【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第九十四話~自ら選択すべき道~

 ゲーム“デジタルモンスター”の調査から一日過ぎた翌日の昼のこと。大成たちは優希の家である孤児院、その一室に集まっていた。

 

「えっ……もう……?」

「マジでか……?」

 

 愕然とした様子で呟く大成と優希。

 まあ、二人がそう呟いたのも無理はないだろう。今、二人の目の前には、空間の歪みがあった。歪みから見える景色は、学術院の街のもの。つまり、現状を簡単に言うのならば、お迎えが来たということである。

 そう。デジモンの世界へと戻る時が来たのだ。

 

「でも、たいしたことはわかってないだろ。いいのかよ?」

「ふむ。大成。確かにわかったことは少ない。が、あのゲームを使って、何者かが……いや、あるいは何らかの組織が、何かをしでかそうとしているということだけはわかった。それだけでいいのだろうよ。依頼主はな」

 

 大成は何も知らされず、ここへと連れて来られた。だからこそ、このお迎えは不意打ちだった。

 大成たちも、いつかはデジモンの世界へと戻る可能性を考えなかったわけではない。が、こうもすぐ戻ることになるとは思っていなかった。

 大成も優希も、やっと帰ってこられたのだ。帰ってこられた時は、帰還の嬉しさを二人共感じて――そう、嬉しかったのだ。だからこそ、もう一度あちらの世界へと戻ることに、二人は若干の抵抗を抱いてしまっていた。

 

「大成さん、僕は大成さんについてきます。大成さんが、向こうに戻りたくないって言うなら……僕もこっちにいます」

「それは……そうなんだが」

「このセバスも同じですぞ!お嬢様。それに、わざわざ杏殿を悲しませることはないと思いますぞ」

「そう……ね……。ウィザーモンと旅人は?」

「ふむ。確かに、この未知なる世界は面白いがね。僕はまだ向こうの世界での研究を残したままだ。こちらの世界を調べるなら、それからでいい」

「オレの場合はウィザーモンと逆だな。せっかくだし、向こうの世界を旅してみることにするさ」

 

 迷う。大成も優希も。彼らのパートナーは、彼らの選択に従い、彼らと共にあるとはっきりと告げた。一方で、ウィザーモンや旅人は向こうの世界に戻るつもりのようだ。

 この面々の中で、大成と優希だけが、選択を迷っていた。

 まあ、それも仕方ないことだろう。

 今回の一件で、帰る方法が()()()()()()()ということが証明された。だが、それは必ずしも技術化されたものではない。未だ、向こうの世界とこちらの世界の行き来の方法は、不明瞭な部分が多い。

 

「俺は……」

「……私は」

 

 向こうの世界へと行ったが最後、こちらの世界へと戻ってこれない可能性もある。いや、戻ってこられても、それはコンビニへ買い物に行くかのような気軽な道ではない。帰ってこられた時には、何年も経っていたということもありうるのだ。

 帰り道云々のことがなくとも、向こうの世界には危険がつきもの。下手をすれば、帰る云々の前に死んでしまうかもしれない。

 つまり、これは大成たちにとって、人生を決めかねない選択である。それがわかっているからこそ、大成たちは迷っているのだ。

 

「うぐ……でも……ぬぁあ……むぅうう……」

「……」

 

 迷う。どうしようもなく。

 そして、そんな大成たちを見かねたのだろう。旅人は、ウィザーモンに話しかけた。

 

「ウィザーモンまだ時間はあるのか?」

「どうした旅人?ふむ。そうだな。歪みの開き方からして、まだ多少の時間はあるだろう。一時間くらいか。この門をつなげている人物も、僕たちがこちらに残られては困るはずだし……少しくらいは融通が利くだろうな」

「そっか。じゃ、大成も優希も、気持ち悪い顔してないでよく考えろよ。ひとまず時間を気にせずにな。ああ、誰かに話を聞くのもありなんじゃないか?」

「ふむ。そうだな。それがいい。焦って答えを出すよりはいいだろう」

「そういうことだ。流されるんじゃない。考えて、選ぶんだ。選ぶことができるんだからな」

 

