ダンジョンで王冠を継ぐのは間違っているだろうか   作:白黒ととか

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EP.3

その晩、私はロキ・ファミリアの暖かな食堂で、素朴なパンとスープを啜っていた。

まだ全てが夢のようだった。この世界の飯は想像よりずっとうまい。至る所で仲間たちが冗談を飛ばす声が響き、どこか懐かしい気持ちにさせられる。

 

寡黙なアイズも、小声でリヴェリアや小柄な神と親しげに話している。

私はその輪の外で、ただぼんやりと「普通の夜」を味わっていた。

 

 

 

食事を終えると、リヴェリアに呼ばれた。

 

「アッシュ、ロキが呼んでる。準備ができたそうだ」

 

案内されて向かったのは、静かな一室。

古い木造りの扉と、素朴な祭壇らしき机。

 

ロキが一人、椅子に座り、「おっ、来たなぁ」とにやっと笑う。

 

「さて、アッシュたん。うちに入るって決めてくれたんやから、まずは――うちから【神の恩恵(ファルナ)】を授けへんとな」

 

独特の訛りの柔らかい響きに、どこか照れたような温かさが混じっている。

 

 

 

「ファルナ……?」

 

「せや、こっちの世界では、冒険者いうたら皆これがもろうてるもんなんよ。カミサマの力が宿るいうか……うちらファミリアの証、いうたら分かるかな?」

 

リヴェリアが静かに頷く。

 

「アッシュ、私たちは、“神の恩恵”――ファルナを受けて初めてステイタスという能力の形を持ち、強くなれる。この街でダンジョンに挑むなら、誰もがこれを授かるわ」

 

「強くなる……?」

 

「せやで!」ロキがにんまり笑う。「せやからアッシュたん、ベッドにうつ伏せに寝てくれる?」

 

リヴェリアが優しく促してくる。「痛みは感じない。少し背中にロキが触れるだけだ。気を緩めて」

 

 

 

なんか妙な緊張が走る。

 

「……これ、どんな儀式なの?」

 

ロキがちょっとイタズラっぽく答える。

 

「ただの通過儀礼や。うちを信じてくれるなら――背中まかせてぇな?」

 

私は深くうなずき、指定されたベッドにうつぶせで横になる。

 

「行くで~」

 

ロキの指先から零れ落ちる 神の血(イコル)がアッシュの背に触れ輝きとともに道化のエンブレムを背に描く――

 

「――レアスキルきたぁぁあああ!!!!!!!」

 

頭に響くロキの叫び声の後、絶妙な力加減で肩甲骨のあたりを押されると、不意に身体の中から熱が立ち上り、どこか“言葉にならないもの”が自分の芯に刻まれるような感覚があった。

紙のようなものを背中に押し当てられ――ロキが小さく「できた!」と言った。

 

 

私は身体を起こす。

背中がほんのりあたたかい。

ロキから渡された紙を受け取り自身のステイタスを確認する。

 

「これが……?」

 

「そやで、それがアッシュたんの今のステイタスやで!」

 

アッシュ Lv1

『力』 :I0

『耐久』:I0

『器用』:I0

『敏捷』:I0

『魔力』:I0

 

〈スキル〉

焔胤(フェネクス)

 任意で発動(アクティブトリガー)

 火を生み出す

 

焔律(ドミニオン)

 任意で発動(アクティブトリガー)

 火を操る

 

「ふうむ、ええなぁ。“焔胤(フェネクス)”に“焔律(ドミニオン)”……なかなか異質やなぁ、アッシュたん。うちが見たことも聞いたこともないスキルを最初からふたつももっとるんは珍しいわ!」

 

リヴェリアも感嘆の息をつく。

 

「能力値はファルナを手に入れたばかりなら基本的に0だそうだから気にしなくていい。それよりも二つのスキルのほうが重要だ」

 

「ウチらの世界じゃスキルはひとつひとつが大きな個性や。他のファミリアやギルドの奴にも、あんまり自分のスキル内容をベラベラ話さへん方がええ。」

 

「……了解。気をつける」

 

ロキは柔らかく微笑んだ。

 

「ああ、そや。おんなじファミリアの仲間に見せるのはええけど詳細は話さんとき。」

 

リヴェリアもうなずく。

 

「アビリティはこれから、努力すれば確実に強くなれる。何も怖がることはないわ」

 

私は静かにカードを見つめ、背中の温もりを確かめた。

 

――自分は、この世界で、“アッシュ”として生まれ直したのだ。

 

(この先、灰の彼方から何度でも甦るのだと、自分に言い聞かせる。)

 

 

「ええかアッシュたん、ウチらは神と子、や。家族と同じやで。困ったことあったらなんぼでも頼りや」

 

「……ありがとう。正直、不安も多い。でも、ここで生きてみたい」

 

リヴェリアが温かな眼差しで頷く。

 

「アッシュ。ようこそ、ロキ・ファミリアへ」

 

アイズは無言で、小さくうなずいてくれた。

 

