俺は勇者だけど、狂った美人パーティーから逃げたい。…けど、彼女たちは俺を逃がしてくれない   作:銀層

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第5話

環境破壊は気持ち良いzoy!!――なんて感情に支配されてはいけない。

あれは一瞬でも理性が飛んだらアウトだ。そういう顔して追ってくるのが、魔王軍だ。

 

ほんの出来心だった。

ほんの少し、気分が良かっただけ。

魔力も溜まっていたし、空も晴れていたし、テンションも上がっていた。

ちょっとだけ、試し撃ちをしたくなっただけなんだ。

 

……その結果、山が一つ消えた。

 

いや、冗談ではなく、文字通り地形が変わった。

 

周囲の被害? 知ってた。

知ってたけど……“気持ちよかった”んだ。やっちまった。

 

 

魔力を解き放された感触、空間が軋むような余韻、

そしてあの瞬間の、「俺すごいことやっちゃった感」。

あれはもう……魔法性ドーパミンとでも言うべきか。

自我が溶けて、ただ「もっとやれ」と囁かれている気がした。

 

一時の快楽。若気の至り。

ほんの少し、「やっちゃえ」って気持ちが勝っただけなのに――

 

気づけば、魔王軍に全力で命を狙われていた。

 

~~~

 

俺たちは、次なる目的――

魔王軍幹部“憤怒のクリディアン”を倒すため、フーディアン火山へ向かっていた。

 

クリディアンは「脳筋ドラゴン」の異名を持つ魔王軍幹部。

とにかくパワー一辺倒で、力で全てを解決しようとするタイプらしい。

 

つまり、うちのパーティーと相性がいい。

 

 

隠密・幻術・精神操作といった、サリエルのような相手には対応できないが、

火力で殴り合う相手なら、殴る側の方が圧倒的にそろっているのがうちのパーティーだ。

 

 

……俺以外。

 

ともかく、次の戦いは始まろうとしている。

目指すは、火山の山腹にあるという“クリディアンの溶岩城”。

 

そんな決意に満ちた空気を――見事に無視して、

場をぶっ壊してくるやつがいた。

 

「勇者様、みて~♡」

 

パタパタと駆け寄ってきたメルヴィナは、手に持った“例の物”――ぴちぴち動く触手を、誇らしげに掲げていた。

 

(……きたな。今日も通常運転だなこの女)

 

「勇者様ぁ……」

「これ、ぶちこんでみたくなっちゃいましたよね? ね? ね♡」

「むしろぶちこんで~~♡♡」

 

ノリが完全にアレだった。

しかも、“ぶちこむ”の対象が何か、本人すら混乱してる気がする。

 

こいつに怒ったらダメだ。

怒ったら……ご褒美になる。

 

こっちが真剣に叱っても、悲鳴を上げても、全力で否定しても、

メルヴィナの脳内では全部「悦び」に変換される。

 

だから怒ったらダメだ。

怒ったら……負けだ。

 

怒ったらダメだ怒ったらダメだ怒ったらダメだ怒ったらダメだ怒ったらダメだ怒ったらダメだ怒ったらダメだ怒ったらダメだ怒ったらダメだ……っ!!

 

でも――イライラだけは確実に溜まっていく。

 

「ずっと~放置プレイで、つまらない……♡」

「ねえ、ねえ、勇者様♡」

「そろそろ……せめてください♡♡」

「無視されるのもいいけど、そろそろ追い詰められて追い詰められて、最後にビンタされたいなぁ……♡♡♡」

 

その声が、耳のすぐ横で囁かれた瞬間――

背筋を電流が走ったかのように、俺の身体はビクッと跳ねた。

 

今まではまだ距離感があった。

触手を持って踊っていようが、羞恥プレイを妄想していようが、物理的に離れていた。

 

でも今は、ゼロ距離。

ささやき声が脳の奥に染み込んで、理性がひとつ、またひとつ、削れていく。

 

頭がおかしくなる。

頭がおかすくなる。

おかすくなる。おかすくなる。おかすくなる。おかすくなる。おかすくなる。

 

ストレスで頭がおかしくなっている。

 

~~~

 

ようやく、夜になった。

 

俺はいつものように**“絶対封印結界《セイフティ・キューブ》”を展開。

この中にいれば、少なくとも物理的な安全**は保障される。

 

――が。

 

精神的な安息が保障されるとは、誰も言っていない。

 

ドン!! ドン!! ドン!! ドン!! ドン!! ドン!!

