「景色がきれいだよ」 作:人に戻った少女
時間がある時にお読みください。
「貴方たちが、ガーデン家ね?」
枯れ枝でできた少女の言葉が場に響く。
小さな体躯を上質な絹のドレスで着飾った緑色の生命は私とリリィを真っ直ぐ見据え、嗜虐的に微笑む。
円卓を囲む椅子は六つ。そこに追加されたように、形だけは立派な枝の椅子が整った部屋を侵食して存在していた。
罪人として召喚されている私たちは、当然のように座る場所など用意されない。
立ったまま、この話し合いに臨むことになるだろう。
表面的には柔らかに私たちを出迎えているが、ここから進むのは一重に私たちをどう処断するかの議論でしかない。
大半の要求は私の魔法でどうにでもできるが、家族の命や奉仕を要求されたなら私は罪を償う気はない。
いくら申し訳なく思っても、やはり譲れないものは存在するのだ。
ところで、リリィが任せてと言ったから全部任せようと思っているのだけど、リリィはこの場をどう切り抜ける気なのだろう?
とりあえずこの場の長っぽい子に返事をした方が良いんだろうか?
多分そう。礼儀なんて頭から抜け落ちて久しいけど、示せる分の誠意は見せた方が良いだろうし。
「はい。私たちがガーデン家の者です」
これでよし。
……対面にいる少女は、呆れ顔でこちらを見ている。
何か間違えたのだろうか? いや、何も間違ったことは言ってないし大丈夫なはず。
あ、名前? 確かに言うべきだ。二人いるんだし呼び分けるためにも名前は言っておかないと。
「私はプラムと言います。以後お見知り置きを」
よし。これで良いでしょ。
リリィは自分で自己紹介できるし、余計なことを言わないためにも私はこれで良いはずだ。
……リリィからあり得ないものを見る目が向けられてるんだけど。
あ、罪状。そりゃそうだよね。私からしてみたらリリィは私を弁護してくれる人だが、他の人から見たらどちらが罪を犯したのか分からない。それどころか、二人で協力してガブリエラを殺したと思われてもおかしくない。
本当はこの場にいない父とアネモネも共犯者になるのだろうが……ここでそれを言っても場が混乱するだけだろう。
「私はガブリエラ・ピルグリム・エデンを殺害した張本人です。私一人で計画し、私だけで実行しました。横にいる妹は、今生の別れを惜しみ着いてきてしまいました。どうか、大目に見て頂ければ幸いです」
うん。これで良いだろう。
……場の空気がすっごい変になってる。
私たちを呼び出した人は笑ってる。
赤髪の人は口をあんぐりと開けて呆然としてる。
老人は口角が引き攣ってる。
見覚えのある青年は感心したように私を見つめている。
胡散臭い小柄な男は私を品定めしている。
作業服の大男は何も興味なさげに虚空を見つめている。
枯れ枝の少女は、目の前の事象を受け止められないと言わんばかりに天を仰いでいた。
私、そんなにおかしいこと言った?
リリィの方を向いてみるも、リリィは笑いを堪えるように口を押さえ私と目を合わせないように顔を逸らした。
私だけが、私のしたことを理解していなかった。
「ああもう。醜く責任逃れでもすると予想していたのにここまでさっぱり認めてしまうなんて。プラム、これで貴方は言い逃れできなくなった。貴方はもう、裁きを受けるしかない」
「……? そういう場ではないのですか?」
あ、リリィが遂に耐えきれず笑い出した。
いやだって、そういう場じゃないの?
確かに私も罰は受けたくないけど、その罰が家族に向かわないなら私はそれで良い。
私が罪を犯したことは明確な事実で、それは償わなければならないことである。
だというなら、罪を犯したことを認め残った時間でどのような罰になるかの駆け引きをした方が良いはず。
罪を犯したかどうかは議論の余地も無いのだから、そこでごねて時間を無駄にするのは避けるべきだ。
しかし私の考えは非常識らしく、枯れ枝の少女が呆れに満ちた声で私に説明をする。
「いいえ。この場はガブリエラ・ピルグリム・エデンを殺した者を処断する場。貴方たちがそうで無い証拠を持ってきたなら貴方たちは何事もなく解放された。……その機会をみすみす手放したのよ、プラム」
「私が殺したんですから、つまり私を処断する場でしょう? 話し合うべきはどんな罰か、ではないですか?」
「まさか罪人に、あるべき姿を語られるなんて思いもしなかったわ」
おかしいな。当然のことを言ったら心の底からバカにする声色で同意された。何も間違っていないはずなのに何か間違ったような気分になってくる。
面白さが落ち着いたのか笑いがおさまったリリィを再び見つめる。
リリィは私の目を見ると、ゆっくりと首を縦に振って口を開いた。
「はい。お姉様の言葉に嘘はありません。私たちは穏便に事を済ませたいので、ご容赦いただければと存じます」
良かった。間違えてなかったみたいだ。
いやあ場にいるみんなが変な反応するから思わず焦ってしまった。
そうだ。ここから始まるのは罰を決める会議だ。
本当にヒヤヒヤした。
……まだ、空気が変わってない。
「……容赦。英雄様を殺した罪人に、容赦ね。遺言はそれだけかしら」
「貴方はそうせざるを得ない。本当に追い詰められているのは誰か理解しているのでしょう?」
リリィが枯れ木の少女相手に喧嘩を売っている!
