俺は勇者だけど、狂った美人パーティーから逃げたい。…けど、彼女たちは俺を逃がしてくれない   作:銀層

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第4話

俺たちパーティーは、明確に危機感を覚えていた。

 

ヴェル=サリエルの気配を完全に断つスキル。

あれはただの潜伏ではない。

俺たちが気絶していたとはいえ、あの状況で入り込み、首輪を奪っていたのは――普通に考えても異常だ。

 

あのダンジョンを、俺たちが地獄の中で足掻いていた時間よりも早く、攻略しているというのもおかしい。

あいつは、たぶんもう次の手を打ってくる。

 

再戦は避けられない。

 

そのために、俺たちは対盗賊用のスキルを求めて――

スキルそのものを“買収”できる街、《カサリーナ》へとたどり着いた、というわけだ。

 

「とりあえず、スキルポイントは――あの幽霊どもを倒したおかげか。たんまりあるぜ」

「お金も、ダンジョン攻略で何とか集まったしな。これなら少しは有用なスキルを覚えられそうだ」

 

 ひとまず状況整理。

 ようやく息ができるところまで戻ってきた。

 

「そうだね。ご主人様は――顔・におい・体だけはいい勇者だからね」

「だから別の女に押し倒されるんじゃないかって、心配なんだよ」

フランが微笑みながら、割と容赦なく言ってきた。

その顔はにっこり笑っているが、内容はすでに通報案件レベルだ。

 

 

 

「押し倒すのはお前しかいねぇ~からな。安心しろ」

「……クソ雑魚なところは、まあ……同意せざるを得ないが」

 

 うん、これはフォローじゃない。

 ただの罵倒 with 日常感。

 

 

「今まで気になってたんで、聞かなかったんですが」

「弱いのにどうして勇者になれたんですか?」

 フランが超ド直球で投げてきた。

 いや、もっとオブラートに包んでくれ。こいつは純粋だから言葉が良くも悪くもまっすぐだ。

 

「……いや、普通に“上位スキル”持ってたから名乗れただけだよな?」

「そうそう。あの結界――“絶対封印結界《セイフティ・キューブ》”だっけ? あれ、上位スキルの中でもレアだからな。運良く引いたって話だよね」

 

 貞操逆転の世界の防護策のスキルを女神様にもらい、そのボーナスだけで、称号がついた。

 修行も努力もしてない。マジで何もしてない。

 顔と声とちょっといい体と、スキル一個。

 それだけで、女にもてた。

 ――しょうがないだろ?

 

「うっとうしい結界は……必要だよね」

 フランが、やや寂しげに呟いた。

 いつもの調子でしっぽを振るでもなく、俯いたままぽつりと。

 

フランの怪力はどうしようもない。

つまり――あの結界スキルが、いま唯一のセーフティラインになっているわけで。

ありがてぇ……このクソ便利スキル、今日ほど感謝した日はない

 

 

「壊せないって分かってるけどさ……ちょっと、ショックなんだよね。

 だって、ご主人様が他の女に食われちゃったら、いやだよね」

 

 いや、食われるって何だよ。怖い言い方するなよ。

 しかも、「食われる=事後」前提で話すのやめてくれ。

 

「たしかに。サリエルは“サディスト”って噂ですからね」

「勇者様をいじっていいのは――本来、私だけなんですよ?」

 セラはいつもの調子で微笑みながら、さらっと恐ろしいことを口にする。

 けれど、声の端がピリピリしていた。

 明らかに余裕がない。サリエルに対しては、それだけ警戒しているということだろう。

 

「俺は……町へのワープ系と、スキルポイントと経験値が溜まりやすくなるやつ、それと鑑定スキルを買う予定だ」

「俺の場合、攻撃系は捨てる。どうせ当たらないし、火力はお前らの担当だからな」

 

 だがその宣言に、即座にメルヴィナが食いついた。

 

「勇者様っ!! それだと“プレイ”ができませんよ!?」

「この、女々しき豚であるメルヴィナは――攻撃系スキルを得ることを強く望みます♡♡」

 