 時間はまだある。そこだけを強調して、旅人は大成たちを部屋から追い出した。部屋に残ったのは旅人とウィザーモン、そしてアナザーの中のドルグレモンたちだけとなる。後者はアナザーの中だから、この部屋の中に姿があるのは旅人とウィザーモンだけ。

 寂しくなった部屋の中で、ウィザーモンだけは意味ありげな笑みを浮かべながら、旅人を見つめていて。見つめられていた旅人としては、居心地悪いことこの上なかった。

 

「なんだよ?」

「何。君にもああいったことができるのだと思ってね。君は自分のことばかりだと思っていたよ」

「オレのことを何だと……ってか、それはウィザーモンもだろ」

「そうだな。僕も自分のことばかりだ。自分のことさえできれば、それでいい。だが、気遣うことくらいできるさ」

「どうだかね。研究に夢中になれば、そこら辺のデリカシーが吹っ飛びそうな気がするだろ。お前」

「さて。似たようなことを最近ウィッチモンからも聞いたような気がするがね」

 

 面倒事に巻き込まれやすい旅人は、選択の大切さを知っている。だからこそ、選択に迷うことができる大成たちに考えることを進めたのだ。

 まあ、悩んで、迷って、うめいていた大成と優希が見てられなかったことのせいもあるのだが。というか、それが理由の半分以上だったりするのだが。

 

「ま、どういった選択でも、望んで選べたならそれが一番いいだろ」

――旅人の場合はいつも流れだったからね~――

――だな。旅人は面倒事に好かれすぎてるんだよ――

「何言ってるんだよ」

 

 アナザーの中から聞こえてきた声。そんな声に旅人は苦笑しながらも、返答する。しっかりと、かつてや今現在のことを思い出しながら。

 

「全部、最後はオレが選んだよ」

 

 そして、旅人たちが話していたその一方で、部屋から追い出された大成は優希たちと別れて、スティングモンと共に孤児院の中にあった椅子に座っていた。

 遠くからは、子供たちのはしゃぎ声や、車の通る音、さらには工事の雑音などが聞こえてくる。そのどれもが、デジモンの世界にはなかったもので、大成が聞き慣れたものであった。

 

「どうするかな……なぁ、どうした方がいいと思う?」

「それは……やっぱり大成さんが決めた方がいいと思いますよ?」

「いや、そんな真面目な回答いらないし。ちょっとくらい相談に乗ってくれてもいいんじゃねぇ?」

「うっ……すみません」

 

 未だに悩み迷う大成は、藁にもすがる思いでスティングモンに話を聞いてみた。が、とりわけて自分の求める回答は得られたわけではなかった。

 スティングモンの言っていることは確かに正論である。それくらい、大成もわかっている。

 大成としては、決められないほど迷っているからこそ、自分の迷いを振り払うための切欠が欲しいのだ。だから、その切欠を探している。

 まあ、スティングモンからはその切欠が得られなかったのだが。

 言葉の最後、大成に責めるような目で見られたスティングモン。彼は、大成が口に出したことによって、ようやく自分が“相談されていた”という事実に気がついた。気づかずに無視する形となってしまったが、相談されているという事実は、スティングモンにとっても嬉しいことだった。

 まあ、当の大成としては、先ほど述べた通り、()()()()()()思いで相談しているのだが。

 

「じゃ、じゃあ大成さんはどうしたいのですか?」

「俺?俺は……」

 

 一度無視してしまったために今更な気もしないわけではない。

 だが、今は相談されているという滅多にない機会であることも確か。結局、スティングモンは大成の相談に乗ることにしたのだった。

 

「俺はそうだな。向こうに戻りたい気もしないわけじゃないな。そりゃ、初めは向こうの世界に戸惑ったけどな。ゲームもないし、不便だし、疲れるし、危ないし……」

 

 スティングモンの言葉に促されて、大成は心中を吐露していく。そんな大成が思い出していたのは、向こうの世界での思い出だった。

 向こうの世界での思い出を思い出し、こちらの世界での生活と比べることで、大成は自らを気持ちを整理しようとしているのである。が、言うまでもなく、大成にとっては向こうの世界で生きることのメリットはなかった。

