悪魔を愛した少女の日記【完結】   作:結寄

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52話

 私が実際にアルノマさんと会うことができたのは、それからおよそ2週間後でした。

 

 場所は前回、停戦交渉が行われた中立国の地方都市。会場となったのも同じ建物です。

 

 あの時、アルノマさんは、私の前に姿を見せてくれませんでした。

 シルフの話によれば、「今は顔を見たくない」と言っていたとか……。なので、今回も果たして面会できるのか、不安はあったのですが。

 

 アルノマさんは会ってくださいました。

 まるで応接間のような立派な部屋で、屈強なフラメール兵の護衛を従えて、硬い表情を浮かべて待っていました。

 

 変わらず堂々とした体躯の偉丈夫ですが、その顔には前に見た時と違って、深い苦悩と疲労の色が滲んでいました。目の下にクマができていますし、どことなく頬が()けたようにも見えます。

 

「……お久しぶりです、アルノマさん」

 

 私が頭を下げると、彼は硬い表情のまま小さく首を振りました。

 

「あいさつはいい。すぐに本題に入ろう」

 

 アルノマさんが「2人きりで話したい」と希望されたので、ガヴェル曹長ら、護衛の皆さんには退出してもらいました。

 フラメール兵の護衛も、無言のままぞろぞろ出て行って。

 

「まずは座ってくれ」

 

 アルノマさんに(うなが)され、私は部屋の中央にあるテーブルに着きました。

 

 お金持ちが使うような立派なテーブルでした。室内に置かれている絵や調度品も立派なものですし、掃除も行き届いているように見えます。

 部屋の奥には開け放たれた大きな窓があり、その奥には露台(バルコニー)があって、季節の花が飾られていました。

 柔らかな春風が、窓辺にかけられたカーテンを静かに揺らしていて――。

 

 穏やかで平和な情景でした。室内の重く緊迫した空気とは、見事に相反するような。

 アルノマさんもそう思ったのでしょうか。かすかに、ほんのかすかに苦笑して、

 

「……さて。何から話せばいいだろうか」

 

 そう言われると、私も返事に困ります。

 話すべきことはいくらでもあるのです。

 ここに来た目的は無論のこと、あの砦で命を救ってくれたことへの感謝とて、本来であればすぐにも伝えるべきだったでしょう。

 

 けれど、彼の親友の命を奪った私がそれを言ったら――あの時、私たちを見逃したりしなければ良かったと、アルノマさんに後悔させてしまうだけではないのでしょうか?

 

 かといって、「申し訳ありませんでした」と謝罪するのもひどく白々しい感じがします。

 私たちは戦争という名の殺し合いをしているのです。「あなたの大切な人を殺してごめんなさい」なんて言葉は、あまりに滑稽(こっけい)です。

 

 結局、言うべき言葉を見つけられなかった私は、会話の主導権を相手に渡してしまいました。

 

「言いたいことは何でも仰ってください。恨み言でも、罵倒でも、お望みとあらば何時間でも聞く所存です」

「……そうか」

 

 アルノマさんは視線をテーブルに落とし、しばし無言で居ました。やがてゆっくりと顔を上げ、

 

「いや。まずは君の用件を聞こう。話はそれからだ」

「……わかりました」

 

 相手に話せと言われて、私はようやく本題に入りました。

 

 フラメールの現政権が無謀な持久戦をするつもりであること。アルノマさんにそれを止めてほしいこと。オースティンが支援を行う用意があることも。

 

 アルノマさんはひどく真剣な顔で耳を傾けてくださいましたが、話が進むに連れて、そのまなざしは暗く陰っていきました。

 

「私に、同胞たちに銃を向けろというのか」

 

 テーブルが壊れそうな勢いで(こぶし)を叩きつけ、

 

「かつてのサバトのように、同じ民族同士で殺し合えと!」

 

 その語気の鋭さに押されつつ、「必ずしも内戦になるとは限りません」と私は反論しました。

 

