悪魔を愛した少女の日記【完結】   作:結寄

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47話

 それは国同士の要請ではなく、非公式な申し入れという形で届きました。

 間もなく始まる「停戦交渉」の場に、トウリ・ロウ少尉も同席してほしい。アルノマ・ディスケンスとシルフ・ノーヴァの2人が、「友人として話がしたい」と望んでいるから、という内容でした。

 

 敵国の重要人物からの「友人」呼ばわり。受け取ったのがヴェルディさんでなければ、私は内通を疑われて捕らえられ、厳しい尋問の果てに悲惨な最期を遂げていたことでしょう。

 

 幸いというか当然というか、ヴェルディさんはそんな疑いを持ってはいませんでした。

 相手の目的は何だと思うか、意見を聞きたいと言ってベルンのテントを訪ねてきたのです。

 

「おまえはどう思う?」

 

 ベルンに話を振られて、私は考えてみました。

 

 アルノマさんは、祖国のためにやむを得ず戦いの場に身を置いていますが、本来は平和を愛する人です。最後に会った時も、「講和を望んでいる」とはっきり言っていました。

 その彼が、停戦交渉の場で、「友人」である私に会いたいというのです。この停戦が実現するよう、協力を求めるつもりなのかもしれません。

 

 ただ、シルフの方はよくわかりません。

 私にとってシルフは敵であり、彼女にとってもそれは同じはずです。

 今さら会って、何を話そうというのでしょうか。彼女の性格からして、騙し討ちにしようとしているとは思えませんし。

 

「ま、理由はいいか。何にせよ、こっちにとっては好都合だ」

 

 ベルンは渡りに舟だという顔をしていました。

 私とシルフが直接対面するなら、手間暇かけて手紙を届ける必要はなくなります。確実に用件を伝えられる上、面と向かって言葉をぶつけた方が、より策の効果が見込めるからです。

 

「ですが、危険では――」

 

 私のことを心配してくれたのでしょう。ヴェルディさんは異論を述べましたが、

 

「仮にも停戦交渉の場で? こんな小娘1人騙し討ちにして、誰が得しますか」

「それは……っ、そうかもしれませんが!」

「行ってこい」

 

 ベルンはいかにも軽く、私に命じました。

 

「あの女に現実ってものを見せてやれよ」

「……承知致しました」

「トウリちゃん……」

「大丈夫です、ヴェルディさん」

 

 これが重要な策の一環であることを私は説明しました。

 敵の切り札とも言える「塹壕の魔女」を無力化し、オースティンに勝利をもたらすために必要なことなのだと。

 

 それを聞いてヴェルディさんも、迷いを残しながらも承知してくださいました。

 

 こうして私は外交団の一員として、停戦交渉の場に同席することになったのです。

 

 

 

*****

 

 交渉が行われるのは、オースティンでもフラメールでもなく、両国に隣接する中立国でした。

 馬車で何日もかけて国境を越え、私たちは指定された地方都市までやってきました。

 同行しているのは、責任者である政府高官、外交部の担当者、さらに軍の代表として、ヴェルディさんの従兄(いとこ)にあたるジーヴェ大尉と、彼が連れてきた護衛部隊です。

 

 護衛の中にはガヴェル曹長をはじめとして、トウリ遊撃中隊の兵士も何人か含まれていました。

 見知らぬ人間ばかりでは不安だし気疲れするだろうという、ヴェルディさんのありがたい気遣いによるものです。

 

 ちなみに私自身も、表向きは護衛部隊の1人として同行しています。

 敵側の将から同席を求められたなどという話を、下手に広めては混乱を招くからです。

 

 停戦交渉が行われる、その日。

 世相をそのまま反映したような暗く重たい雲が垂れ込める中、私たち一行は会場入りしました。

 

 そこはいかにも歴史的価値がありそうな、3階建てくらいの古い建造物でした。

 今現在はお役所として使われているそうですが、ぱっと見は教会か何かのようです。私は前世で見た(と言っても直接訪れたわけではなく、テレビや写真で、ですが)どこかの街の世界遺産を思い出しました。