 はい来た。いつものテンション。

 

 

「……放置プレイだ。楽しみは取っておけ」

「たまらねぇ~~~~っ♡♡♡」

 心底嬉しそうに、地面を転げ回るメルヴィナ。

 

こいつの対応の仕方も、少し分かってきたわ……

頼むから、こういうスキルを育たないでください。

 

 

「ご主人様、頭のおかしいやつの扱いが上手になりましたね」

 

 フランが、心からの笑顔でそう言った。

 

 ……お前も、その“おかしいやつ”の一人なんだけどな。

 

「ここは解散だ。各自、必要なスキルを買ってこい」

 

 そう言って、俺は手をひらひらと振った。

 街の中央広場にあるスキル屋通りは賑わっていて、今がちょうど入れ替わりのタイミングらしい。

 

 

男であるためか、スキルは驚くほど安く手に入った。

 

人権が低いというべきか、逆に恩恵と取るべきか。

いずれにせよ、財布に優しいのはありがたかった。

 

今回手に入れたのは、以下の4つ。

 

・【ワープ】:一度訪れた町へ即座に再訪できる便利スキル。

・【経験値アップ Lv2】:戦闘後の取得経験値が微増する。

・【スキルポイント増加 Lv2】:成長に必要なポイントが自動で溜まるようになる。

・【ステータス鑑定 Lv2】:対象の基本ステータスや装備を簡易表示できる

 

スキルも最低限は獲得したし。

スキルポイントもかつかつだ。

今後のために、逃亡用のスキルがあるかを探していくか。

 

【逃亡者・脱出術】

 

……何このスキル。

名前だけで生き様を語ってくる感じ。なんか妙にそそられる。

 

「お兄さん、目が高いねぇ~」

 

「“逃亡者・脱出術”はいいよ。借金取りから逃げたいときとか、夜逃げしたいときとか、あとは……」

「……あとは?」

「修羅場から逃げたいときとかね♡」

 

 嫌にリアルだな。

 

「これ、進化スキルだから、重複できるんだよ。進化させるには条件が必要なんだけどさ。

 “逃亡者”が“異次元の逃亡者”になったら、別のスキルとして扱われるからね」

 つまり、ポイントが許すなら何段階でも積めるってことか。

 

「それぞれ、“逃げたい”って思った瞬間に発動。素早さと回避率を50%アップしてくれるよ」

「積めば積むほど、発動するたびに重ね掛けもできるから……まぁ、逃げ足は最強になるね」

 

 ……正直、魅力的すぎる。

 

「兄さん、進化スキルの1例だよ」

 

【異次元の逃亡者】

※「逃亡者」とワープ系スキルを2つ以上所持していることで解放可能。

※進化すると、すべての逃亡スキル効果が強化され、回避率・素早さに加え、発動中は敵からのロックオン効果を遮断します。

 

「あんたは、ずっとここにいるのか?」

 

 ふと気になって、店主に聞いてみた。

 この怪しげなスキル屋、どう見ても場末の露店みたいな構えだけど――

 こんなレアスキルを扱ってるってことは、ただ者じゃない。

 

「もちろんだよ」

「このスキルを“作れる”のは、私だけだからね」

「ただの転売じゃない。スキル開発ってのはね、材料も情報も手間もかかる。タダじゃできないのさ」

 

 そう言って、ぴらっと何かの伝票らしきものを振る。

 原価とかよく分からないけど、やけにリアルな雰囲気だった。

 

「だからさ、一つは買っておくれ」

「……開発者にも、飯は必要なんだよ」

 

 どこまで本当かは分からない。

 けれど、少なくとも“逃亡者”というスキルの価値は確かだ。

 

「……逃亡者を、買わせてもらう」

 

 