 

 

鼓膜に響く、不穏な衝撃音。

地鳴りのような振動が、結界の外から間断なく鳴り続けている。

 

(またか……)

 

わかってる。

壊れない。壊れるはずがない。

この結界は、勇者認定の証。

上位スキルの中でも極めて強固で、自動修復すら付いている。

 

だから、無駄なんだ。

何度殴っても壊れない。

何度殴っても、中には入れない。

 

それなのに。

 

(こいつ、バカみたいに……いや、もうバカなんだけど……)

 

何度も何度も、同じ場所を、大剣で叩いている。

まるで意思疎通を破棄された大型犬みたいに、ひたすら“開けて”を物理で伝えてくる。

 

「ご主人様!! 一緒に寝ましょう!」

「一人で寂しいです!」

 

ドン!! ドン!! ドン!!

 

何度も。

何度も、何度も。

同じ場所を、正確に叩き続ける音が、結界越しに響いてくる。

 

しかも最近――音がでかくなってきている。

 

 

(あいつ、確実に“強くなってる”んだよな……)

 

最初は「うるさいな」で済んだ。

でも今は――壁が、うっすらたわんで見える。

 

 

攻撃力カンスト(9999)

× 脳筋(1.5倍)

× 忠義の絆(倍率:不明)

= ????

 

 

この計算式が、脳内にちらついて消えない。

不安すぎるのは、「忠義の絆の倍率が不明」という点だ。

なぜ“不明”なんだ。なぜ“可変”なんだ。なぜ、今も上昇している気がするんだ。

 

最近、睡眠時間が削られている。

結界内で寝ようとしても、結界越しの“忠義の圧”で意識が覚醒する。

 

このままだと、体より先に精神がもたない。

たぶん、フランは悪気がない。

でも、それが一番こたえる。

 

俺は寝袋に顔をうずめながら、静かに呟いた。

 

「……結界が壊れるより、俺の心が先に折れる気がする。」

 

ドン!! ドン!! ドン!!

 

今夜も、寝かせてはくれないらしい。

 

朝。

鳥のさえずり――なんて優雅なものは、もはやこの場所には存在しない。

聞こえてくるのは、パキ……メキ……と崩れていく岩の音。

昨晩の“忠義の夜襲”の名残が、まだ生きている。

 

岩は砕け、木は裂け、地面には“勇者結界へアタックした証”とも言えるクレーター状の凹みが無数に広がっていた。

 

まるでここだけ、局地的な隕石群が落下した後のようだ。

 

そしてその中心――

俺の結界は、何事もなかったように透明な光をたたえて立っている。

 

完璧。

完璧すぎる防御。

 

けれどその外側だけが地獄という、皮肉な状況が完成している。

 

「……すぅ……すぅ……」

 

フランがいた。

大剣を枕に、満足げな寝顔で、すやすやと熟睡中。

 

昨夜あれだけドン!!ドン!!と叩き続けて、結界を削ろうとしていた張本人が、

今は「忠義を果たした安心感」でも抱いているような顔で、完全に落ちている。

 

これが朝のルーティーンだ。

 

頭がおかしくなる。

頭がおかすくなる。

おかすくなる。おかすくなる。おかすくなる。おかすくなる。おかすくなる。

 