待って、これは出来るだけ穏便に済ませるための話し合いなのではないのか?
私は確かに家族へ罰が向かうなら反故にする気だったが、ここまで乱暴に話を進めるつもりはなかった。
てっきり私は、リリィがどうにか軽い罰にして私を助けようとしているのだと思っていたが、リリィは法治を無視して殺し合いでも引き起こそうとしているのではないか!?
枯れ木の少女くらいなら確かに捻り潰せるが、ここにいるのは大きな国の長たちなのだ。下手に害せば国際連合ともいえる軍団と戦争になってしまう。
もしそれでガブリエラのような化け物が複数出てきたら、いくら私でも相手し切れるか分からない。洗脳は警戒されていない状況でぶつけるから通るわけで、真正面からだと割と抵抗されるのだ。
も、もしかしてリリィの心の火は全く弱まっていなくて、この場で爆発してしまったのではないか!?
リリィを止めようとして近付くが、こちらを見た彼女の目が私をとめる。
しっかりと理性の効いた目が、口出し不要と語る。
かなり不安になりながらリリィの得意分野には手を出せず、すごすごと引き下がるしかできなかった。
「貴方は妖精が追い詰められていると? いいえ。違う。私たちは頂点に立ったわ。私は誰にも縛られていない。罪人を裁く処刑者になったのよ」
「弱肉強食の掟は未だ貴方たちに繋がっている。まるでこの世の支配者のように振る舞っているけれど、それなら英雄は必要なかった」
「……何を根拠に、そんな妄言を吐くのかしら。誰も私たちを縛れないわ。私たちはもう、主人なのよ」
枯れ木の少女────妖精は、次第に怒りを顔に浮かべ声を荒げていく。
対してリリィはひたすらに冷たく、人間味なく言葉を綴っていく。
対照的な二人は、それでも激突することなく言葉でぶつかっていた。
「貴方は英雄が死んだ意味を理解しているはずでしょう? 奴隷国家を忘れられる筈がない。咎人を止められる誰かは既に存在しない」
「……私に、私たちに、勝てるつもり? 人間が?」
「奴隷国家の主はきっと、人間でしょうね?」
「ただの例外に決まってる────いや! 人間なはずがないわ! あんな小さな存在が、あんな惨めな存在が私たちより強大な筈がないもの!」
「それでも、英雄は人間だったでしょう」
妖精はその言葉に黙ってしまった。
緑色の目には明確な答えが滲んでいるが、口に出してしまえば大切なものが失われてしまうと理解しているように歯軋りだけしている。
当然、リリィがそれを見逃すはずがない。
同じ鎖に縛られるリリィは、同族にも決して容赦しない。
同じように他者の欲望に縛られて自由を失った怒りを抱く者として、狂おしいほどの渇望を捨てる姿は見せられないと言わんばかりに。
「なぜ貴方は奴隷国家の主をわざわざ人間ではないと強く主張するのですかね? 人間以外を奴隷にしていたから? そうではないですよね。人間の国も侵略していて、人間も奴隷になっていたんですから。妖精様? 私たちは奴隷国家の主人が何だったのか知らないんですよ。教えてくれませんか? 英雄は、一体誰を討ったのか。人間ではないんでしょう? それが分かるならつまり、主人が誰か見ていたんでしょう? 私は疑問でした。どうして、奴隷国家の主に関する話が一つもないのか。言い当てられるか、自白するか。どちらにせよ、貴方の支えは崩れ落ちる」
リリィの言葉は妖精にとって急所だったらしく、枯れ枝の手を伸ばしリリィを殺そうとする。
だけど、それは私が許さない。
リリィに伸びる鋭い枝も、それを囮に各国の長を貫こうとするトゲも全て魔法で塞ぐ。
そこから増殖して空間を埋め尽くそうとする木を切断し、成内容に腐らせる。
四方から噴き出る毒は前もって無毒化し、全てを切り刻もうとする葉は消滅させる。
破裂する種子は作り出した箱の中に閉じ込めて無害化する。
妖精のことごとくを封じ、抑え込んだ。
それで妖精は心が折れたのか、弱々しく言葉を吐き出した。