 

 そんな立派な建物に入り、先に到着していたフラメールの外交団と形だけの握手を交わした後で、私はすぐに別室に呼び出されました。

 護衛のガヴェル曹長らと共に足を運ぶと、そこで待っていたのは2人。

 

 1人は長い銀髪の美しい女性将校。そろそろ少女の面影も消えつつあるシルフ・ノーヴァと。

 もう1人は、彼女の副官であるエライアさんでした。

 

「久しぶりだな」

 

 シルフは私の姿を見るなり席を立ち、彼女らしくない歪んだ笑みを浮かべて見せました。

 

「アルノマさんは――」

 

 私は2人の連名で呼び出されたはずですが、姿が見当たりません。

 そこはガランとした殺風景な部屋で、家具と言えば飾り気のない4人がけのテーブルが置いてあるだけ。

 我々が入ってきたドア以外の出入り口もありません。どう見てもシルフとエライアさんしか居ないようですが……。

 

「ああ、奴も誘ったのだがな。恨み言のひとつも言ってやりたいだろうと」

「恨み言……?」

 

 戸惑う私に、シルフは悪びれもせずに言い放ちました。

 

「アルノマは来ない。今は貴様の顔を見たくないそうだ」

 

 私に用があるのは、最初からシルフ1人。しかし彼女の名前で呼び出しても私が警戒して来ないだろうと考え、アルノマさんの名前を借りただけなのだそうです。

 

「つまりあなたは、私を騙したのですか」

「ハッ。貴様がそれを言うのか」

 

 非難を込めて告げると、シルフは壊れたように笑いました。

 

(あざむ)いたのは貴様の方だろう。……あの時、砦で会ったあの男。やはりベルン・ヴァロウだったんだろう?」

 

 それは、私たちが最後に会った時の話ですね。

 もう1年以上前になります。私とベルンがフラメールの部隊に拘束され、そこでシルフと遭遇し、絶体絶命だった時のことです。

 

「愛だの何だの、くだらん芝居をして、私を騙した」

 

 それは事実ですが、私に罪悪感はありませんでした。

 こちらも命がかかっていたのです。生きのびるためなら、どんな醜い嘘だって使います。

 

 もう1人、その嘘で騙してしまったアルノマさんには、申し訳ないと思う気持ちも多少ありますけどね。

 何しろ私たちが無事に戻れたのは、アルノマさんが逃がしてくれたからなのですから。

 罪の意識はあります。……ですが、シルフに責められても何とも思いません。むしろ知将として名高い彼女が、私ごときにあっさり騙されたことを恥じるべきでしょう。

 

「……撃てば良かった」

 

 シルフは心の底から後悔している様子でした。目の前のテーブルを拳で叩き、

 

「あの時、奴を殺しておけば……!」

 

 ええ、悔しいでしょうね。敵将を討つ千載一遇の機会を逃したのですから。

 あの時、シルフがベルンを殺していたら、状況は大きく変わっていたはずです。今回の撤退戦での敗北も、それに伴う停戦交渉もなかったでしょう。

 

「奴は本当に非道な男だ。敵とはいえ、勇敢に戦った兵士に敬意を示すこともなく、遺体を(もてあそ)んでさらし者にした」

 

 今度は何の話ですか。……遺体を弄んでさらし者にした?

 

「もしや『大盾』のことですか」

 

 私が尋ねると、シルフは「他に誰が居る」と言いたげな顔をしました。

 

 敵のエースを首尾良く討ち取ったなら、確実に敵の目につく場所にさらせと命じたのは確かにベルンです。

 けれども、この時代の戦争においては、目を剥くほど非道な行為というわけではありません。

 たとえ命じられなくても、前線の兵士はわりとやりがちですし。

 

 何より、サバトの兵士は、民間人の遺体すら損壊して弄ぶことで有名です。

 私は忘れません。シルフ攻勢によって前線を突破した後で、サバトの兵士たちがオースティンで何をしたかを。義妹リナリーの惨たらしい最期の姿を。

 

「……サバト人であるあなたが、それを言いますか」

 

