ダンジョンで王冠を継ぐのは間違っているだろうか   作:白黒ととか

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タイトル回収までは書きたいです


EP.4

ロキ・ファミリアの本隊遠征部隊――その一行に合流するため、私とアイズ、リヴェリアはダンジョンを下っていた。

 

本隊は18層で待機しているはずだ。私たちはそれに合流を目指している。

18階層で合流するまでの目的は私――アッシュの冒険者としての適性を見極めること、そして合流後のチーム運用の下準備だという。

 

「アッシュの力を見せてくれ」

リヴェリアは事前にそう説明していた。

 

アイズも無口ながら「観察」とだけ囁いていた。

 

私は理解した。

彼女たちはおそらく戦闘では手を出さないだろう。最短ルートをひた走り、敵として現れるモンスターはすべて私に任せるつもりなのだと。

 

 

 

走り始めてすぐ、ダンジョン階層は変化した。

 

地上から二階、三階……と降りるごと、空気が重たく、モンスターの密度が高くなっていく。

ゴブリンやコボルトが岩陰や路地から群れて現れる。

あらゆる新米冒険者が最初に味わう「恐怖」、獣臭とどろりとした血の臭いだ。

 

 

 

だが、私の中に恐怖は無かった。

 

ロドスでの戦場、天災の絶望、生きるか死ぬかの領域を何度も超えてきた経験が背中に重くのしかかっている。

それでも黒い二本の剣――友であるニェンが鍛えてくれた“生きた証”を柄に感じると、奇妙な安堵と集中が全身を満たす。

 

 

 

最初に会敵したのはゴブリンの群だった。

 

八体ほどがまとめて通路に飛び出してきた。

 

「――アッシュ」

 

後ろでリヴェリアの静かな促し、その一言に私は頷き、右肩のホルダーから黒剣二本を流れるように抜く。

 

そして、意識でもう一段階“スイッチ”を入れる。

 

 

 

【焔胤(フェネクス)】発動。

 

青き炎が黒剣の刃に燦然と燃え移る。

空気が小さく震え、アイズの蒼色の瞳にも一瞬の驚きが宿る。

 

ゴブリンたちが耳障りな声で叫ぶ。

 

私は一歩踏み込む。左の剣を低く構え、右の剣は肩口で水平。

 

「――」

 

踏み込みと同時に回転。黒い双剣が空を薙ぎ、蒼炎の軌跡を描いた。

 

一閃。

 

八体のゴブリンが声も出さずに真っ二つ。そのままゆっくりと床へ崩れ落ち、魔石を残して消える。

 

アイズが淡く呟いた。

 

「……死角の処理、速い」

 

リヴェリアは静かに頷く。

 

「戦いなれているな」

 

 

 

 

前進。

 

今度はコボルトの小隊が道を塞ぐ。狼のごとき顔にナイフやこん棒。

だが私はもはや恐怖も油断も抱いていない。

 

【焔律(ドミニオン)】

 

二振りの剣に纏わせた焔胤の炎が、意志に合わせて螺旋状に広がる。

 

「――槍」

 

私は小さく呟く。すると、右手の剣から生まれた蒼炎が空気中で槍に変じる。

 

そのまま目の前のコボルトめがけて腕を振ると、

炎の槍は音もなく伸び、三体を一刺しで貫いた。

 

地を蹴り、凹凸の多い岩場も跳躍し、流れるような剣筋で残りのコボルトも一息に斬り伏せる。

 

――一体数秒もかかっていない。

 

事実、上層に現れる敵は私にとって“障害”にすらならない。

 

 

 

途中、何度かアイズが歩みを止め、現れるモンスターを前に「いける?」と目だけで促してきた。

 

私はただ頷き、無音で黒剣を振る。

 

地を這うように炎は走り、モンスターは、あっという間に燃え尽きて魔石を残していった。

 