 たとえばエイリスでは、反戦派の勢いに押されて議会が解散し、総選挙が行われようとしているのです。

 その選挙で反戦派が政権を奪取すれば、この戦争から手を引く可能性が高いと聞いています。

 

「フラメールの人たちだって、本当はもう戦争をやめたいと考えているのでしょう?」

 

 アルノマさんならきっと、そうした人たちの支持を集め、彼らの希望となることができるはずです。

 

「私も同じです。これ以上、両国の民が、無為に命を奪い合うのは見たくない」

 

 もう殺し合いは嫌です。戦争は嫌です。それはまごうことなき私の本心です。

 

 必死で言葉を紡ぐ私に、アルノマさんが何か言い返そうとした時。

 

 笑い声が、室内に響きました。

 

「詭弁だな、トウリ・ロウ」

 

 げらげらと(あざけ)るような、不愉快な声を響かせて。

 露台から姿を現したのは、私の宿敵、シルフ・ノーヴァでした。

 

 

 

*****

 

 シルフはヴォック酒の瓶を片手に、こちらに歩み寄ってきました。

 だいぶ酔っているのでしょうか。その足元はふらつき、神秘的な蒼い瞳も今は濁っています。

 本来は美しかったはずの銀髪も、乱れて、顔にかかっていました。さすがに軍服はちゃんと着ていましたが、千鳥足でよろよろ歩く姿は、全く軍人らしく見えません。

 

「……随分と様子が変わりましたね」

 

 内心動揺しつつ、平静を装って声をかければ、

 

「ああ、そうだ。貴様とあの男のおかげでな」

 

 シルフはヴォック酒の瓶を(あお)り、ぷはあと酒臭い息を吐きました。

 

「もはや私には戦う意味などない。それどころか、私の存在自体が祖国にとって害にしかならないと突きつけられた。いっそ自害することも考えたが――」

 

 狂った瞳を笑みの形に歪めて、シルフはまた声を上げて笑いました。

 

「ひとつだけ、やるべきことが残っていると気づいたのさ。今はその目的のためだけに生き恥をさらしている」

「……目的?」

 

 問い返しても、シルフは答えませんでした。狂った笑みを引っ込め、今にもつかみかかってきそうな目付きで私をにらんでいるだけです。

 

「……すまない、小さな小隊長」

 

 気まずい空気の中、口をひらいたのはアルノマさんでした。

 

「2人きりで話をするという約束だったのに、騙すような真似をしてすまなかった。なぜ、彼女がここに居るのかを説明しよう」

 

 どうか聞いてくれと言われて、私はアルノマさんに向き直りました。

 

「シルフは今、私の軍師をしてくれているんだ」

 

 軍師? と私は首をひねりました。

 

「ああ。参謀、または指南役と言った方が正しいかもしれないな。私は役者で、政治も軍事も素人だ。そんな私が大勢の同胞たちをまとめて戦うためには、彼女の力がどうしても必要だった」

 

 一方のシルフには、天才的な戦術眼はあっても、アルノマさんのような人望がありません。

 互いに足りない所を補い合う形で、シルフとアルノマさんは共闘関係を続けてきたのだそうです。

 

「君が私に会いたがっていると聞いて、彼女はすぐに同席を申し出た」

 

 アルノマさんが視線を向けると、シルフは席につこうともしないまま、尊大に胸をそらして、

 

「魂胆が見え見えだったからな。労働者議会の馬鹿どもを利用したように、今度はこの男のことを利用しようというのだろう?」

「……利用ではなく、協力したいのです」

 

 私はそう言いましたが、自分でも欺瞞(ぎまん)にしか聞こえませんでした。アルノマさんもつらそうに顔を歪めて、

 

「正直、信じたくはなかったよ。君の用件が何であれ、戦いとは違う何かであると思いたかった……」

 

 まったくおめでたい話だと笑って、シルフが後を引き取りました。

 

