【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
第九十六話~帰還して新たに出会う~
デジモンの世界へと帰ってきた大成たち。その前の修行旅行を含めても、わずか数日しか離れていないのに、ずいぶんと懐かしい気がしていた。
「……毎度毎度、同じ感想を抱くのってどうよ?」
「何が?」
「いや、ずいぶんと懐かしい気がするな、って」
「年寄りくさいわね」
まあ、大成がそんな感想を毎度抱くのも、大成なりの愛着が学術院の街にあるからなのだろう。
「さて。僕はこれから依頼主に会う予定もあるし、ここで別れさせてもらおう」
「んじゃ、オレも行くか。またな」
この後の予定があるから、と。さっさと去っていくウィザーモン。
そんなウィザーモンに続いて、旅人もこの場を去って――というか、何か用があるのか、ウィザーモンの後を追っていった。
そんな二人を見送った大成たちも、動き始める。この場にいつまでもいるわけには行かない、と。とりあえずこの街における自分たちの家へと帰っていく。
数日ぶりの家。数日で埃が積もるということもなく、家の中は大成たちが出て行った時のままだった。
「よっし。さっそくゲームゲーム……テレビはどこに置くべきか?」
「ゲームをするためにテレビまで持ってくるなんてね。溜息しか出ないわ」
「あ?何か言ったか?優希」
「別に。でも、電気どうするのよ?コンセントなんてないわよ?」
「……しまったぁあああああ!」
家に着いてさっそくテレビゲームに興じようと思っていた大成。だが、そんな大成の野望は、優希の一言によって打ち砕かれることとなった。
重いのも我慢して、大成は家からさまざまな物を持ち出してきた。すべてはこちらの世界でもゲームをするために。だが、大成は忘れていたのだ。
こちらの世界には、向こうの世界のような家電用の電気がないことに。まあ、機械里辺りならばあるかもしれないが、この学術院の街にそんなものはない。
それは、つまり――。
「やべぇ!ゲームできねぇじゃん!どうする!?」
「大成さん、落ち着いてください」
「これで落ち着けるか!」
大成の持ち込んだテレビゲームができないということだ。もちろん、テレビを使わない携帯用のゲーム機も中にはあるが、そちらも結果は変わらない。今は出来ても、充電が切れてからは使うことができなくなる。
大成にとって死活問題だった。
どうする、と。大成は悩む。優希やレオルモンが呆れていることにも気づかず、悩みに悩んで――そして、次の瞬間に、ハッと天啓を受けたかのように閃いた。
「そうだ!なければ作ってもらえばいいんだ!」
「はい?それって……」
「こうしちゃいられない!イモ!行くぞ!」
「え?あ、はい!」
持ち込んだ荷物の中から、携帯ゲームの充電器と携帯ゲームを取り出した大成。彼はそれらを持ったまま家を出て行った。そんな彼の後を、スティングモンは慌ててついて行く。
後に残ったのは、手を額につけて、疲れたような顔をした優希とレオルモンの二人だけだったが、それはほんの余談である。
「ど、どこに行くんですか!?」
「ウィザーモンのところだよ!」
「え?……な、何をしに行くんですか?」
「そりゃ決まってるだろ!ゲームをできるようにしてもらうためだよ!」
「訳わかりませんよー!」
明らかに言葉の足りない大成の発言。
一方のスティングモンは、なんとかして大成の意図を探ろうとしていたが、やはり無理だった。大成の言葉の真意を悟るには、スティングモンはゲームや家電に対して無知すぎたのだ。結局、何もわからないままで、スティングモンは大成の後を追いかけていくしかない。
しかし、それにしても速い。大成はインドア派の人間で、同年代の少年少女の平均か、それ以下の体力しか持たない。持久力的な意味でも、速力的な意味でも。だが、今の大成は同年代でもトップクラスに躍り出ることが可能なくらいのスピードで走り続けている。
まあ、それでもスティングモンに抱えられて飛んでもらった方が速かったりするのだが。ゲームのことしか頭にない大成は、そのことに気づかなかった。
「大成さん!ウィザーモンがどこにいるか知っているんですか!?」
「知らない!けど、家だろ!」
「そんな適当な……!」
当てずっぽうにも程がある。が、大成は止まるつもりはなかった。いなかったのならば、他の場所を探せばいい、と思っていたのだ。
大成にしては珍しいほどの行動力を発揮しているが、それほどまでに大成はゲームをしたいということだろう。人間、好きなもののためならば、どれだけの労力を払うことも厭わない。大成もその例に漏れなかったというだけである。
相当なペースで走り続けた大成。その甲斐あって、いつもよりもずっと早く、ウィザーモンの家にたどり着くことができた。たどり着いた大成は、すぐさまドアを叩き、ウィザーモンを呼ぶ。が、ウィザーモンはいつまで経っても出てくることはなかった。