リヴェリアはその後ろで私の足取りや炎の減衰具合などを細かく観察しているらしい。

 

時折、「マインドは大丈夫か?」「疲労感は?」と問われる。

 

「今のところ...疲れはないよ。炎なら、まだ無限に出せる。だいぶ鈍ってるな......全盛期には程遠い。」

 

「そ、そうか、油断だけはするな。アッシュの炎は強力だが、頼りすぎれば足をすくわれる」

 

「心得た」

 

短い命のやり取りが続く中、私は己の中に眠る「オペレーター」時代の感覚が蘇ってくるのをひしひしと感じていた。

 

 

 

 

 

 

十階層を越えると、空気がさらにぬるく重くなる。

通路は狭くなり、獣じみた臭いが強まる。

 

「十一層。ここから魔物の量が一段跳ね上がる」

 

リヴェリアが教えてくれる。

 

「オークにハードアーマード、ここまでにはいなかった新たなモンスターも混ざる。……だが、アッシュなら問題ないだろう」

 

「やってみる」

 

  

 

目の前の広場。空気が一気に緊張を孕む。

 

吠えるような唸り声とともに、巨大な二足歩行の獣――オークたちが現れた。

三体。一体一体が人間の倍以上の体格、棍棒を振りかざしている。

 

同行するアイズもリヴェリアも、静かに後方で見守っているだけだ。

 

私は黒剣の柄を握り直す。

 

まず、一体目。

 

オークの棍棒が振り下ろされる瞬間、私は左へ跳ぶ。

【焔胤】、右の剣に蒼炎。炎が風切り音をまとって剣と一体化する。

 

「はあッ!」

 

斜め下から鋭く切り上げる。

黒い刃と共に蒼焔が走り、オークの右腕ごと胴体を斬り上げた。

 

肉も骨も抵抗にならず、炎が肉体を焼き焦がし、そのままオークは崩れ落ち消滅。

 

 

 

続く二体目。

 

踏み込むより早く、【焔律】。剣先から蒼い炎の槍が伸び、敵をまとめて一気に貫通。

 

「あっ――」

 

オークの腹部を蒼炎の槍が貫き、そのまま後方のオークの胸板も突き破った。

 

「……!」

 

二体がほぼ同時に膝をつき、そのまま崩れ落ちる。

全ては一瞬。敵は反撃どころか吠える暇すらなかった。

 

 

 

「圧倒的...」

 

アイズがつぶやく。

 

リヴェリアも感に堪えた表情で頷いた。

 

「レベル1にして、この階層でここまでの撃破速度か。最低でも“レベル3以上”の実力はありそうだな……」

 

私は静かに炎を収束させ、二本の黒剣を右肩の鞘へ収めた。

 

息が上がることもない。マインド消費も感じられないほどだ。

 

 

 

リヴェリアが、淡々と語る。

 

「この程度なら、無理に消耗する必要もなさそうね。アッシュの能力なら、二十層、いやもっと先でも十分に戦力になる」

 

アイズが近寄り、じっと私の顔を見る。

 

「……炎、きれい」

 

それだけ言って、すぐ視線を前へ戻した。

私は小さく「ありがとう」とだけ返した。

 

 

 

歩く道すがら、リヴェリアがふと横に並ぶ。

 

「アッシュ、素朴な疑問だが……その炎、なぜ蒼い?」

 

「……元の世界での“生まれ”が関係している。炎そのものは普通の赤い炎と比べて純粋に温度が高いのが理由。あとは焼き尽くす“性質”が混じっているらしい。炎や熱に強い工業機器ですら灰も残らない」

 

「なるほど。工業機器というのはわからないが、一つ学びになった」

 

「それならよかった」

 

 

 

歩を進める。

すでにモンスターは私にとっては“歩く障害物”でしかなく、剣を抜くリズム、炎を生み出すスキル、どれも無意識でできてしまう。

 

