【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第九十七話~ゲーム≠現実~

「ふーん?」

「ネツ……?まさか、ね」

 

 自己紹介してからも、先ほど見られていた仕返しとばかりにジロジロと大成を見るネツ。大成としては、居心地悪いことこの上なかった。

 何を考えているのか、と。そう思いながら、大成は視線にジッと耐える。やがて、全身をジロジロと見たその男は、大成のある一点に視線を止めた。

 そう。大成の持つ、携帯ゲーム機とその充電器に。

 

「それ……GSか?」

「え?ああ、これ?そうだけど?」

「カセットは?」

「スーパーウルフクエストだ」

 

 思った以上に大成の持つそれに食いついてくるネツ。大成としても、ゲームのことを話せるとあって、先ほどまでネツに感じていた諸々の感情を置き去りにして気分よく話し始めた。

 まあ、誰だって好きなことを語ることができるのは嬉しいものだ。とはいえ、見た目の怖い相手や初対面の相手に語るなど、誰にでもできることではないが。

 

「おお!スーパーウルフクエストか!面白かったよな!」

「おっ?わかるか!?」

「わかるぜ!続編が出ないのが惜しいくらいだ!絶対出ると思ったよな?」

「ああ。続編もあったらしいけど……シナリオライターがぶっ倒れたらしいし……復帰したら是非もう一度作って欲しいよ。あ、でも新作も捨てがたい……!」

「おお!だよなー。新作も続編も、どっちも作ってくれたら……オレはどっちも買うぜ!贅沢だけどな!はは!」

「贅沢なもんか!」

 

 ネツもゲーム好きらしい。同じものが好きということで、ウマが合ったのだろう。二人は、すっかり意気投合していた。

 一方で、話題についていけないスティングモンは空気になるしかない。仕方ないことだとはわかっていたが、少しだけ寂しい気がしたスティングモンだった。

 ちなみに言えば、大成の持つGSとは、十年以上前に発売されたゲーム機で、現在主流のゲーム機ではない。それはスーパーウルフクエストの方も同じだ。十年以上前に発売されたゲームである。

 

「今もできるのか?それ」

「え?ああ……今はできるけど……こっちの世界コンセントがないからさ。そのうちできなくなるんだよ。どうしたらいいか困ってて」

「あー……だよな。充電できなけりゃ、ただの置物だもんな。どうすんだ?」

「とりあえず、知り合いに何とかなるか聞いてみるつもりだ」

「へぇ?何とかできるかもしれない知り合いがいるのか。羨ましいな」

 

 ゲームについて話せた相手など、好季くらいのものだった。知らず、大成はテンションが上がっていく。それは、いつかも見た光景で――やはり、そのいつかと同じだった。

 この時の大成には、ネツと自分との違いに気づけなかったのだ。

 

「そういえば……そっちにいるのはお前のパートナーデジモンか?」

「ん?ああそう。イモ……スティングモンだ」

「どうも」

「へぇ?珍しいもん連れてるな。成熟期か?」

「ま、そうなんだよ」

 

 ジロジロと品定めするかのように、スティングモンを見るネツ。その視線を前にして、スティングモンは居心地の悪い思いをしていた。

 数分間もの間、ずっと見ていたネツ。やがて満足したのだろう。スティングモンから視線を外して、大成に言ったのだった。

 

「珍しいし……良いパートナーだな!でも、オレのパートナーの方が強いぜ?」

「ネツのパートナーってどんなのなんだ?」

「おお!完全体さ!すっげぇ強いんだ」

「完全体!?」

 

 優希や自分という特例を除けば、普通の方法で完全体に至った者などそれこそ勇くらいしか知らない。だからこそ、大成は驚いていた。

 まあ、勇の進化が普通の方法であると言えるかは、少し微妙なところである。だが、進化例が少ないことに変わりはなかった。

 どんなのがネツのパートナーなのだろうか。やはり()()()()()、あのデジモンだろうか。

 そんな風に、ネツのパートナーについて大成は考えた。

 

