俺は勇者だけど、狂った美人パーティーから逃げたい。…けど、彼女たちは俺を逃がしてくれない   作:銀層

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第2話

 首輪で繋がれた二人の女を従えつつ、自分も別の女に首輪をつけられて引かれるという、誰がどう見てもツッコミどころしかない体制。

 

 俺は「封印の陣」と名付けている。

 

 たぶん、今後も何度かお世話になるだろうし、名前があると何かと便利だからだ。

 実際、今回も街の中での散策は、割とスムーズに進められた。

 誰も暴走しなかったし、首輪が心理的なリミッターとしていい仕事をしている。

 

 ……ただし、町の外では使えない。

 

 モンスター相手にこの体制じゃ戦えないし、耐性を与えてしまう恐れがある。精神的を押さえつける作用が無くなったらどうしようもない。

 

現在、次の街へと向かっている。

 といっても、移動中の問題はほぼ無い。モンスターが出ても、フランがワンパンで片付けてくれるからだ。

 

 ――問題は、その後だ。

 

「ご主人様っ、無事でよかったぁっ♡」

 モンスターを粉砕した直後、毎回のように押し倒されてるのは、はい、俺です。

 

 その度に軽く擦り傷くらいはできるんだけど、すかさずセラがやってきて、優しい笑みで回復魔法をかけてくれる。

 

「ふふ……ちゃんと“おねだり”できるなら、気持ちよくしてあげますよ?」

 

 またしても、寸止めだ。

 

 癒されてるのか、いじめられてるのか、もはや自分でもよくわからない。

 しかも、悶絶している俺を、メルヴィナが涎を垂らしそうな勢いで見つめてくる。

 

「勇者様♡♡私にもそれをして♡♡お願い♡♡」

 

 はい、ループ発生。

 

 倒す→押し倒される→寸止め→羨ましがられる→倒す→(以下略)。

 まるで、地獄のテンプレをループしてるかのような道中だった。

 

なんだかんだで、計画通りの距離を歩けている。

 モンスターは最速で倒してるし、移動のテンポも悪くない。さすが、うちのパーティは戦闘面では優秀だ。戦闘面では。

 

 ただ、フランはモンスターの気配を察知すると、誰よりも早く飛び出していくし、

 セラは「回復する理由がある方が、絆は深まりますよねぇ」とか言って、ダメージを受けることを前提にしてくるし、

 メルヴィナに至っては「戦闘後の勇者様が一番美味しそう」とか意味不明なことを呟いてる。

 

