【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第九十八話~死中にこそ活路はあり~

 大成の苦しみの甲斐もあって、スティングモンはディノビーモンへと進化した。これで、成長段階上では差がなくなったことになる。

 ジョグレス進化。これは、デジモンとデジモンの融合進化。大成たちには見慣れたもの。

 

「……な、なんだよソレ!知らねぇぞ!ジョグレス進化なんてものは……!」

 

 だが、ネツにはそうではないようだった。目の前で起きた現象に、ネツは目を見開いて驚いている。

 一方の大成たちは、今のどこに驚く要素があるのかを理解できていない。ここには、自分たちの異質さを理解していないからこその反応差があった。

 口を開けて驚いているネツ。だが、ネツのパートナーはそんな彼とは対照的だった。

 

「ははぁっ!いいなァ!せっかく進化してくれたんだ!焼き甲斐があるってもんだァ!」

「来ます……!大成さんは隅に逃げていてください!」

「気をつけろよ!」

 

 何が起ころうと、どこまでもやる気のデスメラモン。

 そんなデスメラモンを前にして、ディノビーモンは戦闘の兆候を感じ取った。彼は、すぐさま大成に離れているように言う。

 先ほどの痛みを堪え、体を引きずって移動する大成。

 正直に言えば、ディノビーモンもそんな大成の下へと行きたかった。それでも、それはできない。なぜなら、今の彼の目の前には、先ほどにも増して勢いのある炎が迫ってきたのだから。

 

「ふっ!先ほどのようには行きません!」

「いいなァ!本当にいい!お前、この前の奴よりずっと弱ィ!燃やし甲斐がある!」

「この前のやつ……?」

「ああ、そうさ!このオレサマを倒しやがったあの骨さァ!オレサマをもろともしねぇあの強さ……思い出してもムカつく!」

 

 何かを思い出しているデスメラモンは、その何かに顔を歪ませる。そして、顔が歪むたび、比例するかのように炎の温度が上がっていった。その様は、まるで感情が燃料となっているかのよう。

 デスメラモンの事情は何も知らない大成とディノビーモンにも、デスメラモンが何を感じているのかはわかっていた。デスメラモンが感じている感情。それは怒りだ。怒りが原動力とはよく言ったものである。

 それを前にして、戦況を見守る大成は、とあるゲームのストーリーであったとある言葉を思い出していた。

 

「はは……冗談はやめてほしいぜ」

 

 そこでは、怒りは良くない、常に冷静であれという旨のことが語られていた。だが、怒りに呼応して燃え盛るこの光景を前にしては、大成も顔を引き攣らせることしかできない。

 というか、昨日の人間の世界での相手といい、最近の大成たちはなぜか火に関係のある敵とばかり戦っている。もちろん、虫型の者が火系の技に弱いというのは、所詮ゲームの中だけの話。だが、それでも。

 新手の嫌がらせかよ、と。運が悪いのか、と。それとも神様は俺たちのことをイジメに来ているのか、と。そんなことを思いながら、大成は頭を痛めていた。

 苦い顔をしたまま、大成は戦況を見る。その時、ディノビーモンはデスメラモンの炎をギリギリで躱したところだった。

 

「熱っ!?」

「てめぇはあの骨ほど強くはねぇ!しかも、それでいてちゃんと痛みと熱さに反応する!良い相手だなァ!」

「ペラペラと……うるさいですよ!これくらい熱くもなんともありません!」

「はっ。よく言った!それでこそ燃やし甲斐がある!」

「馬鹿の一つ覚えで燃やし甲斐燃やし甲斐と……!」

 

 まるで何かのストレス発散をしているかのように、デスメラモンのテンションはどんどん上がっていく。

 一方で、ディノビーモンは顔を顰めていた。そう。表向きは強がっているが、彼は自分とデスメラモンとの相性に顔を顰めたのである。

 ディノビーモンはデスメラモンと相性が悪い。戦い始めて数分経った今、そのことはこの場の誰もにある共通認識だった。

 

「イモ……!くそっ。どうする……!?」

「行けっ!デスメラモン!ムカつくが、脱獄して初めての経験値が中ボスクラスなんてツイてるぜ!あのラスボスを倒すためにも、経験値は余さず手に入れるんだ!」

 

 戦いを見守りながら、大成とネツは対照的な声を上げていた。

 このお互いの言葉の差が、そのまま相性による戦いの優劣差だった。

 ディノビーモンは近接戦闘しかできない。遠距離用の技がないのだ。そして、デスメラモンは常に炎を体中に纏っている。これが何を意味するか、バカでもわかるだろう。

 

「ほらほらほらァ!どうしたァ!様子見だけかァ!」

「っく……やるしか……!」

「それならそれでいいぜェ?できるもんならなぁ!はははは!」

「ぬぐっ!」

 

 ディノビーモンは、攻撃するたびに、デスメラモンの炎の体に腕を叩きつけないといけない。つまり、ディノビーモンにとっては、攻撃するということはダメージを受けてしまうこととイコールになってしまうのだ。

