俺は勇者だけど、狂った美人パーティーから逃げたい。…けど、彼女たちは俺を逃がしてくれない   作:銀層

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第6話

「……クリディアンさんが、いなくなった……」

玉座の間に、誰もいない。

ただ一人、魔王は静かに呟いた。

「いやいやいや、待てよ……これは、マジでまずいだろ……」

 

目の奥がズキズキする。

冗談じゃない。誰かの首が飛ぶとか、戦線が崩れるとか――そんなレベルじゃない。

“魔王軍の心臓”がいなくなった。

そんな感覚だ。

 

「……なんで、よりによってクリディアンさんなんだよ……」

 

魔王軍幹部は、例外なく問題児だ。

嫉妬、強欲、色欲、暴食――みんな、感情で動く連中だ。

理屈じゃ止まらないし、口じゃ通じない。

あの人だけが、唯一、全員から信頼されてた。

怒りを司っているのに、誰よりも冷静で、

強くて、優しくて、そして怖かった。

一喝で黙らせる力があった。

……それが、いなくなった。

 

魔王はゆっくりと顔を伏せ、手を組んで額に押し当てた。

「俺、どうすんの……?」

冗談で誤魔化せる雰囲気でもない。

けど、心のどこかで思う。こういう時、クリディアンさんだったらどう言うだろう。

『落ち着け。整理しろ。やれることからやれ』――

……だろうな。

 

「……いや、ほんとに誰だよ、やったの……」

「はあ……クソが……マジで殺す……」

 

低く、静かに、殺意だけが残った。

 

「なにが“逃亡者”だよ。山ごと吹き飛ばしといて、何が“逃げてます”だよ。どの口が言ってんだ」

 

「どんだけ運良くても、魔王軍のバランス壊した代償は――ぜってぇ払わせる」

 

深く息を吐きながら、立ち上がる。

静かな足取りで、玉座を離れる。

 

「……とりあえず、“七罪”を集めるか」

 

そして、ぼそりと最後に。

 

「はあ……クリディアンさんがいないと……ほんと、地獄だわ……俺が」

 

その言葉だけが、広い玉座の間に残った。

 

陰鬱な空気が玉座の間を支配していた。

 中央の黒曜石のテーブルに、魔王軍幹部――七つの大罪に名を連ねる者たちが姿を現す。

 

 その中心。

 魔王は額に手を当て、沈痛な声でこう告げた。

 

「……クリディアンさんが、殺された」

 

 重い沈黙。

 続いたのは、意外にもサリエルの発言だった。

 

「……魔法使い、狂ってるのよ」

 

 その一言で、場が静まり返った。

 

「攻撃力、カンストなのに……」

「性癖はドMで……変態……」

 

 眉ひとつ動かさず、淡々と語るその様子がかえって怖い。

 

「夜になると、快感で魔力が暴走してるらしいわ」

「……どうやら、“破壊活動”を始めているみたいね」」

 

 別の幹部が目を細めた。

 

「それ、フランとかいう犬戦士のことか?」

 

「フラン? 聞いたわね……攻撃力カンストの脳筋犬……」

「暴走が激しすぎて、夜になると地形が変わるって」

 

 

 

 そこに報告を挟んだのは、怠惰幹部の代理で参加していた一兵卒だった。

 

「怠惰様は現在、寝ておられますので……代理の報告を」

 

「続けろ」

 

「はい。……現在、対象の勇者パーティーは“定住せず、常に転々と逃げている”模様。

 ですが、フランの夜間活動による環境被害が大きく、位置の特定は容易です」

 

「……環境破壊を、居場所の手がかりに使うとはな」

 魔王が鼻を鳴らした。

 

「どうやら――頭のおかしい連中のようだ」

 

 

 

 次に口を開いたのは、冷徹な暗殺担当幹部。

 

「勇者本人は弱いが、あの逃亡特化スキル……時間干渉の痕跡も確認されています」

「……“異次元の逃亡者”の進化体。見過ごすわけにはいきません」

 

