「景色がきれいだよ」   作:人に戻った少女

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感傷

「あー……疲れた……」

 

 ガブリエラ・ピルグリム・エデンを亡き者にした私たちは、死体を燃やして処理した後自らの屋敷へ帰ってきていた。

 みんな満身創痍の様相で、それは私も同じだった。

 今回、反省するべきは私だろう。

 自身の状態をよくチェックしてから挑むべきだった。

 何度も言うが、私の魔法は全能なのだ。

 私の魔法が通じない相手が出てきたなら、まず私が何らかの干渉を受けていると考えた方が良い。

 恐らくだが、認識操作の手紙が届いてからの私は、ガブリエラの意のままに動いていたと考えていいだろう。

 過剰なまでに他人を救済しようとしたのも、母の死から目を背け家族から逃げたのも、私がそうあることがガブリエラの利益になるからだろう。

 最終的にガブリエラは、救済に狂った私を利用して神様を地上に呼び込もうとしたのだと思う。詳しいことは何も分からないが、ガブリエラが私に言っていたことだしそこは確実だろう。

 あくまで、私から自主的に協力するようにしたかったはずだ。

 さすがに、私が母の死に向き合う所まで含めて全て計画通りとは考えたくない。そこまでいくと自我の一つ一つをいちいち疑わなければならなくなる。

 予測だが、私が家族や自身の幸せと向き合った時点で認識操作は半ば切れている状態だっただろう。認識操作が完璧だったならそもそも不完全とはいえガブリエラ相手に魔法は一切使えなかったはずだ。

 ここから、私がガブリエラを敵と認識した時には認識操作に気付けるはずだったのだ。ゆっくり準備をしていれば、父や妹たちは私の様子におかしさを感じるかもしれない。

 私が万全の状態なら、『水』にも永遠にもあそこまで追い詰められることは無かった。

 だから、みんなが追い詰められたのは私のせいな部分が強い。

 

 意識を向ける余裕は無かったが、父も翻弄されながらもしっかりガブリエラの足止めを果たしていた。侮られていたとしても、時間を稼げれば私が決定的な一撃を入れられる。それを前提に、父は私たちの盾としてしっかり役割を果たしていた。何年も地下に幽閉されていた身と考えれば、切り結ぶことができる時点で並外れた戦果だ。

 アネモネは、今回の立役者だ。もしアネモネがいなければ私たちは手も足も出ず負けるしかなかった。あの子がいたから私たちは明かりのない絶望から勝利という希望を掴めたのだ。限界ぎりぎり、それどころか限界を超えてみせた彼女には頭があがらない。

 一応私も、勝ちに貢献している。勝って当然ではあるし私としては反省点が重すぎて自覚は薄いが、あの場でトドメをさせるのは私しかいなかった。その上で認識操作を解除できて、以後その魔法を無効化できるのは私だけでもある。父とアナベルが洗脳されないように備えるのも私の役割だった。アネモネから、魔法を使った罠を中心に戦う世界もあると聞いていたし、この世界では何を使うか分からないから万能薬的な働きも期待されてたのだ。まさか何もかもを使ってくるとは思わなかったけど……。

 

 まあ、そういうことで、私は本来何でもできる存在としてあの戦場へ赴いたはずだった。

 まさか上手くしてやられるとは……。

 猛省せざるを得ない。大穴から流れ出る意思なき力とはまた別の厄介さだったが、どこかでそれよりはマシという慢心が無かったかと問われれば否定できない。

 今の所、大穴と並んでどうしようもないものトップにガブリエラが並び立っている。もう一度戦えと言われたら泣きながら拒否すると思う。

 魔法が通じない体験はもうたくさんだ。パニックなんてもんじゃ済まない。心臓がある生き物がある日自身から心臓の鼓動が無くなってると気付いたそのとき、私と同種の感情を抱くのだろう。