「分かってました。英雄様が鎖の先にいる主人なんて、理解してました。でも、どうしろっていうんですか。ただの遊びで私たちは家畜未満にされて、飽きたから放り捨てられて。何も分からないまま生きなきゃいけない現実を、どう生きたらいいんですか。昔を知っている同胞はみんな死んで、生まれた頃から奴隷だった同胞しか残っていない現実を、どうしたら良かったんですか。たった数十年で使い潰されていく同胞たちが何も知らないまま解放されて、数百年前誰が首輪を嵌めたのか分からないまま張本人を崇めだして! 事実を知ってるのは私だけ! 私だけが死なないまま!……誰が、逆らえるっていうんですか。英雄様に救われたって喜ぶ『みんな』に、その英雄様が怨敵だって、誰が伝えられるっていうんですか。気分を害したら、まとめて殺されるかもしれないのに。だから、だから、私は、みんなと一緒に、英雄様を讃えたんです。誰よりも。誰より盛大に。仕方ないじゃないですか。どうせ、みんなまとめて殺されるか、家畜未満よりもっと下らないバカになるかの二択だったんですから」
ひたすらに虚なまま、妖精は言葉を溢し続ける。
時折見せる叫び声を耐えるような唸りも、すぐに無感情へと吸い込まれていった。
「表面上自由になった私たちが真っ先にしたことは、上下関係を決めることでした。強いやつは何してもいいんですから、『みんな』そうしたんです。上下を決めて、上になったら下の存在を好きにする。下になったら、上の存在から求められたことは何でもする。文字通りの、何でもを。自由になった私たちは結局、奴隷国家のように奴隷を作り出したんですよ。それしか、知らないから。私はそれが嫌で嫌で、そこから離れたんです。でも遠くには行けなかった。本当は自由じゃないから。英雄様を讃えるのをやめてしまったら殺されるかもと思ったから。けれど、私についてくる『みんな』はたくさんいて、それは大きな集団になりました。私は、それが国ってものだと知らなかったんです。私は集団のリーダーとして動き回ることになりました。色んな派閥に分かれた『みんな』の中、一つの派閥として私の国は有力になりました。何せ、私は真っ先に決まった上下のうち、一番上でしたから。それに相応しい立ち振る舞いを、求められました。強いやつは、何をしてもいい。結局、それから逃れることなんて、出来なかったんです」
妖精の語りはひたすら無感情に部屋に響く。
私以外は、その妖精の独白を聞いて憎らしげに睨みつけるだけ。
妖精が人間にしたことの恨みが積み重なっているように、誰も妖精に同情などしない。
私は……甘いのだろう。
妖精に同情を抱いていた。
「『みんな』を守るために攻め入る人間を殺して、『みんな』が信じる英雄様を讃えて、擦り減る心を弱い奴らが悪いって言い訳して誤魔化した。そのうち何が建前で何が本当だったのか分からなくなって、人間なら、いくらでも殺していいって思うようになりました。だって、奴隷国家の主人は人間だから。でも英雄様も人間で。だから、例外だって言い訳をして目を背けて、本当に復讐したい相手から目を逸らして……そんな中、英雄様が死んだんです。その時私は、錯乱しました。主人が、戻ってくるって。おかしいですよね。英雄様と主人は、私の中で別になってたんです。だから、だから、敵討ちをしないとって思って……でも、主人に勝てる英雄様を殺した誰かに、畜生にも劣る私が勝てるわけないじゃないですか。だから……だから、何もかもを、巻き添えにしに来たんです」
その言葉まで言い終わると、虚空を見つめていた光のない緑色の瞳孔は私に向けられた。
それは底冷えするような深淵を幻視させるには、十分すぎるものだった。
「プラム様。私がいようがいまいが、奴隷国家から解放された者たちは人間を襲うでしょう。私一人が叫んだところで小鳥の囁きにも劣る。怒号が『みんな』に伝播して、命を投げ捨てた報復が全てを壊していくのです。だって、誰も私たちを助けてくれなかったから。助けてくれなかった誰かなんてみんな死ねばいい。そうは思いませんか? 『みんな』もそうなんです。英雄様を殺した誰かには敵いません。だからもう一度鎖を繋がれる前に、私たちを助けなかった人たちに報復するんです。ガーデン家にも。もっと早く主人を殺せた筈なのに何もしなかったガーデン家に。貴方たちも道連れです。誰かを殺す感触を頭に刻みつけてやります。貴方たちも、私たちの諦観と同じ悟りを得ればいい。強いやつは、何をしてもいい。その悟りで世界を壊してしまえばいい。プラム様。貴方だけは、自由です。世界で一番強い貴方。好きに殺して、好きに見逃して、そして好きに弄べばいい」
