「景色がきれいだよ」 作:人に戻った少女
・アンジェリーナがリリィを産む
・アンジェリーナがリリィに弱音を明かさない
・シオンが子より妻を愛する
・プラムが魔法を使用する
・アナベルが怪力を宿す
・上記を全て満たした上でアネモネが誕生しない
条件を満たした場合、この可能性に未来が固定される。
私たちは同じ場所をぐるぐると回っている。
先に進めているという錯覚だけを頼りに道を歩む。
しかしそこに道はなく、ただ森の中で迷うだけ。
それはまるで理不尽な鎖のよう。
どこまでも伸びて私を縛る鎖。
あらゆる道理を無視して絡み付く欲望の鎖。
光が差すことはない。
だから、その鎖の先はいつも醜悪なカタチをしている。
あなたたちのためなんて綺麗事をのたまい、ただ私欲のためだけに走る。
望んだわけでもない幸福のために、今の私が削られていく。
だけれど、私に鎖を繋いだ者にもまた別の鎖が繋がれていた。
見通せないほど連結された鎖の波。それは万人に繋がりやがて私の元へと帰ってくる。
私は奴隷のように繋がれて、主人のようにそれを握っていた。
ならば、私は全てを握る者になる。
全ての鎖を握り、全てを支配してみせよう。
私を支配する全てを支配して私だけが自由となるのだ。
その果てに、私を縛る全てを消し去ってみせる。
胸の中の火は縛り付ける鎖を溶かし、他者を縛る鎖へ作り変えた。
何人たりとも邪魔はさせない。
私を縛る化生に遠慮することはない。
私の可能性全てを消費してこの大望を果たしてみせよう。
☆
泉の水についての伝承は世界各地に存在する。
泉水教において泉とは世界の可能性全てを内包する世界の始発点であり、世界を管理する女神が生まれた聖地でもある。
その泉の水はごく限られた範囲に縮小された可能性だ。
そして、女神は大穴が発生した時泉の水を人間の中に移した。
やがて泉の水は人間の可能性という、より限定的な可能性に変質する。
重要なのが、あくまでも泉の水は可能性が本質であることだ。
つまりその可能性は水というカタチ以外でも成立する。
そして、私は心の中から吹き出す炎が私自身の可能性だと知覚した。
自身すら溶かしきる熱量の灼熱は、自身の可能性を好き勝手扱うには十分すぎたらしい。
おかげで私には世界を滅ぼせる可能性を行使できる。
しかし、一息に世界を滅ぼしては面白くない。
私は、私を縛る全てに復讐したい。
この狂おしいほどの怒りを、何もかもにぶつけなければ気が済まない。
だから、私は吹き出す炎を、飲み込んだ。
体の内部が焦がされる錯覚。それは精神を壊すと同時に魂を蒸発させるに足る激痛。
到底人間には耐えられない可能性の爆発。
肉体が物理的に揮発する感覚に耐えられる者など存在するわけがない。
機能する感覚器官は全て私の死を明確に告げてくる。
筆舌に尽くしがたい苦痛が私を苛む。
体に通う血液は全て煮え立つ。
体組織は溶けて液体として地面に落ちる。
骨はあまりに強い火力で崩れて残らない。
火炙りなんて生やさしいものではない。
生きたまま火葬される過程を、遅い時間の中で死ぬことすらできずに体験しているのだ。
あまりにも強すぎる可能性の火が今の私を消し去ろうとする。
その苦痛に、私は────
────ただ、笑った。
この程度の苦痛など、心に火を宿した時から味わっている。
ならば、全ての火を飲み尽くそう。
その果てに、この業火を世界に向けて放ってやる。
そして世界はようやく私の痛みを知るのだ。
そのためならこの程度は障害にはなりえない。
むしろこれからこの痛みを世界が味わうと考えれば、愉快だと思わずにはいられようか。
私たちにだけ痛みを迫った世界がその罪を認めるまで、私の火が治まることは無い。
楽しみだ。これから、山ほどの報復を果たせる。
何もかもを翻弄して、必ず火の海に世界を沈めてやる。
☆
自覚は昼、ヴァストプレイン帝国国内玉座の間にて。
それは唐突な事件だった。
いや、それは人災だったと言うべきだろう。