「すごいな!どうやって進化したんだ?」

「ん?何。レベリングの方法が良かったんだよ」

「レベリング……?」

「大成はどうやってんだ?」

 

 聞かれた大成だが、何と言っていいものか迷う。

 というか、そもそもこの世界はゲームのようにレベルというわかりやすいものがある訳ではない。ネツの言うレベリングが何を指すのか、大成にはわからなかった。

 トレーニングのことだろう、と。少し考えて、ネツのその言葉を大成はそう解釈した。それが間違いで、両者の間には致命的なまでの差があることにも気づかずに。

 

「基本的なのはイモに任せてるよ。知り合いに鍛えてもらってるというのが近いかな?あとは……時々出遭った強い奴らと戦うことになったせい?」

「おお!ボス戦だな。オレの方にはそんなのはなかったけど……ってことは、やっぱり個々人でイベントは違うもんかね?」

「ボス戦……イベント……?何言って――」

「でも、それだけじゃダメだな。やっぱりこういうゲームは普段からの作業が物を言うんだよ。……よし。そうだな。スーパーウルフクエストについて語り合った仲だ!ちっとアドバイスしてやる!」

 

 そう言って、大成についてくるように促したネツは歩いて行く。方向から言って、学術院から出るつもりか、その近くだろう。その足は、この街の出口の方角へと向かっていた。

 一方で、ネツの物言いに少し疑問を抱いた大成とスティングモン。そんなネツを前にして、二人は少し悩んだ。悩んだ、が。このネツの誘いは、好意から来るものだろうと思えた。だからこそ、二人はそんなネツの誘いを受けることにした。

 

「おーい?どうしたんだー?」

「あ、今行く!」

 

 高校生くらいのネツと中学生の大成。そこには当然、身長差がある。おまけにネツは早歩きだった。

 何が言いたいのかというと、大成はちょっと目を離すと置いてかれてしまうということで。大成は、置いていかれないように駆け足で行かなければならなかった。

 

「どこに向かってるんだ?」

「まずはオレのパートナーデジモンを迎えに行く。この街の外で待たせてるんだ」

「なんでだ?一緒に行動した方がいいだろ?」

「それはそうなんだけどな。さすがに下調べくらいはしたいからな」

「……?」

 

 ネツは何を言っているのか。先ほどから、大成たちはネツと会話が噛み合っていないように思えていた。この噛み合わない調子は、この後の会話も同じで。

 スティングモンはそんな噛み合わない会話に嫌なものを覚えた。

 一方で大成は、スティングモンが感じたようなものは何も感じていないようだ。大成は、ネツとの噛み合わない会話に四苦八苦していただけであった。

 

「大成さん、本当にこの人大丈夫なんですか?」

「大丈夫だろ」

 

 少し楽観が過ぎるんじゃないだろうか、と。ネツの言動、そしていつまで経っても見慣れぬその外見から、スティングモンはそんなことを大成に対して思う。

 一方の大成は、そんなスティングモンと対照的である。もうネツの外見には慣れたようだ。

 まあ、スティングモンがネツをどう思っていようと、大成がネツをどう思っていようと、ネツは目的としていた場所へとたどり着いたようであることに変わりないのだが。

 そこは学術院の街を出てからほど近い空き地だった。大小さまざまな木材や荷物が置いてあり、まるで荷物置き場のようだ。

 

「おーい、紹介したい奴がいるんだ!あと、ちょっと早いけど、レベリングするぞ!」

「……あ?ずいぶんと早いじゃねぇか!まっ。別にいいんだけどなぁ!」

 

 そこに着いた瞬間、ネツは声を上げる。

 その直後、荷物の影から現れたのは青き炎と鎖を体中に纏ったデジモンだった。この荷物置き場の物を燃やさないように気を使っていて、ストレスが溜まっていたのだろうか。その顔は不機嫌そのものといった顔だった。

 大成はそのデジモンを知っている。ゲーム時代にランキング上位のプレイヤーが使っていた完全体デジモンだ。

 

