【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第九十五話~待ち受けるものは未だわからず~

 時間がない。今、大成たちの目の前にはそれだけの問題があった。

 だからこそ、大成とスティングモンの二人は、“人目に付くことも気にせず”、全速力で大成の家へと向かっていた。そう。文字通り、全速力で。

 だから――。

 

「おい、あれなんだ!?」

「怪人!?おい、警察……いや、自衛隊か!?誰か呼べ!」

「子供が背中に乗ってるぞ!さらわれてるのか!?」

 

 だから、それを見た人々が驚愕によって、混乱してしまったのも無理はないことである。

 これだけ大々的に動いておいて、大成たちの家まで特定されなかったのは、幸運の一言に尽きるだろう。まあ、当の大成とスティングモンはそんなことを気にしていられる状況ではなかったのだが。

 

「着きましたよ!」

「よっし!急ぐぞ!」

 

 混乱に騒ぐ人々を振り払い、到着した大成の家。

 着いた瞬間、大成は乱暴にドアを開け、中へと突入する。バキリ、と。ドアから聞こえてはならない音が鳴ったことは、スティングモンだけが気づいた。

 ともあれ、中に入った大成は、自分の部屋へと行く。そこは今まで大成が過ごしてきた部屋で、そこには今までの大成のすべてがあった。

 机の上の学校の鞄。棚の中の漫画。それ以上の数のゲームのカセット。いくつもの物、それらすべてが大成の短い人生の証明だった。

 

「……大成さん?大丈夫ですか?」

「ああ」

 

 別に家に帰ってきたからどうというものではない。ただ、大成は見たかったのだ。人生を左右するかもしれない問題を前に、自分の今までの人生を。

 自分の人生の証。まだ子供の大成では、その言葉に適うほど大層な物がある訳ではない。明らかに名前負けしている。が、それでも、これらは子供なりに大切なものだった。

 それら一つ一つをしっかりと眺めてから、ふと大成は棚の中のあるものを手に取る。

 

「それは……ゲームですか?」

「ああ。俺が初めてやったゲーム。今思えば、グラフィックもボリュームもたいしたものじゃなかったし、ストーリーもありふれたものだったけど……」

 

 「子供ながらにドキドキしながらやったことを覚えている」と。大成はそう言った。

 そのゲームは本当にたいしたレベルのものではない。本当にゲームに詳しい人が評価すれば、五の中で三として評価されるような、名作にはなりえない普通のゲームだった。

 ストーリーも、主人公が旅をして世界を救うという、そんなありふれたもの。

 それでも、初めてゲームをしたあの時の大成にとっては、これは唯一の名作だった。

 大成は、自分が主人公のようなタイプではないことを知っている。古今東西のさまざまな主人公のように何かが優れているわけでもなく、パートナーは虫。こんな普通な大成を物語やゲームのストーリーの主軸において何かを作れと言われても、作る側が困るだろう。

 主人公に据えるならば、優希や勇の方がよっぽど“らしい”。大成はそう思う。

 

「俺さ、ゲームで主人公タイプが好きなんだよ。世の中は悪役とか、モブとか、そう言うのが好きな奴もいるけどさ。やっぱり、王道な……信念を持って、自分の力や仲間の力で道を切り開いていくタイプに憧れてるんだよな」

「……そう、なんですか?」

「ま、イモにはわからないか。でもさ、時々思うわけだよ。主人公だけが物語を完結させられる。言い方を変えれば作ることができるけど、逆に言えば主人公じゃなければそれも適わない。どれだけ物語に関わってもな」

 

 大成の言っていることは、正直に言えばスティングモンにはほとんどわからなかった。

 それでも、それを言う大成は、何か大事なことを考えていることだけはわかった。だからこそ、スティングモンは余計な茶々を入れることだけはしない。

 

