【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第九十九話~這いよる不安~

 大成たちがネツたちの凶行を未然に防いでから、はや一週間。その間は、これまでのことが嘘であったかのように平和な時間が過ぎていた。

 その間の出来事といえば、ウィザーモンの斡旋してくる依頼が二回ほどあったり、ウィザーモンに頼んで作ってもらった人間世界のコンセントが使える機械であったりした程度。

 大成は依頼のない時はゲーム三昧。スティングモンはスレイヤードラモンに修行をつけてもらったり、大成のゲームに付き合ったりしていた。

 

「やっぱりゲームがあると生活が華やかになるな!なっ!優希!」

「それを私に言って、同意が得られると思ってるの?」

「当たり前だろ!」

「……無駄に爽やかに言い切ったわね」

 

 そんな感じで、大成たちはかなり呑気に楽しく過ごしていたのだが、それはあくまで大成たちだけである。

 そんな大成たちとは対照的に、優希やレオルモンは不安になるほどの嫌な予感を抱いていた。そう。言うなれば、今のこの時間は嵐の前の静けさではないのか、という。

 そのことを優希たちが旅人やウィザーモンに言った時、彼らの反応は――。

 

「え?ああ……鋭いな」

「ふむ。なかなかに鋭い。まあ、嵐がいつ来るかはわからないがね」

 

 これである。隠す気がないようだ。が、何があるのかを聞いても、彼らは答えなかった。彼らも、何かがあることは察しているが、具体的にその何かを掴めてはいないようなのである。

 結局、優希たちがわかったことといえば、いずれ何かがあること、そして、その時は後手に回る可能性が高いということだけ。

 不安になるというレベルではなかった。

 

「……はぁ。そういえば、最近片成ちゃんを見ないわね」

「そういえばそうですな」

「んあ?そういやそうだな。ま、この街に定住している訳じゃないだろうしな」

 

 人間世界に行ってから、優希も大成も片成に会っていない。彼女はどこぞの旅好きとは違って、率先して野宿を望む性格ではないため、この街から出ていくとは考え難い。その上、こちらには片成の狙いである大成がいる。それでも会えないのは、何か理由があるのだろう。

 会えない理由。もしくは、会いたくない理由が。片成ではない優希には、考えても意味のないことである。が、優希は、その後しばらく、その理由を考えて過ごしたのだった。

 まあ、結局はそれらしい答えも考えつかなかったのだが。

 

「……ふう。仕方ないわね。大成、ちょっと出てくるから」

「あいよー!おっ!イモ!そこだ!そこ!」

「こうですか!」

「そうだ!」

 

 自分の話を聞いているのか、と。

 仲良くゲームに興じる大成とスティングモンの二人を見て、そんなことを思った優希。まあ、聞いていようと聞いていまいとどちらでもいい。そう思って、優希はレオルモンを連れて家を出て行く。

 目指す先は、こういう時に頼りになるウィザーモンのところだった。

 

「いるかな?」

「どうですかな……ウィザーモン殿も忙しい身。確率は半々だと思いますぞ」

「そうね。頼りっぱなしってのも悪い気がするし、いなかったら街の中を歩いて探しましょうか」

「探す……片成殿ですかな?それとも別の?」

「うーん……そう言われると言葉にしにくいんだけどね。何か、ジッとしていられない気がして」

 

 レオルモンには、今の優希が何を感じているのかよくわからなかった。が、きっと自分と同じような気持ちなのだろう、とレオルモンは思う。彼自身も、言いようのない焦燥感があったのだ。

 街を歩き、ウィザーモンの家にたどり着いた優希たち。やはりというか、ウィザーモンはいなかった。ここ最近はずっとこうである。五回に一回くらいの割合でしか会えないのだ。これは、アナザーでの通信の場合も、直接会おうとした場合も同じ。よほど忙しいらしい。

 

「仕方ないわね。ま、街を散歩でもしながら歩きましょうか」

「ですな。ですが、路地裏などの危険な場所はダメですぞ!」

「思い出させないで……」

「思い出す……あっ!ち、違いますぞ!そういうことで言ったわけではないですぞ!」

 