 それでも、モンスターが出ないところでは割と平和だ。

 フランは俺の隣で尻尾振ってるし、セラも静かに魔導書を読んでる。メルヴィナは……地面に寝転びながら変なポーズしてるけど無害。

 

~~~~~~

 

 晩飯は俺の担当だ。

 幸い、今日の素材はモンスターの肉。これが意外と美味い。

 調味料も事前にしっかり準備してあるから、味の保証はできる。

 

 うん、こういう時間だけは、ちゃんと“冒険してる感”あるな。

 

 調理中はさすがに奴らも絡んでこない。それこそが俺の休憩時間だと錯覚していた。

肉を切っていると背後からあの声が飛んできた。

 

「たまりませんな♡♡ この包丁で……私の体もこうやって切り刻むんですね♡♡」

 

 振り返ると、メルヴィナが目を潤ませながら身悶えている。いや、なんでだよ。

 

 ……こいつの妄想力、俺の中学生時代を遥かに超えてる。

 スカートの中を想像するだけで夜眠れなかった、あの頃の俺より数倍、いや数十倍は凶悪だ。

 ていうか、もう完全に“別の生き物”と化している。

 

「切らねぇよ~~!」

 

 思わず声を荒げてしまった。肉に集中していた分、不意打ちだったせいで、ちょっとだけ本気のトーンが混じってしまったかもしれない。

 

「勇者様!! もっともっと罵ってください♡」

 

 ……しまった。

 やっちまった。完全に“ご褒美”になってる。

 

 ちゃんと気をつけてたんだ。下手なリアクションをしないように、できるだけ冷静に、刺激しないようにって。

 でも、こういう何気ない日常の中で、つい油断してしまう。

 

 メルヴィナの周囲に、淡く揺らめく魔力の波動が立ち込めていた。

 

 ――いやいやいや、なんで!?

 ただ少し声を荒げただけだぞ!? 罵倒されたってだけで、魔力の暴走起こすやつがあるかよ!!

 

 彼女の体からは、うっすらと靄のような魔力が漏れ出していて、その目はうるうると涙を湛えながら、まるで天啓でも受けたかのように輝いている。

 

「ふふふ……罵倒からのご褒美……なんて、幸せすぎて、魔力が、抑えられませんっ♡」

 

 やばい。

 完全にスイッチ入ってる。明らかにおかしくなってる。

 

 俺は思わず、肉を切る手を止めた。

 

(まじかよ……この程度で、どんだけ出るんだよ、魔力)

 

 周囲の空気が、じわじわと熱を帯びていく。

 このままじゃまずい――!

 

 近くに置いてあった野菜の端が焦げはじめ、肉からは煙が立ち上っていた。

 やばい、晩飯が全焼する!!

 

「フラン、食材をすべて安全な場所に移動してくれ! 急げ!」

 

「ご主人様、了解っ♡」

 フランは尻尾をぶんぶん振りながら、一瞬で食材を抱えて消えていく。無駄に機敏なのがありがたい。

 

「セラ! メルヴィナを罵って、魔力を抑えてくれ!」

 

「……うふふ。こんな女を罵るなんて、気分はまるで乗りませんが……まぁ、勇者様の頼みなら、やって差し上げます♡」

 セラが、うんざりしたような顔をしながらメルヴィナに歩み寄る。

 

 ――たぶん、メルヴィナは俺みたいな“自分より下”のやつから罵られるのが好きなんだ。

 だからこそ、セラみたいにプライド高くて高貴なタイプから罵られたら、逆に気分が下がる。

 虫唾が走るってやつだろう。……いやほんと、ややこしい性癖してんな。

 

メルヴィナの魔力は、次第に収まりつつあった。

 周囲を包んでいた熱気も消え、肌にまとわりついていた微かな圧も引いていく。

 

 ……どうやら、女からのディスは効くらしい。

 セラが冷ややかな笑みで放った数々の“真っ当な指摘”が、メルヴィナの心にじわじわと効いたようだ。

 

脳裏にフラッシュバックする、セラの寸止めプレイ。そしてフランによる、力強い押さえつけ。

 

 それを――メルヴィナは、やられている自分に置き換え、

 そして、やっているのが“俺”であるという前提で妄想を膨らませている。

 

 頬を紅潮させ、呼吸をわずかに乱しながら、微かに震えている。

 

(……こいつ、やっぱり相当ヤバい)

 

 目の奥にあるのは理性じゃない。欲望を通り越した“崇拝”にも近いなにか。

 俺が関わる限り、どんな状況も“ご褒美”に変換できる妄想力の暴力――

 

 中学生時代の俺の性欲なんて、彼女の足元にも及ばない。

 

「……冷めました」

 ぼそりと、彼女は呟く。

 

「女からの直接的な否定は、ただ気分が悪いです」

 それだけ言って、メルヴィナはぷいと顔を背けた。

 

 さっきまでのテンションが嘘のように沈み、明らかに“萎えて”いる。

 魔力の高ぶりもすっかり収まり、空気が静まり返った。

 

(……あ、これ、完全に現実に引き戻されてる)

 

 どうやら、メルヴィナの欲望は“俺”という存在が関わることが前提らしい。

 つまり、男からの罵倒や支配はご褒美でも――

 女からの冷静な否定は、単なる精神的ダメージになる。

 

 意外と繊細なとこあるな……。

 

 メルヴィナがしゅんと黙りこみ、魔力の波がぴたりと静まった。

 俺は内心、ほっと胸を撫で下ろす。

 

(ふぅ……なんとか沈静化――)

 

 ドン!!

 

「うおっ!?」

 

 唐突に背中に衝撃。気づけば地面に押し倒されていた。

 顔を上げると、満面の笑みを浮かべたフランが俺の上に覆いかぶさっている。

 

「ご主人様~♡ 食べ物は全部無事だったから、褒めて~♡」

 耳をぴくぴくと動かしながら、尻尾が見えそうな勢いでぶんぶんと振られている。

 

一難去って、また一難。これぞまさに、その言葉通りの状況だった。

 

「あら~、傷ついているわね」

 いつの間にか背後に立っていたセラが、にこにこと微笑んでいる。

「回復させましょうか? ただし……“例のやり方”で♡」

 

 俺は押し倒されたまま、絶望的に天を仰ぐ。

 ――いや、一難去って、また二難だった。

 

 そして、この二難はあきらかに“癒し”を口実にした何かだ。

 もはや治療とプレイの境界線が崩壊してる気がする。

 

~~~~~~

 

 食事を終え、静かな夜が訪れる。

 焚き火の残り火がぱちりと音を立てる中、俺は寝床の敷き藁に身を沈めた。

 

「……頼むから、寝込みは襲わないでな」

 

 静寂。

 誰も何も言わない。反論も、茶化しも、気の利いた返答もない。

 だが、その沈黙こそが一番の恐怖だった。まさか、本気で狙ってるのか……?

