放課後スイーツ部二年、間宵シグレ   作:Rayu278

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第四話「対面」

 同刻。地響きが、体育館を揺らした。ぐらつく身体を、各々が各々の形で支え、立て直す。

 

「いっ……今の、何!?」

 

「わ、わかんない……。でも、ノドカちゃんが見張ってくれてるから、こっちに敵が来た~、とかじゃないと思う、よ?」

 

明確な脅威の接近を感じ、怯えたように縮こまりながら声を上げるコハル。それに寄り添う形で、安心させようと言葉をかけるのはアイリだ。

先生は当然として、ヒフミとコハル、ノドカに加え、スイーツ部のアイリ。戦闘を得意としない五人は、せめて万全の状態で決戦の舞台に臨める様に、合流場所である体育館に息をひそめ、ノドカの“覗き癖”を活かした広範囲の索敵で安全を確保している。

 

「あぅぅ…先生、本当に大丈夫でしょうか……」

 

“私も、かなり不安だけど……”

“今は、頑張っている彼女たちを信じるしかないよ”

 

 不安げなヒフミを元気づける先生も、その表情は硬い。ミサイルでも撃ち込まれたのでは、との憂慮からだ。状況は悪いのかもしれない。ヒフミを宥めながら、体育館の二階へ続く階段に目を向けた、丁度その時。どたばたと音を立てて駆け下りてきたノドカと、先生の目が合う。

 

”ノドカ、何かあったの?”

 

「ほ、報告が二つほど…!アズサちゃんが、敵を引き連れてこっちに近づいてきてます!罠とか爆弾とかいっぱい使ってちょっとずつ倒しつつ、ですけど……いつでも戦える準備は、整えておいた方が良いかもしれないです!」

 

 息を切らすノドカの声を聞いた一同は、各々銃を持ち上げ、表情を強張らせる。反応を確認した後、ノドカは次の報告へ移る。

 

「それから、さっきの地響きの事で、その…!」

 

 ごくり、と生唾を飲み込み、呼吸を整えながら。俯き気味に、ノドカは言う。

 

「……私にもはっきりとは見えませんでしたが……あれは、流れ星でした。流れ星が、そのままトリニティの敷地内に落ちて…!」

 

“……”

 

 俄かには信じがたい話だが、先の地震は自然現象としての地震やミサイル等ではなく、「隕石の落下」だとノドカは言う。天文学的な確率を引いた偶然、という事も考えられないではないが────今、トリニティを襲うこの事件と一切関係のない災害、とも考えにくい。かといって、その手段はと問われれば推測すらも出来ない。

 隕石を落とす程の超常的な力を扱えるのなら、わざわざ頭数を揃え、突入するまでも無く“それ”を開幕の狼煙にでも使えば良い物を────などと、先生が頭を回していた時だった。

 

「皆、無事!?」

 

 体育館の扉を蹴破るように、アズサが飛び込んでくる。待機メンバーの無事を確認してか、煤に塗れたその表情が少し和らいだ。しかし、その安心も束の間。

 

「────敵が攻めてくる!援護を!」

 

 アズサが背中で押さえる扉に恐らくは銃底、あるいは足を力強くぶつける、金属の音が体育館に響き渡る。

 

「先生、指揮を────!!」

 

“うん、任せて”

 

 考え事は後にしよう。まずは、降りかかる火の粉を払う所から。意識を切り替えた先生は、胸元からタブレット────「シッテムの箱」を取り出す。

 

“みんな、行くよ”

 

 戦闘準備を確認したアズサが飛び退き、扉が開かれ────アリウス兵との戦闘が始まる。

 

 


 

 

 瓦礫の山の中、大の字で転がる二人の少女が、呆然と空を見上げている。

 

「………シグレ、生きてる?」

 

「なんとか~……」

 

 ミカの神秘が引き起こす現象のひとつ。『星の呼び声』。

 彼女が発砲時に意識を向けた────神秘を込めた弾丸の、着弾点か被弾対象を「マーキング」し、その地点を中心に「隕石」を引き寄せる攻撃を行う。

 音速で、宇宙より飛来する隕石は大気圏の摩擦で燃え上がりながら、抵抗を受けてその速度を落とす。引き寄せる隕石は彼女自身にも選ぶ事が出来ない為、そのまま大気圏で燃え尽きる事もあれば────今回の様に、甚大な被害を及ぼす場合もある。威力にムラがある所の、当たりを引かれた。

 

 「マーキング」は二人に直撃した弾丸ではなく、地面に穴を空けた弾丸に込められていた物だ。地面に衝突した隕石の衝撃波だけで実質戦闘不能に追い込まれる程であるから、幸いにも、というべきだ。

 飛び散った瓦礫や、吹き飛ばされた先の地面、壁にぶつかった全身の打撲の痛みを堪えながら、カズサが上体を起こす。

 