 路地裏。そして危険。その二つの単語を前にして、優希は早くも気分が落ち始めた。前にあったあの汚物掃除のことを思い出したのだ。

 レオルモンとしては、そんな意図はなかった。が、それでも彼の言葉でそれを優希が思い出してしまったのは事実だった。

 

「えっと……むぅ。もう皆忘れてますな!きっとそうですな!」

「ぷっ。わかってるわよ。だから、そう必死にならなくてもいいわ」

「むぅ……お嬢様はこのセバスをからかったのですかな?意地が悪いですぞ!」

「思い出して落ち込んだのは本当だけどね」

「むぐぅうう!」

 

 話しながら歩く優希たち。目的地は特に決めていなかった。ただ、気の向くままに歩いていた。そんな優希たちの目には、この街はいつも通りの様子が映し出されていて。

 だからこそ――。

 

「にっ人間だァああああああ!」

「はぇ?」

「なんですかな?」

 

 だからこそ、背後から聞こえたその悲鳴は、半ば不意打ち気味に優希たちを驚かせた。一瞬呆気にとられたものの、再起動するや否やすぐさま後ろを振り向く優希たち。そんな優希たちが見たのは、自分たちを指差して慄き震えている一人のデジモンだった。

 まるで栗のような形の体に、四肢が生えている。さらに、赤いマスクをつけて、背に刀を背負っていた。優希の腰ほどの大きさのそのデジモンは、その格好から忍者のようにも見えた。

 

「誰?」

「に、人間がもうこの街にも侵攻しているってのか!?みんな!逃げろぉおおおお!」

「いや、ちょっと待ってよ!」

 

 大声で逃げろと叫ぶその忍者デジモン。そんな彼の姿に、優希たちだけでなく、周りのデジモンたちも困惑していた。

 この忍者デジモンは、その言葉の内容からして、おそらく人間という存在を悪く思っているのだろう。が、この街の住人たちにとっては、優希や大成といった人間は、この街を救ってくれたこともある恩人である。

 つまり、この忍者デジモンとこの街の住人たちには、人間という存在に対しての温度差があったのだ。

 

「なっ!?何でみんな逃げないんだ!人間が目の前にいるのに!?」

 

 その温度差に、忍者デジモンも気づいたらしい。自分が間違っているとは露ほどにも思っていないからこそ、彼は困惑していて。

 結果、お互いがお互いに困惑しているという、微妙な空気がこの場に蔓延することとなった。

 

「えっと……あの……いいかな?」

「なんだ!人間!」

「強気ですな。まぁ、お嬢様はそちらの思っているような方ではありませんぞ」

「黙れっ!人間に与するデジモンの話など聞けるか!」

 

 何とか事情を聞きたい優希とレオルモン。だが、人間とそのパートナーデジモンは悪い者という先入観があるのだろう。この忍者デジモンは、優希たちを睨みつけたまま、話を聞こうとすらしない。

 これには優希たちも困るしかない。が、このままという訳にもいかない。だからこそ、優希たちの説得攻勢が始まった。

 

「でも、貴方と私たちで認識に違いがあるみたいだし……話し合わないといけないと思うんだけど」

「そうやって油断させるつもりだなっ!騙されるものか!」

「いや、騙すとかじゃなくてね。私たちも聞きたいことあるし」

「話すことなど何もない!この街はこの拙者が守るぞ!」

 

 取り付く島もないとはこのことである。

 今の忍者デジモンは、冷静な状態ではない。優希たちは理解していた。彼は、自分たちに怯えていることに。そして、怯えているからこそ、無理に強がっているのだと。それがこの話を聞こうとしない態度である。

 話をするには、彼に冷静になってもらわなければならない。が、怯えている限り、彼は冷静に離れないだろう。その状態をどうにかするのは、怯えさせている優希たちには不可能だ。

 だからこそ、優希たちにはいくら話しても、彼を説得できる気がしなかった。

 