「それってゲームや物語の展開上しょうがないことなんだけど、寂しい気もするんだよな」

「……?」

「で、だ。俺はせいぜい準レギュラーの脇役止まり。ゲームとか漫画とか読んでいて、俺も主人公だったら、俺もこういう世界にいられたらって思ったこともないこともないけどな」

「ある意味今の大成さんもそうじゃないですか」

「……そういやそうだな。でも、きっとそうさ。主人公には憧れるけど、やっぱり俺みたいなのが主人公だったら、なにより俺が嫌だ」

「それは、何とも……」

「さっきも言ったけど、俺に主人公は無理。でも、脇役が物語の完結を見届けてもいいよな?」

「……はい?」

 

 一瞬、スティングモンは大成の言っていることがわからなかった。いや、スティングモンでなくともわからないか。

 大成自身も、自分で自分の言っていることが訳わからなくなりつつあったのだから。

 それでも、言っていることの内容がどうであれ、そこは重要ではなかった。重要なことは、大成がようやく選択をしたというそれだけのことである。

 

「ぐちゃぐちゃ言っちゃったけどさ。ゲームと現実とは違う。ま、脇役の俺じゃ現実の物語でも完結させられないかもしれないけど……一プレイヤーとして、ゲームのエピローグくらいは見たいってことだよ」

「……はい!」

 

 大成の言っていることは専門用語が多いというか、大成独特の感性の下に成り立っている文が多くて、正直に言えば、先ほどからスティングモンにはずっと訳がわからなかった。

 せっかく、先ほどのスティングモンの言葉通りに格好良く決めたのに、である。

 それでも、スティングモンにもわかったことが一つだけあった。それは、大成が向こうの世界へと行く気になったということ。

 こちらの世界に残ろうと、向こうの世界に行くことにしようと、スティングモンはどちらでも良かった。が、今まで以上にいきいきしている大成の出した答えだ。スティングモンにはこれが最善の答えのように思えた。

 

「それじゃ戻るか!」

「はいって!大成さん!」

「ん?あ?どうかしたか?」

「時間が!」

「しまったぁああ!ちょっと待ってくれ!持ってくもんとかいろいろあるから!」

 

 どうやら、大成たちは時間の経過を意識していなかったらしい。時計を見れば、ウィザーモンの言っていたタイムリミットに着々と近づいていて。

 今更ながらにそのことに気づいた大成たちは、慌てて孤児院へと戻り始める。その最中、スティングモンの姿を見た人々がまたも混乱の渦中に叩き込まれてしまったのは、言うまでもないことだった。

 

「急げぇ!イモ!」

「はい!」

 

 多大な犠牲を払って、急ぎに急ぐスティングモン。その甲斐があったのだろう。大成たちが孤児院に着いた時、まだ旅人たちは先ほどの部屋にいた。

 

「大成?どうしたんだ。そんなに急いで」

「いや、もうそろそろ時間だと思ったから……置いて行かれないようにと」

「ああ。そういや、そろそろか。忘れてたな」

「旅人……君はもう少し自分の発言を記憶しておいた方がいいのではないか?阿呆と思われても仕方がないぞ」

「うるさいな」

 

 部屋の中にいたのは、旅人とウィザーモンだけ。未だ優希たちの姿は見えなかった。てっきり、大成は自分よりもずっと早く来ているものとばかり思っていた。だからこそ、優希たちの姿が見えなかったのは、驚きだった。

 

「というか、その荷物はなんだよ?」

 

 大成が持ってきたパンパンに膨れているリュックサック。一体何を持ってきたのか。気になったからこそ、旅人はそれを指差ししながら聞いた。

 聞かれた大成は、そのリュックサックの口を開きながら答える。まるで自慢するかのように。

 

「ゲーム類一式。小型のテレビとかも入ってる」

「テレビは向こうじゃ見れないだろ」

「ゲームさえできりゃいいんだよ。こっちにいつ戻れるかわからない以上、持って行って損はない!」

「言い切れるところがなんともな……」

 