ストレスで頭がおかしくなっている。

 

~~~

 

朝は眠い。

 

――眠い。

でも、眠れなかったのは今に始まったことじゃない。

最近、ずっと睡眠不足だ。

夜は結界越しのドンドン攻撃でまともに休めない。

 

けれど、この睡眠不足には慣れている。

なぜなら、転生前ブラック企業に勤めており、睡眠不足はある程度耐性はある。

 

「あら~、勇者様? おはようございます」

セラが、いつもの落ち着いた声で近づいてきた。

柔らかな微笑みと、光の魔力をほのかに纏いながら、ゆっくりとこちらに手を伸ばしてくる。

 

「少し眠そうですね」

「不眠症に効く、魔法をかけてあげますよ」

 

優しい言葉。

でもその手は、どこか冷たい。

“かけたら最後”の予感が、全身の毛穴をざわつかせる。

 

「ちょ、ちょっと待って! 俺が寝たらどうなってしまうんだよ!?」

 

「寝てしまっても……いいんですよ?」

 

吐息混じりの囁きが、耳元をくすぐる。

それは音ではなく、魔力そのものが声になったようなもの。

言葉の一つ一つが、意識の隙間にじわじわと染み込んでくる。

 

「ほら……ほら……」

「眠いんでしょう? 目がとろんとしてますよ……」

「無理して起きてるの、見てて痛々しいです……ふふっ」

 

セラの声は、あくまで穏やか。

柔らかく、温かく、安心を誘う。

でもその優しさの奥には、濃密な支配欲と嗜虐の香りが混じっていた。

 

「大丈夫……寝てもいいんです」

「このまま、ぜんぶ任せて……頭のなか、真っ白になって……」

言葉が、一滴、また一滴と、

蜜のように、しかし逃れられない重さで脳に垂らされていく。

 

(……やばい……これ、ガチで落としにきてる……)

 

意識がゆらぐ。

視界がぼやけていく。

体がゆるむ。全身がだんだんと重く、温かく――眠りへと誘われていく。

 

(だめだ、だめだ、今ここで寝たら……)

 

寝たら最後。

あの後ろのドアに押し込まれて、セラの部屋に送り込まれる。

 

(何だよ……睡魔を使ったSMプレイって……)

 

体の芯からぞくりとする。

意味が分からないのに、脳が理解し始めているのが怖い。

 

眠気をじっとりとした嫌なSMプレイ

 

(いやほんと、回復魔法をSMプレイに応用する女って、何なんだよ……)

 

「……ふふ、意識が揺れてますね」

「気持ちよく寝かせてあげますよ? ほら、力を抜いて……♡」

 

(くそ……くそぉ……寝たい……!!)

 

でも、今ここで落ちたら最後。

目が覚めたときには、全身をセラの魔力と愛で包まれた“だめ勇者”が出来上がってる。

 

(耐えろ俺! その一歩が、勇者から性癖奴隷への堕落の第一歩だ!!)

 

「……じゃあ、せめて、ここに寝転がるだけでも……」

「大丈夫。すぐには寝かせませんから。ゆっくり、じっくり、意識が溶けていくのを見せてくださいね♡」

その声は、完全に“楽しんでいる側”のものだった。

慈しみではない。

追い詰めた先に生まれる表情を、観察して味わっている。

 

ただひたすら、俺が崩れていく様子そのものを、楽しんでいる。

 

背筋がぞくりとする。

セラの“癒し”は、いつだって“壊し”と背中合わせだ。

 

(……くそ……眠い……)

 

まぶたが重い。

身体がぽかぽかと温かく、抵抗の力すら抜けていく。

それが魔法の効果であることはわかっているのに――もう、どうでもよくなってきている自分がいる。

 

回復という名を借りた、“精神的な性感責め”だ。

そして俺は、気づいている。

最近、それを期待している自分がいる。

 

セラの寸止めプレイ、ちょっと、好きかもしれない。

……いや違う、好きじゃない。好きではない。

でも、“癖になる”のは確かだ。

 

このまま、彼女に身を委ねてしまっても――いいかもしれない。

 

(もう、いいかもしれない……)

 

眠気と魔力と、あたたかな囁きに包まれて、

俺の中の理性は、音もなく崩れかけていた。

 

セラは何も強く求めてこない。

ただ、優しく、温かく、微笑んでいる。

“自分から堕ちたように見せること”こそ、彼女の最大の嗜み。

 

 

「ご主人様を独り占めしないでください!!」

 

ドン!!!

 

次の瞬間、世界が揺れた。

 

結界の外から飛び込んできた影。

爆風のような勢いとともに、脳筋戦士フランが突撃してきた。

そのまま俺の前に立ちふさがり、全身でセラから守る構えをとる。

 

忠義の重みが、筋肉で押し寄せてくる。

寸止めの癒し地獄から抜け出したと思ったら、今度は体力ごと潰されるルートだった。

すこし頭痛してきた。

 

頭がおかしくなる。

頭がおかすくなる。

おかすくなる。おかすくなる。おかすくなる。おかすくなる。おかすくなる。

 

ストレスで頭がおかしくなっている。

 

~~~

 