「デスメラモン!?すっげぇ!」

「へへっ。いいだろ?」

 

 大物の登場にキラキラとした目を向ける大成。そんな大成の視線に気分を良くしたのだろう。ネツは自慢げに鼻をこすりながら、笑っていた。

 

「ネツぅ!こいつらは誰だァ?燃やしていいのかァ!?」

「んなわけ無いだろ!こいつらはゲーム仲間だ!燃やすなよ!」

「アァ?んだそのクソ意味分かんねぇもんは。じゃあ、何を燃やすってんだァ?」

「今から行くんだよ!ほら、行くぞ」

 

 自分たちを睨んでくるデスメラモン。その好戦的な表情を前にして、大成たちは一瞬戦闘態勢を取りそうになった。ネツが止めていなければ、大成たちは戦い始めてしまっただろう。それだけ、大成たちはデスメラモンから戦わなければならないと思わされる何かを感じたような気がしたのだ。

 何かありそうだ、と。そう思った大成たちは、気温が上がった錯覚に汗を垂らしながらも、デスメラモンから一歩距離を取った。

 

「それじゃ、オレたちのレベリング方法を教えてやるぜ!」

 

 そんな大成たちに気づかず、ネツはデスメラモンを連れて歩いて行く。

 一方で、大成たちは首を傾げていた。はて、どういうことだろうか。街中で効率の良いトレーニングなどあるのだろうか。

 それは、ネツの目指している方向に何があるかわかったからの疑問だった。

 そう。ネツたちの向かう先は、学術院の街の方向だったのだ。

 

「貴方は先ほど出て行った方ですね……むっ!?少しお待ち頂けますか?」

 

 これが、学術院の街の入口に立つ警備員デジモンの言葉である。白いチェスの駒のようなこのデジモンは、ポーンチェスモン。

 学術院の街での活躍から、大成たちも顔見知りの相手である。いつもは顔パスと言っても過言ではないほど、見知った仲だ。それなのに、今日に限って入口で止められた。そんな訳のわからない事態に、大成とスティングモンは顔を見合わせて首を傾げる。

 何なのだろうか一体、と。大成たちがそう思った瞬間。

 

「やっていいぜ。派手にな」

「はっ!いいぜ!派手に行こうかァ!」

 

 大成たちの目の前で、デスメラモンは口から火を吹き、ポーンチェスモンを焼き尽くした。

 

「は?」

「え?」

 

 突然のネツとデスメラモンの凶行。

 そんなことをしたネツたちは、「あーあ、やっぱり成長期クラスじゃたいしたことねぇなー」などと呟いていて、罪の意識さえ抱いていないようだ。

 突然の凶行に一瞬呆気にとられた大成たちだが、再起動するや否やネツたちに詰め寄った。何をしているんだ、と。

 

「何って……レベリングだよ。言ったろ。見せてやるって」

「はぁっ!?」

「お前気づいてないのか?こういうのが一番効率いいんだぜ?」

 

 生き物を殺したのだ。殺すように命じたのだ。それも、敵対したり恨みを持ったりした相手ではなく、普通に活きる者を。これではただの通り魔だ。

 そんな所業をまるで誇るように言うネツ。そんなネツを前にして、大成は目の前にいるネツという存在が、本当に人間かどうかも疑問に思えてしまった。

 

「効率って……!そんなゲームじゃないんだから!」

「……?何言ってるんだ?ゲームだろ?ゲームじゃ、こういうのは当たり前。街中でも敵とエンカウントしたのなら、倒して経験値にする。建物の中で見つけた宝箱は自分のものにできる。……当たり前だろ?そりゃ、オンラインゲームだから奪い合いになるしかないけどな……」

「ここは現実だろ!」

 

 まるでこの世界がゲームの中だと言うような物言い。そんなネツの物言いには、大成でも我慢できなかった。

 一方で、ネツは大成が何を言っているのかわからないようだ。まるで純粋無垢であるかのような表情で、大成を見つめていた。

 