 ディノビーモンは行動するたびにダメージを負う事が決定されているのである。そんなディノビーモンがデスメラモンを倒そうとするならば、ダメージ覚悟の特攻攻撃しかない。

 

「イイねぇ!どんなことしても燃えてくれる相手ってのは!お前はどんな顔で燃えてくれるんだァ!」

 

 ディノビーモンもダメージを受ける覚悟は出来ている。そうしなければ勝つことができないというのなら、それをしない手はない。やがて来るだろう痛みに対する怖さも、大成を守ることや、先に焼死したポーンチェスモンに比べればなんてこともなかった。

 覚悟は決まった。あとはタイミングだけ。攻撃を躱し続けながら、ディノビーモンはひたすらその時を探っていた。

 そして、そんな時――。

 

「デスメラモン!特攻してくるぞ!気をつけろ!」

「セット『解析』!……なるほど。イモ!鎖がないところだ!狙い目は下半身!」

 

 デスメラモンとディノビーモンの耳に届く指示の声。

 ネツは、ディノビーモンの考えがわかったからこその指示。大成は、自分の持つもう一つのデジメモリを使って調べた弱点がわかったからこその指示。

 お互いが声を張り上げて出した指示。遠くからでも届けるため、声を張り上げて話されたその指示は、だからこそ、お互いに相手の狙いを知らせる結果となる。

 

「っち。よくわかったな!だが!来る場所がわかってりゃどうとでもなるぜェ!来れるもんなら来てみやがれ!」

「大成さん!わかりました!行きます!」

 

 大成がディノビーモンに伝えたのは、確かにデスメラモンの弱点だった。

 デスメラモンの強固な防御力は、その身に纏う鎖と炎があってこそのもの。ゆえに鎖のない下半身は、上半身に比べて防御は低い。

 だからこそ、大成は大声でそれを叫んだ。が、それはつまり、デスメラモンにとっても、ディノビーモンがどこを狙ってくるかわかってしまったということ。

 相手がどこを狙ってくるかわかっている攻撃を防ぐことほど、戦闘において簡単なものはない。

 だからこそ。いつでも来い。そう言わんがばかりのニヤリとした笑いをデスメラモンは浮かべた。

 

「行きます!はぁああああ!」

「っむ!?」

 

 その瞬間、ディノビーモンはデスメラモンの視界から消える。いや、消えただけではない。ところどころ、目では追えないほどに残像が残っている。まさに地獄の舞踏。これが、ディノビーモンの必殺技“ヘルマスカレード”。

 勝負を決めに来る。デスメラモンにも、それが理解できた。だが、彼は慌てることはしない。狙う場所がわかっているのならば、いくら速かろうと対応できる。それは、彼自身が持つ自信でもあった。

 直後、デスメラモンの目の前に、下半身を狙うべく姿勢を低くしたディノビーモンが現れる。

 

「……来たな!」

「っ!?」

 

 待っていた、と。ニヤリと嗤いながら、デスメラモンは拳を放つ。

 その拳は、ディノビーモンの頭上から迫った。ディノビーモンの速さでは、タイミング的に躱せない。

 勝った、と。そうデスメラモンは思った、が。

 

「……は?」

 

 そんなデスメラモンの拳は、空を切った。

 ディノビーモンでは躱すことのできないタイミングだった。完璧なカウンターだった。それなのに、なぜ。

 そう思ったデスメラモンは、両腕の上腕二頭筋辺りや後頭部に鋭い痛みが走ったことに、遅れて気づく。そして、さらに遅れて、自分の失策にも気づいた。

 だが、すべては遅い。カウンターを外してしまったデスメラモンには、もうディノビーモンを捉えることはできない。

 

「これで終わりです!」

 

 どこからか、そんな声がデスメラモンの耳に届いた。

 一瞬後、下半身に走る鋭い痛み。デスメラモンは、二度目の敗北に怒りを覚える間もなく、地面に倒れこんだのだった。

 倒れ込むデスメラモンを見つめながら、ディノビーモンは賭けに勝ったという安堵の息を吐く。そう。すべては賭けだったのだ。

 大成は言っていた。狙うべきは鎖がないところで、だからこそ下半身を狙え、と。

 ディノビーモンは、その言葉の中にあった大成の意思を汲み取っていた。鎖がないところならば、ある程度攻撃は効くという。だからこそ、警戒されている一度目の下半身への攻撃はフェイントとしたのである。

 もちろん、一度目の残像を使ったフェイントを読まれていたのなら、勝者と敗者は逆になっていただろう。だからこその賭けだったのだ。

 

「……は?おい!起きろよ!やっと怪我が治ったんだぞ!やっと自由に動けるようになったんだぞ!なのにまた負けてんじゃねぇよ雑魚!」

 