何かが「プツン」と音を立てて切れた気がする。

いや、たぶん気のせいじゃない。本当に何かが終わった。

 

そのときだった。

脳の奥で、何かが響いた。

 

「環境破壊は気持ち良いzoy!!!!」

 

……幻聴だ。

間違いなく幻聴なんだけど――異様に明瞭な声で鳴り響いてくる。

 

なぜこの幻聴が流れてくるのかは、わからない。

そもそも、“Zoy”ってなんだよ。

どこから拾ってきたワードだ。

だが――すべてを破壊してしまいたい衝動が、確かに湧いてきている。

 

(破壊……したい……何もかも……)

 

破壊衝動がおさまらない。

 

環境破壊は気持ち良いzoy~~~~!!!!

環境破壊は気持ち良いzoy~~~~!!!!

環境破壊は気持ち良いzoy~~~~!!!!

環境破壊は気持ち良いzoy~~~~!!!!

幻聴がまた響く。

 

そうだ、メルヴィナの力を借りて、フーディアン火山をぶち壊すか……

 

~~~

 

遠くにそびえ立つ、フーディアン火山。

空を突き刺すような山頂。もくもくと昇る黒煙。

その全体が、まるで――俺たちを見下ろしているように見える。

 

ただの自然物のはずなのに、視線を感じる。

見下ろされている。圧されている。

無言で、「お前らごときに何ができる」と嘲笑っているように思える。

 

破壊衝動に溜まっている俺は、そう思ってしまう。

狂ってしまうとおかしくなるのかと思った。

 

 

……破壊したい。ぶち壊したい。

けど、さすがに無理だ。

こんなでかい山を、正面から破壊するなんて芸当、俺ひとりじゃ到底不可能。

だったら――

 

「メルヴィナの力を、借りるしかない」

 

カンスト(9999)× 魔法の加護(魔力2倍)× 悦情増幅(倍率不明)

 

――この掛け算が意味するのは、単純な魔力の総量じゃない。

制御不能な破壊衝動そのものだ。

 

カンストするほどの魔力が、快楽によってさらに増幅され、

その上に限界値が定義されていない“悦情”という不確定要素が乗る。

 

掛け算。常に上がり続ける、止まらない計算。

際限がない。制限もない。

想定不能の“上振れ”が、そのまま火山に直撃する。

 

メルヴィナに何かしろ刺激を与えていく。

通路の真ん中に立っていたメルヴィナの肩に、わざと体をぶつけた。

 狙いすました角度と、意図的な衝撃。

 

「……きゃっ♡」

 バランスを崩したメルヴィナは、その場に膝をついた。

 頬を紅潮させながら、こちらを見上げてくる。

 

 その表情が――完全にご褒美をもらった顔だった。

 

(くそ……やっぱこいつ、頭おかしい……)

 

 本来の俺なら、絶対にしない。

 わざとぶつかるなんて、ただのストレスの捌け口みたいな真似。

 それがどれだけ下劣で、情けないことかなんて、わかってる。

 

 ……でも、でもさ。

 

(山、壊したい……)

 

 あの時の快感が、まだ脳裏にこびりついている。

 破壊の瞬間に脳が焼けた、あの感覚。

 快楽と興奮が混ざって、全部どうでもよくなって――

 

 「環境破壊は気持ち良いzoy!!」

 心の奥底で、その幻聴がまた鳴り始める。

 

 メルヴィナは、うっとりとした目で俺を見つめた。

 

「意味もなく♡♡ 押し倒すって♡♡」

「ただ、私をいじめるために押し倒すって……最高♡♡♡」

 

通路に転がったまま、メルヴィナはうっとりと蕩けた笑顔で見上げてくる。

 

「ほら♡♡ ほらもっと……もっと♡♡」

「女々しき豚をいじめるように♡♡ 罵って、踏みつけて、支配してください♡♡」

「もっともっと♡♡♡♡♡」

 

こいつ、本当にどうかしてる。

 

いや、わかってた。最初からそうだった。

でも、今日はちょっと……俺のメンタルが限界に近い。

 

(……もう、罵りたくない……)

(ほんと……キツイわ……)

 

 

だけど、これが“破壊衝動”をブーストさせる手段だとわかってる。

こいつを壊して、壊す準備を整えるためには――トリガーが必要なんだ。

 

 

「オラ!! てめぇ……頭狂ってんだろ!!」

 

怒鳴った。

けど、声が震えていた。

 

言葉が、喉の奥で詰まりそうになる。

 