 

~~~

 

さて、そろそろパーティーメンバーと合流するか。

あまり時間を食っていられない。

 

……その前に、一応自分のステータスでも確認しておく。

 

 

【ステータス確認】

 

職業:勇者

レベル:9

HP:580

MP:150

攻撃力:62

防御力:80

魔力:33

素早さ:160

 

 

■所持スキル

・ワープ(既知の町への転移)

・経験値アップ Lv2

・スキルポイント増加 Lv2

・ステータス鑑定 Lv2

上位スキル

絶対封印結界《セイフティ・キューブ》

 

【スキルポイント残り:4】

 

■所持品

・スキルカード《逃亡者》

・食料 1週間

 

俺、ほんとクソ野郎だなって思った。

 

 

たしかにレベルは9になってた。

でもその内容、完全にあいつらのハイエナ経験値で上がっただけだ。

 

戦闘で誰かが敵を倒す。

俺は横で倒れたり、逃げたり、回避に専念してただけ。

それで勝手にレベルが上がって、ポイントももらえてる。

 

正直、俺自身の実力で得たものなんて、何一つない。

 

装備? まともに揃えてすらいない。

武器も盾もヒロインたちのおさがりか、初期装備に毛が生えたようなもの。

魔法も火力不足、剣も振り方がぎこちない。

 

……ここまで無防備で、よく生き延びてこれたもんだ。

 

いや、生き延びたというか――守られてきただけか。

戦闘面に関して言えば、俺はずっと安全圏でぬくぬくやってきたようなもんだ。

 

――※ただし、貞操面はずっとハードモードだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~

 

 

「ご主人様~、お待たせっ」

 

 広場の向こうから、フランが手を振りながら走ってきた。

 いつも通りのテンション。尻尾はぶんぶん。声の音量は無駄に元気。

 だがその笑顔の奥には、“何か買ってきたぞ”感がじわじわと漂っている。

 

 

【ステータス:フラン】

 

職業:戦士

レベル:99

HP:7880

MP:220

攻撃力:9999

防御力:2480

魔力:90

素早さ:9999

 

■所持スキル

・戦士 Lv100

・獣人 Lv1

・探知 Lv10

 

■上位スキル

・忠義の絆: 守りたい相手がいるほど攻撃力上昇。(倍率:不明)

・脳筋:攻撃力×1.5倍

 

■所持品

・干し肉、ジャーキー、ササミチップス(大量)

 

装備

鉄刃丸(大剣)

 

攻撃力と素早さはカンストしているってわかっていたけど。

いや、うん。やばい。改めて見たら、やばすぎる。

 

ていうか戦士Lv100って何だよ。

 

普通、職業スキルって生涯かけてLv10いけるかどうかだろ!?

お前どんな生活送ってたんだよ!? 筋トレで人生終わってんじゃねーか!

 

しかも上位スキル、脳筋。

 

攻撃力に1.5倍補正って何だよ。カンストに倍率かけてどうすんだ。

 

さらに極めつけが忠義の絆。

守りたい相手がいればいるほど、火力が上がる。

 

当然、対象は――俺である。

バフがかかるたびに命の危険が近づく勇者って何だ。

 

結界を攻撃した時、あの森の破壊してしまったことも説明できる

 

敵どころか地形ごと吹き飛んでいたあの惨状。

理由は単純だった。

 

攻撃力カンスト × 脳筋(1.5倍) × 忠義の絆(倍率:不明 ※不明ってことが不安なんだが)=狂っている。

 

 

お前の“ちょっと”は物理法則壊してるんだよ……

 

こうして俺は、改めて理解した。

俺が戦う世界の中で、一番の脅威は――

味方だった。

 

現実から目をそらしたい。

いろいろ見なかったことにしたい。

だから、俺は話題を無理やり変えることにした。

 

 

「……そういえば。お前、“探知スキル”買ったんだって?」

 

サリエルの隠密さへの対策として買ったのであろう。

レベル10とは、人生1回分のスキルポイントを振っているな

 

「はいっ!!」

「今まで、スキルポイントを振ったことなかったんですけど、今までの分を一気に使うって、どきどきしました~!」

 

 フランが元気よく答えた。

 楽しそうに、目をキラキラさせながら。

 

 ――……え?

今……何て言った?

 

 今までスキルポイントを振ったことがなかった?

 じゃあ、戦士Lv100と脳筋って――

 

(条件達成で“自動習得”してたってことか!?)

 

 この世界では、スキルの習得にはスキルポイントを消費する方法と、

 特定の条件や戦闘経験によって自動で獲得する方法の2パターンがある。

 ただし、後者のルートは普通の人間にはまず無理。

 地道な努力、経験、修行、実戦、命のやりとりの積み重ねが必要になる。

 

 しかもこの世界のレベル上限は99。

 それも比較的緩い設計で、戦闘回数はそれほど求められない。

 

つまり、無駄な戦闘を、想像を絶するほど行っている。

フランは常人の域を簡単に超えており、意味不明なステータスになっているってことだ。

 

これ以上考えるのはよそう。

やばいことしかわからない。

 

 