「まさか、信じてんの?あの声の言ってたこと。ああ……ゲーム好きだし、信じたいか。そっちの方が楽しいしな」

「信じるもなにも……そう言う問題じゃないだろ!ゲームの中だろうと虐殺はダメだ!」

「何言ってるんだよ。ゲームじゃ日常茶飯事のことだろ?」

 

 狂っている、と。ここに来て、ようやく大成は理解した。先ほどの道中、ネツと会話が噛み合わなかった理由を。ネツはこの世界をゲームとしか思っていないのだ。

 よく大人の中にはゲームと現実を一緒にするな、と言う者がいる。だが、その大人は本当にその言葉の意味をわかってはいないだろう。真にゲームと現実を一緒にする者は、このネツのような者のことを言うのだ。

 少なくとも、大成はそう思った。

 

「……何?結局、お前はオレのやり方に反対なの?ゲーム好きなくせに?」

「ゲーム好きだからこそ、だ。ゲームが好きだからこそ、現実とゲームを重ねない。ゲームはゲームだからこそ素晴らしいんだ。そりゃ、俺だってゲームの主人公になりたいって思うことはあるけどな」

 

 認められない。いや、認めてはならない。命を奪ってレベル上げなど、現実でやっていいはずがないのだ。ネツの言葉の意味がわからなかったわけではない。それでも、倫理的な面、そしていちゲーム好きな者として、大成はネツのことを認められなかった。

 そんな大成の一方で、ネツは大成を見る。もはや、ネツは大成のことをただの経験値としか思わなくなったようだった。ちらり、と。ネツはデスメラモンを見て、そして一言。

 

「んじゃ、焼いていいぜ。そいつ」

「おっしゃァああああ!」

 

 ネツがそう呟いた瞬間、デスメラモンが火を吹く。

 迫り来る青い炎。もちろん、それをタダで食らうことはしない。スティングモンは、大成を抱えてそれを躱した。が、それでも完全には躱しきれなかったようである。スティングモンは、顔を顰めていた。

 

「おらァ!燃えろ!焼けろ!死ねぇ!」

 

 次々に迫り来る炎。スティングモンは苦い顔を隠せなかった。

 ただでさえ、完全体と成熟期というスペックの差がある。その上、大成を抱えていて、無理な動きができない。これでは、格上であるデスメラモンに勝つことは難しかった。

 大成を地面に下ろすことができればそれも変わろうが、攻撃を連続で放つデスメラモンを相手にそれは難しい。結果、スティングモンは一方的にダメージを負うことになってしまっていた。

 

「このままじゃ……!」

「イモ!俺を下ろせ!」

「ダメです!危険すぎます!」

 

 大成の言葉にも、スティングモンは渋る。その危険性がわかるがゆえに。

 この街の出口に近い場所は、人の通りがまばらだ。これでは、誰かが騒ぎに気づいて加勢に来てくれるかどうかも怪しい。大成の言う通り、今のままというわけにも行かなかった。

 

「いいから!このままじゃどっちみちアウトだ!それなら、オレを下ろせ!すぐにアレをやる!」

「でも……!」

 

 襲い来る炎を躱しながら、不安そうな顔でスティングモンは大成を見る。大成は、大きく頷いた。

 

「っ!行きますよ……!」

 

 それを見て、スティングモンも覚悟を決めた。炎を躱しながら、衝撃に苦しまぬように地面スレスレを飛び、大成を優しく投げる。

 同時に大成はポケットからソレを取り出して――。

 

「ぐはっ……ぐ……せ、セット『エクスブイモン・ジョグレス』……!」

 

 スティングモンのおかげで最小となったダメージ。それに苦しみながら、大成はデジメモリをアナザーにセット。

 直後、スティングモンは進化した。

 




というわけで、第九十七話。

まあ、こうなりますよね。という誰もが予測できた話でした。
さて次回はネツとの戦闘回です。

それでは次回もよろしくお願いします。
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