「この男がどうしてもと言い張るので、私は同席を見合わせたんだ。貴様の用件が何か違うものだった時には、そのまま姿を現さないでいるという約束でな」

 

 しかし結果は、シルフが予想した通り。私はアルノマさんに、「自分の国と戦ってくれ」という話を持ちかけてしまったのです。

 

『…………』

 

 また重苦しい沈黙が落ちました。

 アルノマさんは唇を引き結び、私はうつむき、シルフはそんな私たち2人を見比べて、

 

「何だ、貴様ら。そう暗い顔をすることもないだろう?」

 

 なぜか愉快そうに笑って、言葉をかけてきました。

 

「互いに自分の国のことが第一とはいえ、貴様らは共にこの戦争の終わりを望んでいるんだ。ならば協力することもできるんじゃないか? そんな風に黙っていないで、まずはよく話し合ってみたらどうだ?」

 

 彼女がそんな風に言ってくれたことが、私は意外でなりませんでした。

 もっと言えば、不審に感じました。何か魂胆があって、話を誘導しようとしているとしか思えませんでしたが、

 

「協力、とは?」

 

 黙っていても(らち)が明かないので、私は話に乗ることにしました。

 慎重に様子を(うかが)いながら尋ねると、口をひらいたのはアルノマさんの方でした。

 

「確かに私は、この戦争の終結を望んでいる。多くの国民を犠牲にしてまでオースティンと戦い続けることに、何の意味も大義も見出せない」

 

 それは、アルノマさんも現政権に失望しているという意味なのでしょうか。あるいはもっと進んで、民を守るために現政権と戦う意思があるということなのでしょうか。

 

「それは言えないな。私にも立場というものがある」

 

 アルノマさんは首を振りましたが、「言えない」というのもある種の答えです。期待を込めて彼の顔を見ると、

 

「早合点しないでくれ。仮にこの先、どのような道を選ぶとしても、そのためにオースティンの力を借りるつもりはいっさいない」

「それではオースティンに借りを作ることになるからな」

と、シルフも言いました。

 

「ああ、そうだ。我が祖国を、オースティンの属国にしてなるものか」

「そのようなつもりは……!」

「ない、と言えるか?」

「……っ!」

 

 正面から問い返されて、私は答えられませんでした。

 

 ヴェルディさんは属国などという言葉は使っていません。あくまでフラメールに親オースティン派の政権を作りたいと言ったのです。

 

 けれどもそれは、いわゆる建前というやつで。

 オースティンの思い通りに動く政権が作れるなら、それが理想でしょう。考えているのは自国の利益であって、親切心でフラメールを支援しようというわけではないのですから。

 

「君に命じた人間に伝えてくれ。オースティンが傀儡(かいらい)を欲しているなら、他をあたってくれと。フラメールの誇りを捨て去り、自国を売ってでも戦後、高い地位を得たいと思っているような、恥知らずの(やから)をどこかで見つけるといい」

 

 自分はそんな人間以下の存在に成り下がる気はないと、アルノマさんはきっぱり告げました。

 

「そもそも現政権が倒れたとして、それでオースティンとの戦争が終わるとは限らない。政権転覆のドサクサにまぎれて、再度侵攻してくる可能性だってあるからな」

 

 さすがに、それは考え過ぎです。オースティンにそんな余力はありません。

 

 私がそう主張しても、アルノマさんは硬い表情のまま、

 

「あいにく私は、君たちの国を全く信用できない。今まで、自分たちがしてきたことをよく思い出してくれ。我々は互いに公正な友人たり得ただろうか?」

 

 それは違いますね。フラメールは火事場泥棒のようにオースティンを奇襲し、オースティンはフラメールを撃退した後も戦いを続け、相手の国にまで攻め込んだのです。お互いに、相手の言葉を信用できる要素などありません。

 

「それではいったい、私たちは何を協力し合えるというのですか……」

 

 半ば途方に暮れて問いかければ、答えを返してきたのはシルフの方でした。

 

「トウリ・ロウ。貴様の目的は何だ」

 