「手ぇ貸すとは言ったけど、こんな事になるとか思わなかったよ…起きれそう?」

 

「……やー、ちょっと厳しそう、かもなぁ。…ん、しょ。ごめんね、カズサ。巻き込んじゃって」

 

 軋む身体を、それでも無理に起こしつつ。ぺたんと地面に腰を下ろしたまま、一足先に立ち上がるカズサに目線を合わせるシグレ。

 ……お互いに、ぼろぼろ。服は破れ、各所に血や打ち身が滲む。満身創痍も良い所だ。

 

「乗り掛かった舟だし、今更でしょ。……アイツは?」

 

 吹き飛ばされ、肩紐の千切れたマシンガンを見て、うげ…と顔を顰めるカズサ。持ち運びがかなり不便になる。

 

「さぁ。追撃に来ないって事は、補習授業部の方に行ったのかな……甘えてられないね、早く行かないと」

 

 周囲を見回しながら、千切れた肩紐同士を結んで応急処置をするカズサを横目に、ぷるぷると震える脚に鞭打って、それでも立ち上がるシグレ。

 

「……ノドカや、アイリが危ない。でしょ?」

 

「……だとしても無理しすぎ。瀕死の私らが駆け付けたって焼け石に水だよ、どうせ」

 

 先走りたいのは、カズサも同じ。だが、自身より怪我の酷いシグレの姿を見てしまっては、同じことは言えない。

 

「休みながら行こう。……向こうは人数もいるし、ヨシミたちもそろそろ着く頃。先生も居るんだから、そう簡単にやられないよ」

 

 シグレを元気づける言葉は、そのままカズサ自身にも言い聞かせる様に。

 脚の震えるシグレを見かねてか、カズサは肩を貸し…二人はゆっくりと、体育館に向けて歩き出した。

 


 

 

「────右八、左四です!」

“アズサ、ヒフミと一緒に右手側から回って”

“コハルは左後ろのバリケードまで退こう。そこから撃てる?”

「────ムリ、見えない!一個右に行っても良い!?」

“うん、そこなら大丈夫”

“移動したら、さっき居た辺りに「投げれる」かな”

「ヒフミ、後ろを取った。同時に出よう」

「は、はいぃっ…!3、2、1────」

「────ファイア!!」

“ヒフミ、前に出すぎかもしれない”

“アズサ、少し相手の気を引ける?”

「了解。無理せず退いて、ヒフミ」

「す、すみません、下がりま…!わっ!」

「二人ダウン、確認しました!」

“コハル、ナイス!流石エリート!”

「当然よ!…ってうわあ!?」

「コハルちゃん!?」

“…足元に気を付けようね”

“ノドカ、状況はどう?”

「左手前のバリケード裏に二人!」

“コハル、裏を取られるから前に出よう”

“ヒフミと合流しても大丈夫”

「わ、わかった…!」

「アズサちゃんが気を引いてる四人と、ヒフミさんが相手してる二人…あと二名は中央付近移動中!」

“……ヒフミ、「かく乱」!中央手前のバリケードを先に取ろう!”

「ぺ、ペロロ様…お願いしますっ!!」

“アズサ!コハルと合流できる!?”

「四秒で向かう────スモーク!」

「わ、私は!?」

“待機でいいよ、コハル。その位置をキープしよう”

 

 

 

 五対、十二。設置しておいたバリケードや遮蔽となりうる備品を利用し、身軽に戦場を駆けるアズサ。彼女を主軸に、ヒフミとコハルがその援護。ノドカは後衛に就き、戦場全体を俯瞰して見渡し、先生の指揮を手伝う。

 

 人数差は単純に不利だが、それを物ともしない戦略、指揮、連携により、少しずつ敵戦力を削いでいく。コハルの手榴弾で倒した二人に加え、ヒフミとアズサの連携で更に三人。単独で、先生を狙いに来た一人をノドカが撃破し、残りは半分。それに加え────。

 

「もう、始まってる!?」

「助太刀に来たよ────先生!」

「遅くなりました、先生!戦況は、如何なものでしょうか」

 

 合流したヨシミ、ナツ、ハナコを加え、これで人数差でも逆転。あと一押しで、制圧も見える────と、言った所で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ、まんまとしてやられた、ってとこ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“ミカ……?”

