逃がす気がなく、ウィザーモンは逃げる気がなかった。それぞれが旅人にその意思を告げて、旅人は諦めと共にそれを受け入れる。

 カードを取り出して、どう動くかを考える旅人。睨み合いの状況。そんな状況で先に動いたのは、貴英の方だった。

 彼は、凄まじい速さでポケットからあるものを取り出した。それはデジメモリと機械。

 予想もしてなかったものの登場に、旅人たちは驚きを隠せなかった。特に、これの製作者であるウィザーモンは。

 

「って、え!?」

「あれは……試作品!?なるほど。お前たちが盗んだのか……!」

「ふっ!セット『シードラモン・アイスアロー』!」

 

 そんな風に驚く旅人たちだが、それは戦いにおいて狙われるべき隙でしかない。

 貴英はその隙を狙っていく。すぐさまデジメモリを機械へと差し込み、その瞬間、その効果が表れる。放たれたのは、氷の矢。超低温のそれは、掠っただけでも凍傷を引き起こすほど。

 驚きで隙を晒した旅人たちにこれを躱す気配はなく、貴英は内心で直撃を確信した、が。

 

「あっぶねー……シードラモンってことは成熟期相当の技ってことだよな?完全体以上だと死んでたな。というか、ウィザーモンも手伝ってくれよ」

「何を言っている。僕はこの後の調査のために余力を残しておかねばならないのだ。だいたい、こういう時のための君だろう」

「ま、そうだろうけどさ」

 

 だが、貴英の予想に反して、旅人たちは無事だった。というか、無傷である。それこそ、呑気に話す余裕さえある。

 そんな貴英が見れば、氷の矢は旅人たちの前にある壁のようなものに刺さって止まっている。それが、旅人の持つカードの力だとは疑うべきもないことだった。

 

「さすがはアンノウンということか」

「カードモドキ……ああ!アイツ、前に優希が言ってた奴じゃないか?」

「そうだな。僕のところから試作品を盗んだ者か、それの仲間か。どちらにせよ。聞くことができたな」

 

 貴英がデジメモリを使ったことによって、ようやく旅人たちは気づいた。彼が、以前優希が話していた人物と同じであることに。

 

「それをどこで手に入れた?それは僕が作ったものだ。場合によっては容赦しないぞ」

「そうか。お前が……残念だが、言う気も返す気もない」

「ふむ。そうかね。旅人頼んだ。取り返してくれ」

「……オレ頼みか!ま、いいけどさ」

「セット『グレイモン・メガフレイム』!」

「うわっと!危ないな!」

 

 会話の途中にも関わらず、デジメモリの攻撃を放ってくる貴英。一瞬後、旅人が展開した防壁に巨大な炎弾が当たる。が、防壁はビクともしない。

 それを見て、貴英はほんの少しだけ顔を顰めていて。

 反対に、今の攻撃で旅人は貴英のだいたいの強さを測ることができていた。

 貴英は、成熟期相当のデジメモリしか使っていない。完全体以上のデジメモリは存在しないのか、存在するが訳あって使えないのか。どちらかはわからなかったが、今の戦力で負けるような相手だとは旅人には思えなかった。

 そもそも、貴英は正真正銘の人間である。つまり、いくら攻撃能力があっても、防御能力はデジモンに比べれば無いも同じ。異世界にて伝説の魔王デジモンと相対したこともある旅人には、どうしても貴英には怖さを感じなかった。

 

「さて。じゃ、さっさと済ますかね」

「……!やれるものならやってみろ!」

「リロード!スレイヤードラモン!」

 

 アナザーを掲げた旅人のその言葉と共にこの場に現れたるは、スレイヤードラモンだ。

 一方で、貴英はいきなりのスレイヤードラモンの登場に驚くことしかできない。奇しくも、それは先ほどのデジメモリを見た時の旅人たちの姿のようだった。

 

「じゃ、リュウ任せた」

「見た感じ、俺じゃなくてもよくねぇか?ドルがうるさくなるぞ」

「いや、お前が適任だって。お前なら、速攻で無効化できるだろ?ドルの場合は……ほら、アレだ。ブチッとやりそうだから」

「ああ……」

 

 旅人のその言葉に、スレイヤードラモンは思わず納得した。

 まあ、ドルグレモンだってそのくらいの手加減はできる。実際はそんなことにはならないだろう。ちなみに、信じてもらえず、呼ばれなかったドルグレモンは、この時アナザーの中で不機嫌になっていた。が、そんなドルグレモンのことはともかくとして。

 旅人に頼られているというのは、スレイヤードラモンとしても悪い気はしない。だからこそ、ほんのちょっとだけやる気を出して、彼は貴英と向かい合った。

 

「っく!セット『ガルルモン・フォックスファイアー』!」

 

 貴英は、自分が追い込まれていることを感じていた。苦し紛れにデジメモリを機械に差し込み、放ったのは青い炎。成熟期デジモンであるガルルモンの必殺技であり、金属さえ溶かす高熱の青き炎。

 だが、そんな炎も、究極体のスレイヤードラモンの前では、ただの火の粉にしかならない。軽く剣を振るう。たったそれだけで青き炎は散った。

 そして、その瞬間にスレイヤードラモンは貴英へと距離を詰める。人の目では視認もできぬほどの超高速。それを前にして、貴英は何もできずにやられる――。

 

「なっ!?」

「えっ!?」

 

 はずだった。

 轟音。崩れる天井。突然の事態に対する驚愕から抜けきった旅人とウィザーモンが顔を上げた時、貴英はこの場から消えていた。

 残っていたのは、僅かに陽の光が届くほどの大穴が空いた天井と、そして愕然とした顔のスレイヤードラモンだけだった。

 「何があったのか」と。旅人はそう尋ね、スレイヤードラモンは答える。驚愕の事実を。

 