 

 やばい、まじでやばい。こいつらなら、やりかねん。

 

 俺は、ゆっくりと右手を掲げる。そして小さく――「発動」と呟いた。

 

 次の瞬間、俺の体を中心にして光の六角形が展開され、半透明のキューブが俺を包み込む。

 完全密封。音も通さず、外部からの干渉を一切許さない、絶対防御のキューブ結界。

 

 この世界に転生してくる前、俺が神に「一つだけ」と懇願して手に入れたチート能力。

 その名も――“絶対封印結界《セイフティ・キューブ》”。

 

 女性に襲われる可能性がある世界で生き抜くために、俺が最後に選んだ切り札だ。

 

 かつて神に「防御力は?」と尋ねたときの答えが忘れられない。

「核を一千万発ぶつけても壊れません」と、涼しい顔で言われた。

 

 そのときは「そこまで要るか?」と笑った。

 だが今なら、言える。

 ――要った。めちゃくちゃ要った。

 

 この世界で貞操を守るには、理性でも武力でも足りない。

 必要なのは、神をも欺く防御性能と、臆病すぎる慎重さだ。

 

 俺は今日も、キューブの中で孤独に丸まって眠る。深い眠りにつき、本当に落ち着く時間になる。

 

ドン!! ドン!! ドン!! ドン!! ドン!!

 

 ――うるさい!!!

 

 結界の中でぐっすり眠っていた俺は、異常な振動と騒音で目を覚ました。

 いや、ちょっと待て。このキューブの中は、音も振動も完全遮断のはずじゃなかったか?

 

「……なにごとだよ……」

 

 眠気眼をこすりつつ、結界の外部モニターを展開する。

 その映像を見た瞬間、俺は戦慄した。

 

 フランが、大剣を両手で振りかぶって結界に叩きつけていた。

 

 ガン!! ガン!! ガガン!!

 

 やたら嬉しそうな顔で。尻尾振ってるし。耳もピコピコしてるし。

 

「ちょ、ちょっと待てフラン! お前どんなパワーしてんだよ!!」

「こんなもん、神様からもらったチート防御なんだぞ!? 核一千万発耐えるって言ってたのに!!」

 

 見た目では傷ひとつついてないけど、精神的ダメージがすごい。

 安心できるはずの結界が、今、音付きの檻になっている。

 

 モニター越しにフランが笑顔で口パクする。

「起きて~♡ ご主人様ぁ♡ 構ってくれないと壊しちゃうよ~?」

 

 まじか……

 今まで、こんなこと一度もなかった。

 キューブの結界は完璧なはずだ。音も、振動も、何一つ届かない。

 それなのに――。

 

 ドン! ドン! ドン!

 

 さっきからずっと聞こえてくるこの異音。

 モニター越しのフランは、大剣を振り下ろしながら楽しそうに笑っている。

 耳と尻尾がテンション高めに動いてるあたり、完全に遊んでいる。

 

 キューブの耐久値は確認済み。数値上は満タンのまま。

 傷もヒビもない。けれど、何かがおかしい。

 今までなら、完全に“遮断されていた”はずの外界の音が――届いている。

 

 ……これは、何かが起きている。

 

 「……明日からは、少し……少しだけでも、離れて寝よう……」

 そう決意しかけて、すぐに思い知る。

 

 でも、それができない。

 

 恐怖を残した俺は、そのまま寝ることにした。

 結界の中にいても安心できない。だけど、それでも寝ないわけにはいかない。

 いつ、どこで、誰に襲われるかわからないこの世界で、体力を削るわけにはいかないからだ。

 

 耳の奥には、まだフランの大剣が結界を叩く「ドン! ドン!」という音がこびりついている。

 さすがに破壊はされないとわかっていても、心が削られていく感覚だけはどうにもならなかった。

 

 音だけは中に通る仕様なのが、今になって恨めしい。

 まるで映画『13日の金曜日』のジェイソン。それが毎日くるのかと恐怖を感じている。

 

 「……せめて夢の中くらい、静かであってくれ……」

 