「……出てこないですね。やっぱりいないんじゃないですか?ほら、旅人さんも追ってましたし……よくよく思い出せば、依頼主と会うみたいなことも言ってましたし」
「ぐっ……それでも俺は諦めないぞ!」
未練があるのだろう。往生際悪く、ドアを叩き続ける大成。だが、そんな大成の願いが届くことはなかった。何度ドアを叩こうと、大声でウィザーモンを呼ぼうと、そのドアが開かれることはない。
十数分も続けてこれなのだ。未練がましくドアを叩くものの、大成もそろそろ別の行動に移ることを考えていた。
「はっ!?そうだ!アナザーを使えばいいじゃんか!」
「……そういえば……そうですね」
アナザーには通信機能がある。この世界で使える相手は同じくアナザーを持つ相手か、作り主であるウィザーモンだけという限定的なものだが、今回はそれで問題はない。
なぜ気づかなかったのか、と。初めからこれで居場所を聞いていれば、無駄に走る必要はなかったのだ。大成は自分の迂闊さに頭を抱えた。
まあ、ゲームで頭が一杯になっていたのだ。思い至らなかったことも、仕方のないことだったのだろう。
「よし。出てくれよ……!」
そのことに思い至った大成は、アナザーを取り出し、ウィザーモンに通信を繋げる。
プルルル、と。待機音が大成の耳に聞こえて来る。早く出ないか、早く出ないか、と大成は待ち焦がれるが――。
「出ろよ!」
「出なかったんですか?」
何分経っても、ウィザーモンが大成からの通信に出ることはなかった。
何のための通信機能なのか、と。そんな風な、半ば理不尽な憤りをウィザーモンに向けながら、大成は肩を落とす。
だが、これだけで諦める大成ではなかった。通信で出ないのならば、直接探し出せばいいのだ、と。そう思ったのである。
「よし。探しに行くぞ!」
「えぇ!?諦めないんですか!?」
「諦めるわけ無いだろ!ゲームのためだ!」
「諦めた方がいいですって!」
この広い学術院の街の中から、ウィザーモン一人を探し出す。いつもの大成ならば、そのあまりの面倒さに後日にするだろう。後日ならば、家にいる可能性もあるのだから。
だが、今の大成は一刻も早くウィザーモンに会いたかった。ウィザーモンに会って、頼み事をしたかった。その頼み事を前にして、待つという選択肢が取れなかったのである。
探すことを決定したとはいえ、大成は先ほどまでのように走ることはできなかった。先ほどの走りは火事場の馬鹿力的なものだったのだ。ようするに、大成は今更ながらに自分の疲労状態に気づいたのである。
「でも、やっぱり俺の足じゃ効率悪いよな。疲れてるし……疲れるし。イモ!頼んだ!」
「やっぱりこうなるんですね。いや、予想はしていましたけど……」
「いいからさっさとしてくれ!ウィザーモンを探すんだ!」
「家で待ち伏せするのとどっちが効率的なんですかね……」
半ば諦めの境地で、スティングモンは大成を抱える。そして、ウィザーモンの家を飛び出した。
途中途中でデジモンたちにウィザーモンのことを聞き、探し回る。だが、肝心のウィザーモンの居場所を知っている者は誰もいなかった。
なんで誰も知らないんだよ、と。先ほどに引き続いて理不尽な憤りを感じる大成。そう思った時には、かれこれ一時間ほど経過していた。
「くそっ。いねぇ!どういうことだよ……?」
「知りませんよ。でも、街の中にはいないんじゃないですか?」
「……それだったら、探しようがねぇじゃん」
「外に探しに行ってみます?」
大成を気遣って、街の外を探しに行くことを提案するスティングモン。だが、街の外の広大な空間を探すなど、この街を探す以上に無謀だ。
いくら勢い任せの今の大成でも、それくらいは理解できる。仕方なく、もう一度アナザーの通信を試みる大成。案の定、ウィザーモンが通信に出ることはなかった。
どうするか、と。スティングモンにウィザーモンの居場所についての聞き込みを任せて、次の作戦を考える大成。だが、何も考えつかなかった。
いよいよ八方塞がりである。あんまりの結末に大成は叫びたくなった。が、その時だった。
「……あれ?」
大成の視界の端に、その存在が映ったのは。建物の影に隠れるようなその人物。それは、大成の見たことのない人間だった。優希ではない。片成でもない。この街を去った勇でも、いつぞやの好季でもない。もちろん、零でもない。
年の頃は大成よりも年上の男性。高校生くらいだろう。染めたような緑色の髪に、見せつけるようなネックレスや指輪。
もちろん、大成とて人を見かけで判断してはいけないと知っている。だが、正直に言ってしまえば、その人物は大成の中の不良やヤンキーといった存在のイメージそのままな人物だったと言えた。
「……」
「大成さん、どうかしたんですか?顔がすごいことになってますよ」
「例えば?」
「えっ!?た、例えば……?えっと……その……道端で大きな糞を見たような?」