妖精は自らの言葉をそう締め括った。
これ以上語ることはないし、これ以上生きられるとも思っていないと言わんばかりの、脱力しきった姿を晒している。
妖精に残るのはただ諦観のみ。好き勝手されて、好き勝手してきた歴史が再び同じ道を辿ると彼女に囁いているのだろう。
私はそれを否定できない。
私は自分勝手だ。罪を自覚していながら、罪をまともに償うかは罰の種類で変わる。
その振る舞いができる理由は、私が世界の上積みであるという自覚からだ。
確かに、私は「強いやつは何をしてもいい」の体現者だろう。
恩恵を受ける私だけは、この言葉を否定できない。
だけどきっと、まだ足りていないものがある。
そうでしょ。リリィ。
「ええ。貴方の考えは読めてました」
私たちはただ無策でここに来たわけではない。なによりリリィが策も無しに誰かと対面するわけがない。
全能たる魔法が使える私に、頭がよく回るリリィ。
二人が組めば道理も、無理すら引っこむ。
私たち二人に覆せない盤面などありはしないのだ。
「六国共名、その話し合い。誰もが聴きたいものでしょう? 妖精がどんな判断を下すのか、気になりますからね? だから────届けてあげましたよ。『みんな』に」
私たちは、この話し合いを世界中の人々に繋げていた。
六国共名の内容が気になる人々の元へ招待状を送り、望んだ人にだけこの場を見聞きできる映像を送る。
そうして、何一つ漏らすことなく世界中の人々へ、この話し合いをお届けしてるのだ。
当然、妖精の独白だって。
「奴隷国家を打ち倒した英雄様は、その実奴隷国家の主人だった! ならもう、私たちが英雄様を殺した理由も分かりますね? 私たちにも、鎖は迫ってきていた。幼い私たちはそれに縛られ、苦しめられ、もがき続けていた。プラムお姉様はその鎖が妹たちを苦しめていることに憤慨し、幼いながらにも立ち上がったのです! プラムお姉様は、神の子さえも支配しようとする奴隷国家の手を断ち切り、真の自由を得たのです! 私たちは確かにガブリエラ・ピルグリム・ガーデンを殺しました。しかし、それを誰が咎められましょう? 世界全てを鎖で縛り支配した黒幕を殺したことを、誰が非難できましょうか? 私たちは正義を成したのです。決して、わがままに振る舞ったわけではありません」
リリィは演説のように言葉を紡ぐ。
言葉を届ける先は、奴隷国家から解放された『みんな』だ。
少しでも憤りを軽くして、無差別に誰かを襲うことがないようにするために、リリィは頑張っている。
「私たちは約束しましょう! 決して、貴方たちを理由なく害することをしないと! 貴方たちが私たちガーデン家を攻撃しない限り、私たちガーデン家も貴方たちを攻撃しないと! 私たちは持つ力を剣にせず、盾としてのみ使うと祖先たる神に誓います! だからどうか、他者へ振り下ろすために握りしめた拳をゆっくりと開き、落ち着きましょう。私たちは、きっと良き友になれるはずですから」
リリィ、語り終わると恭しくお辞儀をした。
あとは少し、私の自由時間だ。
リリィから、私は自由にさせた方が良い結果を出すとお墨付きをもらってる。少なくとも、今の私は。
だから、妖精に話を聞くことにした。
まだ足りていないものを、きちんと聞くために。
「妖精様。聞きたいことがあるんです」
「……なんですか」
「あなたは、どうして自分のために動かなかったのですか?」
そう。妖精が語った中で、そこが抜け落ちている。
妖精は語った。「強いやつは何をしてもいい」と。
しかし、それならおかしいのだ。
嫌な上下関係から離れるしか出来なかったこと。
『みんな』が求めるままの振る舞いをしたこと。
妖精の声で報復の怒号をかき消せないこと。
自分のために動くのなら、妖精はガブリエラを除いた全てを支配する王となっていたはずだ。
それなのに、妖精は複数ある派閥の一つでしかない。