「だが……通常兵じゃ刃が立たない。なら――」

 

 

 

 魔王は片手を挙げた。

 

「怠惰に、“経験値ゼロの兵士”を増産させろ。今度はもっと数を増やしてだ」

「ターゲットは――勇者パーティー全員」

 

 幹部たちは静かにうなずいた。

 

 こうして、勇者パーティーへの包囲網はさらに狭まり、

 魔王軍は、確実に“本気”を見せ始めていた。

 

魔王軍に“ガチで”狙われるようになってから、俺たちの旅は一変した。

道中、突発的な襲撃――正体不明の刺客が、やたら多い。

 

そいつらはどれも異様に手強く、無駄にスキルも技術も高い。

けど、倒しても何も落とさない。

 

経験値ゼロ。

スキルポイントゼロ。

ドロップアイテムもゼロ。

 

(どうしてこんな嫌がらせみたいな敵、わざわざ出してくんだよ……!)

 

 

「ただ強いだけで、何もくれないとか……一番やる気なくすやつだわ……」

 

俺がこう思ってしまっても、フランが一撃で倒していく。

 

フランが、**カンスト筋力 × 脳筋 × 忠義の絆(倍率:不明)**で繰り出す一撃。

刺客の方が気の毒になるレベルで吹き飛ぶ。

 

いや――でもまあ、俺がどうこう言う前に、そいつらはすでに粉々になってるんだけども。

 

「敵全滅ですね♪」

 

戦闘終了から三秒。

 

「ご主人様ァ!! ほめて~~!!! 敵を倒したよ~~!」

 

カンスト筋力の脳筋獣人が、問答無用で俺にタックルしてきた。

 

「うおおおおおッ!?」

 

吹っ飛ばされる俺。

押し倒される俺。

地面に背中を打つ俺。

 

ぺたんと俺の上に乗って、フランはしっぽをブンブン振っている。

満面の笑み。耳はぴくぴく。嬉しそうにこっちを見てくる。

 

「ちゃんと見てたよね!? ご主人様が危ないところだったの!!」

「敵、めっちゃ強かったよ!! でも、フランがボコボコにしたよ!! すごいでしょ!!?」

 

「はいはい、すごいすごい……だから降りてくれ……息できねぇ……」

 

俺の抵抗などお構いなしに、フランは俺の頬をすりすりしてくる。

 

「ほめてほめてほめて~♡♡」

「頭なでなでしてくれないと、不安になって……また暴れちゃうかも……♡」

 

「ふふっ、ご主人様~♡♡」

「敵さんの体液、飛んじゃってますよ~? 舐めときますね♡♡」

犬のように俺の顔面をぺろぺろと舐め始めている。

 

「やめろ!!!!」

 

どうしてこいつは、毎回「ぺろぺろ舐め取りフェイズ」に入るのか。

“ご主人様”というワードをトリガーに変態スイッチが入る。

 

「……いや、ほんと頼むから……この駄犬、誰か調教してくれ……」

 

魔王軍に襲われていることが問題ではなく、フランに襲われていることが問題である

……やっぱこいつ、可愛い顔して地獄だ。

 

(頼むから、せめて体重の10%くらい力抜いてくれ……物理的にきついんだよ……)

 

