「景色がきれいだよ」   作:人に戻った少女

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盲目

 誰も後ろ盾がない家なんてものは早々に食い潰される。

 それは世界の道理だ。

 俺の家に残るのは俺を含めた子供が四人。たったそれだけの家。

 こんな惨状では、どんなに悪辣な者が入り込んでも保護者として振る舞えば善人として拍手喝采が巻き起こる事間違いなしだろう。

 下手に続いた家のせいで、その腹積りの奴は何人もいる。中には、純粋に俺たちを心配している奴もいるかもしれないが、そいつらだって結局は俺たちの価値を無視できない。

 

 その血を継げば、時代の覇者になる。

 残念ながら、俺たちの家は神の血を引いたなんて頭のおかしい伝承がある。

 王族が主張するべきものだと思うのだが、残念ながら俺たちの血には実際に神の血が流れてるんだから仕方がない。俺たちの家こそ王族の地位を担保しているような有様だ。

 というか、この国だけでなく大陸にある大半の建国には大体俺たちの家の名を使われている。大国ならばもう全てと関わりがあると言っていい。建国神話で俺たちの家が王権を授けたと語られる事は珍しくない。

 今の今までは、俺たちの家は国がどうこう、というような次元にいなかったのだ。

 各時代各時代で嫁は各国持ち回り。決して一つの国だけに血を集中させない。

 もし一箇所に集まれば、大陸の頂点になれる。

 逆に、俺たちの家が音頭を取れば、大陸に統一国家でもできただろう。

 そうしなかった原因は、俺には分かる。真っ先に対処するべきものだったから。

 世界の大穴。欠けた世界のうろ。

 それは世界を崩壊させる、別世界への穴だった。

 神様が世界にいた時代、世界を隔てる壁が破損したことによりできたものらしい。家の禁書庫に保存された、ただ唯一の本にそう書いてあった。

 俺たちの家は、その大穴を塞ぐための一族らしい。

 代々あの穴を少しずつ小さくして、俺の代でようやく塞げたのだ。それまで、他のことを考える余裕などあるはずがない。

 もしかしたら、今の代で男が生まれてこなかったのは、もう必要なくなったからなのかもしれない。

 世界は大きく揺れ動く事になりそうだが、俺たち姉妹は丁重にもてなされるだろう。

 もし俺たちに傷がつこうものなら、それだけでそいつらは大陸の敵となる。

 欲にまみれた人間たちが、俺たちを巡って集りだしたのは当然の話だった。

 

 俺たち姉妹は、人間に対して敵対的だった。

 誰も彼もが欲望の虜。それを見抜けぬほど、神の血とそれが齎す才は甘くない。

 

────例えそれが、5歳の少女でも。

 

 一番下の妹は5歳だ。俺たちの中で最も才が枯れている幼子。

 それですら、この惨状を理解していた。

 他の姉妹が、惑わされるはずもない。

 俺たちの家は皆早熟なのだ。

 どれだけ幼かろうと、醜悪さに気付き敵意を向ける。

 だから、俺は、全ての養子入りや後見人を断った。

 四女はともかく、次女と三女は人を殺せてしまう。それを抑えるための、決断だった。

 それが成立したのは俺の魔法と、楽園と化した俺の領地があったからだろう。

 これでようやく、均衡を保っている。

 しかし、これもいつまでは続かないだろう。

 いつかはどこかしらに嫁入りしなければなるまい。

 さすがに、力を言い訳にして無理やり頷かせるのは、悪感情を抱かせた。世界の大穴を知っている者は限られているのだ。

 どこかで、家を終わらせねばならない。

 本当に、厄介な事になっている。

 

 魔法にまかせて洗脳でもできたら爽快だろう。

 鬱屈とした問題は全て拭い去られて、楽園外の物資面を救済するだけで世界は完膚なきまで救われる。

 それで、終わらせたくなった事もある。

 けれど、その度に思うのだ。

 それは尊厳を踏み躙る事と変わりがないのでは?

 だって、そうだ。

 洗脳してみんなおてて繋いで仲良くなりました、ということにしたとして。

 親しい人を殺された人が、殺した人と手を握ることになるかもしれない。

 殺した側が改心し、殺された側が許す。俺は世界にそうあってほしい。

 それでも、それは当人が決めるべきじゃないか?

 無理やり考えを変えさせられて、無理やり仲良しになる。それは、悍ましいことじゃないのか。

 だから、安易に終わらせるのは、嫌だ。

 手を尽くしたい。誰にも殺させず、誰にも恨ませたくない。

 魔法は全能だ。それだけの事をする力があるのだ。

 だからこそ、手段は、選んでおきたい。

 でも、良さそうな手段が、分からない。

 ダメな事だけは分かる手段以外、まともに思い浮かばない。

 何でもできるはずなのに、何もできない。

 そんな場合じゃないのに。今この瞬間にも、拾えるはずの全能の手からこぼれ落ちる者がいるのだ。

 それなのに、それなのに、何もできない。

 

 きっと、他の誰かがこの力を持っていれば、私より鮮やかに問題を解決できたんだろう。

 それでも、この力が与えられたのは俺だった。

 なら、何かをしなければ。

 何かって、何を?

 人の尊厳を汚して、世界を救う?

……それは、したくない。

 けれど、それが一番早い。

 早いけど、したくない。

 同じ思考がずっと頭を回っている。

 誰かに背負ってほしい。誰かに助けてほしい。誰かに止めてほしい。

 けど、それも、ダメだ。

 全能の罪は、人が背負うには重すぎる。

 誰にもこの十字架を押し付ける訳にはいかない。

 微力でも、世界の不幸を減らしていける。

 こうやって悩みながらでも、遠くの不幸を無くしていける。

 まだ、誰かに重みを預けるには早すぎる。

 

 ガーデン家長女、プラム・ガーデン。

 俺は、この才が果たすべき役割を、果たせていないのだから。

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