 ただ、その感情のために止まってはいけない。

 正しい対処を知り、それを行えるようになってようやく、その感情は和らいでいくのだから。

 それはそれとして、すごいつらいけど。

 

 帰ってきた時リリィが出迎えてくれたけど、気力が限界で返事もそこそこに自室のベッドへ潜り込んでしまった。

 さっさと眠りたいのだが、頭の中は反省会みたいな思考がぐるぐるして全く眠れない。

 というか外はまだ昼だ。輝かしい太陽がカーテン越しに光を届けてくる。

 明るい光が差し込んでくるから目を瞑ってもなかなか意識が薄まらない。

 疲れているのは確かなのだが、ままならない。ベッドに倒れ込んでから指一本動かないのにどうにも生殺しだ。

 

「……」

 

 私は、初めて人を殺した。

 母の死が私のせいでないのなら、確かに初めて殺した。

 殺すと決めた時は、もはや人間として見ていなかった。

 不倶戴天の敵。この地上から消しても心が痛まないそれ。

 何も感じ入ることは無いと考えていた。

 けれど、いざ手にかけてみると、何とも言えない。

 私は、本当にあれで良かったのだろうか。

 少なくとも私は、あの人間の苦悩を知ることができるかもしれなかった。

 あの永遠は、他者から吸い取った罪で成り立っていた。

 つまりあの人間は、他者の罪を背負い続ける存在だった。

 私はそれをしたことがある。

 母が亡くなって、現実逃避に遠くを見て、そこで不幸になる人間を助け続けた。

 生きるために誰かが他の誰かから何かを奪う。

 その不幸に、私は手を出した。

 誰かが誰から何かを奪わなくても済むように、奪おうとした誰かを助けて、何かを奪われる人を何も奪われない人にした。

 過程や結果が違えど、私はあの人間のように他者が犯すはずの罪を背負った。

 

 たった、ひとつ。みんなが、しあわせになればいいとねがって。

 

 私には誰も不幸にならないようにするだけの力があった。

 ガブリエラという人間には、そこまでの力はなかった。

 だから、あの人間は他者が犯す罪を吸い取る方向へ舵を切った。

 あの人間は、力が足りなかった私かもしれない。

 ただ力が足りないだけで、私はあの生き方を選んでしまうかもしれない。

 もし、私が家族を助けられなかったら、私は他者を救うことに生きる意味を見出すはずだ。

 人々を助けた時期は後悔も多いけど、人を助けるという行動そのものは何も悔いることはない。優先順位の違いというだけで、その行動は確かに正しく気分が良いものであることは間違いなかった。

 家族を失うほど力が足りない私は、それに傾倒する。確実に。

 その果てこそ、あの人間だ。

 その実、私とガブリエラは鏡合わせだったのかもしれない。

 その一対の鏡の一つを、私は叩き割ってしまった。

 今後、私はあの人間を、あるかもしれなかった私の未来を壊したことを背負って生きることになる。

 どこかで人を助けようとした時、全ての人間を助ける選択を蹴ったことを、それなのに贔屓目で誰かを助けるのだということを、思い出すことになるだろう。

 

「……重い、なぁ」

 

 ぽつりと溢れた言葉が、本心だった。

 それは、家族を助けるたびに響く声になる。

 家族を優先して助けるたびに、私の中の私が叫ぶだろう。

『なぜ、その手を他の人にも差し伸べないのだ』

 ずっとこだまし続ける。

 後ろめたさを刺すように。

 その力の責任を、果たすべきだと。

 私はそれに背くことに決めた。

 何より、家族を優先するのだと決めている。

 けれどこうもはっきりその罪を突きつけられてしまえば、足が鈍るというものだ。

 あまりにその罪が重すぎて、歩けなくなったような錯覚がする。

 犠牲になった人たちにも家族がいて、犠牲になった人たちに恩を受けた誰かもいて、犠牲になった人たちを悲しむ誰かだっている。

 私はその人たち全員に助けなかったという不幸を振り撒いて、自分の家族を助けるのだ。

 成長するには見守るしかない。けれど、その成長は血と屍が積み上がった結果だった。私はそれを知らずに、人の成長に任せることにしてしまった。

 

