「―――つまり、光の波長が大きいほど回折は―――」
黒板にチョークで書き足されていく公式。それをメモしていく。ところどころ説明を入れながら、公式の証明が終了。
「はい、じゃあ次は問14…。おっとこんな時間か」
教壇に立つ初老の教師がつぶやくとともに、生徒の何人かが教室前方の壁に立てかけてある時計を見る。授業終了まであと3分。幾人の生徒がカチャカチャ音をたて、ペンケースに筆記用具をしまっていく。それを合図にするように、教師も教科書を閉じた。
「はい、じゃあ次からは実際に問題ときながらやってみましょう。号令」
「起立。きょうつけー礼」
やる気のなさそうな号令のあとに、教室はちょっとした喧騒に包まれる。今日で一周間が終わる。明日は休みだ。何百と繰り返されていることだが、やはり嫌なものではない。
「ゆうとー。明日暇?」
自分に話しかけてきた男子生徒。名前を「
「ああ…いや、ちょっと用事が…」
「そっかー。俺土日マジで暇なんだよなー」
「…勉強しろよ」
「やめろやめてくれ。お前知らねーだろ? 友達の言葉とか案外響くんだぞ?」
「知らねーよ。俺だって赤点やべーんだよ。土日くらい静かに勉強してろ」
「やっぱそいうモンかー。あ~だるい」
そんな話をしながら、帰りの支度をして、二人で教室を出る。
「じゃあな、健人!」
「お疲れ~」
「ばいばい。健人君!」
教室から出るまでに
「じゃあな。お前ら! 土日は勉強しろよ! ゆうと様の言いつけだ!」
「そんじゃ」
ついでに挨拶しとく。嫌われたくはないから。絶対に、人に強くは当たらないようにする。それがいい。一番な。
~~~~~~~~~~
バス停にて、健人と別れる。その後はずっと音楽プレイヤーのイヤホンで耳を塞ぐ。この夕方の時間帯に帰宅する人は少ない。いつも俺を入れて2,3人位だ。右手方向から来たバスに乗ると、乗客は自分一人だった。これはラッキー。気兼ねなく、大音量で音楽を聞くことができる。早速、音量を最大近くまで上げ、浸るように目を閉じた…
17歳
高校2年
趣味:漫画、ゲーム、アニメ、テレビ、ギター、音楽鑑賞、読書、ときどき散歩。
だいたい、こんな感じ。この年頃の男子高校生なんてこれに似たりよったりだろ。
あとは…妄想。
子供の頃から、好きなアニメや漫画、ゲームができると、そこに自分を登場させたがるのが僕の癖。それぞれで描く自分の姿は、時にありのままの自分。時にかっこいい自分と様々だ。この年になってもその
『―でさ…がやばいって』
『え~うそ~―って―』
『それが――』
心地よい、アコースティックギターの音色の奥から聞こえた声におどろいて顔を上げる。二人組の女子がバスに乗り込んできたところだった。その顔の幼さから推測するに、まだ中学生だろう。少し音量を下げながら現在地を確認すると、まだ自宅までの道のりは遠い。それでも、うっかりアナウンスを聞き逃してしまわぬように、聴く曲もゆったりとしたバラードに変えた。
『―――発車いたします――』
ドアがしまった。そしてまた浸るように俺は目をつぶった。
なんで俺は既存の作品に自分を登場させるか。それは「あやかりたい」からだ。
『何に?』
『そのキャラクターたちに』
自分の好きなキャラクターたちは、欠点があって、弱くて、泣くときもあって、すぐ怒って、頑張ろうと思えば空回って…
でも
「あきらめず」
「文句を言わず」
「努力をして」
「目的を果たす」
そんな人間に憧れたのだ。自分もそんな人間になりたいとずっと思っていた。
『諦めたくなんてなかった』
『文句を言いたいわけじゃなかった』
『努力だったしたかった』
『やりたいことだってあった』
でも無理なんだ。そう感じた。俺はもう悟ったのだ。
『俺に出来ることなんて一つもない』
~~~~~~~~~~
『―前ー。次は
ハッと目を覚ました。黒木マンションの一室が自宅だ。慌ててボタンを押す。余裕はまだあるのだが、変に焦ってしまった。……感傷に浸っていたせいだろうか。数分後にバスは、黒木マンション前に止まった。バスを降りて、マンションに入り、エレベーターのボタンを押す。数秒後、エレベーターの中でもまた同じことを考えていたようで、二階分上に上がってしまった。行きたいのは5階だ。これは本格的にやばい。今日は早めに寝よう。
「ただいまー」
誰もいない部屋に向かって言う。母親も父親も帰ってきてないようだ。ベッドに寝っ転がる。そしてまた続き。
俺はどうしてこんな人間になってしまったのか。それはもう『諦めてしまったから』だ。
何に?
自分のいる世界に。
たとえどんなに頑張ろうと自分の望む世界になんてなりっこない。……いや、頑張らなかったから来ないのだ。
俺は小学生の頃はそこそこ順風満帆だった。勉強も出来たし、そこそこ運動神経もあった。だから努力を怠った。何もしなくてもいいと感じるようになってきた。『努力は才能』なんて言って、ずっと嫌なことから逃げてきた。そして
「はぁ…」
ため息を付いて目を閉じる。
俺はどうなりたいのだろう。
何がしたいのだろう。
俺は…
「強くなりたい」
思わず口に出していた。
無敵じゃなくてもいい。ただ一つ。大切なものを守れる。大切なものがある。大切なものが大切なものだとわかる。
不確定じゃない。たしかにそこ
「強くなりたい」
もう一度口にしたが、虚しくなり考えるのをやめた。まだ早いがもう眠ろう。もう限界だ。
また明日頑張ればいいさ…。
また明日…
『ソレガオ前ノ望ミカ?』
次回、加速世界にて
少年は目撃する。
己の弱さを