フランの愛は重たい。

肉体的にも、精神的にも。

でも――なんだかんだで助かってるのも事実だった。

 

~~~

 

 魔王軍に“本気で”狙われるようになってから、俺の状況も少し変わってしまっている。

 魔王軍の敵は俺では倒せない。つまり、パーティーに守られている状況

 こいつらのそばにいなければ死ぬ。でも、こいつらのそばにいると、精神が死ぬ。

 

 選択肢は存在しない。それが“外堀が埋まった”ということだ。

 

 魔王軍から逃げても、あいつらに捕まる。

 あいつらから逃げても、魔王軍に殺される。

 

 このルート分岐、どこにもエンディングがねえんだよ……。

 

「勇者様、最近は……私たちの距離が近くなって、嬉しいですよ♡♡」

 セラはいつもの優しい微笑み――あの、人をダメにする系のやつでにやにやしていた。

 

 その笑顔に騙されちゃいけない。

 こいつは、わかっていた。クリディアンを倒せば、魔王軍の怒りを買って、俺が自由を失うことを。

 

 わかってて、何も言わなかった。

 あのときも、止めるでもなく、焦るでもなく――「ふふっ」って笑ってた。

 

 (……なるほどな。最初から、そのつもりだったわけだ)

 

「勇者様って、優しいから……ほら、単独行動とかしようとするじゃないですか?」

「でももう、それは不可能になりましたね?♡」

 

 うれしそうに言うな。

 完全に“外堀埋めました♡”の顔だ、それ。

 

「勇者様がクリディアンを自分の意志で倒した時は勇敢だなと思いました♡♡」

「自分で決めたことだからしょうがないですよね♡♡」

 

 真顔で言ってくるな。

 お前のその「私じゃありません」っていう距離感が一番こわいんだよ。

 

 それに――たしかにそうなんだよ。

 クリディアンを倒したのは俺でも、山を吹き飛ばしたのはメルヴィナでも――

 最後の判断を下したのは、俺だった。

 

 自業自得だ。

 でも。それを全部読まれてたことが、一番きつい。

 

「ご主人様がもう一人で旅できないなんて……本当に、素敵♡」

 

 セラの声はあいかわらず優しかった。

 その優しさが、鎖より重く感じる。

 

セラの“攻め方”が――最近、いやらしくなってきている。

 

 いや、前から十分おかしかった。

 回復をあえてギリギリで止める、寸止めプレイ。

 耳元で囁いてくる、絶望のささやき。

 光魔法の温もりで油断させて、精神だけ確実に締め上げてくるような、あの性質の悪い追撃。

 

 でも最近のセラは、それに加えて――“外堀を埋める動き”が明らかに狙ってきてる。

 

 助けが必要になるタイミングを的確に見計らい、

 絶妙な“救済”を繰り返して、

 少しずつ、確実に――俺の「選択肢」を奪ってくる。

 

 本人は優しく笑ってる。

 けど、その言葉の裏には「お前はもう、逃げられないよ」って無言の宣告がある。

 

 依存させることに特化したサディスト。

 俺の「逃げたい」を、徹底的に壊してくる。

 

俺は、心がけている。絶対に、依存しないように。

 

最近、その意志すら弄ばれている気がして――怖い。

 

 

 

 セラはいつも笑っている。優しくて、慈愛に満ちている。

 けどその言葉の端々に、俺の感情の動きを正確に読んだ“意図”が透けて見える。

 

~~~

 

再び、スキル屋に足を運んだ。

あのとき「逃亡者」のスキルを売ってくれた、どこか胡散臭い魔術商人は――今日も元気に怪しかった。

「逃亡者・脱出術を買いに来たよ」

そう言った瞬間、スキル屋の表情が引きつった。

俺の顔ではない。表示されたステータスを見て、フリーズしていた。

「……あのクソ雑魚だったあんたが、なんで……」

「なんでこんなレベルになってんだぁぁぁあああッ!!??」

机をバンと叩いて、叫びだすスキル屋。

 

職業:勇者

レベル:87

HP:4120

MP:980

攻撃力:620

防御力:740

魔力:290

素早さ:1180

■所持スキル

・ワープ

・経験値アップ Lv2

・スキルポイント増加 Lv2

・ステータス鑑定 Lv2

・魔王軍の指名手配【逃亡者の進化スキル】

上位スキル

絶対封印結界《セイフティ・キューブ》

 