皇帝ルルの暗殺。
それは帝国という国を揺るがす事件で、人間国家にも影響を及ぼす災害だった。
今まで武力という面を見れば帝国以上の存在はなかった。それは護衛という分野でも同じであり、仮にも皇帝の暗殺を許すようなものではない。
しかしこのことについて人類は行動を起こせる者はいなかった。
……人魔大戦。
旧アビスを丸々領土にした人外たちの国が人類全てを対象とした宣戦布告がなされてからはや三ヶ月。
人類は既に、滅亡の危機に立たされていた。
既に大半の国は崩壊していて、残っている人類は旧アビスから遠く離れた場所に住む者たちだけだった。
窮地に立たされた人類は、人外たちへ対処するための兵器を開発した。
擬似的永遠機関式魔力砲。
それは、魔法に魔力を消費するにも関わらず世界から魔力が枯渇しないことに目をつけた、「あらゆる物体は勝手に増減しない」という法則を無視する魔力を用いた、無限のエネルギーを射出する兵器。
人類が生み出した、起死回生の救世主である。
この兵器は完成してからすぐさま実戦投入されると、たちまち多大な功績を挙げた。
旧アビス軍の四割を掃討。これにより人類は侵略されていた土地を奪取。人類生存圏を人魔大戦前まで戻すことに成功したのだ。
人類は活気立ち、このまま人外を殲滅せんとアビスに立ち入るがそれは旧アビスの罠であった。
星界の光
世界に瞬く星の光を利用した防御機構は、無限の力を持つはずの魔力砲を吸収してより強固な城壁へ変換する。
これによって分断された人類軍の先鋒隊は無惨にも殺された。
人外軍の攻撃を遮ることのない星界の光は、人間軍を一方的に攻撃することにも利用され、魔力砲で優位を得たはずの人類軍は再び追い詰められていく。
一度希望を見せられ絶望に陥る者が続出したが、それでも諦めない者たちがいた。
ごく少数の生き残りが存在するクリスタルスプリング教国の知恵も借り、残酷な人体実験の果てにようやく星界の光を突破する新しき兵器が誕生することになる。
霊的侵食型人柱式万能鍵。
それは人間の中にある泉の水を利用した、閉じられているものを強制的に開く人間爆弾。
倫理観を捨てた人類が用意できる、最終手段だった。
対星界の光に特化したこの兵器は希少な人間を使用するというデメリットもあり、失敗は絶対に許されるものではなかった。
人間はこの兵器によって星界の光が突破できることに賭け、大量生産した魔力砲を引き連れ作戦を開始した。
そして万能鍵は────人類の期待通りに、迫る壁を破壊し尽くした。
これにより再び人間は攻勢へと出る。魔力砲は人外の抵抗を許さず、ついに人外軍は二割まで生存数を減らした。
魔力砲と万能鍵。その最強の矛二つは人外軍の小さな策をいくつも破壊して殺戮を呼び起こした。
この時期、人類の総生存数は人魔大戦が起きる前の一割という有様だった。
これ以上戦争を進めれば人類側が生き残ったとしても、食料補給の目処がなく滅んでしまう段階に突入していた。
しかし攻勢を緩めれば、今度こそ人外軍が人類を確殺する兵器を開発して人類を絶滅させるのではないか、という恐れが人類軍を駆り立て選択肢を消滅させてしまった。
人外が集まる旧アビスでは降伏しようとする人外を殺して回る人間が日常となった。
そして人類の勝利で幕が閉じかけた時、旧アビスにて一つの禁忌が犯された。
ほしのいかり
それは妖精を犠牲にした、世界に満ちる自然への呼びかけ。
世界を構築する全ての愛し子である妖精の怒りに応えた星は、人間を排するために荒れ狂う。
それは人もそうでない者も分け隔てなく飲み込んでいった。
大嵐によって全ては吹き飛ばされ、大地震によって全ては破壊され、大津波によって全ては洗い流された。
この世界には、もう生き物はいない。
荒れ果てた大地には、罪すら残っていなかった。
こうして、光ない星にはただ残骸が残る。
☆
それを鑑賞した私は、その面白さに笑い転げていた。
だってこんなに面白いことがこの世にあろうか?