~~~

 

「勇者様、待たせましたね」

セラは俺たちのところに向かっている。

 

【ステータス:セラ】

職業:僧侶

レベル:54

HP:1230

MP:7888

攻撃力:42

防御力:210

魔力:5304

素早さ:182

 

■所持スキル

・僧侶 Lv10

・探知 Lv2

・ワープ

 

■上位スキル

魔法の加護:自身の魔力を2倍に引き上げる強化スキル。

心臓の在処(ハートロック):相手の“肉体的弱点”および“精神的急所”を自動的に認識するスキル。

異次元の扉:異次元空間を1つ所持可能

 

 

■所持品

・聖印ペンダント

 

 

■装備

・ホーリーロッド(魔法杖/特効:不浄系)

・純白の僧衣(スリット深め/本人の趣味)

 

ステータスだけ見れば――セラは完璧だった。

 

MPも魔力も圧倒的。

回復支援から殲滅魔法まで、僧侶枠としては理想そのもの。

防御も決して低くなく、俊敏さはそこそこ、打たれ弱くもない。

 

……ただし、性格面がガチャで爆死していた。

 

言動は常に一定の理性があって、理論派のように見える。

けれど、発言の内容が一歩間違うと犯罪臭がすごい。

 

「探知スキルとワープを買ったのか?」

 

 そう聞くと、セラは小さく微笑んだ。

 フラン同様、サリエルへの警戒心からだろう。

 あの女が気配を完全に消せる以上、探知スキルは最も有効な対抗手段になる。

 

 探知スキルは使い込めば、スキルポイントを消費せずにレベルアップする。

 難易度は高めだが、成長性はある。選びとしては正しい。……が。

 

 

「いいえ、実はワープ、前から持っていたの」

 

 セラはあっさりと言った。

 声は穏やかだが、その目は真っすぐこちらを見ていた。

 

「あなたに“希望”を持たせて、その上で失敗させてから支配したかったの」

 

 

「…………」

 

 言葉の意味を理解するのに、しばらく時間がかかった。

 理解した瞬間、全身から血の気が引いた。

 

(え、何この人……怖……)

 

 

 さすがにフランの筋肉魔王スタイルよりは安全かと思っていたが、

 こっちは精神攻撃特化型だったらしい。

 

「逃げ切れるって、期待しちゃいましたか? ――残念でした」

 セラが小さく微笑んで、すっと顔を近づける。

 

 その声はやけに耳に残る。

 柔らかくて、落ち着いていて、それでいて妙にゾクッとくるトーンだった。

 

 ――精神攻撃ASMR、開始されました。

 

「逃げ切れると思いました? ……ふふ、それ、あなたらしくて好きですよ」

「“もう大丈夫”って思えましたか? 希望って、壊すためにあるんですよ?」

「安心してください。苦しみは、私がずっとそばで見ていますから」

「あなたが逃げても、私はちゃんと“見つけて”あげますよ」

「その表情、もう少し見ていたいな……壊れきる寸前が、一番綺麗なんです」

「“もう届かない”って信じ込んだ瞬間に、こうして囁かれるのって……気持ちよくないですか?」

「あなたの中に残った“逃げたい”って気持ち、私が“潰して”あげます。優しく、何度も」

「……ふふっ、気づいてないんですね。あなた、もう十分“気持ちよくなって”ますよ」

 

 やめてくれ、そういうのに耐性がないんだ。

 こっちは平常心を保ってるつもりなのに、脳の奥がぞわぞわして気持ちいいのやめてくれ。

 

(……なんで精神攻撃なのに、微妙に心地いいんだよ!?)