「まあ、あながち間違いでもない……いや、そうか?ま、いいや。アレ」
見てみろ、と。指を差して不快に思われないように、こっそりと目線だけで大成はその男を指す。
そんな大成の目線を追うように、スティングモンはその男を見た。そして、彼がその男を見た第一声の声が――。
「うわぁ……」
これである。誤解のないように言っておくと、その中に軽蔑の色が含まれていたわけではない。ただ単に、スティングモンは驚いたのだ。その男の姿に。
このデジモンの世界では、デジモンはありのままの姿で生きている。人間のように“着飾る”ために服を着ることなどほぼないと言っていい。事実、スティングモンには着飾るために服のようなものを着るという発想がなかった。
だからこそ、スティングモンは驚いたのである。極端に外見が変わるほど着飾った服、装飾品。はっきり言って、その男はスティングモンの理解の外にある人物だった。
「何と言うか……すごいですね。いろいろと。それにあれは……緑の髪?人間の世界に行った時は、ほとんど黒とか茶とかだと思ったんですけど……あっ。地域差ですか?それにしては不自然な色のような?」
「片成みたいな金髪や白髪はあっても、緑の髪なんて人間の世界にはないから。あれは染めたやつだから」
「染めた?やっぱりそうなんですね。でも、何でそんなことするんですか?」
「……何でだろうな?ってか、そういうのは人それぞれだから、その人が言いふらしてない限り言わないもんだ。暗黙の了解だ……たぶん」
まあ、もちろんデジモン全員がスティングモンと同じ感想を抱くことはない。というか、スティングモンのような感想を抱く者は希だろう。
ほとんどのデジモンは、人間と関わりがない。それ故に、人間が着飾っているとは気づかないのだ。スティングモンの感想は、人間という存在に関わった者だからこそ抱けた感想と言えた。
「もう遅いかもしれないけど、あまり見るなよ。ああいう人種って事あるごとに難癖つけて突っかかってくるらしいからな」
「でも、見ちゃいますよ。すごい顔をしてますもん」
「だから、頭のことはあまり言うなよ」
「いや、頭じゃなくて顔ですよ。顔」
「んあ?」
スティングモンの言葉の意味がわからず、大成はその男の方を向く。先ほど、あまり見るなと言ったばかりだったが、スティングモンの言葉に誘導されて、自然と大成はその男を凝視してしまった。
なるほど、確かにスティングモンの言う通りである、と。距離は少し離れていたが、遠目でもそう思えるほど、大成にはその男の顔は凄かった。
その男は、時々の大成のように、気持ち悪いほど変な顔をしていた訳ではない。だが、まるで思い詰めたような、無言で怒っているかのような、そんな顔をしていたのだ。
これには、さすがの大成も不安になった。建物の影に隠れていることもあって、まるで不審者のようである。
「……どうするべきだと思う?」
「警備員に伝えるべきですかね?」
通報すべきか。いやいや、ああいう顔で間違いだったら失礼だし……と。そんなことを思う大成とスティングモン。
だが、結論から言えば、大成のその悩みは意味のないことだった。
「ん?お前は……」
大成がその悩みに結論を出すよりもずっと先に、その男が大成に気づいたのだ。
まあ、悩んでいる間、ずっと大成たちはその男のことを見ていたのだ。あれだけジッと見つめていれば、誰だって気づくだろう。大成たちのミスである。
大成たちの気づいたその男は、だんだんと近づいてきている。
その時、大成たちの脳裏には、先ほどの大成の言葉が思い起こされていた。事あることに難癖つけてくる、という。
「えっと……」
「何、人のことジロジロ見てたんだよ?」
「う……」
睨みながら、大成を問い詰めるその男。
まあ、その男は精一杯睨みつけているようだったのだが、大成たちはさっぱり怖くなかった。幾度も命の危機を覚えるほど、デジモンたちに襲われたことのある大成たちにとって、その程度の睨みつけなど今更だったのだ。
今の大成たちが口ごもっているのは、怖いからではなく、単に言い訳を考えているからだった。
「何とか言ったらどうだ?」
「ほら、あれだよ!滅多に見ない人間だったから、ちょっと驚いたっていうか……」
間違いではない。ある意味正直に答えた大成。そんな大成の答えに、その男も納得したようだった。
「へぇ……お前名前は?」
「俺?俺は大成」
「大成、ね。まさか実名か?実名はやめといた方がいいだろ」
「……?ああ、わかった」
「オレはネツって言うんだよ」
先ほどまでの顔の不審者ヅラが嘘であるかのような、普通の顔。そうして、告げたその男の名前は、先日勇たちが戦った男の名前。
そう。大成たちは知らないことだったが、その男こそ、噂のデジモン虐殺事件の主犯であった。
というわけで、第九十六話。
第八章の初回。
帰還……からのネツ再登場回でした。
次回、ネツと大成が交流を(ある意味)深めます。
それでは次回もよろしくお願いします。