「景色がきれいだよ」   作:人に戻った少女

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番外編/予兆

 ガブリエラ・ピルグリム・エデンの死去。

 それは瞬く間に大陸全土へ広まった。

 彼女は決まった土地に留まらず世界を旅する存在だ。

 そして、行く先々で事件を巻き起こす凶悪犯罪者でもあった。

 最も有名なのは奴隷種である妖精を解放し野に放ったあの事件だ。

 奴は奴隷国家とも言うべき侵略国家を単独で滅ぼし、囚われていた全ての奴隷を解放した。その中には、泉の水からではなく自然発生によって生まれた種族も多数いた。

 にもかかわらず、この事件は妖精が解放されたことを最も重くみられている。国を滅ぼしたことでもなく、多数の奴隷を解放して人間への憎悪を携えた集団を発生させたことでもなく。

 なぜ妖精を解放したことがここまで重くみられるのか。それは、妖精たちが他のどの奴隷たちよりも強力だったからだ。

 妖精たちは奴隷から解放された直後に国を作り出した。始めは多くの人間国家が侮りから攻め込んだが、結果は今も妖精の国が健在であることから察しが付くだろう。

 文献には、たった一匹の妖精が幾十もの人間国家を相手に蹂躙した、と残されている。

 ここまで絶大な力を持つ妖精がなぜ奴隷にできていたのか。私には疑問が残るほどだ。しかし事実として歴史に刻まれている以上、妖精と私たちはそういう因縁があり、妖精たちに反感を抱かれないよう動くしかない。

 

 ガブリエラは、妖精たちを解放した後も妖精たちの支援をしていたようで、ガブリエラの死が判明したときは妖精たちが怒り狂って「下手人を出せ」の大合唱だ。

 だが私たちだって困惑している。

 そもそもあれは殺して死ぬような存在なのか?

 大陸中に悪名が響いているガブリエラは、何度も刃をその身に突き刺されている存在だ。しかしながら、それを確かに見た者はみなあの人間が、傷が付くたび瞬く間に傷が癒え痛苦に顔を動かすこともない、と証言する。

 彼女を知る者はあれが死ぬことができる存在ではないという共通認識を持っていた。

 だというのに、ガブリエラが死んだ。

 いまだに信じられない。

 だがガブリエラの死が嘘だろうと真実だろうと、妖精たちは犯人を探し求めている。

 なら、私たちは差し出さなければならないのだ。

 私たちの国とは別の場所から。

 報復で国が滅ばされぬように。

 

 これは、犯人を探し出す戦いとは違う。

 これは、誰を犯人にするかという戦い。

 最もらしい理由をつけて国を破滅させる爆弾を押し付け合う。

 それが、今後巻き起こる戦いだ。

……間違いなく、私たちが不利だろう。

 王国は誰かの名の下に統一されているわけではない。

 確かに王という存在は多大な力を持つだろう。

 ただ、王が絶対というわけではない。

 王に並ぶ貴族は、少ないながらも存在する。

 彼らが暴走したと主張されれば、可能不可能関係なく下手人ということになってしまう。

 対して、他の主要国家は頂点こそが絶対だ。

 例え私が他の主要国家こそが下手人と主張しても、「そのような愚を犯す者を放置するほど蒙昧ではない」と頂点に立つ者が主張すれば、それで私たちが負けてしまう。私たちは、口が裂けてもその言葉を吐けないのだから。

 