 正確には、それは答えではなく、質問でした。

 

「何のために、何を求めて、ここに来た。それを答えてみろ」

 

 なぜ、今更そんなことを聞いてくるのか。疑問をいだきつつ、私は返答しました。

 自分の目的は、自分の国を、仲間を守ることです。そのために、この無意味な戦争を一刻も早く終わらせることです。

 

「その言葉に嘘偽りはないな」

 

 あるわけがないでしょう。今までたくさん手を汚して、敵だけでなく、味方のことだって犠牲にしてきましたけど。

 その2つの目的だけはずっと変わりません。これまで1度もブレたことがないと断言できます。

 

「……そうか。それは良いことを聞いた」

 

 シルフがにんまりと、左右非対称な笑みを浮かべるのを見て、私はぞっとしました。

 なぜって――その笑い方が、誰かを罠に嵌めた時のあの人にそっくりだったからです。

 

「ならば、そのための策を授けてやろう」

「そのための策……?」

「何、簡単なことだ。そんな脅えた顔をしなくてもいい。私の言う通りにすれば停戦は成るし、貴様の国も守れる。付け加えると、血もほとんど流れない」

 

 そこでシルフはアルノマさんの方に視線を向けて、

 

「この男も口ではこう言っているが、本心では貴様と協力したいと望んでいるのさ。それができないのは先程言った通り、オースティンが信用できないから。確実に停戦が実行されるという保証がないからだ」

 

 逆に言えば、その保証さえあれば、いくらでも協力し合えるはずだと彼女は言いました。

 

「つまり、上層部の確約があれば、という意味ですか?」

 

 私の口約束などではなく、きちんとした書類上の契約を結びたいと。

 

「ハッ。そんな紙切れに何の意味がある」

 

 ……違うのですか。では、どうしろと?

 

「何度も言わせるな。ほしいのは証拠だ。オースティンがもう戦争をしない、したくてもできないという(あかし)

 

 意味がわかりません。いったいどうやってそんな証拠を見せろというのでしょうか。

 

「私は知っているぞ。オースティンも停戦派と戦争継続派で意見が割れていることを」

 

 それは、ヴェルディさんが言っていた、「上層部に危機感がない」という話のことでしょうか。フォッグマン首相を始めとした政府のお偉方は、敵が戦いをやめようとしないのなら、徹底的に叩いてしまえと言っているとか。

 

 彼らはどうしてそんなに強気なのでしょうね。悲惨な前線を実際に見ていないから?

 

「いいや、もっと単純な話だよ。エンゲイ撤退戦と、国境線の戦い。直近の2つの戦闘において、オースティンが圧勝したからだ」

 

 急に、シルフが私の耳元に唇を寄せてきました。思わず身を引く私に、シルフは秘め事をささやくような声で、

 

「その勝利の立役者が、今も健在だから、だ」

 

 ――その瞬間。

 彼女が言わんとしていることを察した私は、心臓に冷たい金属の杭を打ち込まれたような悪寒に襲われました。

 

「奴らは思っているのさ。『ベルン・ヴァロウ』さえ居れば、オースティンが負けるはずはないと」

 

 対するシルフはとても楽しそうでした。楽しくて楽しくて仕方ない、という風に笑っていました。

 

「逆に、フラメールとエイリスにしてみれば、あの男が居る限り講和など結べるわけがない。なぜって? 怖いからだよ。『ベルン・ヴァロウ』は有能すぎるのさ。その上、何をするかわからない危険な男だ。人というものはな、トウリ・ロウ。恐怖には勝てない生き物なんだよ」

 

 凍りつく私を、シルフはニヤニヤしながら見下ろして、

 

「私は記憶力がいい。かつて、あの男がこう言ったことをよく覚えているぞ」

 

 (ふところ)から小さな褐色の瓶を――明らかに何かの薬品らしきものを取り出して、

 

「ベルン・ヴァロウは戦略上、意味のない殺しはしていない」

 

