「景色がきれいだよ」   作:人に戻った少女

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 先祖様との対決まで書けませんでした。


親子

 私には、恐れることがある。

 家族を直視すること。幸せを追うこと。

 私はそれをする度に、自分が手放そうとしたそれの尊さを突きつけられる。

 だけど、もう逃げないと決めた。

 ようやく私は向き合うと決意したから。

 だからこそ私は父と話し合わなければならない。

 妹たちだけではない。父も一緒にいてこその家族なのだ。

 取り返しはつかないかもしれない。

 だが、何も確かめずに諦めるべきではないはずだ。

 

 薄暗い階段を下へ降りていく。

 魔法ですぐに父の元へ行くこともできるが、心の準備も兼ねて足を動かしていた。

 私は、父のことも知らない。

 なぜ父が母を愛していたのか。

 なぜ愛している母に無理をさせたのか。

 どんな人生を歩んで、どんな感情を持っていたのか。

 私は、知らない。

 知らないままで、ただ助けたいという気持ちだけで、奈落に続くと錯覚しそうな階段を降りている。

 これは、ともすれば父の心にとどめをさす愚行になるのかもしれない。

 私は、その実一歩も動かず大人しくしているべきだったのかもしれない。

 だが、それではいけないと、思ってしまった。

 下手をすれば、私は過去の再現を引き起こすことになるというのに。

 良いことと思い込んで、最悪を呼び込むかもしれないのに。

 だから、これは私のわがまま。

 山ほどの選択肢から、私はこの行動を選んだ。

 誰かのせいにはできない。私の幸福の中に、父が幸福であることが含まれているという、そんな理由で私は軽挙を起こす。

 何も知らないまま、私は降りる。

 けれど、不思議なほど心は静かだった。

 何か、心の奥で確信するものがあるのかもしれない。

 その正体もわからず、私は階段の終着点へと辿り着いた。

 

 鉄格子を隔てて、私たちはそこにいた。

 何も明かりがなくて相手の姿も見えないが、音が雄弁に相手を語っていた。

 明かりをつけようとした私を、壁を軽く叩いて父が止めるからその暗闇は晴れない。

 お互いに、音で相手の位置や動作も把握していた。

 この地下牢には私と父しかいない。だから、余計な音は混ざらない。

 地下牢という場所と私たちの関係がなければ、もしかしたらこの状況は一家の団欒と思われるほど、穏やかだった。

 けれど、それはただのまやかしだ。

 この場に満ちているのは緊張。

 その中で、私は口を開いた。

 

「お父さん……」

「やめろ」

 

 それは明確な拒絶の意思。絶対に交わらないことの証明。

 闇の中で、あまりにも強く響く。

 

「俺は、お前たちが羨ましかった。アンジェリーナの愛を一身に受けるお前たちが」

「……聞かせてください。私は、お父さんのことを知らなすぎました。お父さんが、何を思って、何を考えていたか。全部を、聞かせてください」

 

 歯軋り音。父のもの。

 それでも、私は知るべきだ。

 

「俺は……最悪の人間だった。俺は何も知らない無知な子供だった。自分で何をしたらいいかも分からないまま、アンジェリーナにおんぶに抱っこのクズだった」

 

「俺は何も成長できないバカだった。そのクセ一丁前に人を好きになった。大した理由もないまま人を好きになって、好きになった人を死なせちまうゴミだ」

 

「ゴミのクセして、自分のガキを気味悪がったり嫉妬したりして、最後には八つ当たりした言い訳もしようのないろくでなしだ」

 

「俺は、お前たちの父になれるような立派な人間じゃない。どうか、俺を家族として見ないでくれ。俺にはもう、残ってるものは何一つ無いんだ」

 

「それで、終わりだ」

 

 そう、話は締めくくられた。

 歯軋り音はまだ響いている。

 だから私は、扉を開け、鉄格子の中へ入った。

 まだ、聞くべきがあると思ったから。

 

「なんの、つもりだ?」

「お父さん」

「やめろ」

「……私は、お父さんに元気になってほしいです」

「だから────やめろって言ってるだろ!」

 

 急に腕を掴まれ放り投げられる。

 途中にあった鉄格子は衝撃に耐えられず簡単にへし折れた。

 私は壁に叩きつけられる。ただ、痛みも傷もない。

 

「元気になってほしい!? そんな日は、もう、来るはずがないだろうが! 俺の幸せはアンジェリーナだけだ! あいつがいなけりゃ生きる意味なんて無い! お前が、お前だけは俺にそんな言葉吐く権利が無いんだよ! アンジェリーナの体を治せたはずのお前だけは、絶対に!」

 

 それは感情の爆発。私が初めて見る、父の姿だ。

 