ダンジョンの石壁、その奥深くへ。

私は未知の世界を歩いているのだと、何度となく実感していた。

 

 

 

ふと、リヴェリアが足を止め、

「ここで少し休もう」と提案する。

 

通路の岩場に座るアイズ。私も素直に腰かける。

 

リヴェリアは少しだけ笑みを浮かべて言った。

 

「これから本隊と合流する。……アッシュ、今日の戦い、どうだった?」

 

「……怖さはなかった。剣も、炎も、自分の一部だった」

 

アイズが「戦うのが好き?」と短く訊く。

 

「好きではないな。戦う必要がなければ戦う事は無かった...はずだ。でも...必要なら剣を握ることを厭わない」

 

「……いい答え」

 

アイズはすぐに別の方向を向いたため顔を見ることはできなかったがその声にはどこか寂しさを感じさせた。

 

「本隊は十八層で休息している。そこに合流して、いよいよ本格的な遠征だ」

 

「……分かった」

 

 

 

気付けば、魔石ランタンの灯りのなか、

この三人で過ごす最初の冒険が、私の“新しい物語”の確かな第一歩になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

十一層を制圧してからは、上層で遭遇するモンスターはすべて文字通り“一撃”で屠ることができた。

アイズ、リヴェリアも、私が危なげなく殲滅する様子を、無言で見届けるだけ。

時おり、本当に必要な時だけ「次は左」「油断しないように」など静かに助言をくれるだけだ。

 

そうして私たちは、ダンジョンの難所であり安全地帯“18階層”「安全階層(セーフティポイント)」を目指して、休憩も挟まず一気に階層を下った。

 

 

 

ダンジョン十八階層、安全階層――「迷宮の楽園(アンダー・リゾート)」。

ここは他の階層とまるで違う場所だった。

巨木が空間を覆い、煌めく光が降り注ぐ異世界の庭園。そして――この迷宮の中に、冒険者たちが自ら築いた町「リヴィラ」が広がっていた。

 

市場には剣や装備、薬草や傷薬、果ては料理に至るまで、冒険者に必要なあらゆるものが法外な価格で並んでいた。

強者たちが集い、一時の休息を得るこの階層では、喧噪と希望が不思議なバランスで共存している。

 

 

 

私、はアイズ、リヴェリアの二人と共に、ロキ・ファミリア本隊の陣地へ歩を進めていた。

迷宮を駆け下りてきたばかりで、うっすらと汗もかいている。だが怪我一つなく、十八層までの魔物も全て私一人の手で打ち倒してきた。

 

「これからが本番だ」とリヴェリアが言う。

アイズは横で無言ながら、どこか誇らしげな眼差しで私を見ていた。

 

 

 

リヴィラの町の外、湖の近くのテント群には、すでにロキ・ファミリア本隊が集結していた。

大きなタープの下、力自慢の男たちや華やかな姉妹、屈強な戦士やエルフの少女たち。

 

私たち三人が陣地に姿を現すと、どよめきが広がった。

 

先頭に立つ団長――フィン・ディムナが真っ先に私を注視する。その表情は驚きと僅かな納得、そして即座に指揮官特有の見極めの色に変わった。

 

「アイズ、リヴェリア。待ってたよ......ん、アッシュ?」

 

ベートが忌々しげな目を向ける。「昨日の奴か...何でここに?」

 

ティオナとティオネも、互いに顔を見合わせてざわ…と何かを囁き合う。

 

 

 

リヴェリアが穏やかに答える。

「フィンたちは知ってるな。彼女はアッシュ、地上でロキの計らいにより新たにファミリアに入った」

 

周囲が一斉に驚きと興味の声に包まれた。

 

「ファミリア入ったの⁉」と、ティオナが目を輝かせる。

 

ベートは鼻で笑いながらも、観察するような鋭い目でこちらを見やった。

 

「妙な奴を入れるなよ……」

 