 

 

「やっ、久しぶり先生。また会えて嬉しい────とは、今はちょっと言えないなぁ」

 

 複数のアリウス生を引き連れ、体育館に堂々と入場してきたのは、ミカ。

 髪は乱れ、肩にかけているケープも破れている。制服にも穴が開き、頭から砂を被った様に汚れた服装だ。

 

「……正義実現委員会は動かないよ、コハルちゃん。私が改めて待機命令を出したから」

 

「『ティーパーティー』のひとり……聖園、ミカさん……」

 

「まあ、黒幕登場☆…のシーンにしては情けない格好だけどさ。……クサい芝居だね?えっと……浦和ハナコ、だっけ。合ってる?」

 

 一同の警戒の目が一点に集まる。その中央に立つミカは、面倒臭そうに溜息を漏らし、髪についた汚れを払い落としながら並んだメンバーを一望した。

 

「補習授業部以外に、見ない顔もいるけど……二人を使って時間を稼いで、その子達と一緒にこっちの戦力を分散させて、後は私をみんなで囲めばいい…って寸法か。性格悪いね、ハナコ。ナギちゃんの下にあの子…シグレを送り込んだ時点で────私が本当の“トリニティの裏切り者”って、気づいてたくせにさ?」

 

 銃床を握り、ハナコを指し示すようにその先を向けるミカ。不機嫌を隠そうともしない声色と、しかし貼り付けたような笑みを浮かべたまま。

 ハナコは、ミカを睨みつけたまま動かない。数秒、返事を待った後、痺れを切らしたミカが更に言葉を重ねる。

 

「おかげで、色々と計画が狂っちゃった。……ま、良いけど。ナギちゃんをどこに隠したのか教えてくれれば、それで、さっ」

 

 再び、銃を握り直す。今度は引き金に手をかけ、発砲も辞さない姿勢を見せつけた。

 

「……ここにいる全員を消し飛ばしてから、ゆっくり探しても良いんだよ。さっきの、見えたかな?」

 

 そして、その銃口をおもむろに天井へ向ける。その行動の意図を真っ先に理解したのは、彼女が指し示すものを、この場で唯一目の当たりにしている、ノドカだった。

 

「────あの、流れ星……!!」

 

 それまで後方で怯え、押し黙っていたアイリがはっと息を呑む。

 

「シグレちゃんは…カズサちゃんは……!?」

 

 トリニティの端までを揺らすような流星の一撃を、恐らくは受けたであろう“誘導係”の友人たち。二人が、ミカが到着してもなお、未だこの合流地点に現れないことの意味に、気づいたからだ。

 

「シグレと……カズサっていうんだ、あの子。────黙らせて来たよ。安否は知らないけど直撃はさせてない筈だし…暫く入院ぐらいで済むと────」「っ、う、わあぁあぁあ!!!」

 

 ミカの言葉が終わるのを待たず、銃を構えるノドカ。

 

 “ノドカ、待って!!”

 

 先生の制止も届かず、ノドカが引き金を引き、銃声が響き渡る。

 

 銃弾の雨は、体育館の床板を踏み割りながら駆けだしたミカの頭上を通り抜け、向かいの壁に弾痕を残す程度の被害に収まってしまう。

 ミカがノドカの下まで距離を詰めるのに要したのは、たったの二歩。反応すらできずに引き金を引いたままのノドカに対し、ミカは銃撃ではなく格闘を選択する。畳んだ足を鋭く突き出し、腹部目掛けて蹴りを繰り出した。

 

「!」

 

 が、彼女の足はノドカに届かず、防がれる。速度が乗り切る前、足が伸びきる少し前の所でそれが遮られ、透明な硬い障壁にぶつかる音が響く。

 

「忘れてもらっちゃ困るよ、私達の事ぉ、おぉ…!」

 

 ノドカとミカの間に割って入ったのは両足を強く踏ん張り、シールドを構えたナツ。蹴りを受け止めたシールド越しに、それを握る手にまで衝撃がびりびりと伝わり、思わず冷や汗を垂らす。

 

“ヨシミ、アズサ!”

「「はあああぁあ!」」

 

 ナツに続き先生の指示を受け、後方から左右に分かれてミカを囲う様に飛び出した二人。当たらなかった弾丸が対面の味方に当たらないよう、足元を狙った銃撃だが、ナツのシールドを足場に後方へ勢いよく飛び退いたミカには惜しくも届かない。

 

“………ハナコ、これでいいの?”

 

「……はい。時間を稼いで頂ければ…!」

 

 頷いた先生は、再びシッテムの箱を叩く。

 

『…ヒフミさんは先程の戦闘での消耗が残っています。先生はアロナが守りますから、直接ナツさん達に指示を出来る位置で戦闘に参加する事を推奨します……!』

 

“うん、ありがとう。アロナ”

 

 底の見えないミカを除いた、自陣と敵陣の戦力差と状況の確認。先程までのゲリラ戦と陣形を変え、ミカと相対する。

 

“ハナコ、ヒフミの補助に付いてあげて”

“ノドカはコハルと一緒に援護射撃。カズサ達と私が前に出る”

 

 疲弊が目立つヒフミにハナコを、長物を持つコハルに視野の広いノドカを着け、各々に適した配置に。アズサとヨシミを左右に置き、シールドを構えたナツを最前線に、先生がその後方を位置取った。

 

“それじゃ、行こう。補習授業部と、スイーツ部のみんな”

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