俺は肩をすくめて答えた。

「いろいろあったんだよ」

「やばくなったんだ」

「……それ以上聞かない。命が惜しい……」

おそらく察してくれたのだろう。スキル屋の目が、真剣になった。

「なんだ、この“逃亡者の進化スキル”ってのは!? “魔王軍の指名手配”って……!」

「知らねぇよ、こっちだって」

「勝手に手配されてた。もう、なにもかもが遅かった」

スキル屋はぶつぶつ言いながら、俺のステータスを念写のようにメモし始めた。

「このデータは貴重すぎる……頼む、記録させてくれ」

「この記録の恩に報いて――特別にやろう。逃げ素早さUPと逃げ回避UPだ。通常スキルだが、倍率式で乗るからな」

「マジで?」

俺は喜んでしまった。

スキル屋の視線が、俺のステータス画面に釘づけになっている。

魔王軍の指名手配【逃亡者の進化スキル】

効果:逃げたいと思った瞬間、素早さ2倍/逃走スキルの取得に必要なスキルポイントが軽減される

進化条件:魔王軍幹部6割以上から感情を向けられること(※好意・殺意問わず)

「……まさか本当に進化してるとはな……」

スキル屋は驚愕と尊敬が混ざった目で俺を見た。

 

「これは……スキルポイント軽減効果持ちか。本当にすごいな。」

「軽減って、そんなにすごいのか?」

「ああ。今まで発見されてたのは《切れ者》だけだ」

「取得スキルに必要なポイントを0.9倍にする。しかし、スキルポイントの要求量が多い」

「もってるのか?」

「もちろんだよ」

スキル屋は不敵に笑った。

「一流のスキル屋を舐めてもらっちゃ困る」

「……じゃあ、くれ。金はある」

そう言って、札束を出す。

火山を爆破してクリディアンを消し飛ばした報酬だ。黙っていても懐が温かい。

「なるほどな……それだけの札束、つまりそれだけ強いモンスターをぶち殺したってことか」

スキル屋は感心しており、俺を眺めていた。

俺は、スキル一覧を入手した。

切れ者

逃亡者 ×3

脱出術 ×3

逃げ素早さUP

逃げ回避UP

トンボ返り

 

見事なまでの、逃げ全振り構成。

「兄さん……“トンボ返り”は……いらんだろ?」

言外に、「そこまでは……」という気配がにじんでいた。

だが、俺は迷いなく首を振った。

「いや、必要なんだよ」

「俺が弱いから――仲間の元にすぐワープできるスキルがいるんだ。」

沈黙が流れた。

スキル屋は一瞬だけ表情を曇らせた後、ふっと視線を逸らした。

「兄さん……深いことは言わない」

「もう……沼にはまってしまったんだな」

「沼ってのはな……あがけばあがくほど、沈むもんだ」

「足を動かすほど、重くなる。怖くなる。戻れなくなる」

俺は目を伏せた。

でも、それでも――これしかない。

「……すまねぇ。今のは聞かなかったことにしてくれ」

「ちょっと、プライベートに入りすぎた」

スキル屋は、そう言って照れ隠しのように笑った。

だが、たぶん気づいている。

俺の選択は、逃げることじゃない。逃げ“続ける”ことなんだ。

それが、どれだけ残酷でも。

俺には、それしか残っていなかった。

 

~~

 

絶望の底に、沈んでいた。

どこまで逃げても、逃げ切れない。

魔王軍の刺客、日増しに狂っていく仲間の執着、自由など夢のまた夢。

自分がしたことの報いだと、百も承知だ。

でも、それでも――限界だった。

 

 そんな俺の脳内に、不意に“声”が響く。

 

「やあ。魔王軍幹部、“怠惰”担当だよ」

 

 ――幼い子供のような、無機質な声だった。

 響きは柔らかいのに、言葉の奥に冷たい“無関心”が混ざっている。

 

「……魔王軍!?」

 

「そんなに焦るなよ。僕もこの状況は面倒だと思ってる」

 その一言で、胸の奥がひやりと凍った。

 

「君たちがクリディアンを殺したからさ。

 それ以来、僕の部下が雑魚を作るのに手間がかかって仕方ないんだ」

 

「……お前が……経験値ゼロのモンスターを?」

「そうだよ。でも、あれも正直、面倒くさいからもうやめたい」

 淡々と、まるでゲームの設定変更の話でもするかのように。

 

「要件を話すよ。君には、タイムループをしてもらいたい」

 

 ……タイム、ループ?