ロキは満足げに腕を組み、「これから始まる冒険、楽しませてなぁ!」とにっこり微笑む。

 

 

 

自室に戻り自身のステイタスが書かれた羊皮紙を見つめる。

二つのスキル――それはおそらくテラの大地に居たときから、正確に言えばテラの大地に生まれ落ちたその瞬間から持っていた力だろう。

 

遍くすべてを焼き滅ぼす蒼き炎が、神の恩恵というモノに従いスキルという形で現れたのだと思う。やはり神の恩恵によって形を成したステイタスは私自身を映す鏡なのだろう。

 

 

私の意志に従い現れた蒼き炎が羊皮紙を灰へ変えてゆく。

それを見届けた私は眠りにつく。

 

 

 

その夜は不思議とよく眠れた。

 

つかの間の夢の中、灰色の大地と、今見てきた新しい仲間たちの顔が交互に現れた。

夢から覚めた直後、遠くから鳥の声と、淡い朝焼けの光が差し込んでくる。

 

私は部屋を出て、大きなテラスに出た。 

 

玄関先へ出ると、リヴェリアが既に待っていた。

 

「おはよう、アッシュ」

 

その隣にはアイズもいる。

 

「おはよう」とだけ短く返す。

 

二人は軽装に着替え、腰に武器をしっかり備えている。

 

「私たちは予定通り遠征に戻る。しばらく家を空けることになるが...アッシュも途中までついてこないか?」

 

リヴェリアが問う。

 

「遠征?」

 

「ああ。私たちはダンジョンの深層59階層まで攻略を進める予定だ。おそらく、ひと月ほどかかるだろう。その間アッシュに何もダンジョンについて伝えられないのは問題だ。だから……アッシュには一緒にダンジョンに入って基本的なことを教えようと思う。実力的に問題ないようなら18階層まで同行、その後は要相談だがな」

 

アイズも小さく、

 

「一緒に……行こう」

 

と、言葉を添える。

 

私はすぐにうなずいた。

 

「連れてってくれるなら、ぜひ」

 

 

 

食堂で軽い朝食を摂ると、館の前で他のメンバーたちが集まっていた。

アッシュが新入りであることを最低限知らされ、気配を探る視線が向けられるものの、誰もあからさまな疑問も投げない。

 

ロキは最後に現れ、「みんな、ウチの新入りや! 名前はアッシュ。よろしく頼むでぇ!」と大声で宣言した。

 

「アッシュ~、遠征についてくのはええけど、油断せぇへんことや。危なくなる前に引くんやで!絶対一人では突っ込まへんように、『いのちだいじに』やで!ええな?」

「うん、肝に銘じるよ」

 

「それからアイズたん、リヴェリア! 何かあったらウチにもすぐ伝えてや~」

二人も静かに応じる。

 

 

 

ダンジョンへ向かう冒険者たちの列ができ始める。

私はリヴェリア、アイズと一緒に歩を進める。

 

列の後方から、ロキが笑いながら最後の声をかけてくる。

 

「ウチらは別に無理やり戦わそうとはせぇへんけど、せっかく“ファルナ”手に入れたんやし、色んなもん見て、考えて、自分の歩き方を探すんやで!」

 

年季の入った冒険者たちがガヤガヤと列を成し、陽射しの下、街路を抜けてダンジョンの入口へ向かう。

 

アッシュの心は――不安よりも、「あたらしい自分がここで始まる」という予感でいっぱいだった。

 

 

 

 

 

ダンジョンの入口へたどりつくと、警備の冒険者たちが列を見送りに来ていた。

オラリオの街が遠くなるたび、不思議な高揚感と軽い焦燥が胸に去来する。

 

リヴェリアが道中、優しく語り始める。

 

「アッシュ、貴方の力はまだ未知数だけど、今日からはロキ・ファミリアの一員。困ったことや分からないことは全部、私やアイズに聞くといい」

 

「うん。ありがとう、リヴェリア」

 

アイズは歩きながらも、時折こちらを気遣うように目を向けてくれる。そのまなざしにも少し安心感を覚えた。

 

 

――巨大なダンジョンの扉をくぐる。

 

 

地上の眩しさとは異なる青白い光、冷たいがどこか懐かしい空気――

アッシュは初めて、自分の「ファミリア」と共に、ダンジョンの世界へ新たな一歩を踏み出した。

 

 

 

深まる闇のなか、無数の希望と不安とが入り混じる。

けれど、一人ではない。

 

灰色の世界にいた自分は、

いま確かに冒険者として、ここにいる――

 

 




プロファイル
基本情報
【コードネーム】■■■■■■
【職業】特殊
【職分】執行者
【出身地】不明
【誕生日】非公開
【種族】不明(リーベリだと思われる)
【身長】177㎝
【鉱石感染状況】
メディカルチェックの結果、非感染者に認定。



主人公のイメージをAI君に書いてもらいました。
イラストは昇進2時点をイメージしてます

【挿絵表示】



20250627誤字報告ありがとうございました。
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