「どうしようか……?」

「どうしましょうかな」

 

 顔を見合わせてる優希とレオルモン。その顔には、お手上げという文字だけがあった。

 だが、運はまだ彼女たちを見放してはいないようで。次の瞬間、優希たちの前には、救いの糸が垂らされた。

 

「アンタたち、さっきから何をしているのよ?」

 

 ただし、それは蜘蛛の糸だったのだが。

 上空から現れたのは、箒に乗った魔女。そう。ウィッチモンだ。何か揉めている優希たちを見て気になって来たのだろう。

 一方で、ウィッチモンは自分が苦手意識を持っている相手であるが、この状況に限って優希は大歓迎だった。

 

「ウィッチモン!助かったわ!」

「はぁ?」

「助かりましたぞ!どうかどうにかしてくだされ!」

「いや、意味がわからないんだけど」

 

 縋り付いてくる優希たちに一瞬困惑したものの、ウィッチモンは敵意むき出しの忍者デジモンの姿を見ていろいろと悟ったらしい。彼女は、どこか納得しように頷いた。

 

「なるほどね。イガモン!この子たちは噂の人間“たち”とは無関係よ。この私とウィザーモンが保証する」

「む……特別名誉教授殿の名も……わかりました。拙者の勘違いだったようだな。すまない」

 

 ウィッチモンにイガモンと呼ばれた忍者デジモンは、すぐさま優希たちに向かい合って頭を下げる。ずいぶんとあっさりしているが、そこはウィザーモンの名前の力である。この街の特別名誉教授とは、それだけの力を持っているのだ。

 そんなイガモンの調子に、優希たちは若干拍子抜けした。が、誤解が解けたことは良いことである。わざわざ掘り返すまでもないと考えて、その謝罪を受け入れた。

 

「ウィッチモン……ありがとう」

「別にいいわよ。でも、これからはこういうこともあるから、気をつけた方がいいわね。わかった?」

「え……どういうこと?」

 

 言葉の内容からして、ウィッチモンはイガモンの反応の理由を知っているようだった。そのことについて優希が尋ねると、ウィッチモンは歯切れの悪そうな顔で言い始めた。

 

「最近ね……と言っても数日だけど……人間とそのパートナーデジモンがデジモンたちを襲い出したの」

「でも、大成が犯人を捕まえたって……」

「そうね。それはそうなんだけど……犯人はひとりじゃない。それどころか大勢いるって言ったら?」

「え……!?」

 

 ウィッチモンのその言葉は、優希たちにとって信じたくないことだった。優希たちも、ネツのことについては大成から聞いている。その狂気のような精神性のことも。実際に会っていない優希たちですら、ネツの精神性には嫌悪感を抱いたのだ。

 そのような精神性の人間が、他にも大勢いる。そんなこと優希には信じられなかったし、信じたくはなかった。

 

「事の始まりは数日前ね。ネツを捕まえていた街が壊滅したことまで遡るわ。犯人は不明。でも、生き残ったデジモンの証言では、複数だったと言われてるわ」

「複数……ってことは、何らかのグループでも組んでいる?」

「そうね。同時刻に、他のいくつかの街も襲撃されたことがわかったわ。そっちも複数で」

「え!?」

 

 いくつかの街を襲った、この悲劇。いずれも犯人は複数であることを考えれば、その総数は十人を遥かに超えるだろう。その全員に繋がりがあれば、もはやそれは組織と言っても過言ではない。

 そして、生き残った者たちの証言から、これらすべての襲撃が人間とそのパートナーによって引き起こされたことだと証言されている。

 ここに来て、優希はイガモンの反応の理由を理解した。

 つまり、今は世界規模の人間警戒状態になっているのだ。

 

「どうして……?」

「わからないわ。でも、気をつけた方がいいわね。この街の住人は人間に対してそこまででもないけど、イガモンみたいに外から来たデジモンたちには人間を憎む者もいるから……」

「……それは」

 