 

 

 

 セラの攻撃は直接的な支配じゃない。

 逃げ場を与えたうえで、それをじわじわ奪っていく。

 そして最後には――快楽の味を、ほんのひとかけらだけ見せる。

 

 

 その結果。

(ヤバい……依存心が無駄に芽生えそう……)

 逃げても逃げても、どこかで「また来てほしい」と思ってしまう。

 

~~~

 

「勇者様……すみません」

 メルヴィナが、とことこと小走りでやってきた。

 

【ステータス:メルヴィナ】

職業:魔術師

レベル:16

HP:320

MP:9999

攻撃力:11

防御力:16

魔力:9999

素早さ:94

 

■所持スキル

・魔術師Lv10

■上位スキル

魔法の加護:自身の魔力を2倍に引き上げる強化スキル。

妄想:妄想を行うたびに魔力とMPが上昇する

悦情増幅:性的高揚時に魔力バフ(倍率不明)

異次元の扉:異次元空間を1つ所持可能

 

■所持品

・蝋燭

・ムチ

・聖なる触手(用途不明)

 

■装備

・透魔ローブ(肌の露出は多め/MP自然回復+)

・詠唱用ルーンスタッフ

 

レベル16で、魔力とMPがカンスト?

 

 

 

いやいや、絶対おかしいだろ。

何かの計測ミスかと思って、鑑定スキルをもう一回かけたけど――やっぱり結果は変わらない。

 

考えられる理由は一つだけ。

 

(こいつ……妄想で全部伸ばしてきてるのか?)

 

 

妄想スキルは知ってる。普通なら軽く気分を高める程度の、まあ小技だ。

上昇値も微々たるものだし、何より“続けられる限界”がある。

――普通なら、な。

 

妄想に関しては中学生の頃がマックスだと思う。

陰の実力者と考えていたり黒の組織に追われていたりと中2病といわれる妄想をしてしまう。

ただ、こいつの妄想力はレベルが違う。

 

そもそも、あいつの妄想ってレベルじゃないんだ。

もう、呼吸するように妄想してる。

 

たとえば、俺がただ飯を食ってるだけでも。

 

「ご主人様の口の中に……私が……♡」

「臼歯で砕かれるって、あぁ……♡」

 

(いやお前、自分をちっさくする妄想とか意味わからんからな!?)

 

包丁で食材を切っていれば。

 

「今の一太刀……私の太ももに来る想定で……♡」

「ざくっ、ずぶっ……ああっ、もう……♡♡」

 

(※現実ではただのにんじんです)

 

たった一つの動作を見て、秒でマゾ妄想に変換してくる。

こいつ、脳の変換回路にリミッターがついてない。

どんな刺激も、自動でM方面に接続されるように脳が配線されてる。

 

俺が振り返っただけで、

「睨まれた♡ 罵倒された♡」と喜び出すし。

 

こっちが転びかけただけで、

「潰される夢、見ました♡」とか言ってくるし。

 

(やばい。もう、存在がやばい)

 

普通の生活が、こいつの中ではすでにプレイになってる。

毎秒脳内AV状態。感性が常に最終回。

 

しかも困ったことに、この妄想力が魔力に直結してる。

妄想力で魔法使いになれるって、怖い世界だな……

 

ただ、俺は――見て見ぬふりをしている。

 

メルヴィナのステータスを見て、持ち物を見て、

明らかに「マゾグッズ」のラインナップが増えていたとしても。

 

蝋燭。ムチ。触手(用途不明)。

どれもスキル屋には売ってなかったはずなのに、なぜか彼女は持っている。

 

(……なんで買ってるんだよ……スキル買えよ……!)

 

怒りたかった。心底、怒鳴りつけたかった。

でも、俺は――怒れない。

 

 

なぜなら。

ここで怒ったら「オカズにされる」からだ。

 

怒ることで相手を強くしてしまう。

黙ることで自分が壊れていく。

 

(頭……おかしくなりそう)

 

怒れない。

逃げられない。

スキルを買えとも言えない。

 