リヴェリアが静かに「彼女の実力なら、誰よりも認めてもらえるはずだ」と言いきった。

 

フィンは親しみやすさと厳しさが同居したまなざしでアッシュを見つめた。

 

 

 

「そうか。ロキが決めたのなら文句はない。それに...アッシュはロキ好みの顔をしてるからこうなる気がしてた」

 

「改めて、アッシュ。団長のフィンだ。よろしく。で、実力は?」

 

フィンはアッシュに目を合わせた後リヴェリアやアイズに向き直り問う。

アイズは珍しく自信に満ちた声色で、「強い」とだけ一言添える。

 

リヴェリアも続ける。

「十八階層までのモンスターはすべてアッシュに任せてきたが、実力は最上級。ここまで見た限り最低でもウチのレベル4以上の実力を有しているのは間違いない」

 

ティオネが面白そうに身を乗り出す。「へえ~~そんな強いの?」

 

ティオナは「どんな戦い方するの!?」と興奮ぎみに差し込んできた。

 

 

 

屈強な体躯の老戦士――ガレスが腕を組みながらこちらに歩み寄って来る。

「なるほど、一つよろしく頼むぞ、嬢ちゃん。何か困ったことがあればいつでも相談しに来い。仲間として歓迎する」

 

隣ではエルフの少女・レフィーヤが緊張気味に「は、初めまして。レフィーヤです。よろしくお願いします」とお辞儀してくる。

 

「ありがとう。これからよろしく」と私は柔らかく答える。

 

 

 

フィンはすぐにまとめた。

 

「仲間たちの推薦なら僕も信じよう。アッシュ、ぜひ明日からの深層遠征に同行してほしい。力を貸してくれるね?」

 

私は真っ直ぐフィンを見つめて応じる。

 

「この力が役に立つならいくらでも」

 

アイズがすぐそばで「心配ない。アッシュ、頼りになる」と珍しく口を添える。

 

ベートも無愛想に「……ま、その二人がそこまで言うなら、文句はねぇよ」とそっぽを向いた。

 

ティオナ、ティオネ、ガレス、団員たちが「仲間が増えた!」と色めき立つ。

レフィーヤが「一緒にがんばりましょうね!」と小さくつぶやいた。

 

 

 

ティオネは最後に品のある微笑で「これからより大変になるわ。無理せず、困ったら必ず声をかけること――約束よ?」と伝えてくれる。

 

私は大きくうなずきながら、黒剣の重みと、背中の“ファルナ”を心の奥で確かめた。

 

 

 

 

 

 




プロファイル
能力測定
【物理強度】■■(追記を参照)
【戦場機動】卓越
【生理的耐性】優秀
【戦術立案】標準
【戦闘技術】優秀
【アーツ適正】欠落

【追記】
基礎情報
【物理強度】極めて特異。詳細な評価には更なる測定が必要。
詳細プロファイル
■■■■■■の物理強度は、生来的な特異体質により、極端な二面性を示す。

彼女の皮膚は、鈍らな刃物であっても容易に傷を負わせることが可能である。
しかし、その傷は瞬時に再生され、痕跡すら残さない。

特筆すべきは、その驚異的な再生能力である。負傷と同時に再生が開始され、仮に対象の武器や弾丸が体内に残留した場合、蒼い炎によって焼却され、炎と共に体外へと排出される。炎が消滅する頃には、皮膚は完全に元の状態へと復元されている。

実戦経験の蓄積に伴い、彼女は複数回にわたり四肢の欠損を経験している。しかし、いずれの場合も時間の経過と共に蒼い炎による再生が確認されており、疑似的な不死性を持つ可能性が指摘されている。

これらの再生現象は、本人の意志とは無関係に、負傷という事象に対して自動的に発動する。

上記のような特異な性質のため、現行の能力測定方式では彼女の物理強度を正確に評価することは困難である。更なる精密な測定と、多角的な検証が不可欠である。
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