 襲撃を生き残ったデジモンたちの中には、犯人を恨むのではなく、人間という種族を恨む者もいる。ウィッチモンはそう言った。

 犯人を恨み憎む気持ちは理解できる。けど、人間というだけで恨むのは違う。ウィッチモンの話を聞いて、優希はそう思った。

 

「でも……そんなの……違うでしょ」

「お嬢様……」

 

 襲撃された相手の気持ちを考えたからこそ、優希の言葉は苦しそうに、捻り出されたものとなった。

 そんな優希に言葉を返したのは、イガモンだ。彼は、苦しそうな優希を険しい顔のままで見つめていた。

 

「アンタの言いたいこともわかる。けど、悪いけど……拙者たちデジモンにとっては人間はもはや恐怖の対象だ。過激な奴らは人間との全面戦争を訴えてるし、世界の壁を越える方法を模索するやつだっている」

「え……戦争!?」

 

 戦争。それは、平和な国で育った優希にとって遠いものだ。

 だが、デジモンの強さを知っている身として、そして歴史の授業などでその凄惨さを教えられた身として、優希はその果てにある結果が恐ろしいものとなることしか考えられなかった。

 

「そうだ。アンタを見れば、人間もデジモンと同じで良い奴と悪い奴がいるってことはわかった。でも……それは何の意味もないんだよ。アンタ、故郷を失った者たちの前で自分は無関係だからと堂々としてられるか?」

「う……それは」

「無理だろ。もう事は起こってるんだ。この街だって、防衛体制の強化に当たってる。そのために拙者も呼ばれたんだしな」

 

 人間とデジモンの衝突は、遠い話ではない。そう、イガモンは語っていた。

 今までの個々人の戦いではない、種族の戦い。それは優希には想像もつかないものだった。それでも、多くの者がそれに備えるために動いている。

 その事実を前にして、優希もレオルモンも、どうしていいかわからなかった。

 

「あまり優希をイジメないでくれる?それにアンタはもう強がる理由もないでしょ?」

「ぐ……でも、取り繕わなきゃ仕方ないだろ!言える時に言っておかないと……!」

「あのねぇ……」

「それに、同族のよしみでこいつが向こう側につかないとも限らない。それに、先ほどから思ったが……人間を信用しすぎるのはダメだ」

「人間を信用しているんじゃないわ。優希たちを信用しているのよ」

 

 ウィッチモンの言葉に嬉しくなる反面、優希たちはこれから先に起こることに気が重かった。

 優希たちが犯人とは無関係だとわかり、冷静になったイガモンでさえ、先ほどからずっと言葉で優希を牽制している。そこには、内心に人間への恐怖があるから。彼は、優希に辛く当たることで、それを押し隠している。

 これが、こういう対応をされるのが、これからの自分たちかもしれないのだ。そう思えば、優希たちの気が重くなるのも当然というものである。

 

「ま、いい。拙者は行くぞ。防衛体制について特別名誉教授殿に呼ばれているのでな」

「あ、この街には人間があと二人いるから、さっきみたいな対応しちゃだめよ!」

「……まだいるのか」

 

 ウィッチモンの言葉に疲れたような声を上げたイガモンは、そのまま歩いて行く。

 そんなイガモンを見送って――優希は、気づいた。先ほどのウィッチモンの言葉の中に、聞き逃せない部分があったことに。

 

「ちょっと待って。人間が私の他に二人?数え間違いとかじゃなくて?」

「ええ。魔術で探ったから間違いないわよ。旅人と大成と優希。その三人しか今はいないわ」

「いつから……?」

「いつからって……アンタたちが人間の世界に行った時からだけど……どうかしたの?」

 

 ウィッチモンの言葉に、優希は愕然とした。

 彼女の言葉が正しければ、片成はこの街にいないということになるのだから。

 




というわけで、第九十九話。

さて、今回の話がどこに繋がるのか……それはもう少し後の話ですね。
ともあれ、次回は久しぶりにあの人が登場します。

それでは次回もよろしくお願いします。
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