 自信満々に言い切った大成。

 ゲームというものをしたことがない旅人としては、呆れるしかない。が、そんな大成の気迫には、自身の旅に対する思いに通じるようにさえ思えて、旅人は苦笑する。

 

「ゲームはいいけど、スティングモンは大丈夫なのか?凄く疲れてるみたいだが……」

「はっ……はっ……すみません、少し休ませてください」

 

 荷物の謎が解けた旅人が次に指差したのは、スティングモンだった。ずいぶんと疲れている。

 まあ、それも仕方ないことかもしれない。今日のスティングモンは、昨日の優希の強制進化の力によって筋肉痛状態。成熟期だからか、レオルモンより症状は軽かったものの、それでも体を動かすのはキツかった。

 そんな状態で、スティングモンは大成のタクシー役を務めたのである。そんなスティングモンの健気さに、旅人もウィザーモンも感心していた。

 

「さて、大成は決めたようだけど、優希はどうするのかね。未だ来てないんだけど……」

「優希なら俺よりも早く決めたはずだけど……?」

「あれ、そうなのか?でも、まだ来てないんだが」

「ああ、なんか誰かを探しているような感じがしたな」

「誰か……?誰だ?」

「僕が知るわけないだろう」

 

 大成の言う誰か。それが誰を指すのか、想像がつかない旅人はウィザーモンを見る。が、ウィザーモンにもわかるはずはない。そうなるとこのメンバーにはわかりようもなかった。

 まあ、アナザーの中のドルグレモンとスレイヤードラモンはその誰かが誰かわかっていたのだが。逆に、なぜ旅人は気づけないのかと呆れていたくらいである。

 

「遅いな。そろそろこれ作ってる奴も痺れを切らすんじゃないか?」

「まさか。これしきのことで強硬手段に出るような者ではないだろう」

「いやいや。この前はオレを無理矢理向こうの世界に連れてったしな。どうなるかわからんぞ」

 

 空間の歪みを指差しながら、冗談を言う旅人とそれに答えるウィザーモン。言っておいて難だったが、旅人はありえそうなその予感に、嫌な汗をかき始めていた。

 旅人としては、別に世界移動くらいならいいのだが、いきなりの強硬手段は心臓に悪いためやめてほしいのである。

 

「さて。優希は……」

「ごめん!遅くなった」

「来たか」

 

 そんな時だった。ようやくと言うべきか、優希が来たのは。

 どうやら、この空間の歪みを作っている者が、強硬手段に出てくる可能性はなくなりそうである。

 

「あれ、大成。アンタも向こうに行くことにしたの?……いいの?」

「ああ、優希の理由みたいに、大層な理由じゃないけどな」

「何それ?」

「ゲームのエピローグは見届けたいってだけの……俺のわがままだよ」

「ふぅん?ま、いいんじゃない?旅人みたいに、旅したいってだけの人もいるんだしね」

 

 大成の向こうの世界行きの理由を聞いた優希だが、聞いておきながらどうでもよさそうだ。いや、そうでもないか。優希はどうでもよさそうに振舞っているが、そこにはどこか嬉しさが混じっている。やはり、“友人”が一緒に行くというのは心強いのだろう。

 ちなみに、旅人もいると言えばいる。だが、優希には、旅人はいつの間にかふらっといなくなりそうな、そんな気がしていたため、ノーカウントだった。実に鋭い。

 

「あれ、やっぱりあれか?優希は大成も一緒だと嬉しいのか?」

「なっ……そんなわけ無いでしょ!いい加減なこと言わないでよ!」

「見た様子、異性間の恋慕の情ではない……ふむ。興味深いな。いずれは心というものをテーマに研究してみるのもいいかもしれないな」

「やめておいた方がいいと思うわ」

「やめといた方がいいだろ」

「なぜ君たちは声を揃えていうのだね?」

 

 旅人と優希の言葉にウィザーモンは不思議がっている。が、二人としてもウィッチモンのことを知っているからこそ、ウィザーモンが心の機微に対する研究をするなど、冗談としか思えなかった。