 少なからず怒りを覚えていると、シルフはなぜか愉快そうに笑いました。

 

「知っているか、トウリ。貴様らが『大盾』と呼ぶあの男はな。アルノマの右腕であり、親友だった」

「……っ!」

「友の無惨な亡骸(なきがら)を目の当たりにして、アルノマは人目も(はばか)らずに号泣したそうだ。まあ、無理もない。『大盾』はオースティンの捕虜となった家族を救うために戦っていた。その家族とは先日、エンゲイの街が解放された時に再会したばかりで――その感動的な場面に、アルノマも立ち会ったというからな」

「…………」

 

 さすがに衝撃を受けつつ、私はアルノマさんがこの場に同席しなかった理由を理解しました。

 彼の親友の命を奪ってしまったのです。私たちはもはや、「友人」と呼べるような関係ではない、ということなのですね。

 ここに来て、私を罵倒したい気持ちだってあったでしょうに。

 そうしなかったのは、まだしも紳士的な決別の形と言えるかもしれません。

 

 私がじっとうつむいていると、シルフはほんの少しだけ態度を軟化させました。

 

「なあ、トウリ」

 

 怒りや憎しみばかりではない。わずかに親しみのこもった声で名前を呼んで、

 

「貴様は本当に、身も心も悪魔に魅入られてしまったのか」

「?」

「貴様はベルン・ヴァロウの『お気に入り』だと噂されている」

 

 いたいけな少女のような外見で、旧サバト軍のエースを笑いながら討ち取った。その女兵士はベルン・ヴァロウの腹心で、部下としても女としても寵愛されている――という噂が、連合軍にはあるのだそうです。

 

「やはり、貴様は奴の手駒で、最初から目的を持って私に近づいたのか……」

 

 違いますよ、と私は答えました。

 

「何度も言っているように、私がサバトに流れ着いたのも、あなたと出会ったのも偶然です」

「…………」

「ベルン・ヴァロウ少佐は、私の上官で――」

 

 生き別れの兄です、とはさすがに言えませんね。

 

「今は私の、大切な人です」

「ハッ」

 

 シルフはまた壊れたような笑みを浮かべて見せました。

 

「貴様、正気か。よりにもよって、あの悪魔が『大切な人』?」

「……彼は人間です。私たちと同じ」

 

 嘲笑を続けるシルフに、私は淡々と事実を述べました。

 

「人でなしで、ろくでなしで、快楽殺人鬼ですけど」

「……?」

「彼にとって『非道な行い』は、目的ではなく手段です」

 

 本人は好きでやっているようなので、実益を兼ねた趣味と言った方が正確かもしれませんが。

 ベルンが虐殺そのものを目的としているのなら、戦略的に意味のない戦いでもしたでしょう。

 でも、実際は違う。彼はいつも戦争に勝つため、オースティンの国益のために動いていた。

 

「彼と私は、農村部の出身です。当たり前の日常を営んでいたところに、ある日突然、戦乱がやってきた」

 

 この戦争は、あまりに長く続きました。

 もうすぐ19歳になる私は、戦争のない時代をほぼ知りません。戦乱の中に生まれ、生きて、大人になったのです。

 それは4つ年上の兄も大して変わらないでしょう。私たちは平和を知らない世代なのです。

 

「自分が生きのびるためには、戦うしかなかった。敵を殺すしかなかった。自国を守るために、敵国を踏みにじるしかなかった」

 

 弁解のつもりはありません。それが正しいことだなんて私も思いませんから。

 

 ベルンはサバトでもフラメールでも村を焼きました。

 ごく普通の人々が暮らす、普通の村を。かつて、私たち兄妹が住んでいたような場所を。

 

「それを悪魔の所業だと糾弾するならば――どうか教えてください、シルフ」

 

 私たちには他に、どんな選択肢があったのかを。

 

「あなたのように裕福な人なら、国外に亡命するというのもひとつの道かもしれませんね」

 

 だけど自分たち庶民には、逃げる場所などありません。

 望んだわけでもなく戦乱の渦中に放り込まれて、何もしなければ全てを奪われるだけ。そんな運命を押しつけられて。

 