~~~

 

「……とりあえず、できることは、やったな」

 

 スキルもそれぞれ習得できた。

 俺自身も、逃げスキルの強化と鑑定能力で生き残る道が見えた気がする。

 

 ――だから、現実的に判断しよう。

 

「今後の方針だけど、サリエルとは戦わない」

 

フランが、びくんと耳を立てた。

 

「俺たちは、あいつみたいな隠密・奇襲型には弱い」

「サリエルは魔王軍幹部だ。格が違う。強いだけじゃない、“対応できない”んだ」

「今の俺たちは、特殊な状況への対処手段がほとんどない。最低限の守りすら危うい」

 

 自分でも冷静すぎるなと思いながら口にした。

 だが、現実を直視しないと死ぬ――このパーティーでは特に。

 

「ご主人様!」

「でも、あいつに奪われたら……ご主人様の貞操も、世界も、壊れてしまいます!」

「だったら、先に叩き潰すのが正義です!」

 

 フランがやや本気の目でかみついてきた。

 その耳と尻尾は、いつになく真剣だった。

 忠義ゆえの焦りだろう。でも、焦りすぎている。

 

「落ち着けフラン。俺を除いて、攻撃力が高いやつの寄せ集めなんだ」

 

 俺は淡々と言い返してしまっている。

ただ、フランの悔しい気持ちもわかる分つらいが……

 

「ご主人様だけが弱いとか言わないでください!!」

「殴れば解決ですよ!」

 

 即答で返ってくる物騒な一言に、俺はつい顔をしかめた。

 なんでこいつはすべての問題を拳で片づけられる世界線にいるんだ。

 

「パワーでねじ伏せる理論やめろ!!」

「敵は殴らせてくれない隠密型なんだよ!」

 

 言ってるそばから、すでに拳を握ってるのが見える。

 こいつ、思考の前に筋肉が動いてるタイプだ。

 

「セラの回復があるから、確かにある程度は粘れる。でも特殊な状況への対処力は――ほぼ皆無だ」

 

「勇者様の言う通りです」

「私たちが苦戦した幽霊のダンジョンを……あの女、平然とクリアしていたんですよ?」

セラが静かに言いながら、肩をすくめる。

 

「ここは、別の方針にしましょう」

 

「……ふたりが言うのなら……」

フランが、しぶしぶといった様子で納得する。

 

 

「――脳筋ドラゴンの、クリディアンを倒さないか?」

 

その言葉に、パーティーの空気が一変する。

火力型、支援型、妄想型――なぜか全員が食いついた。

 

「なるほど。いいかもです」

「パワーだけの、頑固じじいドラゴンですか」

 

「よくも悪くも、私たちに向いているでしょう」

セラが軽く頷いた。

 

「それに……」

「嫉妬のサリエルも、別の魔王軍幹部の拠点には簡単に入り込めないでしょう」

セラがさらりと言う。

 

「……“嫉妬”のサリエル……」

 

(そういえば、そんな二つ名だったな)

 

「ってことは……“七つの大罪”って、つまり――7体いるのか」

 

脳筋ドラゴンことクリディアン。

二つ目までは知らなかったが、攻撃力が高いことで有名。

クリディアンは長年魔王軍幹部にいるため、目の敵にしている奴が多くいる。

 

「憤怒のクリディアンを倒すのなら、フーディアン火山にいきましょう」

 

 

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