「そうだ! お前はアンジェリーナを治せたはずだ、そのはずだ! お前だって、それを望んで、あ、あ、だから、だからお前は俺の言葉なんて聞かずに……クソ! クソ! 分かってる! 誰が一番悪いかなんてとっくの昔に知ってるんだ! けど思わずにいられないんだよ! 俺より強いお前がどうにかするべきだったって!」

 

 怒鳴りながら泣き出すその姿が、ありのままの父だった。

 

「どうして、どうしてお前は何も知らないんだ! 何も知ろうとしなかった! そうしてくれれば俺は、いや、アンジェリーナは、あそこまで苦しまずに生きられたはずだったのに! これも、これも、全部、全部全部全部!……あ、ああ、ああああああ! お前のせいだ! そうと言え! 自分のせいだって! お前が!」

 

 理論も理屈もなく、ただ喚き散らす父の姿が。

 なぜか、愛おしく思えてしまった。

 ようやく、父を知ることができた気がして。

 浅ましくも、喜ばしく思った。

 きっと倒錯してる。でも、仕方ないじゃないか。

 ようやく、弱みを吐き出せているんだから。

 

「ああ、クソ! クソ! 消えてしまえ! 消えろ、消えろ! こんな人でなしなんぞ死に晒せ! 八つ当たりするしか能のないろくでなしが! アンジェリーナを助けられなかったゴミが! 数十年生きて何も成長しなかったバカが! アンジェリーナに縋るしかしなかったクズが! 生きる価値のない、最低最悪の人間が!」

 

 それは、既にただの自傷に変わっていた。

 自分への怨嗟。それが父の心を焼いているものだった。

 私はそれを癒すために、父へ抱きつく。

 頭を撫でるには背が足りないから、せめて抱きつく。

 

「プラム、すまない……俺のせいだ。全部、俺のせいだ。俺が全部悪かったんだ。俺は、何もできなかった……。俺は、お前の父親になる資格なんてない……」

 

 私は、それを否定する。

 たとえ誰が、妹たちがそれにうなづいたとして、私だけは否定する。

 私は、何も知らない中で、それでも知っていることがあるのだ。

 その一つだけで、私はこの人を父と言い張れる。

 それは────

 

「忙しい中時間を割いてまで、花を咲かせる魔法を見てくれましたね」

 

────覚えてる。

 お父さんが、それを見てくれたこと。

 少しだけ口角が上がっていたこと。

 嬉しかったから、覚えてる。

 

「だから、お父さんはお父さんです。どれだけ酷いことしても、お父さんです。好きでも嫌いでも、私の、お父さんなんです」

 

 お母さんと変わらず、お父さんは私を愛してくれた。

 だから、私にとってかけがえのない人。

 

「私は、お父さんがいなくなったらイヤです。一緒にいたいです。だから、元気になってほしいです。してほしいことがあるなら、何でもします。一緒に、お母さんの死を乗り越えたいんです」

 

 勢い任せで出た言葉だけど、紛れもない本心だ。

 きっと、お父さんにされることなら、私は何でも受け入れられる。

 どんなことでも。どんなことでもだ。

 

「……ああ。ここまで言われたら、認めるしかないな」

 

 父は、少し私の頭を撫で階段の方へ向かう。

 私は小走りで父の後を追う。

 なんだか、それが楽しくて、つい口元がニヤついてしまう。

 まだ真っ暗だから、気付かれないだろう。

 

「俺は一人じゃ何もできない。だからプラム、お前の力が必要だ」

「はい! 何でも言ってください!」

 

 ああ、声が弾んでしまった。これじゃ興奮しているのが丸わかりだ。ちょっと恥ずかしい。

 父の声が真剣だから、私もそうありたいのに。

 あ、また頭撫でてくれた。嬉しい。

 

「俺の因縁を一つ終わらせる。手伝ってくれるか? アンジェリーナの、弔いのために」

 

「喜んで!」

 

 勢いある返事は階段中に響いた。やっぱり恥ずかしくて、でも誇らしく感じる。

 私は、この暗闇から父を引っ張り出せた。

 その歓喜の裏で、冷めた部分の私は理解する。

 弔いのために因縁を終わらせるなら、母の死は仕組まれたものだということだ。

 つまり、私たちの不幸は他者の手が入り込んだ必然ということ。

 私は、ついに知った。

 罪禍の在処を。

 父の因縁は同時に私の因縁でもあった。

 なら遠慮はいらない。

 一片の慈悲なく手を下そう。

 覚悟しろ、誰かも分からない元凶よ。

 

 全ての偶然が、お前の敵になる。

 




 TSロリがその発言の危険性を知りながら「何でもします」って言うのえっちだと思います。その発言で下衆なことを要求せず一直線に敵を討つための協力を頼む男は素敵だと思います。
 先祖様は……先祖様なので……。先祖様に永遠という属性を付けた瞬間に自分の中の最強厨が疼いて、色々と設定付け加えちゃったんですよねぇ。
 まあ、未来の作者がどうにかしてくれるはずです。今の作者は知りません。
 
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