 勝者と敗者が決まった。

 敗者はネツたち。だが、敗北を受け入れられないのだろう。ネツはデスメラモンに声をかけ続ける。だが、声をかけるとは言っても、労を労うこともなく、ただ罵倒しているだけ。しかも、近寄ってその体に触れないのは、倒れても未だ高熱を誇るデスメラモンに触れられないからだろう。

 戦った理由や相手の性格はどうあれ、戦った者に対する配慮の欠けたネツのその言葉には、ディノビーモンも気分がいいはずはなかった。

 だからこそ、先ほどの攻撃の時に負った火傷に痛む手を我慢して、ディノビーモンはネツに近づく。

 

「負けですよ。大人しくしてください」

「うるせぇ!てめェらのせいだ!雑魚のくせに……てめェら覚えてろよ……!」

 

 悔しさと怒りに染まった顔で、負け惜しみを言うネツ。

 こんなネツは、ディノビーモンが今まで出会った中で最も嫌悪する人間だと言える。できれば、最後まで知り合いたくなかったとさえ思えるような人種だった。そんな彼の本音を言えば、ネツをぶん殴りたいとさえ思っていた。

 腕を振り上げるディノビーモン。だが、彼はそのまま拳をゆっくりと下ろす。

 

「イモ、どうかしたのか?」

 

 てっきり殴るものだとばかり思っていた大成。だが、そんなディノビーモンがいきなり止めたものだから、不思議に思った。

 未だ痛みの残る体で、ディノビーモンとネツに近づいていく大成。だが、そんな大成がディノビーモンの下へとたどり着くよりも早くに――。

 

「ふむ。依頼をする前にやってくれるとは」

「ウィザーモン!?」

 

 この場に、ウィザーモンが現れた。しかも、多くの武装したデジモンたちまで引き連れている。まるで戦争をしに行くかのようである。

 なぜいきなりウィザーモンが来たのか。普段ならば首を傾げるところだが、なんとなく大成たちにはわかった。

 

「こいつらか?」

「ふむ。いつになく勘がいいな。そうだ。この者たちは、数日前に別の街で捕まえられた者たちでね。何者かの手引きによって逃されたらしい。おい!連れていけ!」

 

 大成と話しながらも、ウィザーモンはデジモンたちに指示を出す。

 指示を受けたデジモンたちは、わめくネツを気絶させ、拘束。そのままどこかへと連れて行く。そして、それはデスメラモンの方も同じだった。連れて行かれるデスメラモンは、魔術や鎖などのあらん限りの拘束用具で拘束されていた。

 その様は、傍から見ていた大成たちが頬を引き攣らせるほどだ。

 

「逃がされた、ね。また面倒そうな雰囲気が……一応聞いておくけど、何やったんだ?予想はつくけどな」

「君の予想通り、と言っておこうか。さまざまな街とデジモンを虐殺した者だ。それも、以前のキメラモンとは違う。憎しみも何もなく、ただ快楽のためだけにな」

 

 もし大成たちがネツと出会っていなければ、この学術院の街もウィザーモンの言う街と同じ運命を辿っていたかもしれない。今、この街には旅人や優希といった面々がいる分、そういった可能性は低い。が、それでもかなりの被害は出てしまうだろう。

 一人の被害者が出てしまった時点で、この言葉を使うのは少々使い難いが、それでも運が良かった。

 

「……これからあいつらはどうするんだ?」

「牢屋行きだな。どうするわけにも行かんし、事情聴取もある」

 

 運ばれていくネツたちを思い出しながら、大成は目を伏せる。ゲームの話題で意気投合しただけに、ネツの行為や言動はショックだったのだ。

 

「はぁ。馬鹿だな」

「……ふむ。君は彼と交流があったのかね?」

「いや、ほんの数十分の付き合いだよ。まさかあんな奴だったとはな」

 

 運ばれていくネツたちが見えなくなる最後の瞬間まで、そんな彼らを眺めていた大成。

 そんな大成の後ろでは、背を向けたままのディノビーモンがいた。大成には見えなかったが、その顔にはただやるせなさがあった。

 どうやら、ネツたちの言動にショックを受けたのは、大成だけではなかったようである。

 

「……人間の中にはこんな人もいるんですね」

「ま、デジモンの中にも良い奴と悪い奴がいる。当たり前のことだろ。人間もこんな奴らばかりじゃねぇよ。俺も人間だしな」

「ですね」

 

 良い者もいれば、悪い者もいる。今回の一件は、それが思い知らされた一件だった。

 その言動を聞くだけで嫌悪感が出てくるような、そんな狂った人種。ネツたちは、大成たちにとって正しくそんな人種だった。

 好き嫌い云々の前に、そもそも理解できない。いや、したくないと言うべきか。そんなネツたちのことを知ったからこそ、こういう人種は少数派であって欲しいと思った大成たちだった。

 




というわけで、第九十八話。

せっかく自由の身となったのに、晴れてまた牢獄送りになったネツくんの話でした。
さて、だんだんときな臭くなってきましたね。
次回以降、どんどん臭くなっていきます。

それでは次回もよろしくお願いします。
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