「自分は死にたくない、奪われたくないと(あらが)うことは、そんなに悪いことですか」

 

 いつしか、私の声は震えていました。

 怒りなのか、悲しみなのか、自分でもよくわからない感情が胸の奥からわいてきて、制御が利かなくなりそうでした。

 

 そんな私を、シルフはどこか哀れむように見ておりました。

 

 ――悪魔に心を奪われた愚かな女。

 

 それが彼女から見た、私の姿だったのです。

 

「貴様は何もわかっていない。あの悪魔が戦うことに、そんな人間らしい理由などあるものか」

「知った風なことを……!」

 

 あの人のことなんて何も知らないくせに。そう思って彼女をにらむと、

 

「知っているさ。貴様があの砦で、奴をかばった時。貴様が撃たれるかもしれない状況で――あの男が顔色ひとつ変えていなかったことを知っている」

「!」

「仮に、奴が貴様にとって『大切な人』なのだとしても」

 

 向こうはそう思っていない。ただその想いを利用され、いいように使われているだけだとシルフは断言しました。

 

「もう結構です」

 

 これ以上、何を言っても、話が通じそうにありません。

 

「それより、私をここに呼び出した目的は何ですか、シルフ」

 

 私を(あざけ)り、哀れむためだけに、わざわざ名指ししたわけではないでしょう。

 

「当たらずとも遠からずだな」

「はあ?」

「貴様に良心が残っているなら、慈悲を与えてやってもいいと思っていたんだ。これはアルノマの、戦友の頼みでもあった。できるものなら貴様の目を覚まさせてやってくれ。貴様のことを救ってやってくれと」

 

 どうやら無駄足だったらしいと、シルフは乾いた声で言いました。

 

「私たちの感傷など、貴様にとっては無用の長物だったということがよくわかった」

 

 露骨に馬鹿にした言い方に、何様なのかと腹が立ちました。

 

「……そうですか。わかりました」

 

 ならば、こちらの用件を済ませてしまうだけです。

 私は、持ってきた荷物の中から写真の束を取り出し、テーブルの上に並べ始めました。

 

 

 

*****

 

 それは一見すると、何の変哲もない日常を切り取っただけの写真でした。

 

 市場で買い物をする人。

 広場で追いかけっこをして遊ぶ子供たち。

 綺麗な噴水のある公園で、のんびりおしゃべりをするご婦人やご老人。

 

 しかし、写真を目にしたシルフの表情は明らかに強張っていました。

 彼女にはわかるのでしょうね。それがどこで、何を意味しているのか。わかる人にはわかるように写された写真なのですから。

 

如何(いかが)ですか? シルフ」

 

 私は写真に釘付けになったまま動かない彼女に、残酷なほど優しく言葉をかけました。

 

「これが今のサバトです。あなたが命がけで救おうとしている故郷の姿ですよ」

 

 そう。そこに写っているのは全てサバトの街並みでした。

 まるで戦乱が起きる以前のように、いえ、それ以上に復興し、平和になったサバトの街。

 シルフが必死になって取り戻そうとしているもの。シルフが愛した、かつての故郷の姿。

 

「あなたが悪魔と呼ぶ人物は、あなたの祖国を復興させるため、随分と骨を折ってくれたんですよ。幾度となくサバトに足を運んで、自ら賊の討伐に出向いたり、内政官を派遣したり」

 

「ふざけるな!!」

 

 唐突に、シルフが叫びました。

 

「こんなのはデマカセだ! 私を騙すための偽物に違いない!」

 

 そういう反応はもちろん予想していました。

 私はすました顔で「嘘ではありませんよ」と告げて、さらに荷物の中から取り出したものをシルフの前に並べました。

 

「こちらがサバトの新聞。できるだけ新しいものを送ってもらいました」

「……っ!」

「こちらの手紙は、ヨゼグラードの市民が書いたものです。これが飲食店の店主さん、これは学校の先生で、こちらが3人の子供のお母さん」

 