 重い。だって、それは母に起こったことと同じだから。

 誰も母を助けなかった。誰も母を助けられなかった。

 もし母を助けられる誰かがいたなら、私は恥を投げ捨てて縋り付いただろう。例え、それを母が望まなかったとしても、そうしただろう。

 私は、その、母を助けられる誰かになったのだ。

 そして、私に縋り付く幼い私の手を払って、どこかへと向かう。

 今の私は、それを選んだ私だ。

 泣きじゃくる私を尻目に、今の私は家に帰って、家族と共にパーティーでもするのかもしれない。

 その裏で、幼い私は母を亡くす。

 もしかしたら、その幼い私には母しかいないかもしれない。

 ひとりぼっちで、寂しく今後の人生を生きなければならないかもしれない。

 でも今の私は、家族と共に幸せに暮らすんだ。

 他の人の不幸なんて知らないって、そう言いながら。

 

……これで、いいんだろうか。

 余裕がまだあるうちは人を助けるのを続けようと思っている。

 人が幸せになるのを見るのは気分が良い。

 だからまだ、ささやかながらお節介を焼くことはやめていない。

 それでも、その規模は今までより小さくなる。

 小さくなった分だけ、やっぱり被害が増えるのだ。

 それを見過ごすことが、本当に私の幸福に繋がるだろうか。

 そうでは、ないのだと思う。

 私はワガママだ。家族も、見知らぬ誰かも、どちらともが幸せであってほしい。

 だから、せめて余裕があるうちは、助けられる分だけ人を助けよう。

 誰も彼もではない。だけど、ささやかでも私の手のひらでなら大勢を助けられる。

 そうして、正しく罪と向き合う。

 きっと、その先にこそ私の幸せがあるのだから。

 

 頭の中で結論が固まって、ようやく眠気が来た。

 思考がぐるぐる回っていたせいか、夕暮れまではいかないけど日が傾いている。

 もしかしたら夜中に起きるハメになるかもしれないが、このまま眠るのも気持ちいいだろう。

 その誘惑に従って、私は深い夢に身を委ねた。

 不思議と、悪夢は見ない確信があった。




 書きたいものに一区切りついたのでなかなか話を思い浮かべるのが大変でした。
 幼少期の幸せなプラムも書いてみたいんですが、どうにも幸せな時期を書ける気がしないんですよね。世界の設定とか時代とかをその場のノリで決めてるので、日常の描写がとにかく難しいんですよねー……。その実、日常の描写にこそ設定の細やかさが出てくると思います。ここがおかしいと登場人物の心に説得力が無くなると考えてますから。
 だから、日常に関しては下手なものを出すよりいっそぼかして仄めかすくらいが作者の限界なんですよね。向上心がないからそこ止まりです。

 穏やかな状態の登場人物って、筆を勝手に動かすことがないんですよ。だからその登場人物たちの細かな設定で彼らがどう動くかを創作者たちの中に作っておかないと、まともに動いてくれないんです。
 私はその設定を大雑把に決めて、登場人物たちが筆を動かすのに任せて小説を書いてるのでその部分しかまともに書けません。
 けど、登場人物の本質は日常といった穏やかな部分で描写するのがオシャレだと、個人的に思ってます。
 憧れですね。作者自身が穏やかな人間でないので、穏やかな人間を書きたい欲の噴出です。暖かな陽だまりのような人間が幸せに生きてる姿を書きたい……。
 いつか諦めるのではなくちゃんと書いてみたいですね。つまらないだけでしょうが、自己満足ならそれも一興でしょう。

 次は……少し世界の話をしてみます。作者が無学なので知識がある人にとっては違和感しかない描写が続くかもしれませんが、異世界なので勘弁してください。
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