 

「君たちの僕に対する認識を聞きたいところだが……まぁいい。さて、それでは行くか」

「あ、待って」

 

 いろいろとあったものの、そろそろ行くことを提案したウィザーモン。

 だが、それを止めたのは優希だった。まだ何かあるのか、と。全員が怪訝そうな顔をする中で、優希はこの部屋のドアのところまで歩いていく。

 そんな優希の行動の理由は、全員わからなかった。

 やがて、ドアのところまでたどり着いた優希が、勢いよくそのドアを開けた瞬間。

 

「うげ……」

「待っていたのだけれど……行く前に一言くらいあってもいいんじゃないかしらね?……旅人?」

 

 旅人がうめいた。

 そう。ドアの向こう側に立っていたのは、杏だったのだ。どうやら、彼女は優希と一緒にこの部屋へと来て、それからずっとドアの向こう側で待っていたようである。

 どこか責めるような目で旅人を見る杏。一方の旅人は、気まずさから目を逸らすことしかできなかった。

 

「はぁ。ま、こういう予感はしていたけれどね。それでも、これはないんじゃないかしら?」

「……えっと……そうか?」

「……本気で言っているみたいね。はぁ」

「え?オレが悪いのか?っていうか、なんでみんなそんな目で見るんだ!」

 

 杏のみならず、この部屋の全員から責めるような目で見つめられている旅人。なぜ自分がそういう目を向けられているのか。それが本気でわからない旅人は、狼狽えることしかできなかった。

 特にその中でも、ジッと旅人を見つめているのは杏だ。まるで旅人から顔を逸らしたら負けてしまうかのように、杏の視線は旅人を捉えて離さなかった。

 

「……」

「……」

「……」

「……」

「……はぁ」

 

 数分の沈黙。その後に、降参のように溜息を吐いたのは、杏の方だった。どうやら、何を言っても無駄ということがわかったらしい。その表情には、寂しそうな、辛そうな、そんな色があった。

 

「行ってきますの挨拶くらいはして欲しかったんだけどな。優希はちゃんと言ってくれたのに」

「あ……いや、その……」

 

 ショックを受けたような口調で言われて、ようやく気がついた旅人。何と言うか、遅すぎだった。この部屋の中の面々誰もが、そんな杏の望んでいることに気がついたというのに。旅人だけは、最後まで気づけなかった。

 「ごめんなさい」と。目を逸らすことで精一杯で、それに気づかなかった旅人はそう謝る。

 一方で、謝られた杏は苦笑していた。どうやら、ある程度はこの事態を予想していたようだった。

 

「今度は、ちゃんと帰ってきてね。自分の足と意思で。ここは貴方の家なんだから」

「……行ってきます」

「はい、いってらっしゃい」

 

 今度は間違えない、と。旅人は、杏の聞きたかった一番のセリフを言って――恥ずかしかったのか、それからは顔も上げずに空間の歪みへと飛び込んだ。

 そんな旅人の姿に苦笑し合って、ウィザーモンと大成、そしてスティングモンも続けて空間の歪みへと飛び込む。

 残るは、優希とレオルモンだけ。空間の歪みの前まで二人は歩いて行って――。

 

「お嬢様のことはお任せ下さい!」

「優希のことは頼むわね。……それから、セバスもちゃんと帰ってくるのよ」

「……!了解ですな!それでは行ってきますぞ!」

「必ず帰ってきます。旅人も。……行ってきます!」

 

 最後、振り返りながら杏に出発の挨拶を告げてから、そして優希とレオルモンも空間の歪みへと飛び込んだ。

 杏は空間の歪みが消えるまで、旅立った面々を見送ったのだった。

 




というわけで、第九十五話。

人間世界編である第七章はこれにて終わりです。
次回からは第八章が始まります。

それでは第八章以降もよろしくお願いします!
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