(……ダメだ。仮にも女なのに。こんな言葉、どうして平然と出せる?)

 

でも――メルヴィナは心底嬉しそうに笑っていた。

まるで、自分が“生まれてきた意味”を噛み締めているかのように。

 

「ご主人様……♡」

「その顔……苦しそうで、優しくて、どうしようもなく歪んでて……」

「最高のご褒美です♡♡♡」

 

(俺は……今、何をしてるんだ?)

メルヴィナの魔力が、明らかに高まっていた。

 空気がピリピリと震えている。肌がヒリつくほどの圧が、背中をなでる。

 

 

 

(マジでやばい……!)

(ここまで魔力を溜め込んでるの、初めて見た……)

 

「いいか、絶対に……絶対に、あそこの山だけは壊すなよ……?」

 振り返ると、メルヴィナが震えていた。

 

 

「……え?」

 

「絶対に、ダメだからな? あそこは壊すなよ?」

「破壊なんてしたら――もっとひどい罰を与えるからな!!」

 その言葉を聞いた瞬間――メルヴィナの目が光った。

 

「ご、ご、ご主人様……♡♡」

「い、いけないこと……♡♡ 最高にいけないこと……♡♡♡」

 

 メルヴィナはぶるぶると震えながら、杖を構える。

 

「もっとひどいこと……されたいっ♡♡♡♡」

「ちょっ……待てって!!」

 

 魔力が臨界点を超えた。

 完全にドM思考が発動している。“してはいけない”を“やれ”と解釈するタイプの手遅れ。

 

 空が裂け、空間が震え、杖の先から奔流のような魔力光が山へ向かって解き放たれた。

 

 爆発音が、世界を揺らした。

 轟音と振動が耳と地面を突き抜け、空が赤く染まる。

 フーディアン火山――またひとつ、地図から消えた。

 

「……やっべぇぇぇぇぇぇぇぇええええッ!!!!」

 

 俺は叫んだ。全力で叫んだ。

 もうダメだ。完全にアウトだ。頭からおかしな物質が出まくっている。

 

 横を見る。

 メルヴィナが、倒れていた。

 

 ふにゃり、と崩れたように。

 口元には、うっすらと笑み。

 目は完全に白目。

 指先は、ビクビクと快楽の余韻で震えていた。

 

「……気絶、してる……?」

 

 

 魔力を一気に放出した反動。

 それに、たぶん……“出した”んだろうな、いろいろと。

 

「おい! メルヴィナ!? ちょっ、バカ、死ぬなよ!?」

 呼びかけても、返事はない。

 代わりに、口元からうっすらと声が漏れる。

 

「……もっと……もっと怒ってください……♡」

 

「もう寝ろ!!!」

脳内に快感物質が出てしまった俺はご褒美でほめてしまった。やべぇ~まじでやばいわ。

 

とりあえず、メルヴィナの無事を確認したため。

破壊した時の余韻を噛み締めたいと思ってしまった。

 

(やべぇ……これ……)

ドーパミンが、ぶちまけられたみたいに、脳内を満たしていく。

 

やべぇ、やべぇ。

気持ちいい。めちゃくちゃ気持ちいい。

 

 

快楽じゃない。

興奮と解放が混ざった、脳が焼けるような快感。

 

「うわっ……やっべ……頭パーンってなった……」

 

呟いた声も、上ずっているのがわかる。

瞳孔が開き、指先が痺れて、口元が勝手に笑っていた。

 

 

(ストレス? もうどうでもいいわ……)

 

寸止めされたトラウマも、

忠義で圧殺された体の痛みも――

全部、どうでもよくなってた。

 

ただ、今は。

破壊が、最高に気持ちいい。

 

そんな快感を覚えている間に、レベルが上がっていた。

 

「……は?」

ステータスを確認した瞬間、言葉が出なかった。

 

レベル:85

さっきまで、間違いなく9だった。

 

どういうことばってばよ……)

 

何が起きたのか分からず、ぼうっとしていたが、

すぐに一つの仮説に行き着く。

 

(……あの辺、モンスターの巣だったのか……?)

 

 

そう考えると合点がいく。

爆破の余波で、火山ごと巣が吹き飛んで、大量のモンスターがまとめて蒸発した。

 

しかも、トドメを刺したのは俺の魔力。

その結果として、経験値が――レベル85分、きっちり入った。

 

(いやいや、やりすぎだろ……)

気になって、隣のメルヴィナのステータスを覗く。

 

 