誰も彼も自分の意思でで動いたと思いながら、致命的な選択肢を選び続けたのだから。
擬似的永遠機関式魔力砲? あんな型落ち兵器に頼ってるから星程度のものに滅ぼされるんだ。
魔力という資源がずっと手に入るなら、もっともっと良い兵器が作れるだろうに。
例えば、星への干渉権。大量のエネルギーを星へ侵蝕させ星の力を支配する。これをするだけで人外たちの力はかなり大きく削がれたはずだ。
一時の時間稼ぎ用に魔力砲として完成させたが、本来あの兵器は無尽蔵の資源を生み出す補給庫として運用するべきものだった。人類軍にはその発想ができず興奮のまま魔力砲のまま運用する怠惰をさらしてしまったというわけだ。
開発までは手を貸してやったが発展まで面倒を見る気はない。工夫と成長を放棄したやつはさっさと死ねばいいだろう。
霊的侵食型人柱式万能鍵に関しては使い方が悪い。
私が生贄を要求する兵器を作成したとき、ただ壁を壊す爆弾を作るわけがない。それだけでは、積極的にこの兵器を使うことがないではないか。
万能鍵の真骨頂は霊的侵食、つまり魂に干渉することができる部分にある。
それはつまり、敵に対して万能鍵を使えば敵の魂を支配することができるのだ。
これを使えば万能鍵で支配された敵を万能鍵の材料にし、その被害を受けた敵をさらに万能鍵の材料にして……というようにひたすら敵を兵器の材料として資源にできる。
結果的に起きることは、家畜を屠殺するような虐殺だ。
だというのに、人類軍は星界の光をどうにかするためだけで万能鍵の使用を止めてしまった。
おかげで星相手に蹂躙されて終わってしまった。意思ある存在には必ず魂があるから、万能鍵は星相手にも勝利できる兵器だったというのに。
私としては、星の魂を支配した結果大地が崩れる光景まで見たかったのだが、そこまで辿り着けない無様さも含めてこの結末は好きだ。
旧アビス側も私が技術提供したにしては程度が低い。
星界の光は、宙に輝く星の光を物質として成立する密度まで凝縮する力が土台にある。
宙にある星の光は、存在しないはずの可能性を発生させる力が確認されている。それは貪欲に新しい可能性を求めていて、可能性の増殖と共にその可能性を捕食する特性を有していた。
普段はただ可能性の増殖だけが届けられているのだが、物質にまで凝縮すれば可能性の捕食も物理的な無限を取り込めるほどに強化された。
本来は攻撃用に使われるだろうと想定していたが、城壁のように発展したのを見てガッカリしたことを覚えている。
この兵器は範囲殲滅と相性が良いのだ。
なにせ、星の光は生物の目ではわからないだけで一瞬たりとも欠かすことなく地上へ降り注いでいる。
遠くから星の光を凝縮するだけで安全に人が殺せるのだから、障壁のように守りを固めるために使うのではなく人類を殺すため雨のように凝縮した星の光を降らせれば良かったのだ。
ほしのいかりについては、及第点をあげてもいい。
あれは元々自爆させるためだけに教えたものだ。
いくら強大とはいえ考える能がない星ではあれが限界だろう。
敵味方の区別もつかず、愛し子が本当に求めていた救いを無視して暴れ狂うしかできないのだからいっそ憐れに感じてしまう。
その憐れさがまた、面白いのだが。
「そう思わないか? プラム」
万能鍵に魂を支配されて対抗できないプラムは、こちらを睨みつけれど魔法を使ってこない。
だって、私が封じている。魂の汚染は精神操作なんかよりよっぽど高位の強制力がある。本人の認識で魔法が発動できるかどうかが左右されるプラムでは、霊的侵食型万能鍵との相性が最悪なのだ。
ただ化け物でしかないと考えていた姉も、こうなってしまえばただの可愛い少女でしかない。
少し足を震わせながら虚勢を張るか弱い女の子。
私はようやく鎖など無縁なはずの超越者に首輪を嵌めるにまで至ったのだ。
私は、私はようやく、私に絡まっていた全ての鎖を解き終えたのだ!
ああ。楽しい。
自由とはここまで心地良いものなのか。
いままで腹の底で燃え上がっていた火が鎮まっていくのを感じる。
私はついに、最後の到達点に辿り着いたのだ。
幸福だ。
もうこの世に化け物は一匹もいない。
いるのは、私という支配者と一体の奴隷。
プラムが見ていなければ私は興奮で笑い声を上げていたに違いない。
いや、我慢できない。笑い声が漏れてしまう。
今すぐプラムをいたぶりたい。
この憐れで汚らしい最愛のクズをぐちゃぐちゃにして遊びたい。
この怠け者の姉は何をされると叫び声をあげるだろうか?
考えるだけで気持ち良くなってくる。
人が、世界が滅ぶ様もなかなか楽しいものではあったけど、プラムを痛めつけることができることよりは劣るものだった。
本当に未来が楽しみだ。
私は今自由を得ている。
そして幸福に満ちている。
夢と希望が祝福してくれる。
「プラム。プラム。プラム。ああ。この時を待っていた。滅んだ世界を前に心が崩れそうになるのを必死に堪えて、ただ睨みながら私に遊ばれるしかないお前が、この世で一番、何よりも、心の底から好きだ」
お前の腹を裂き内臓を取り出したらお前はどんな顔をするだろうか?
お前の四肢を切り落としたらお前はどんな表情をするだろうか?
お前の首を切り落とすと宣言したら、お前はどんな命乞いをするだろうか。
楽しみだ。ゆっくりと味わおう。幸い、時間は腐るほどある。
化け物は化け物らしいやり方で愛してあげよう。
今、私は、どうしようもなく幸福だ。
リリィのやったことを簡単に言うと、『現在の自分が宿す可能性全てを取り込み、結果新たに生まれた可能性も取り込み続け、その繰り返しの果てに何千年先の技術を一瞬で取得』しました。既に元の人格は保っていませんが根本の意識が憤怒に支配されたifリリィただ一つなので、全てを統合してもほぼ変わっていないように見えます。
この話では、本来は進化の果てにある技術を使用した技術をまだまだ未熟な世界に持ってきて、無責任にばら撒きました。
正しく歩んだ果てに生まれたならその歴史分道徳も育って、平和的な活用がされる技術だったのですが残念ながら今の時代では兵器利用されました。