それはつまり、妖精はずっと『みんな』のために動いていたということだ。
小さな自由さえ、彼女は他者のために使ってしまったのだ。
自分の命さえ、投げ捨てる覚悟で。
私はその心に同情する。
大切なもののために他者を犠牲にして、大切なものが望むもののために大切なものを犠牲にする。
その在り方は、私に近いものであるから。
「……仕方、ないじゃないですか」
その声は涙ぐんでいて、妖精から溢れてくる悲しみの音。
ぐしゃぐしゃの顔で泣きながらの慟哭は、彼女が溜め込んできた澱みだった。
「どんなに嫌になったって、『みんな』は、私の同胞なんです。おんなじ苦しみを背負って、やっと今日を生き延びた同胞なんです。そんな同胞の子供たちなんです。私が苦しかった時に肩代わりしてくれた同胞で、苦しそうにしているのを私が助けた同胞なんです。そんな仲間を、見捨てられるはずがない! もう誰かに傷つけられる同胞を見たくなかった。……なのに、私は逃げてしまいました。私は、相争う同胞を見捨てて、一人で楽になろうとしたんです。そんな私に縋るしかない同胞を、裏切れるわけないじゃないですか。私だけ幸せになんて、なれるわけない。だから、同胞のために、同胞が望むことを、するんです。私の全てを使って。……強いやつは、何してもいいんです。誰かのために生きることだって、していいでしょ。どうしようもない同胞たちと一緒に死んだって、別に、咎められる誰かはいないんだし……。死にたくないはずなのに、同胞がいないと生きていけない。そんな弱い生き物の命、誰が構うっていうんですか。もう、もう、死ななきゃ楽にならないのに、これ以上どうしたらいいんですか。仕方ないじゃないですか。力だけでどうにかなる問題じゃないのに」
泣きながら語る彼女に同情する者は、この場ではやはり私しかいない。
それでもヤジを飛ばすような者はいなかった。
作業服の大男と胡散臭い顔の小柄な男は無言で部屋を出た。
それに続くように、私たちを呼び出した人と赤髪の男、そして老人もこの場を後にする。
年若い青年は、妖精に何かを差し出す。
「『森』の一員の証です。貴方が私たちを同胞と呼んでくれるというなら、私たちはいつでも貴方を歓迎します」
それだけ言うと、青年はそのまま部屋の外へ出ていった。
私たちも、これ以上留まるのは野暮だと考え部屋を出てから扉を閉める。
これで、『みんな』への中継は終わりだ。
あとは、当事者だけの話だ。
扉の向こうから聞こえる泣き声を背に、私とリリィは立ち去った。
弱肉強食。その掟。
それでも、抗う者に祝福がありますように。
強引に進めすぎたかなと思いますが、六国共名はこれで終了です。
解放された奴隷たちには教育機関があるはずなのになぜこんな無法地帯みたいな状態になってるのかという疑問には、そもそも人間社会で生きるための教育機関ではないからという答えが存在してます。
過酷な生存競争でいかに生き延びるかだけを学ばされるので、殺しの技術や身を潜める技術を得ることはできても社会を構築する方法や助け合いの精神は得られません。ひたすらに野生的な生存力だけが増していきます。
それでも解放された奴隷たちには必要不可欠な学びなので、無いよりはマシです。実際、誰の下に着くかを間違わなければ死なずに生きられます。そこを間違えた上で弱い生き物は淘汰されますが、土地の広さだけはどこよりも担保されているので逃げれば殺されはしないでしょう。
そんな弱肉強食に支配された場所で自分だけ生き残れば良いと考えられなかったことが妖精の不幸ですね。
中途半端に染まってしまったことで中途半端な振る舞いをして中途半端な結末を迎えました。怒りに任せて報復することも、自由を求めて逃げることも、同胞のために命を捧げることも、全部失敗です。
ちなみに、大陸に妖精はもう彼女しか残っていません。
妖精が生まれるには様々な条件が必要で、奴隷国家出現後はその条件が満たされることは無かったようです。
本当はただの寂しがり屋だったからこそ、ここまで拗れました。
六国共名が終わったので次はリリィバッドエンドif!
十中八九描写力が追いつかないでしょうが、精一杯書ききりたいです。