 新聞の日付は2週間ほど前で、復興したヨゼグラードの様子や、民の暮らしぶりが伺えます。

 手紙も似たようなものです。

 労働者議会の統治がいかに真っ当か、それによってどれほど自分たちが助かっているかが綴られています。

 

 といっても、労働者議会の依頼によって書かれた手紙ですから。当然のこと、ある程度の「やらせ」は入っているでしょう。

 

 それでも、手紙を読んだ私にはわかりました。

 彼らが祖国の復興を心から喜んでいること。この平穏が続いてほしいと切実に願っていること。

 旧サバト軍が帰還して、労働者議会から政権を奪うためにまた戦乱が起きる。そんな未来を、彼らは誰も望んでなどいないのです。

 

 その事実をシルフに突きつけるため、私はこれらの品を持参しました。

 写真も新聞も手紙も、全てベルンがレミさんに頼んで送ってもらったものです。

 

 ――労働者議会に国は治められない。遠からず破滅する。だから我々が政権を奪取し、国民の目を覚ます必要があるのだ。

 

 それがシルフ・ノーヴァの戦う理由でした。

 

 だからベルンは、サバトの復興に手を貸したのです。

 救われなければならない民がサバトに居なくなれば、シルフの大義名分は意味をなくします。祖国を救うどころか、再び戦乱をもたらすだけの害悪となってしまうのです。

 

 かつて、自らの策で地獄と化したサバトを、敵将シルフ・ノーヴァの牙を折るためだけに復興させる。

 そういうことができてしまうあの人を、私はとても恐ろしいと思います。

 

 ただ、その一方で。

 もしもオースティンに「ベルン・ヴァロウ」が生まれていなかったなら。

 周辺国に蹂躙され、地獄と化していたのはオースティンの方だったこともわかってしまうのです。

 

「貴様は――いや、貴様らは人間じゃない」

 

 やがて、シルフは言いました。血走った目をして。血を吐くような声で。

 

「そうでないなら、どうして、ここまで残酷なことができるというんだ……」

 

 ええ、そうですね。

 シルフがいかにサバトを愛しているか。身を削り、狂い果て、それでも祖国のために尽くしてきたこと。

 私はよく知っていますよ。かつて彼女の下で働いていたのですから。

 

 年若く美しい女性であるにも関わらず、彼女にきっと青春なんてものはなくて、その人生の大半を戦いのために捧げてしまったのでしょう。

 

 彼女の大義を否定することは、今まで生きてきた意味を全て否定するようなものです。

 それが残酷でない、などとどうして言えるでしょうか。

 

 ならば、なぜ? と。

 そう問われたなら、答えはひとつ。

 これが戦争で、私たちが敵同士だからですよ。

 

 もっといえば、あなたの大義が、存在が、私たちを否応なく(おびや)かすからです。

 

 あなたがオースティンと戦う目的は、この戦争で手柄を挙げて、周辺国に旧サバト政府軍の存在を認めさせること。いずれ労働者議会から迫害を受けるだろうサバトの民を、迎え入れるための領土を得ることですよね?

 

 その領土はどこから取るつもりでしたか? 当然オースティンからでしょう?

 

 あなたの目指す理想は結局のところ、オースティンの犠牲を前提にしている。

 けれども、私たちだって人間です。黙って踏み台にされるわけにはいきません。自分たちが生きる場所を守るためなら、残酷な手段も迷わず使います。

 

 ……戦争ですからね。敵に慈悲をかければ、何かを奪われるのは自分たちの方なのですから。

 

「ああ、あああ!! こんな、こんなもの!!!」

 

 長い銀髪をかきむしり、狂ったようにわめき散らしながら、シルフは手紙や新聞を破り、投げ捨て、踏みにじりました。

 

「シルフ様!」

 

 エライアさんが駆け寄り、なだめようとしても耳に入っていないようです。

 これ以上の会話は不可能と判断した私は、護衛の皆さんに目配せして、そっと部屋を出ました。

 

 ロドリーくんの仇。リナリーの仇。アレンさんたち、大切な仲間の仇。

 けれども、かつては心を通わせたこともある、友人だったかもしれない少女に背を向けて。

 

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