 

「……あれ。考えればますます向こうに戻る意味なくね?」

「えぇっ大成さん!?なら、迷うことないんじゃないですか?」

「いやいや、確かにそうなんだけど!でも、どこか引っかかるというか……」

 

 今、大成は自分で自分のことが訳がわからなくなっていた。

 大成は、旅人のように向こうの世界に魅力を感じているわけではない。こちらの人間の世界の方が断然いいに決まっている。それなのに、どうしても決定的にこちらの世界を選ぶ気にはなれなかった。自分の心の中の何かに引っかかり、だからこそ、迷っていたのだ。

 

「どうするかな……」

「あ。じゃあ、向こうの世界に行く理由を考えるんじゃなくて……こっちの世界に残る意味を考えたらどうですか!」

「おお!なるほど!逆転の発想ってやつか!」

 

 大成は、今まで向こうの世界に行くための理由を探していた。が、だからこそ、このスティングモンの言葉は思いがけないものだった。大成が掴んだ藁は、どうやら丈夫な紐だったようである。

 先ほどまでとは打って変わって、こちらの世界に残る理由を考える大成。だが――。

 

「あれ?こっちの世界に残る理由って、ゲームと生活が楽ってことくらいじゃね?」

「大成さん!?」

「いやいや……いやいやいやいや!それって結構重要だよな!な!」

「いや、僕に尋ねられても……」

 

 だが、大成は自分が思っていた以上に、こちらの世界に未練がなかったようである。大成は、あっさりとした自分の感情に驚いていた。というか、驚きながらも、逆に自分に言い聞かせている節すらある。

 

「確かにゲームはしてぇよ。こっちの方が生活は楽だよ……でも、向こうにもそれがあれば、向こうに行ってもいいって思えてきたぞ。……どういうことだよ」

「知りませんよ」

 

 大成は、こちらの世界で叶えたい夢があるわけではない。こちらの世界に居続けたい今があるわけではない。友人も少なく、両親との関係も希薄なこちらの世界には、残るたいと思うほどの強い理由はなかった。強いて言うのならば、新作ゲームやあのゲームができなくなることくらいであった。

 それはさすがにどうよ、と。さすがの大成でも、このような自分に若干引くしかなかった。

 

「うがー!考えれば考えるほどどっちでもよく思えてきたぞ!どうしてくれるんだ!」

「いや、だから知りませんよ!」

「ぬぐぐぐ……!」

 

 結局、答えは出ない。迷いに迷う大成。無駄に力んで、まるで用を足す時のように答えをひねり出そうとしていた、そんな時だった。

 

「大成。子供たちが怯えるから、その顔は本当にやめて」

 

 呆れたような顔で、優希がやって来たのは。その腕の中には、昨日の一件で筋肉痛になったレオルモンがいる。

 

「顔のことはほっとけよ。優希は決めたのか?」

「その様子だとまだ決めてないみたいね。私は決めたよ。向こうに行く」

 

 迷い悩む大成の前で、驚くほどあっさりと優希はそれを告げた。

 もちろん、それは優希なりに悩んで出した答えだろう。だが、あまりにもあっさりと告げてきたため、大成はそうやって決めることができた優希が羨ましく思えた。

 

「……!なんでだ?」

「なんでって言ってもね。セバスとも話し合って決めたんだけどね。……やっぱり、私の知りたいことは向こうの世界にあると思ったの」

「知りたいこと?」

「ええ。別に知らなくてもいいかもしれない。けど、悪い予感がする。私があのゲームに手をつけた瞬間に、あの世界へと送られたこと。私が、何者かに進化の巫女って呼ばれていること。それらすべての答え」

「それでいいのかよ?こっちの世界でのすべてを捨ててまで……特に、優希は俺と違って家族って言えるような人たちがいるじゃねぇか」

 

 大成は見ている。

 今日、この孤児院へとやって来た時、優希はここの子供たちに好かれていたことを。それは、家に帰っても誰もいなかった自分とは違って、帰るべき場所に待つ人がいることの正銘だ、と。そう、大成には思えていた。