 目を閉じて、深く深く呼吸を整える。

 だが眠りは浅く、神経は張りつめたままだった。

 

~~~~~~

 

 結界を解いて、重たい体を引き起こす。

 

 ……足元が、妙に傾いている。

 

 立ち上がると、森だったはずの場所が変わり果てていた。木々は薙ぎ倒され、地面は一本の大きな溝のようにえぐれている。俺が眠っていた地点を起点に、何かで何度も叩きつけたような直線の凹みが続いていた。

 

 地表に手を伸ばすと、まだほんのりと熱を持っている。

 

モンスターに襲われたのか――!?

 

 思わず周囲を見渡す。これほどの威力を持つ攻撃、ただのモンスターで済むはずがない。こんな破壊をする奴がいるなんて、もし出くわしていたら……。

 

 そのとき、視界の端で動かない人影を見つけた。

 

「……フラン!?」

 

 慌てて駆け寄ると、フランが地面に倒れ込んでいた。ぐったりとした体に、呼吸はある。傷はない……けど、魔力を使いすぎたか?

「フラン!? 強いモンスターに襲われたのか!?」

 

 俺は駆け寄りながら叫んだ。視界には、倒れ込むフランと、姿の見えないセラとメルヴィナ。嫌な汗が背中を伝う。

 

 セラがいれば回復魔法が使える。メルヴィナの攻撃力も、状況打開には頼れるはず。けれど、その二人の気配すらない今――最悪のケースが脳裏をよぎる。

 

「ご主人様から来てくれた! うれしい!!」

 

 その瞬間、フランが目をぱっちりと開け、俺に飛びついてきた。押し倒される。勢いのままに胸元に顔を擦り寄せてくるその様子に、頭が混乱する。

 

「え、えっ!? どういうこと!? バリバリ元気じゃん!」

 

「ご主人様が、心配して走ってきてくれた……♡ もう、それだけで生きていける♡」

 

 くったりしていた姿からは想像できないほどの元気さだ。まるで、心配させるためだけに寝たフリでもしていたような勢いで。

 

「フラン、モンスターに襲われていないのか?」

 

「モンスター? いないよ? どうしたの?」

 

 きょとんとした表情が、逆に恐ろしい。俺が見たあの破壊された地形――あれが自然現象であるわけがない。

 

「……森が、破壊されてるんだけど。モンスターじゃないのか?」

 

「ああ、それはですね。ご主人様の結界を攻撃した時に発生した風圧で、周囲の森がばーんって♡」

 

 満面の笑みで、フランはとんでもないことを言ってのけた。

 

 ……攻撃の余波で森が消し飛ぶとか、もうモンスターの方がまだ可愛いんじゃねぇか。

 さすがパワーカンスト。

 

「ご主人様、寂しかったよ。結界なんて張らないで」

 

 潤んだ目でそんなことを言われる。

 

 その表情は、普通にかわいい。絵に描いたような美少女が、腕の中でしがみついてくる。

 

 けど――怖い。

 

こんなギャップ、心が壊れりゅう~

 

「おはようございます」

 

 眠気の残る空気を裂くように、扉が開いた。その向こうから、セラとメルヴィナが現れる。どちらもすっかり目が冴えているようで、淡々とした声で報告を始めた。

 

「昨日、解析しましたが……やはり物理攻撃は効果がありませんでしたね」

 

 セラが静かに言いながら、軽く額に手を当ててため息をつく。

 

「こんな高度な魔術、見たことありません。構造の複雑さ、魔力の流れ方、封印術式の重ね方……破壊はかなり困難だと思います」

 

 メルヴィナは興奮と呆れの混じった口調で続ける。目はキラキラと輝いていて、何だか逆に楽しそうに見える。

 

「フランも……これで、わかったでしょう?」

 

 そう言って、2人は視線をフランに向ける。彼女は照れたように笑い、目をそらした。

 

「うん、ちょっとだけ……強かった」

 

 その「ちょっと」が、森一帯を破壊するレベルなのが問題なんだよな、と俺は内心でツッコミを入れるしかなかった。

 

「残念ながら、夜這いはできないみたいですね」

「昼の間は、普通の男性並みの力ですから、安心してくださいね」

 

 セラが口元に手を当てて、残念そうに微笑んだ。声には諦めというよりも、ちょっとしたお楽しみを取り上げられた子供のような未練がにじんでいる。

 

「わかった!!」

 

ぜんっぜん安心できねぇよ!!

 

セラのあの冷静なトーンで言われると余計に怖いし、メルヴィナの笑顔の裏に何を隠してるか分かったもんじゃない。そしてフランのテンションだけ明らかにおかしい。

 

YABAI。完全にフラグ立ってる。

 

安心どころか、「昼以外ならヤれる」って宣言されたようなもんだろこれ。

 

むしろ今後、昼の時間にどれだけ心を守れるかが勝負だ……。

ほんと、貞操逆転世界は地獄だよ。

 

こうして、1日が始まってしまった。

 

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