 

「そんなこと……できるのか?」

「できるよ。君、“異次元の逃亡者”を持っているだろう?」

「ただの逃亡スキルだ。時間を戻すなんて――」

「僕の能力と組み合わせれば、“逃げる”概念を時間にまで適用できるんだ。

 過去に“逃げる”ことで、やり直すってわけさ」

 

 あまりにも理不尽で、でも妙に納得がいく理屈。

 この世界なら――いや、この俺なら、そういう展開もありえる。

 

「タイムループして……クリディアンを殺さなかったことにしろってのか」

 

「そうだよ。それで色々チャラにしよう。別の未来を選べるチャンス、悪くないだろう?」

「……信じられるかよ。お前、魔王軍だぞ」

「ふふ、信じるとか信じないとか……関係ないでしょ?」

「……」

「君、今――逃げることもできないんだよね?」

 その一言で、背筋が凍った。

 確かに。あらゆる方向を塞がれた俺に、選択肢なんて――

 

「……よろしくお願いします」

 

 俺の口から出たのは、まるで他人の声みたいに、

 どこか諦めきった、でもどこか希望にすがる言葉だった。

 

~~~

 

俺は、タイムループしてしまった。

 

魔王軍幹部・怠惰の能力。

“異次元の逃亡者”スキルとの連動。

そして何より、逃げ道のないこの人生に、ほんの少しの分岐点が与えられた結果――

 

 やり直すチャンスを手にしてしまった。

(よし……やることは、ひとつだ)

 ――伝えなければならない。

 

 あのセリフを。

 あの、すべての地獄の起点になった、あの“幻聴”を未然に断ち切るために。

 

 そう、つまり――

 

「環境破壊は気持ち良いzoy!!――なんて感情に支配されてはいけない。」

 

 これを。絶対に。

 何が何でも、全身全霊で己に刻み込ませる必要がある。

 

 あれを“ほんの出来心”でやった結果、

 魔王軍から追われ、仲間から囲われ、自由も尊厳も何もかも失った。

 俺はもう二度とあの“快楽”に溺れてはいけない。

 

 一人きりになった瞬間だった。

 誰もいないはずの空間に、突然――もうひとりの“俺”が現れた。

 

「よぉ~」

 

 軽いノリで、未来の俺は手を上げてきた。

 まるで近所のコンビニでばったり会った程度の空気感。

 

 

「……は?」

「俺か……!? モンスターに化けてるのか!?」

 

 俺はすかさずステータスを確認する。

 目の前の男は確かに俺――なのに、レベルがケタ違いに高い。

 

「ステ見てみろよ。未来の俺だから」

「いろいろあったんだよ、地獄がな」

 

 淡々と、そしてどこか疲れた笑みを浮かべていた。

 この男――いや、未来の俺の肩に乗ってる“重み”が尋常じゃない。

 

 そして視線が、俺のスキル欄に落ちた。

 

「“魔王軍の指名手配”って……おい、やばいって」

「そうなんだよ。マジでやばい。だから、俺は伝えに来た」

 未来の俺は、ゆっくりと歩み寄る。

 

「この未来を繰り返さないために、どうしても言わなきゃいけないことがある」

 

 俺はごくりと息を呑む。

 未来の自分が、わざわざ時を越えて伝えに来た“戒めの言葉”とは――

 

「環境破壊は気持ち良いzoy!!――なんて感情に支配されてはいけない。」

 真顔で言った。

 顔面が冗談じゃないのに、内容が冗談みたいだった。

 

「……は?」

 

「その感情が、全部の引き金だった。絶対に溺れるな。気持ち良いけど、地獄が待ってる。」

 

「いや、待って……俺が言いたいこと全部ギャグで押しつぶされてるんだけど……?」

 

「マジで重要なんだって。あの瞬間、やっちまった感と快感の融合で脳が焼けるんだよ。」

 

 未来の俺は、ものすごく真面目に語っていた。

 でも、「zoy!!」の響きだけが脳内に反響して離れない。

 

「……俺、そんな未来行きたくねぇ……」

 

「なら、忘れるなよ。環境破壊は気持ち良いzoy!!――は、禁句だ。」

 それはもはや、呪いの言葉だった。

 

「ご主人様が……2人いる!?」

 

 過去のフランが、見開いた目でこちらを凝視していた。

 この時代の俺に、全力で――押し倒しの姿勢に入ってきた。

 

「ま、まって……今の俺は未来の俺でだな――」

 

「ダブルご主人様!? どっちからいくか悩んじゃう♡♡」

 

「やばい!!!!」

 危機感の限界値を突破した俺は、即座に“戻る”決断を下した。

 

 

 