 だからこそ、自分の迷いを投影させるかのように、大成は優希と話す。

 だが――。

 

「らしくないわね」

 

 らしくない、と。優希は、そんな大成を前にして、そう感じていた。大成は、悩むことはあれど、もっと真っ直ぐに進むタイプだと思っていたのだ。

 

「……らしくない、か。俺らしいってなんだろうな」

「知らないわ。ま、さっきの大成の答えに返すなら……そうね。こっちの世界で生きるために、私は私を知る。そのために向こうに行くつもり。ここでの生活を捨てるから向こうに行くんじゃないわ」

 

 そう言う優希の顔は真っ直ぐで、そこには大成のような迷いは見られない。優希は決めたのだ。こちらの世界で生きるため、そして知るべきことを知るために、向こうの世界へと行くことを。

 こちらの世界で生きるために、帰ってこられるかどうかもわからない向こうの世界へと行く。一見すれば矛盾するその内容に、大成は首を捻るしかなかった。 

 

「……?どういう意味だ?」

「さあね。それじゃ、私は杏さんのところに行くから。あ、杏さん見なかった?」

「見てない」

「そう……どこにいるんだろ」

 

 煙に巻いたというべきか。微笑みで誤魔化した優希は、そのまま大成たちに背を向けて去っていく。後に残ったのは、時間だけが無駄に過ぎ去り、悩みと迷いが大きくなった大成とそんな大成を見守るスティングモンだけだった。

 

「どうすればいいんだろな……本当に」

 

 優希が去った後、そう呟かれた大成の言葉の中には、切実なものが込もっていた。

 前のように強引に巻き込まれたのならば悩むことにもなかったのに、と。そう思った大成は、溜息を吐く。自分で道を決められないからこそ、今だけ大成は強引に流されることを切実に望んだ。

 そして、そんな大成を見かねて――。

 

「ぬぁあああ!もう!」

「は?え?イモ?」

 

 スティングモンが、爆発した。いや、間違っても物理的な意味ではなく、あくまで比喩的な意味で。

 スティングモンは見てられなかったのだ。今の大成が。だからこそ、スティングモンは大成に発破をかけるため、わざと強引に話しを進めていく。

 一方で、こんなスティングモンを見たことがなかったからこそ、大成は呆然とするしかなかった。

 

「今の大成さんは格好悪いです!」

「え?ああ、うん……」

「大成さんは格好良いのが好きなんでしょう!?」

「まあ、うん……はい。その通りです」

「なら、格好良く行きましょう!」

「どういう理屈!?」

 

 自分で道を決められないからこそ、誰かに決めてもらうことを望む。自分で決めれば何かがあった時は自己責任になるが、誰かに決めてもらえば何かあった時には他者の責任になるから。自己責任を恐れて、他者責任を望む。それは、弱さだ。

 それが必ずしも悪いことだとはスティングモンも思わないが、この弱さを抱えたままで今回のことについて悩むのは、良くないと考えた。だからこそ、スティングモンは大成に発破をかけたのだ。

 まあ、普段しないことであっために、スティングモンのこの発破は半ば失敗したのだが。言葉は支離滅裂。大成に届いたものといえば、勢いくらいのものだった。

 

「……でも、そうだな」

 

 それでも、無意味ではなかった。勢いだけの支離滅裂な言葉でも、大成には届く部分があったらしい。顔を上げた大成は、迷いも悩みもありながらも――前に進む意思だけはあった。

 

「悩んでばかりにもいかないか!よっし……イモ!」

「はい!」

「帰るぞ!」

「了解です!」

「家に!」

「……はい!?」

 

 大成は、確かめたいことがあった。時間はない。それでも、それを確かめずに答えを出したくはなかった。

 だからこそ、大成は一度帰る。自分の家へと。

 




というわけで、第九十四話。

人間の世界編が終わる……と、思いきや、その前の云々の話でした。
はい、次回に続きます。大成の選択やいかに。

それでは次回もよろしくお願いします。
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