 その小瓶をそっと、私の手に握らせ、震えて取り落としそうになるのをぎゅっと握りしめ、

 

「逆に言えば、意味のある殺しならためらいはしない、ということだろう。それを踏まえた上で、貴様に尋ねよう」

 

 シルフ・ノーヴァは氷の女王のように冷たく、美しく、そして残酷に笑って見せました。

 

「たった1人の死で、この戦争を終わらせることができるとしたら――それは大いに意味のあることだと思わないか?」

 

 

 

*****

 

 シルフ・ノーヴァは善性に満ちた人です。

 長い戦争に疲れ、殺すことに疲れ、心が壊れてしまっていても。

 その本質は善良で、子供のように純粋な人なのです。

 

 この時の彼女の行動も、動機となったのは私とベルンへの復讐ですが、実はそれだけではありませんでした。

 

 私が去った後で、彼女はアルノマさんにこぼしたそうです。

「あいつは悪魔に魅入られているんだ」

と。「愚かで、哀れだ」とも言ったそうです。

 

 アルノマさんもまた、そんなシルフを少し悲しそうに見て、

「彼女はとても優しい女性だよ。私はよく知っている」

と答えました。

 

「かつての彼女は、敵国人の私すら救おうとしたんだ。あんな非道な虐殺に望んで手を貸すはずがない」

 

 今はただ、愛する男のために自分の心を犠牲にしているだけで。

 何とかして救わなければ、と主人公(ヒーロー)のようにつぶやくアルノマさんを見て、シルフはげんなりと顔を歪めました。

 

「はあ……。男というものはこれだからな……」

「何か言ったか? シルフ」

「何でもない。それより、早くフラメールに戻るぞ」

 

 自分たちには山ほどやることがある。そうせっつかれて、アルノマさんは頼もしそうに笑いました。

 

「ああ、頼りにしているよ。我が軍師どの」

 

 要するに、アルノマさんは――それにシルフも、いまだ私に友情を残していたのです。

 シルフの行動は、私への復讐であると同時に、「オースティンの悪魔」から私を解放するためのものでした。

 

 私に人の心を取り戻させるため、私の目を覚まさせるため。

 私の最愛の人に毒を盛れ、と命じたシルフ。

 

「地獄への道は善意で舗装されている」とはよく言ったものですね。

 それがどんな悪意よりも恐ろしい毒となって人を(むしば)むことを、彼女たちはまだ知りません。

 

 少し先の話をしますと、フラメールの民の窮状を見かねたアルノマさんは、苦悩と葛藤の果てに、自国の政府と戦う道を選ぶことになります。

 そして名将シルフと自身の天運に助けられ、わずか1年あまりで政権転覆に成功。

 国家元首に指名されましたが、「自分は政治の世界に明るくないから」と辞退。

 アルノマさんのカリスマ性に惚れ込み、彼の協力者となっていた若い政治家が代わりに首相の座に就き、アルノマさんはその補佐官になりました。

 

 勝利の立役者となったシルフにも、当然ながら軍部での高い地位が約束されていました。

 が、彼女もまたそれを固辞しました。

 理由は、サバトの労働者議会との不仲です。

 シルフがフラメールで高い地位についたら、自然、フラメールとサバトの関係は悪化してしまうでしょう。そうした事態を避けるため、彼女は自ら身を引いたのです。

 

 私利私欲のためではなく、愛する祖国のために。

 どこまでも戦い続けた孤高の軍師は、戦後、腹心エライアさんと共に姿を消しました。その消息は今も知られていません。

 

 一方のアルノマさんは、終戦から数年後、友好使節としてオースティンの首都を訪れています。

 そこで再会したヴェルディさんから、あの毒の小瓶の顛末(てんまつ)を聞かされた彼は、一瞬絶句して。

 直後、その場に膝をつき、大声で詫びたそうです。

 

 そんなつもりではなかった、すまない小隊長、と。

 恥も外聞もなく号泣しながら、そこには居ない私に向かって――。

 

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