「あの野郎を連れて行ったの……スレイヤードラモンだった」

 

 その事実には、この場の全員が驚くしかなかった。

 同一の種の究極体が同じ時代にいる確率など、それこそ天文学的数値に等しい。だが、他ならぬスレイヤードラモンの言葉だ。同じくスレイヤードラモンである彼が、スレイヤードラモンを見間違えたとも思えない。

 誰もが言葉を失うしかなかった。結局、彼らが再起動したのは、この数分後。他の何者かが来る前に、調査の方だけでもしておくことを、ウィザーモンが提案した後のことだった。

 先ほどの天井崩壊で荒れた廊下を走り、旅人たちは廊下の奥のドアへとたどり着く。が、自動ドアなのだろうそのドアは、開かなかった。

 

「このドア開かないな。どうする?」

 

 そう言う旅人の視線の先にあるのは、何らかのパネル。

 おそらくは、そこで何かをすることによって、このドアは開くようになっているのだろう。それくらいは容易に想像がつくことであった。

 だが、当然だが、旅人たちはその何かを知らない。このドアを開くことができないのだ。だからこそ、旅人はどうするかを訪ねたのだが――直後、辺りに響いた轟音。

 ハッとした旅人が振り向くと、そこにはドアを切り裂いたスレイヤードラモンの姿があった。

 

「……リュウ」

「別にいいだろ。時間もねぇんだ。これが手っ取り早い」

「ふむ。確かにな」

「ま、今更か」

 

 確かに驚くことだが、いちいちこのドアを開くための何かを探すよりはよっぽど楽だ。今が緊急事態であることも相まって、旅人たちは軽率な行動をしたスレイヤードラモンを責めなかった。というか、よくやったとすら言いそうだった。

 無残な残骸になったドアを踏みしめ、旅人たちは中へと入る。

 

「っ!これは……!」

 

 そこにあった光景は、驚愕の光景だった。

 

 

 

 

 

 旅人たちがドアの向こう側の光景を見た頃のこと。

 とある場所にて――。

 

「これはまた随分とやられたものだね。貴英」

「お前か……別に。これは少し油断しただけだ」

 

 旅人たちから命からがら逃げ出した貴英は、彼の上司たる人物の下に連れてこられていた。決定的な敗北を部下が味わったというのに、その上司はうすら笑いでいる。その人物は、貴英に対して労を労うつもりも、慰めるつもりもないようだった。

 貴英の方も、その人物がそういう性格だと知っている。だからこそ、そんな上司に彼は何も思わなかった。

 

「しかし、かの世界の進化研究の第一人者にアンノウンまでもがこの世界にいて我々の喉元に噛み付いてきた、か。これは偶然だと思うかね?」

「さぁな。偶然だろうと必然だろうと、どちらでも結果は変わりないだろう」

「確かに。だが、まるで神の手のうちによって遊ばれているようで、気分が良くないのだよ」

「神なら、向こうにならいくらでもいるだろう」

「いくらでもというわけではないだろうがね」

 

 旅人たちが自分たちの()()()()を突き止めたというのに、貴英もこの人物も、深刻がってはいない。そこには、どこか余裕があった。

 

「失礼します。ああ、貴方も一緒でしたか」

 

 そして、そんな時だった。

 この部屋に、第三者たる女性が入ってきたのは。どこか理知的な雰囲気を纏ったその茶髪の女性は、負けた貴英を見下したような目で見ながら、彼女にとっても上司となるその人物の下へと歩いて行く。

 一方で、貴英の方もその女性を忌々しげに見ていた。

 女性と貴英。二人が揃っただけで、部屋の中の空気がギスギスとしたものに変わっていっていて。

 

「君たち。もう少し仲良くできないのかね?」

「無理だな」

「無理ですね」

 

 見るからに仲が悪いそんな二人を、その上司となる人物は呆れたような目で見ていた。

 

「申し訳ございません。進化の巫女には逃げられ、実験体を二体無駄にしてしまいました」

「役立たずめ」

「そうか。捕獲しておけば、我々の研究の役に立つはずだったのだが……」

「どのみち、本社の研究施設は潰されただろう。アンノウンによってな」

「そうですか。守れなかったのですか。役立たずですね」

 

 女性の報告を聞く上司。だが、いらぬことを言う貴英のせいで、そしていちいちそれに反応する女性のせいで、部屋の気温がどんどん下がっていく。

 もはや上司の前であることなど関係ないとばかりに、女性と貴英は睨み合っていた。

 

「待て待て。どのみち、この世界でできることはすべてやっただろう。ならば、後は向こうの世界でやるだけだ。研究施設の件も、進化の巫女の件も、取り返しは効く。だから、そういがみあうな」

「お前は黙ってろ」

「黙っていていただけますか?」

 

 負のボルテージが際限なく上がっていく二人を、なんとか宥めようとした上司。だが、二人はそんな上司の言葉を聞く意味なしと一蹴した。

 一応、この者たちの組織は有志で作られたもので、一般的な組織よりは上下関係の意味合いが薄い。が、それでも上下関係は一応あるのである。

 この中で最も偉いはずであるのに、言葉を聞いてもらえないこの上司。その背中には苦労人ゆえの哀愁が漂っていたのだった。

 




というわけで、第九十三話。

貴英と旅人という、今まで出会わなかった二人の出会いでした。
ちなみに、今回見た光景は、数話後に回想で語られます。

さて、次回は向こうの世界に戻る……前のひと悶着前編。

それでは次回もよろしくお願いします。
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