――レベル:99(カンスト)

 

やはり、彼女も完全に跳ね上がっていた。

そして、そのスキル欄に……見慣れない一文が追加されている。

 

パッシブスキル:快感爆発

 

「……なんだこれ?」

 

スキル詳細を開いてみる。

 

《快感爆発》

条件:憤怒のクリディアン撃破時、極度の興奮状態にあること。

効果:性欲・快感を自覚的に解放した瞬間、魔力が10倍に跳ね上がる。

補足:魔王軍監視対象に指定されます。特級注意報扱い。

 

「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや」

 

読み終わった瞬間、心の中で全力で突っ込んでいた。

 

(なに!? 俺、魔王軍にマークされたの!?)

(性欲開放=魔力10倍って何!? どんな使い方される前提なんだよこのスキル!!)

 

しかも、「憤怒のクリディアンを倒してしまった」という衝撃の事実まで、

ついでのようにスキル欄で明かされている。

 

(つまり、あれがクリディアンだったのかよ……!)

 

確かに、何かが爆ぜた瞬間、信じられないレベルの魔力反応があった。

でも爆破の気持ちよさで全部忘れてた。

そっちの意味でも「快感爆発」だったのかもしれない。いろんな意味で手遅れだった。

 

「やっっっっっべぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」

 

 

 

俺は、思わずスマホみたいにステータス画面を閉じた。

でも、何も変わらない。

 

どう考えても、フラグ建設工事が終わってしまっている。

 

「あら~、倒しちゃいましたね」

 

セラの声は、いつも通り落ち着いていた。

柔らかく、静かに――だが、どこか愉しんでいるような響きが混ざっていた。

 

「実はですね、憤怒のクリディアンは……魔王軍の中の、いわば“とりまとめ役”みたいな存在なんですよ」

 

とりまとめだと……

基本的に面倒な仕事の上、誰もやりたがらない。

そのため、周りからの評価が高いことを俺は知っている。

 

狂った方法で、いいやつを殺してしまったのか……

 

「そうです。あの方、憤怒って名前がついてますが――怒るのは、仲間のモンスターたちが残虐に殺された時だけ」

「それ以外では、とても穏やかで理性的。だから、幹部内でも好感度は高いんです」

 

セラは微笑みながら、淡々と語る。

まるで火山を爆破してモンスターの巣ごと焼き払った俺に、一切の悪意なく説明しているかのように。

 

「……まさか……俺、本気で狙われてんのか……?」

 

「そういうことになりますね」

 

即答だった。

しかも、どこか満足そうにすら見える。

セラの指先が胸の前で静かに組まれ、完璧な仕上がりの笑みを添えている。

 

「レベルは確かに上がりましたが、今のあなたでは幹部レベルの攻撃を受けたら――即死ですね」

 

彼女はさらっと言う。まるで「今夜は雨ですね」くらいの感覚で。

 

たぶん、正解なんだよ……

サリエルもすごかったし。

 

「つまり、あなたは――ずっと私たちに守られる以外の選択肢しかないんですよ」

 

セラは穏やかに、言い切った。

まるで、それが“当然のこと”だというように。

反論の余地など、最初からなかった。

 

「……セラ、お前……こうなるの、知ってて……ずっとニヤニヤしてたのか?」

 

その問いに、セラはわずかに目を細めた。

 

「そうですが?」

あっさりと、迷いもなく即答。

 

「あなたが、自分から逃げ道を塞いでいく様子……本当に滑稽でしたよ」

「自分で自分を“保護される存在”に仕上げていくんですもの。ふふっ……見ていて、飽きませんでした」

 

その笑顔には、やさしさが混じっていた。

だがそれは、相手の選択を尊重するやさしさではない。

 

壊れかけの玩具を「壊れるまで見守ってあげる」という、静かな嗜虐だった。

 

タイムループできるとしたら、このメッセージを送りたい。

 

『環境破壊は気持ち良いzoy!!――なんて感情に支配されてはいけない』

 

 

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