 だから、私たちは他にスケープゴートを作らねばならない。

 私たちの国に所属しているわけではないが、妖精が納得するくらいには強大な存在を。

……ガーデン家。

 私は、彼らを生贄に差し出そうと思う。

 彼らが生まれながらに持つ力は、ガブリエラを殺したという一定の説得力を持たせるには十分だろう。

 その上、彼らの領土は私たちの国の中にある。

 そして、明確にどこの国に所属しているかははっきりしていない。

 私たちはガーデン家には領土を脅しにして、対外的には領土を勝手に占領されている被害者として振る舞う。

 どれだけ苦しいとしてもこのように振る舞うしかない。

 結局のところ、これは妖精が納得するかどうかの戦いだ。

 誰よりも強い存在が、何にも縛られず存在している。

 それが、ガブリエラを殺した。

 私たちは、その下手人に苦しめられている被害者。

 他の誰がそれを嘘だと突っつこうが、妖精にこの主張を信じさせれば真実はそうなる。

 ガーデン家の重みは誰だって理解している。

 その血が通っているというだけで、国が一つ興せるのだ。

 誰もその血を消させないよう動くだろう。

 だがそれは人間の論理だ。

 泉の女神を信じる者の論理。

 他の種族には、妖精には通じない。

 むしろ神の子孫だからガブリエラを殺せたという主張ができる。

 他の者にはできない、可能か不可能かの話ができる。

 この主張を妖精がどれだけ重く見るかは分からない。

 けれどこれを無視できるほど無差別に怒っているわけではない。

 もし誰でもいいというなら、こんな爆弾の押し付け合いなどできないまま人類は滅ぼされるのだから。

 

 そうと決まればガーデン家へ赴かなければならない。

 六国共名、主要国家が人類の滅亡に対して対策を取るための会議へ、出廷を要求するために。

 もしかしたら私は顰蹙を買って彼らに殺されるかもしれないが、六国共名でその事実が伝えられるだけでも少しは流れが変わるだろう。

 ガーデン家の凶暴さと力を妖精に印象付けることができる。他の主要国家が私たちの謀略だと妖精をたらし込もうとしても、優秀な配下がそれを防いでくれるだろう。王のみが許された戦場とはいえ、王が死んだから不参加、も認められていない戦場だ。王が死ねばより適した者を代役として戦場に送れるのだから、奥の手であっても悪手ではない。

 私は私たちを助けない女神などより私の国を選ぶ。

 

 だから、私たちのために死んでくれ、ガーデン家。

 




 ガブリエラの死がどのように世界に影響するかの話でした。
 先祖様が暴れてるせいで妙なしがらみが生まれている……。

 過去に存在した奴隷国家ですが、存在していたならいまだに一強レベルの強国でした。積極的に他国へ侵略し植民地を作る、侵略国家です。
 そのため、人口比率でいえば1の人間に対して1000の奴隷がいるような状態でした。大陸の7割を支配してました。先祖様が潰しましたが。
 解放された人たちはみんなガブリエラに感謝してます。解放された後も教育機関を作って生きる力を授けてくれるので、奴隷の方がマシという生き物はあまりいません。
 今回の話では妖精が矢面に立ってガブリエラを殺した犯人を探していますが、裏には大量の生き物たちが憎悪をたぎらせて犯人の捜索をしています。
 
 人間たちとしては、奴隷国家との繋がりを否定して怒りの矛先を向けられないようにするしかありませんね。しかし今も国としての体裁を成している以上、奴隷国家に恭順してその利益をもらっていたのはこの世界では公然の秘密くらい当たり前の論理です。
 恭順or蹂躙どちらかしか選べない上に恭順しても難癖つけられて侵略されるので、今も国として残ってること自体が奴隷国家を全面的に支援していた証拠になるのです。
 これを打ち倒した英雄が殺されたとなったら、怒りの暴走は止まりません。
 話し合いしようとしてくれるだけすごい理性的ですね。逆に、理性的だからこそ妖精が矢面に立ったのかもしれません。

 書けば書くだけ世界観が世紀末になっていく! この世界本当に幸せな楽園があった世界なんですか!?
 まあ死ねば楽園に行けるし……死後の救いは万全です!
 現世? うん。罪というものはそういうものです。
 主人公は下手に前世の記憶持ってなくて良かったですね。真っ当な感覚持ってこれを見てたら家族を振り切って救済の道を全力疾走してたでしょう……。
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