~~~

 

 

 ――瞬間、意識が引き裂かれ、視界が跳ね返った。

 ……帰ってきた。

 俺の“時間軸”に。

 

 目の前には、何も起きていないフラン。

 そして、健在なクリディアン。

 

 仲間たちは、まだ山を壊していない。

 セラは外堀を埋めていない。

 メルヴィナは触手を出してない。たぶん。

 

 未来のステータスを確認する。

 

職業:勇者

レベル:87

HP:4120

MP:980

攻撃力:620

防御力:740

魔力:290

素早さ:1180

■所持スキル

・ワープ(既知の町への転移)

・経験値アップ Lv2

・スキルポイント増加 Lv2

・ステータス鑑定 Lv2

・とんぼ返り(仲間へワープ)

 

・逃げ素早さUP 逃げたいと思ったとき素早さ 1.05倍

・逃げ回避UP 逃げたいと思ったとき回避率 1.05倍

 

上位スキル

逃亡者 :逃げたいと思ったとき素早さ 1.5倍

脱出術:逃げたいと思ったとき回避率 1.5倍

 

絶対封印結界《セイフティ・キューブ》

切れ者:必要なポイントを0.9倍

 

異次元の逃亡者【逃亡者の進化スキル】

効果:すべての逃亡スキル効果が強化され、回避率(1.5倍)・素早さ(1.5倍)に加え、発動中は敵からのロックオン効果を遮断します。

進化条件:「逃亡者」とワープ系スキルを2つ以上所持していることで解放可能。

 

魔王軍の指名手配【逃亡者の進化スキル】

効果:逃げたいと思った瞬間、素早さ2倍/逃走スキルの取得に必要なスキルポイントが軽減される

進化条件:魔王軍幹部6割以上から感情を向けられること(※好意・殺意問わず)

 

■所持品

逃亡者 ×1

脱出術 ×2

 

そして、仲間たちのステータスを見る限り――

「討伐前」のままだ。

 

 これは……つまり。

(俺の強さはそのままに、世界だけが“巻き戻ってる”ってことか……!?)

 バグ。

 都合のいいバグ。

 ――いや、ループこそが、俺の“最強の逃げ手”じゃないか。

 クリディアンを殺さなかったことで、魔王軍の怒りを買っていない。

 仲間の依存度もまだ低い。

 セラの追い込みもまだ本格的ではない。

 なのに――俺だけが、「強い」状態で動ける。

(……これが、俺の最適解)

 

 未来に戻れる。

 過去に戻れる。

 そのたびに、都合のいい状況を持ち帰れる。

 これが、俺の逃亡戦略《タイムループ》――最終奥義だ。

 

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